
現在日本おいて、税金の申告や相談といえば、税理士にお願いすることが一般的ですが、昔から税理士という制度があったわけではありません。
ここでは、税理士制度の誕生の時期や理由、また時代背景についてお伝えします。
目次
国と税金
国を運営する上で、税金は無くてはならない存在です。
国家の役割としては、内政だけに留まらず、外交や自国防衛などと多岐にわたります。
日本における最初の税金は、3世紀頃の邪馬台国からあったとされていますので、およそ2,000年近くの歴史があります。
しかし、長い間税金の徴収方法としては「年貢」という方式が一般的であり、現在のように複雑な税制度はありませんでした。
江戸時代に入り、様々な取引にも税金をかけられるようになりましたが、やはり徴税方法は年貢が中心でした。
これは明治期に入ってもあまり変わらず、明治初期は「地租(ちそ)」という、土地の所有者に対して税金をかけるしくみが一般的です。
ところが、明治中期に日清戦争、日露戦争が勃発すると多額の戦費が必要となり、その財源を確保するため「営業税」というものが制定される事となったのです。
営業税とは、事業を行っている人の所得に対して税金をかけるというもので、近代の法人税や所得税の考え方に近いといえるでしょうね。
こうして明治中期以降、日本の徴税方法は、少しずつ近代化されていったのです。
「税務代弁業」の登場
地租が中心の徴税方法であれば、すでに存在するもの(土地)に対して税金をかけるだけで済みますので、さほど税務知識は必要としません。
しかし、営業税の制定とともに、税金の仕組みが複雑になってしまいました。
例えば、日清戦争の後に起きた日露戦争においては、増税も行ったため素人では税額の算定が増々難しくなります。
それに対応するため、会計に知識がある人や、税務官吏が退職して行う「税務代弁業」が職業として成り立つようになったのです。
この税務代弁業が、現在の税理士制度の誕生のきっかけになったと言えるでしょう。
「計理士」「税務代理士」とは?
また、日本企業の規模が拡大するにつれ、さらに高度な知識を必要とする専門家が必要となってきました。
そこで、1927年(昭和2年)に計理士法というものが制定されました。
この計理士制度は、1967年(昭和42年)まで続き、後の「公認会計士」の前身といわれる資格です。
これにより、大企業の会計監査は公認会計士が対応し、中小企業の税務は税理士が対応するという流れが出来たと言えます。
これとは別に、1941年(昭和16年)に太平洋戦争が勃発することで、政府はさらなる財源を必要とすることになります。
この事から、税法自体が更に複雑なものとなり、高度な税務知識を持つ人が数多く必要となりました。
そこで翌年の1942年(昭和17年)に、「税務代理士法」が制定され、税務代理士として税金関係の手続きを行う公的資格が誕生することになったのです。
税務代弁業は公的資格ではありませんでしたが、税務代理士は公的資格であったため、税理士制度誕生の基は「税務代理士」であると言われることが多いようです。
敗戦によって税理士法が誕生
しかし、この税務代理士制度は長くは続きません。
太平洋戦争の敗戦により、日本はGHQの管理下に置かれることになります。
これにより、それまでの封建的な徴税方法から、民主的な徴税方法へと変わっていったのです。
具体的には、1947年(昭和22年)に、それまでの「賦課(ふか)課税制度」から、「申告納税制度」へと変わりました。
賦課納税制度とは、税務当局が税金の額を決められる制度ですが、申告納税制度は、納税者自身が税法に従ってその所得や税額を計算し、それを申告して納税するというシステムです。
これだけでも、大きな価値観の変動があったと言えます。
またGHQは、日本の民主化を推し進めるため、その施策の一つとして当時コロンビア大学の教授であった「シャウプ教授」に、日本の税制の改善を求めました。
その結果行われたのが、俗に言う「シャウプ勧告」ですね。
シャウプ勧告の内容としては、「納税の公平性」を重視していたので、税法がより複雑になりました。
そこで1951年(昭和26年)に、より高度な専門的知識が必要である資格として、「税理士制度」を制定したのです。
税務代理士は許可制度でしたが、税理士法が制定されてから初めて試験による登録制度が採用される事となりました。
税理士法誕生後の経緯
その後、税理士制度は、何度かの法改正を経て現在へと至っています。
具体的には、1956年(昭和31年)に「税理士の登録は、税理士会への入会を要する」要件などが追加され、2001年(平成13年)の法改正では、税理士法人制度の創設や、裁判所などで陳述することが出来る「補佐人制度」も創設されました。
また、2014年(平成26年)の改正においては、公認会計士に対する税理士資格の付与の見直しなども行われています。
このように、税理士制度は敗戦後の日本の民主化と共に成長してきた制度と言えるでしょう。