
税理士になるためには「会計2科目」「税法3科目」の計5科目に合格しなくてはなりませんが、多くの受験生が、この受験科目選びの段階でかなり頭を悩ませているようです。
会計科目である「簿記論」「財務諸表論」は、「必須科目」であるため必ず合格しなくてはならず、ここはあまり問題とはなりませんが、税法科目は「9科目」もあるため、この中から3科目をどうやって選ぶかが問題となります。
単純に「好きな科目を選択したらいい」という考え方もありますが、それぞれの「学習ボリューム」であったり、将来的な「就職先」などを考えると、簡単には決められないというのが多くの受験生の本音でしょう。
もちろん、資格のスクールの講師などがアドバイスする事もあるでしょうが、それが本当に正しいかどうかも疑問です。
確かに「これが正解」というものはありませんし、「これで安心」というものもありません。
当サイト管理人は、これまで様々なタイプの税理士の方々と仕事をしてきましたが、それぞれの「仕事内容」「事務所の規模」「顧客のタイプ」などの違いから、それぞれの税理士が「この科目が良いよ」という答えもバラバラとなっています。
要は、「自分は将来どうなりたいか」によって、選択すべき科目は大きく変わってくるという事です。
そこでこの記事では、「こういった道に進みたいのであれば、こういった科目」というように、科目選択における「コツ」というか「ヒント」のようなものをお伝えしようと思います。
この記事の内容は、多くの税理士の意見を参考にし、また「元」資格の専門学校講師、更に現在受験勉強を続けている人の意見も取り入れた内容となっていますから、かなり参考になるかと思います。
目次
最初に取り掛かるのは「簿記論」「財務諸表論」
まずは、何を置いても最初に取り掛かるべき科目は、「簿記論」「財務諸表論」の2科目です。
これは、「必須科目」である事ももちろんですが、これ以外にも様々な理由があります。
それがこちら。
- 「必須科目」であるから
- 税理士試験における、ほとんどのベースとなっているから
- 同時受験、同時合格の可能性が高いから
- 高齢になると合格しにくいから
それでは、それぞれの理由について見ていきましょう。
必須科目であるから
まずは、この2科目は税理士試験の「必須科目」であるという事。
要は、いくら他の税法科目に合格したとしても、この2科目に合格しない限りは官報合格(最終合格)とはならないからです。実際、税法3科目に合格しているのに、会計2科目に合格する事が出来ず苦労している人もいます(レアケースではありますが)。
また、逆の考え方をすれば、「必須科目」であるという事は、税理士業務を行う上で必ず必要となる知識だという事が分かります。
将来的に、「簿記の理屈が分からない」「財務諸表が読み解けない」では、税理士事務所での業務もままなりませんから、合格後、税理士業務に携わる事を考えてもこの2科目は重要であることが分かります。
税理士試験における、ほとんどのベースとなっているから
次が、「税理士試験における、ほとんどのベースとなっているから」という事。
税法科目の種類にもよりますが、基本的にほとんどの科目はこの「簿・財」の知識が無ければ合格は難しいと言えます。
特に「所得税法」「法人税法」などはその傾向が強く、この2科目の基礎となる概念が「簿・財」にあることから、「簿・財」の知識が無いのにもかかわらず、いきなり「所得税法」「法人税法」を受験しても合格は難しいと言えます(元講師談)。
また、所得税法と法人税法は「選択必須科目」であり、最終的にどちらか一方に合格しなくてはいけませんから、そういった意味でもいかに「簿・財」を先に学習すべきかが分かります。
もちろん、「国税徴収法」などといった暗記中心の科目なら、いきなりその科目から学習を始めても良いかもしれませんが、出来たら「簿・財」を先に学習しておく方が、後々役立つことが多いと言えます。
同時受験・同時合格の可能性が高いから
次が、「同時受験・同時合格の可能性が高いから」という事。
多くの受験生は、この「簿・財」を同時受験する事が多いですが、その理由は、試験内容がリンクする事が多いため、同時に受験する事で学習時間を抑える事が出来るからです。
出来るだけ効率よく学習するために、この「簿・財同時受験」は有効的な方法です。
また、リンクする部分が多いだけに、「同時合格」する可能性も高まります。1年で2科目合格出来れば、気持ち的にも余裕が生まれますよね。
多くの資格のスクールにおいてもこの「簿・財同時受験」を推奨しており、「簿・財パックコース」と称して講座費用を安く設定していることもあり、経済的に考えてもこの2科目同時受験というのは便利な方法だと言えます。
高齢になると合格しにくいから
そして最後が「高齢になると合格しにくいから」という事。
税理士試験は、幅広い年齢層の方が受験をしますが、やはり合格率としては若年層の方が合格率が高くなります。
ちなみに、下のグラフは「税理士試験の年齢別合格率」を過去数年分記載したものとなっています。
こちらを見ると、「25歳以下」の合格率が飛びぬけて高い事が分かりますね。
25歳以下という事は学生の方などが中心となりますから、受験に専念できるという面においても、働きながら受験を続けている社会人よりは有利であるという理由もあるでしょう。
ただし、年齢が上がるごとに合格率が下がっていますから、高齢になればなるほど合格しにくいというのは否定しようのない事実です。
ここで更に、「簿記論」「財務諸表論」においては、この傾向が一段と高まるようです。
実際のデータには表れていませんが、特に40歳以上の受験生に聞くと「簿記論、財務諸表論はもう無理」と返答する事が多いように感じます。特に「簿記論」にその傾向が強く、その理由としては「試験時間内に計算を終わらせるのが難しい」という事だとか。
要は、「暗記問題はそこそこ出来るけど、時間内に計算を終わらせなくてはいけない『計算中心の科目』は、年を取ってからの合格は難しい」という事なのです。
ですから、「後でも良いや」と簡単に考えず、「とにかく、少しでも若いうちに合格しておこう」と、まずは最初に「会計2科目」に取り掛かる事をお勧めします。
ケースごとに変わる「税法科目」の選択
以上から、税理士試験は「まず、何を置いても会計科目から受験すべき」という理由についてご理解頂けたかと思います。
要は、その方が「官報合格しやすい」という事です。
しかし、税法に関しては、人それぞれ選択肢が異なってくると言えるでしょう。その理由としては、「将来の就職先」であったり、「独立する際に必要な知識」「出来るだけ最短で合格したい」など、その内容は様々です。
そこで以下において、考え得るケースごとの「おススメの税法科目選択方法」についてお伝えしようと思います。
一般的な税理士事務所に就職を考えているケース
まずは、「一般的な税理士事務所に就職を考えているケース」から。
この場合、「法人税法」「消費税法」「相続税法」に合格していれば、「求人側としては十分すぎる内容(税理士法人代表談)」との事だそうです。
確かに、一般的な税理士事務所の場合、顧問先は法人がメインとなる事が多いため「法人税」「消費税」の知識は必要となりますから、最低限この2科目の知識は欲しいところかもしれません。
また、「相続税法」に関しては、近年の相続税法改正の影響で課税対象者が増えているという事もあり、処理件数の増加に対応するため相続税の知識があれば「かなり助かる」と言ったところでしょう。
しかし、あくまで「尚良し」程度の話ですから、採用側(所長サイド)からすれば、「最低限、法人税と消費税に合格してくれていれば、残りの科目は何でも良いよ」というのが本音のようです。
また、所長によっては「法人税と消費税なんて、実務で経験を積めばイヤでも覚えるし、合格科目なんてこだわらないよ」なんて言う柔軟な考え方の人もいますから、正確に言えば「所長の方針による」というのが正しいのかもしれません。
とは言え、「法人税法」「消費税法」を重視する傾向が強い事には変わりはありません。
ただし、相続に特化した税理士事務所に就職を考えているならば、やはり「相続税法」には合格しておいた方が良いでしょう。
税理士事務所の規模や特徴などについて知りたい方は、こちらも記事もご覧になってみて下さい。
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大手税理士事務所に就職を考えているケース
次が「大手税理士事務所に就職を考えているケース」について。
大手と言ってもその定義は曖昧ですが、外資系で言うところの「四大会計事務所」であったり、日系であれば、よく新聞や雑誌などで目にするような税理士事務所が思い浮かぶかと思います。
大手税理士事務所の特徴などについて知りたい方は、こちらの記事も参考にしてみて下さい。
日本国内においては、様々な規模の税理士事務所がありますが、スタッフ数が40名~100名程度の中堅税理士事務所や、スタッフ数が100名超の大規模税理士事務所となると、その合計数は全体の1%にも及びません。 スタッフ数15名 …
こうした大手事務所に就職する利点としては、「給与が高い」「特殊な案件を扱える」「大手企業が顧客に多い」など様々ありますが、実はこの大手事務所に就職するには「取得しておいた方が良い税法合格科目」というものはありません。
というのも、こうした大手税理士事務所の採用基準というのが「最終学歴」、つまり「出身大学を重視する」傾向があるからなのです。
具体的な大学名は控えますが、各地域の上位校といえば何となく想像がつくかもしれませんね。ただし、近年は人材不足の傾向があり、各事務所とも対象とする大学のランクを下げているという傾向はあります。
しかし、中には学歴よりも実力を重視する大手事務所もありますから、この場合は「法人税法」「所得税法」+「消費税法」or「相続税法」に合格しておくことが望ましいと言えます。
法人税法と所得税法は共にボリュームのある科目ですから、両方合格するのは少しハードルが高いかもしれません。
大学院進学で税法免除を考えているケース
そして次が「大学院進学で税法免除を考えているケース」について。
税理士試験の特徴として、ある一定の条件を満たすことで試験科目を免除してもらえるという制度があります。その代表的な免除規定の一つとして「一定の大学院に進学して、そこでの修士論文を国税審議会が評価する事」というものがあります。
この大学院進学による科目免除について詳しく知りたい方は、こちらの記事を参考にしてみて下さい。
税理士になるためには、基本的に「会計科目2科目」「税法科目3科目」の合計5科目に合格する必要がありますが、これ以外にも税理士になる道は幾つかあります。 具体的には、下の記事を参考にして頂けたらと思いますが、弁護士や公認会 …
この大学院免除ですが、税法科目については「2科目免除」されるため、残り1科目に試験合格するだけでいいのですから、かなり便利な制度だと言えます。
また、この制度を利用すれば、「所得税法」「法人税法」といういわゆる「選択必須科目」に合格する必要もありません。
すなわち、会計2科目と税法1科目に合格さえすれば、官報合格が確実となるのです(必ず免除が認められる訳ではありませんので、詳しくは上記の記事か国税庁のHPをご覧ください)。
という事は、あえてボリュームのある税法科目を受験せず、いわゆる「ミニ税法」を選択すれば合格しやすいと言えますよね。
そこで狙い目の税法科目ですが、こうした大学院免除を利用する受験生の多くが「国税徴収法」「固定資産税」を選択する事が多いようです。稀に「事業税」「住民税」が良いという人もいますが、ここは人それぞれ好みの分かれるところかと思います。
ここで、下のグラフをご覧ください。
こちらは、2019年の税理士試験における科目別受験者数と合格率を表したものです。
こちらを見ると、確かに「住民税」と「事業税」の合格率が高く、「これなら合格しやすそうだな」と考えるかもしれませんね。
しかしこちらのグラフを見ると、一概にそうとも言い切れない事が分かります。
こちらは上記4科目の年度別合格率の推移を表しています。
確かに「住民税」に関しては、年々上昇傾向にありますが、数年前は10%の合格率に満たなかった事を考えれば、特に2019年の合格率が異常であることが分かります。どこまで行っても、税理士試験は「相対試験」であるため、今後はいきなり合格率が低下する可能性が無いとは言えません。
また、「事業税」「国税徴収法」は年度ごとに合格率が乱高下していますから、その年によって受かり易さが異なる傾向があるとも言えます。
その点、固定資産税は毎年安定した合格率で推移していますから、やはり一番の狙い目は「固定資産税」と言えるかもしれません。
ただし、固定資産税は計算問題もありますから、「暗記の方が得意だ」という人は理論中心の「国税徴収法」を選択した方が良いでしょう。
最短で5科目合格を狙いたい場合
次が「最短で5科目合格を狙いたい場合」について。
これは「得手、不得手」もありますから、一律に「これだ!」とも言い切れませんが、「こうすると学習時間を少なくすることは可能ですよ」という事はお伝え出来ます。
以下は前提条件として、「最初に簿・財を受験している」として考えて下さい。
ケース① 「所得税法」「住民税」「固定資産税」
まずは「所得税法」「住民税」「固定資産税」を受験するコース。
こちらの特徴としては、まず「所得税」と「住民税」は学習範囲が半分以上重複しているという点が挙げられます。このため、学習時間を抑える事ができ、効率的に学習を進められるというメリットがあります。
それに加え、ボリュームの少ない「固定資産税」を選択する事で、総合的な学習時間を抑える事ができるという訳です。
なお、この「固定資産税」は「国税徴収法」に変更しても構わないでしょう。
ただしデメリットとしては、就職時の事を考えるとやはり「法人税法」を選択しておいたほうが有利だという事は懸念事項として残ります。
ケース② 「法人税法」「酒税法」「国税徴収法」
次が「法人税法」「酒税法」「国税徴収法」というケース。
これは、とある資格の大手専門学校が推奨している方法です。
確かに、学習時間で考えればこの方法もアリだとは思いますが、酒税法に関しては計算問題が多いため、暗記の方が得意という人には向かない方法かもしれません。
ただし、「法人税法」を選択している点では、就職においては先ほどのケース①よりは有利かもしれません。
とは言っても、あくまで「学習時間」に焦点を当てた方法ですから、これには賛否両論あるでしょう。
ケース③ 「法人税法」「事業税」「国税徴収法」
そして最後が「法人税法」「事業税」「国税徴収法」です。
こちらの特徴は「法人税法」と「事業税」の学習範囲が重なる事から、効率よく学習が進められるという利点があります。ケース①の「所得税」+「住民税」と同じ理屈ですね。
しかし、実際に受験した方や元講師に話を聞くと、これは「学習しやすい」だけであって、「合格しやすい」とは必ずしも言えないのだそうです。
この方法も、某大手専門学校が推奨している方法ではありますが、現実的に当サイトではあまりお勧めしていません。
ただし「ハマる人はハマる」そうですから、人によってはこの方法が良いという場合もあるでしょう。
おまけ:お勧めしない学習順
最後に「おまけ」として、元専門学校講師が「おススメしない学習順」というものを教えてくれたので、それについてもお伝えしておきます。
一般的に、多くの受験生が会計2科目を受験した後に「消費税」に取り掛かる事が多いようですが、これはあまりお勧めしないようです。
というのも税法科目というのは、会計科目と異なり、一通り学習しない事には自分が何を学習しているのか理解する事が難しいという特徴があるからです。例えば「簿記論」であれば、最初から最後まで全て理解しなくとも、自分の得意な部分から学習を進める事はできますが、税法にはこれが通用しません。
多くの受験生が「次は税法か、だったら、ボリュームのある法人、所得は避けようかな。そうなると最初は消費かな」と、安易に消費税を選択する傾向があるようですが、実はこれは学習において、むしろ逆効果になることが多いようです。
どうせなら先に「法人税法」などを選択し、そののちに「消費税」を選択した方が、理解度が高まるようですから不思議といえば不思議です。
また、会計2科目合格後に税理士事務所などに就職する人が多く、そこで実務を経験する事により、法人税法に馴染みやすいという事もあるようですから、出来れば安易に考えず、あえてボリュームのある「法人税法」「所得税法」から挑戦する事をお勧めします。
まとめ
如何でしたでしょうか。
受験に対する考え方は人それぞれでしょうが、上記に書かれていることは、実際に税理士試験に合格した人や未だに合格出来ずにいる人、更に元講師の意見を参考にしていますから、かなり現実味がある内容だと言えます。
まずは、「自分は将来どういった税理士になりたいのか」または「何を重視するのか」についてよく考え、自分に合った方法を選択しましょう。