試験合格以外で、税理士になる方法

一般的に税理士になろうと考えれば、方法としてまず、税理士試験に合格することを目標とする事でしょう。

しかし実は、その他にも税理士になる方法はあります。

昔はインターネットも無く、今ほど情報を得る手段が少なかったので、多くの人がこういった事を知らなかったのではないでしょうか。そう考えると、便利な時代になったとつくづく実感します。

そこでこの記事では、税理士試験に合格する以外で、税理士になる方法についてお伝えします。

目次

税理士となるための資格要件

まずは、税理士となるための資格要件についてご説明します。

税理士法には、第3条において「税理士となる資格を有する者」の条件を列挙しており、それらを簡単にまとめると、以下のようになります。

税理士となるための資格要件

① 税理士試験に合格した者

② 税理士法の規定(第7条、第8条)により、試験を免除された者

③ 弁護士(弁護士となる資格を有する者を含む)

④ 公認会計士(公認会計士となる資格を有する者を含む)

上記いずれかの要件を満たせば税理士となる事が出来るのですが、しかし実際に税理士として登録するためには、試験に合格するだけではいけません。

これはどういう事かと言うと、上記①と②の場合、「租税または会計に関する事務の2年以上の実務経験が別途必要となるからなのです。

つまり分かり易く言うと、会計事務所などで2年以上実務経験がないと税理士に登録できませんよという事になります(これは試験合格前でも後でも構いません)。

これに対し、③弁護士と④公認会計士に関しては、実務経験は必要とせず、税理士会に登録するだけで税理士として開業することが出来るのです。ですから、「税理士となる資格を有する」という事と、「税理士として活動することが出来る」というのは少しニュアンスが違うという事になります。

ここで、上記②の試験免除者とは、いわゆる国税などに一定期間勤務し、指定研修を修了した者などを指します(大学院進学による「一部科目免除」という規定もあります)。

ですから、税理士になるためのルートとしては、大きく分けて、

 

① 税理士試験に合格する

② 国税などの公務員として数年間働く、または既定の大学院を卒業して試験の免除を受ける

③ 司法試験に合格する

④ 公認会計士試験に合格する

 

という4つの道があるという事になります。ただ、いずれにしても、何らかの試験(公務員試験も含め)に合格することが前提となります。

ルート別、税理士の登録者数

ではここで、「上記の4ルートでは、それぞれどれくらいの割合で登録者が分散しているのか?」という疑問が生じてきます。

以下は、日本税理士連合会が税理士向けに発行している「税理士界」の調査を基にしたデータです。

資格内容登録人数割合
税理士試験合格者34,914人45.15%
試験免除者27,953人36.15%
公認会計士9,631人12.45%
弁護士637人0.82%

 出典:日本税理士連合会発行「税理士界」2018年3月31日現在データ

合計すると割合が100%になりませんが、法改正などによる「その他」の登録者を省略した結果となります。

上記を見ると、試験合格者の登録は半数に満たず、いかに試験免除者と公認会計士が多いかが分かります。

稀に、税理士の方の中には「税理士制度は、税務署職員の老後を守るためにある制度」などと自虐的に言う人がいますが、確かにこの数字を見ると、わからなくもありませんね。

ただ、後述しますが、試験免除者は税務署出身者だけではなく、大学院へ進学した人も含みます。自力で税理士試験の3科目合格し、残り2科目を大学院進学によって免除されたなんて人もいますから、試験免除者の全てが元税務署職員であったり、税理士試験を受験していないという訳でもありません。

次に、公認会計士に関して言えば、確かに税理士登録者における公認会計士試験合格者の比率が、年々高まってきているのは事実です。この点において税理士業界としては、以前から危機感を抱いていました。

同じ会計のプロとは言え、業務のすみ分けをキチンとしない事には、自分たち(税理士)の仕事が減っていく一方ですからね。

そこで2014年の税理士法改正において、2017年4月1日以降の公認会計士合格者については、公認会計士法第16条1項に規定する実務補修団体等が実施する研修のうち、財務省令で定める税法に関する研修を修了した公認会計士のみが税理士に登録できることになりました。

税理士業界としては公認会計士からの参入ハードルを一つ上げ、少しは安堵したかもしれませんが、この研修はスタートしたばかりですので、効果のほどは未知数といったところでしょう。

また、上記を見ると弁護士においては、登録者数が1%未満となっている事が分かります。

こうしてみると、やはり法律に詳しくても、会計が得意でなければ税理士として登録するのは難しい事がわかりますね。

税理士試験の免除規定

税理士試験は難関資格ではありますが、他の難関資格に比べ、実務経験などによる試験免除の幅が広いという特色があります。

通常は5科目合格しなければなりませんが、この免除規定を利用すると、例えば「3科目合格+残りは免除」というルートや「全科目免除」という方法があるという事です。

ここで、税理士試験の免除規定を列挙してみましょう。

実務経験等、免除ルート

① 大学などの教授、准教授、講師を通算3年以上

税法科目専攻 ・・・ 税法科目免除

会計科目専攻 ・・・ 会計科目免除

② 博士

税法科目専攻 ・・・ 税法科目免除

会計科目専攻 ・・・ 会計科目免除

③ 公認会計士試験に合格した者または公認会計士の論文式による試験において、会計学の科目について公認会計士・監査審査会が相当と認める成績を得た者

・・・ 会計科目免除

④ 国税税務職員

(イ)所得税などの事務に通算10年以上従事

・・・ 税法のうち国税科目免除

(ロ)その他の事務に15年以上従事

・・・ 税法のうち国税科目免除

(ハ)上記(イ)(ロ)の期間が23年以上で、管理職5年以上、さらに研修を修了した場合

・・・ 会計科目免除

⑤ 地方税職員

(イ)道府県民税などの事務に10年以上従事

・・・ 税法のうち地方税科目免除

(ロ)上記(イ)の事務に15年以上従事

・・・ 税法科目免除

(ハ)上記地方税事務のうち(イ)以外に15年以上従事

・・・ 税法のうち地方税科目免除

(ニ)上記(ハ)の事務に20年以上従事

・・・ 税法科目免除

(ホ)上記(イ)の期間が23年以上の者で、管理職5年以上、さらに研修を修了した場合

・・・ 会計科目免除

(ヘ)上記(ハ)の期間が28年以上の者で、管理職5年以上、さらに研修を修了した場合

・・・ 会計科目免除

大学院進学(修士)ルート

① 税法科目専攻の場合 ・・・ 税法科目のうち2科目免除

② 会計学専攻の場合  ・・・ 会計科目のうち1科目免除

以上を見ると、例えば国税に務めている人の場合、最短で23年以上の勤務があれば、「全科目免除」を受けることが出来るわけですね。

これに対し、大学院進学(修士取得)の場合には、全科目免除は無く、正確に言えば「一部科目免除」といった内容となっています。

大学院進学による免除については、こちらの記事も参考にしてみて下さい。

 

ダブルマスターって何?

以前までは修士取得による全科目免除もありましたが、これが長い間、問題視されていたため、近年の法改正により、平成14年4月1日以降に大学院に進学した場合は、全科目免除が適用されず「一部科目免除」のみが適用されるようになりました(平成14年3月31日以前の進学の場合は、全科目免除が可能です)。

ちなみに昔は、この「修士取得による全科目免除」の事を「ダブルマスター」と呼んでいました。

当時の現役税理士の子女が、事業承継を確実にするため、このダブルマスターを取得することが多かったように感じます。ただし、税理士試験を一つも合格していない事から、昔から試験合格組は、このダブルマスターを見下す傾向がありました。

確かに、知識の乏しい方もいるにはいますが、中には優秀な方もいるので、一律に「ダブルマスターの税理士は能力が低い」と断定するのは早計かと思います。

このように、税理士になるためのルートは幾つもありますので、自分に合ったルートで、無理なく税理士を目指しましょう。