
現在、インターネットで「〇〇専門 税理士」などと検索すると、実に多くの「〇〇専門税理士」のホームページがヒットします。
税理士について詳しくない人からすると、「専門だったら、かなり能力も高いはず」と、考えるかもしれません。
しかし、実際には本当にそうなのでしょうか?
当サイト管理人は、これまで100人以上の税理士と関わってきましたが、その内、「〇〇専門税理士」の肩書で営業している人も結構お会いしてきました。そうした中で思うのは、この部分については人によって評価の分かれるところだなというところ。
そこでこの記事では、本当に「〇〇専門税理士」は、その道のエキスパートなのか?について考えてみたいと思います。
目次
どんな種類の専門税理士がいるのか?
繰り返しになりますが、現在インターネット上には実に多くの「専門税理士」のHPが並んでいます。その内容は多岐に渡り、「パン屋専門税理士」や「美容室専門税理士」など聞きなれないものも数多くあります。
ただ、その中でも際立って多いのが「相続」専門税理士ではないかと思います。
これは実際に、当サイト管理人が出会った専門税理士でも、一番人数が多かった分野です。
以下は、管理人の肌感覚で恐縮ですが、実際に専門税理士として営業している人数の多い順に並べてみました。
1位 : 相続専門税理士
2位 : 医業専門税理士
3位 : 不動産専門税理士
上記の「相続専門」と「不動産専門」は重複する部分もありますが、おおよそこのような区分で「専門税理士」を標榜している事が多いです。
またこれ以外にも、「税務調査専門税理士」や「セカンドオピニオン専門税理士」など、バラエティに富んだ内容もあります。
何故、〇〇専門税理士が多いのか?
この「〇〇専門税理士」という言葉は、ここ数年で急激に増えた感があります。
その理由としては様々あるでしょうが、大きく分けて下の二つが原因かと思います。
① 他の税理士との差別化を図るため
② 特化型の方が、儲かる場合がある
では、それぞれについて少し詳しく見ていきましょう。
他の税理士との差別化を図るため
まずは「他の税理士と差別化を図るため」という理由についてから。
以前は、税理士報酬は税理士会が規定を定めていたので、どの税理士に依頼しても、ほぼ同じ額の報酬を支払う事となっていました。しかし、平成14年度からこの仕組みが撤廃され、それぞれの税理士が独自の報酬金額を設定する事となったのです。
つまり、税理士業界の「営業の自由化」という訳ですね。
自分の仕事内容に自信があれば、報酬額を高く設定することも出来ますが、多くの税理士が報酬の自由化によって低価格を打ち出した結果、税理士業界に価格競争が生じる事となったのです。
そのため税理士としては、自分の事務所の運営を維持するため、何らかしら対策を講じる必要があったわけですね。そこで多くの税理士が、「〇〇専門税理士」という名前を使い始めたのです。
要は、特化型にすることで、他の税理士との違いを打ち出し、価格競争に巻き込まれないための経営戦略を行っているというわけです。
特化型の方が、儲かる場合がある
次が、「特化型の方が儲かる場合がある」という理由について。
特化型にすると、他の税理士との差別化だけでなく、分野の選択次第では利益向上につなげることも可能となります。
それが最も顕著に表れる分野が「相続専門」と「医業専門」です。
特に相続税に関しては、近年の「相続税法改正」により、相続税を申告しなくてはいけない対象者が増えたことで、参入する税理士がドンドン増えています。
また、相続税申告の報酬は「遺産総額」に対する0.5%~1.0%が標準と言われていますから、一回の申告に対する報酬が、他の申告よりも高くなる傾向があります。
「医業専門」に関してみても、医師が税理士に支払う顧問料や決算料は、他業種に比べて高い傾向があるため、この2種類は税理士にとって、言い方は悪いですが「おいしい」事業となるのです。
ただし報酬額が高い分、それに伴って専門性も高くなるので、簡単に参入できる分野ではない事も確かです。
実際に能力は高いのか?
では、依頼する側からしたら、一番気になるのは「実際に能力が高いのか?」ということだと思います。
その答えとしては、
「能力が高い場合もあるが、全てではない」
という事。
当サイト管理人の経験で言えば、例えば同じように「相続専門税理士」と名乗っていても、その能力は雲泥の差がある事も。
それぞれのホームページなどを見ますと、「当事務所は実績が違う」「エキスパートが揃っている」などと主張していますが、実態はホームページを鵜呑みにできない事が多いように感じます。
名乗ることは自由ですから、それ自体は咎められませんが、実態とかけ離れた広告(ホームページ)もあるので注意が必要です。
むしろ「専門税理士」と名乗っていなくても、「この人凄いな」と思える税理士もいるので、一律に判断しかねるかと思います。
専門税理士を見極める方法
「注意が必要」と言われても、どう注意したら良いかわかりませんよね?
ではここで、そういった「〇〇専門税理士」が、本当に専門性や能力が高いのかを見極める方法についてお伝えしておきましょう。
ただ、これで完璧という訳ではないので、最終的には自己判断にてお願いします。
申告件数を尋ねる
一番簡単な方法が、この「申告件数を尋ねる」方法です。
やはり、税理士の能力というのは経験と比例することが多いですので、申告件数は重要となります。
事務所の規模にもよりますが、最低でもその分野において、年間30件以上の申告件数が無ければ「専門税理士」と呼ぶには無理があるでしょう。
「専門税理士」という事は「プロ中のプロ」という事ですので、野球選手で言えば、1軍でいつも出場しているような選手という事になりますよね。ですから、野球選手で言う「試合出場回数」と、税理士の「申告件数」は、それが多ければ多いほど、「多くの人から必要とされている」と見る事が出来ます。
特に相続に関して言えば、不動産などを取り扱う事が多く、民法など税法以外の法律知識を必要とする場面が増えます。
一般的に、税理士の多くは税法以外の法律に疎い場合が多いので、経験不足による失敗が懸念されます。
そう考えるとやはり、最低限の申告件数は経験している事が重要となります。
税務調査対応件数を尋ねる
次が、「税務調査対応件数を尋ねる」という事。
税理士業務の特色として、「申告を完了しただけでは、全ての仕事が完了したとは言えない」というものがあります。
その理由として、「税務調査」が挙げられます。
「税務調査」は全ての人が対象になる訳ではありませんが、申告内容に疑義が生じれば、税務署は調査に乗り出します。
申告時に税理士が「これだけやっておけば、問題ありませんよ」などと言っても、調査時に税務署職員が「NO」と言えばそれは認められません。そこで税理士が調査に立ち会い、適法に処理した証拠等を提示するなどして税務署を納得させれば、そこでようやく全て完了したといえるでしょう。
ですから、いくら申告の件数が多いとしても、税務調査の対応がゼロであれば、その税理士の能力が高いかどうかは疑問となります。
中には、「当事務所は、書面添付制度などに対応しているため、税務調査の確率も非常に少ないので安心です」などとホームページで宣伝している税理士事務所もありますが、必ずしも「税務調査が少ない=能力が高い」とも言えません。
仮にあなたが「〇〇専門税理士」に依頼を考えるなら、一度その税理士に「〇〇の年間の調査対応件数は何件ですか?」と尋ねてみましょう。
例えば、相続税で言うと、ここ数年の申告件数に対する調査割合は、年間10%程度で推移しているので、年間の申告件数が50件だとしたら、税務調査対応件数は5件ほどになります。
もちろん、書面添付制度などを利用していれば多少この割合が減少する傾向にはありますから、全て一律とはなりませんが、ひとつの目安とはなるでしょう。
書面添付制度について詳しく知りたい方は、こちらの記事も参考にしてみて下さい。
もともと以前から税理士法において「書面添付制度」は存在していましたが、平成13年の税理士法改正によって、その効果が拡充される事になりました。 書面添付制度を利用する事で、「いきなり税務調査にはならない」「税理士の責任の所 …
専門以外の業務内容についても尋ねる
そして次が、「専門業務以外、どのような業務を取り扱っているのか尋ねる」という事。
専門性の高さとは、1つの税法だけに詳しければ良いかと言うと、実はそういう訳ではありません。税法にはいくつもの種類があり、当サイト管理人の経験上、それを「横断的に使える」税理士が有能だと考えます。
これはどういう事かと言うと、例えば、あなたの父親が亡くなって、相続税の申告を「相続専門税理士」に依頼するとします。
遺産の内容が現金のみであれば、どんな税理士でも簡単に処理出来るでしょうが、仮にあなたの父親が会社経営や不動産事業などを手広く行っていた場合、相続税の知識だけでは対応できない事があります。
法人税、所得税、消費税など、数多くの税法を駆使することで無駄のない申告が出来るはずですが、全ての税法に対する幅広い知識が無いと、納税者側が損失を被る場合があるのです。
専門と謳っているだけに、それ以外の業務をしていない場合もありますが、必ずしも「特化型 = 有能」とはなりませんので、少なくとも、その税理士の知識の幅を確認する上でも、一度尋ねてみるのは有効です。
外部提携の有無について尋ねる
そして最後が、「他士業などとの外部提携を行っているのかについて尋ねる」という事。
優秀な人であれば、一人でなんでもこなしてしまう事もありますが、実際問題、時間的制約などを考えても、仕事の一部を他人に任せた方が効率的な場合が多いと言えるでしょう。
その方法のひとつとして考えられるのが「外部提携」です。
外部提携を行っている税理士は最近増えている傾向がありますが、その提携内容が依頼者にとって有益かどうかは、その形態についてしっかりと尋ねる必要があります。
例えば、税理士事務所のHPに「提携弁護士 〇〇」「提携司法書士 〇〇」と書かれている事がありますが、これは単に、その税理士事務所の顧問というだけの場合があります。
ですから、「ウチは他士業とのネットワークがしっかりしています」などと言う税理士がいれば、「その提携方法は、どういった内容ですか?」と、突っ込んで尋ねてみたほうが良いでしょう。
また、税理士事務所によっては、「税務署を退官した税理士」と契約、もしくは雇用している事があります。
人にもよりますが、この「税務署OB税理士」は知識が豊富な方が多く、租税に関しての経験値としてはかなり高いと言えます。ですからある意味、こういったOB税理士を抱えている税理士事務所は、かなり力があると見ることも出来ます。
ただし、しつこいようですが全てのOB税理士の能力が高いわけではなく、このOB税理士の能力も「人による」というのが正直なところです。
こればかりは、実際に見てみなければわからないところでしょう。
一見、いつもニコニコして「優しい、おじいちゃんOB税理士」という人が、ひとたび税法の話を始めると、「そんな考え方があるのか」と驚かされることもあります。
こういった事からも、あなたが依頼をしようと考えている税理士事務所の外部提携状況はどうか?その提携相手はどんな人か?について知っておくことは重要です。
まとめ
以上をまとめると、
- 専門税理士だからといって、全て有能な訳ではない
- 能力を確認するには、実際に会ってヒアリングする事が重要
という事がわかります。
各税理士事務所のホームページは、あくまでも広告ですから、悪いことは書きません。
実際に会ってみて、この記事に書かれている事を尋ねたりすることで、あなたにとってベストな税理士を見つけましょう。
また、現在「相続専門税理士」探しで悩んでいるという人は、こちらの記事も参考にしてみて下さい。
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