
日本国内における税理士事務所のほとんどは規模がそれほど大きくなく、その約9割程度がスタッフ数15名以下の小規模事務所とされています。
税理士がスタッフを雇わずに一人で運営している「一人税理士事務所」や、所長を含めた人数が5名未満の「零細事務所」と、今回ご紹介するスタッフ数5名~15名程度の「小規模事務所」の合計で9割ですから、如何に税理士業界の事業規模が小さいかがお分かりいただけると思います。
このスタッフ数5名~15名程度の小規模事務所ですが、「小規模」とは言え、業界的にはそこそこの規模と見なされますから、一般的な感覚ではピンとこないかもしれませんね。
そこでこの記事では、こうした小規模税理士事務所の特徴や、依頼する場合のメリット・デメリットなどについてご紹介します。
目次
当サイトにおける「税理士事務所の規模」の定義
一般的に、税理士事務所を規模ごとに分ける指標というものはありませんから、当サイトでは簡易的に「在籍しているスタッフ数」で事務所規模を定義しています。
これについて詳しくは、以下の記事も参考にしてみて下さい。
一般的にあまりよく知られていない税理士業界ですが、事務所ごとの「規模」や「特徴」などについても同様にあまり知られていないと思います。 税理士に依頼しようと考えている人からすると、「大規模事務所のほうが安心なのかな?それと …
上記の記事で定義している規模の区別は以下の通り。
- 一人税理士事務所 - 従業員を一人も雇わず、税理士1人で運営
- 零細事務所 - 所長含め、スタッフ数5名未満
- 小規模事務所 - スタッフ数5名~15名程度
- 中規模事務所 - スタッフ数15名~40名程度
- 中堅事務所 - スタッフ数40名~100名程度
- 大規模事務所 - スタッフ数100名超
中には、上記の振り分けに異論がある人もいるかもしれませんが、概ね税理士業界においては、上記のいずれかの枠に入る事で似たような傾向が出てくると言えます。
そこで今回説明するのが、3番目の「小規模事務所」に関する内容です。
小規模税理士事務所(5名~15名)の特徴
それではまず、「小規模事務所(5名~15名程度)」の特徴について。
この規模になると家族経営の場合もありますが、総務的な部門を作り、それなりの企業らしい形に近づき始めます。
零細税理士事務所(スタッフ数5名未満)の場合、「所長の自宅兼事務所」なんて事もありますが、小規模事務所になるとそこそこの規模のオフィスを借りる事も多くなります(もしくは、所長名義の自社ビル)。
この小規模事務所は、所長の年齢によって特徴が変わってきますが、全体的に言えばまだまだ「個人商店」の域を脱せず、所長が事務所全体を管理しているイメージが強いという特徴があります。
実際、この規模ともなれば税理士の有資格者も数名は雇い入れている事が多いため、法人化してもよさそうなものですが、現実的には法人化せずに個人事業のまま運営しているパターンが多く見受けられます。
この理由としては様々ありますが、法人化するとなると二名以上の税理士が必要となり、その税理士双方に経営権が生じる事になります。
つまりは、これまで従業員だった人間を経営に参加させる事になりますから、これまで自分が築き上げてきたものを他人に奪われるように感じ、それに抵抗を覚えるために法人化したくないと考える所長がいるという事(もちろん、全てではありません)。
中には「従業員に負担を掛けたくないから」なんて綺麗ごとをいっている税理士もいますが、ここが正直なところかもしれません。
実際、ずっと個人事業として経営してきた税理士が、自分の子供が資格を取った途端に法人化するのを当サイト管理人は何度も見てきましたから、「法人化はしたいけど・・・、ちょっとなぁ」というのが本音なのでしょう。
いつまでも法人化しないのも良いですが、これが出来るかできないかが「小規模事務所」から「中規模事務所(15名~40名)」へと脱皮するための壁だとも言えます。
小規模事務所へ依頼するメリット・デメリット
それでは、これら「小規模事務所へ依頼するメリット・デメリット」についても見ていきましょう。
事務所の所長次第で内容は変わってきますが、大きく分けるとすれば、所長の年齢が「40代以下」「50代以上」で内容が少し異なってきます。
まずは「メリット」から。
【所長が40代以下の場合】
- 新しい節税手法などに詳しい事が多く、積極的な提案をしてくる
- フットワークが軽く、レスポンスが早い
- 他士業などと外部提携している事務所が多いから便利
【所長が50代以上の場合】
- 専門性が高い事務所である事が多く、得意分野が明確
- 地域によっては、名の知れた事務所である事も多い
- 事務所によっては、この規模から他士業法人を設立している事も
所長の年齢によって上記のように違いはあるにせよ、事務所全体の機動力としては、やはり零細事務所よりは高くなる傾向があります。
続いて、「デメリット」について。
【所長が40代以下の場合】
- 所長が事務所内を把握しきれず、職員任せになっている事も
- このためミスが多く、不安要素の多い事務所も見かける
- 職員の入れ替わりが激しく、担当がコロコロ変わる事務所もある
- 見た目ばかりにこだわり、中身が伴っていない事務所もあるため要注意
【所長が50代以上の場合】
- 職人気質の所長が多く、「マイルール」で顧客が振り回される事も
- 所長に後継ぎがいない場合、将来的に存続が不安
所長が40代以下の場合であれば、これから更に事務所を拡大し、いずれは法人化を見据えている事が多いのですが、所長が50代以上で後継者がいないとなると、将来的にその事務所が存続しているかどうか怪しくなってしまいます。
この規模の税理士事務所は、所長が全体を見渡せる規模となりますから、よく言えば「所長の管理下にあるから安心できる」とも言えますが、悪く言えば「何処まで行っても、所長のカラーが出過ぎる」という印象を受けます。
ですから、有能な所長が運営する事務所であれば安心できますが、そうでない場合は期待通りのサービスを受ける事は難しいかもしれません。
小規模事務所へ依頼する事が向いている人・向いていない人
それでは上記のメリット・デメリットをもとに、こうした小規模税理士法人に依頼する事が向いている人、向いていない人についてもお伝えします。
まずは「向いている人」から。
- フリーランス、個人事業主
- 中小企業
- 中堅企業(事務所による)
- 医業関連、相続関連など専門性が高い分野の依頼(事務所による)
- 給与計算なども依頼したい人
この規模の税理士事務所となれば、「顧客訪問担当者」「データ入力担当者」などと担当分けをしていることが多いですから、ある程度の規模の企業でも対応が可能となります。
大企業となると難しいですが、地方都市の中堅企業くらいの規模であれば十分に対応が可能となるでしょう(ただし、事務所によります)。
また、専門性の高い分野においては「チーム制」を取っている事務所もありますから、「医業関連」であったり「相続関連」などの特殊分野においても高度なサービスを期待できます。
他士業との連携、もしくは内製化にも取り組んでいる事務所も多く、給与計算などを依頼したい企業にも便利な事務所であると言えるでしょう。
続いて「向いていない人」について。
- 所長に直接担当してもらいたいと考えている人
- 大企業
- 社内マネジメントのコンサルを期待している人
この規模となると、所長は昔から付き合いのある顧問先しか担当せず、新規顧客は従業員に任せることがほとんどです。
ですから、「所長に直接担当してもらいたい」と考えている人には向いていない選択肢だと言えるでしょう。ただし、有資格者も数名在籍している事が多いですし、中には優秀なスタッフも在籍しているので、そこまでこだわる必要も無いかと思います。
この規模であれば、所長も全顧客の財務内容についてある程度は把握できますから、誰が担当しても平均的な対応を受ける事が出来るでしょう。とは言え、中には規模拡大ばかりに目がいって、本業をスタッフ任せにしている所長もいますから、そこは慎重に観察する必要はあります。
また、この規模の税理士事務所は、社内体制が整っていない事が多いですから、自社の社内マネジメントのコンサルを期待している人にはあまりお勧めできません。
税理士自身が出来ていない事をコンサルされてもあまり意味がありませんよね。
ある程度の事には対応できる反面、かなり特殊な案件は対応が難しいと言えるでしょう。
小規模事務所を探す方法
次に、こうした小規模事務所を探す方法についてもお伝えします。
所長にもよりますが、この規模となると様々なツールを利用して集客を行っているイメージがあります。
税理士事務所の一般的な集客方法に関しては、こちらの記事を参考にしてみて下さい。
「事業を始めたけど、税金や会計がよくわからない」「相続が発生したけど、申告する必要はあるの?」となれば、多くの人は「税理士の先生に依頼したい、相談したい」と考える事でしょう。 しかし大抵の場合、「でも、そもそも税理士って …
上記の記事でも紹介していますが、その中でもこれら小規模事務所の集客方法としては以下の方法がメインとなってきます。
- 知人からの紹介
- 銀行や保険会社、不動産会社などからの紹介
- セミナーや無料の相談会など
- 【税理士紹介サイト】での集客
- 会計ソフト会社の「税理士検索ツール」に登録
これ以外にも、医師などを紹介してもらうために「保険事務組合」に働きかけたり、ライオンズクラブやロータリークラブなどへ出向いたりと、集客方法は様々です。
この規模になると、零細事務所よりは信用力も上がり、地域によっては知名度もそこそこになってきますから、様々な集客ルートが発生します。しかし、近年は競争が激化していますから、大都市圏の事務所などは「税理士紹介サイト」を利用する事も増えているように感じます。
それぞれの内容について詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてみて下さい。
現在、税理士を探す方法は様々ありますが、昔からこの「知人の紹介」という方法が、最もポピュラーな方法として知られています。 その他の方法について詳しく知りたい方は、こちらの記事も参考にしてみて下さい。 &nb …
税理士を探す方法は幾つもありますが、最近メジャーとなっているのは、この「税理士検索サイト」で探す方法かもしれません。 その他の方法について知りたい方は、こちらの記事もご覧になってみて下さい。 …
税理士を探す方法は様々ありますが、その内のひとつに「会計ソフト会社を通して」探す方法というものがあります。 その他の方法についても知りたい方は、こちらの記事もご覧になってみて下さい。 さて、会 …
小規模事務所への就職
それでは最後に、こうした小規模事務所へ就職する場合の注意点などについて。
これも、所長が40代以下か50代以上によって多少内容が変わってきます。
まず所長が40代以下の場合、事務所内が慢性的な人手不足となっているため、入社後すぐに担当を持たせてもらえる事が多くなります。
「すぐにでも経験を積みたい」と考えている人には良いでしょうが、社内研修がしっかりしている訳ではありませんので、良くも悪くも「放任主義」という点は否めません。このため残業が多くなり、「税理士試験の勉強をしながら働きたい」と考えている人にはおススメ出来ない選択肢です。
また、所長の性格にもよりますが、拡大志向が強い所長の場合、所長の右腕と言われるようないわゆる「No.2」に業務を任せっきりにし、自分は常に営業に回っている事が多い所長も見かけます。
この場合、そのNo.2の実力があれば問題ありませんが、得てして所長に気に入られているだけで実力の無い人であることも多く、この人物が原因で従業員が大量に退職するなんて光景もよく目にします。
このことを所長に言ったとしても、「あいつは優秀だ」と聞き入れてもらえず、結果、辞める羽目になるかもしれません。
いずれにしても小規模事務所で人の入れ替わりが多い事務所は、所長のマネジメント能力が低い可能性があると考えて下さい。
この点、所長が50代以上の場合は、比較的仕事内容に余裕のある傾向があり、試験勉強を続けながら働く事に理解がある所長が多いようにも感じます。
こうした小規模の税理士事務所の場合、これまでは「厚生年金に加入できない」なんて事が一般的でしたが、今後は士業事務所において強制適用となるようですから、この辺は心配しなくても良いでしょう。
これまで、従業員が5人未満の小規模な個人事業所では、厚生年金の適用対象外となっていました。 つまり、これまでこういった個人事務所で働く人々は、国民年金に加入するしか方法が無かった訳ですが、厚生労働省は今回、2019年11 …
求人に関しては、40代以下の所長は「求人サイト」などに登録している事もありますが、50代以上の所長の場合には「ハローワーク」で募集している事の方が多いようです。
とは言え、そこは事務所によりますから、税理士試験受験生や税理士有資格者がこうした小規模税理士事務所への就職を考えているのなら、こちらの記事も参考にしてみて下さい。
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