
税理士選びで重要視する点はいくつもありますが、まずは何を置いても「倫理観」が大切なのではないでしょうか?
いくら節税目的とは言え、「そこまでやっていいの?」なんて、素人でもわかるような事をする税理士に、あなたは依頼したいと思うでしょうか?
基本的に、税理士の方々は真面目な人が多いですが、残念ながらこういった税理士がいるのも事実です。仮に、あなたが法律について詳しくないとして、顧問税理士が「大丈夫、大丈夫」なんて言えば、「そうなんだ」と思ってしまいますよね。
しかし、それが法律違反だった場合、あなた自身も何かしらの罰則を受ける事があります。
「知らなかった」では済まされないのが現実なのです。
そういった事を防止するためにも、税理士法には「懲戒制度」が設けられています。
まずはこの懲戒制度を知り、どのような行為で、税理士が顧問先に被害を与えているかについて知りましょう。
それを知れば、「あれ?うちの税理士も、同じようなことしてたな・・・」なんて事もわかり、税理士との契約を見直すきっかけにもなるでしょう。
目次
税理士の懲戒処分
税理士法では、第5章(第44条~第48条)において「税理士の責任」ということに言及しています。
その中で、税理士の懲戒処分の種類としては、以下の3点を挙げています。
- 戒告
- 2年以内の税理士業務の停止
- 税理士業務の禁止
では、それぞれについて見ていきましょう。
戒告
まずこの「戒告処分」が一番軽い懲戒処分となります。
法律的に言えば、「税理士の職務上の義務に違反した者へ、これを戒める処分」となりますが、なんだか難しいですよね。
簡単に言うと、「違反はしているけど、内容的には軽いから、ちょっと注意しときますよ」という事になり、実質的には税理士の仕事も引き続き行えますので、業務上はそんなに差し支えません。
ただし、官報や国税庁のHPで氏名や住所を公表されますので、その後の営業活動には影響があるとも言えますね。
2年以内の税理士業務の停止
次に重たい処分が、この「2年以内の税理士業務の停止」となります。
2年以内ということは、6ヶ月で終了する事もあれば、24ヶ月ということもあります。
基本的に税理士に対する処分は「財務大臣」が行う事となっていますから、実質的には財務省がその月数を決めることになります。
あくまで「停止」ですから、その期間中でも税理士資格が無くなる訳ではありませんが、その期間内においては税理士業務を取り扱ってはいけない事となっているので、いわゆる①税務申告の代理、②税務書類の作成、③税務相談に応じるという税理士業務を全て停止しなくてはなりません。
記帳代行くらいは出来るのかもしれませんが、法律的に言うと、この期間クライアントとの「顧問契約」も解除しなくてはならないようです。
税理士業務の禁止
一番重たい懲戒処分が、この「税理士業務の禁止」です。
税理士業務の禁止処分を受けた場合、税理士の登録自体が抹消され、かなり厳しい処分のようにも思えますが、処分を受けてから3年を経過すれば再び登録できるようですから、実質的には完全に税理士資格が抹消されるわけではありません。
2年以内の停止処分と禁止処分とでは、その違反内容にどのような差があるのかは明確ではありませんが、処分の状況を見ますと、税理士業務の禁止となる違反行為は「脱税指南」が多いようです。
また、圧倒的に「自己脱税」、つまり税理士本人の脱税案件が多い事から、税務知識の悪用には厳しい態度で臨む傾向が強いと言えます。
懲戒処分の公表
税理士の懲戒処分があった場合、官報と国税庁のHPでその内容が公表されます。
その中で、ここ数年の「税理士・税理士法人に対する懲戒処分等件数」というものを掲載しています。
その内容は以下の通り。
2014年度 | 2015年度 | 2016年度 | 2017年度 | 2018年度 | 2019年度 | |
---|---|---|---|---|---|---|
処分件数 | 59件 | 41件 | 39件 | 38件 | 51件 | 43件 |
禁止 | 13件 | 5件 | 11件 | 7件 | 9件 | 14件 |
停止 | 46件 | 36件 | 28件 | 13件 | 42件 | 29件 |
戒告 | 0件 | 0件 | 0件 | 0件 | 0件 | 0件 |
出典:国税庁HP
上記を見ると、まず「どの年度も、処分件数は40件から60件程度で推移している」という事が分かりますよね。税理士の登録者数が8万人近い事を考えると、上記の数字が多いか少ないかは判断の分かれるところかもしれません。
ただし、毎年少なからず何かしらの処分を受けている税理士がいる事も事実です。
また、「戒告」の対象者が毎年「0件」である事から、この懲戒処分の対象になれば、停止以上はほぼ確実であることがわかります。
処分の原因
税理士法に違反すると、懲戒処分に該当することはわかりました。
では具体的にどういった事をした税理士が、この懲戒処分を受けているのかについても見ていきましょう。
脱税の指南
税理士法第36条において、「脱税相談等の禁止」という条項があります。
「脱税はダメ」なんて、小学生でもわかりそうなものですが、実は懲戒処分を受ける税理士のほとんどが、この「脱税指南」が原因で処分されています。
この「脱税指南」をした場合、ほとんどが税理士業務の禁止処分の対象となっていますが、中には停止処分だけで済んでいる場合もあることから、ここには何らかの違いもあるのでしょう。
恐らく、「税理士が主導したか」「顧客の依頼か」という線引きがあるのかもしれません。
また、前述したように「自己脱税」つまり税理士自身の脱税も多いようです。
名義貸し
「脱税指南」の次に多い原因が、この「名義貸し」です。禁止処分にまでは至りませんが、停止処分のほとんどがこの「名義貸し」が原因となっているようです。
税理士法では、税理士の独占業務として①税務代理②税務書類の作成③税務相談を掲げています。
つまり、税理士以外の人間がこれらの業務を行ってはいけないのですが、実情から言えば、非税理士がこれらの業務を行っているのも事実です。
そこでこういった非税理士が使う抜け道が、この「名義貸し」なのです。
よく記帳代行業者などが、ホームページなどで「当社で申告まで行えます」などと記載している事がありますが、これは完全にアウトですし、こういった場合、名義貸しを利用しているのは間違いないでしょう。
まぁ、よく堂々とホームページに載せるなぁと思いますが・・・。
名義貸しをする税理士側としても、「資格はあるけど、年齢的に実務は面倒だ」とか、「お小遣い程度に」などと、この名義貸しに手を染める人がいます。
手法としては至って単純で、非税理士である業者がクライアントの申告書一式を作成し、税理士は自分の職印を押すだけというものとなっており、実際にその税理士は申告書の中身などほとんど確認しません。
税理士は印鑑を押した分、いくらかの報酬をもらい、実務は非税理士業者が行うというものです。
クライアントからしてみれば、正規の税理士に依頼するより報酬が安く済むという利点があるようですが、これは完全な法律違反となります。
「脱税指南」にしても「名義貸し」にしても、「バレないだろう」という安易な考え方が起因となるようです。
すでにこのような税理士と顧問契約を結んでいるならば、あなた自身も責任を負わなくてはならない可能性が発生しますから、すぐにでも税理士を変更すべきだと言えます。
今すぐにでも新しい税理士を探したいという人は、こちらの記事も参考にしてみて下さい。
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他の士業の懲戒処分
税理士だけでなく、他の士業も懲戒処分の規定があります。
その内容も様々ですが、例えば社会保険労務士であれば、助成金の不正受給、行政書士であれば他士業業務を無資格で行ったという内容が多いようです。
その中で、懲戒処分の件数が一番多いのが「弁護士」となっています。
その処分内容も様々ですが、毎年100件程度の懲戒処分が行われているようです。
弁護士の登録者数は約4万人で、処分件数が年間100件程度。これに対し、登録者数約8万人の税理士に対する処分件数が年間50件程度ですから、全士業で考えても、弁護士に対する懲戒処分は飛びぬけて多いと言えます。
処分の原因となった内容も多岐に渡り、預かり金の未返還、不倫行為、事件放置など、倫理観に対するものが多く、税理士に対するものとは少し内容が異なります。
それだけ弁護士には、求められるものが大きいのだと言えるのでしょうね。
まとめ
稀に、現役の税理士がブログなどで「税理士会は、税理士に対して厳しい。税理士を処分するなら、非税理士の取り締まりを増やせ」などと言っている人がいますが、これは完全に論点がずれています。
まず、処分をするのは財務大臣であり、税理士会ではありません。
また、税理士会も非税理士の活動には目を光らせているでしょうが、調査権限がある訳でなく、実情から言えば「告発」による発見がほとんどでしょう。
という事は、実質的に「バレていないが、税理士法違反をしている人は、まだまだいる」という事にもなります。
実際に懲戒処分を受けている税理士については、国税庁のHPで確認すれば良いのですが、そういったバレていないがグレーな税理士は、依頼する側が判断しなくてはいけません。
そのポイントとしては、今後、他の記事でもお伝えしていきますが、まずは「脱税指南をしないか?」「名義貸しの業者ではないか?」ということに注意しましょう。
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