
一般的な方々が医師に抱く印象としては、「頭が良い」「仕事がハード」など様々かと思いますが、何よりも「高収入」という印象が強いかもしれません。
確かに、医師の平均年収はどの業種と比べても高額となりますが、その分様々な制約を受けているというのも事実です。
例えば、診療時間を変更するだけでも、様々な機関に書類を提出しなければならず、一般的な事業にはない苦労があります。
特に、医師と関係の深い厚生労働省などは、書類審査が厳しい事で有名ですし、これ以外にも「各都道府県」「市区町村」「医師会」など、本業である医療行為以外にもすべき仕事が山のようにあります。
そういった事もあり、医師や医療機関経営者からすると、経理に関してはどうしても後回しにせざるを得ません。
そこで、どの医師も「優秀な税理士」にお願いしたいと考えるのですが、実情を言えば、全ての医師が現在依頼している顧問税理士に対して、十分に満足している訳ではないようです。
一般的に、「医業専門」などと名乗っている税理士は、顧問料や決算料をかなり高めに設定している事が多いため、「せっかく高いお金を払っているのに、この程度じゃ困る」と考えているドクターも多いのではないでしょうか。
そこでこの記事では、こうした医師や医療機関経営者が、税理士選びの際に注意したい点などについてお伝えしようと思います。
目次
税理士選びの際、最低限知っておきたい事
まずは、医療機関関係者に限らず、税理士選びにおいて「最低限知っておきたい事」から。
詳しくは、税理士と顧問契約する際、必ず確認しておきたい4つの事の記事をご覧頂ければと思いますが、税理士選びで最低限知っておきたい注意点としては以下の通り。
- 担当は誰がするのか?
- 会計ソフトは何を使用しているのか?
- 自社の業種の経験はあるのか?
- どこまで請け負ってくれるのか?
まず、1の「担当は誰がするのか?」は、一番確認しておきたいところです。
「医業専門」などと謳っておきながら、それを経験したことのある職員はたった数名で、未経験の職員が担当になったなどという医師もいるようですから注意してください。
それ以外の項目も、どれも当たり前のように思うかもしれませんが、意外と見落としがちな項目ばかりですから、上記の記事をよく読んで検討するようにして下さい。
医師・医療機関経営者が税理士選びで注意したい事
それでは早速、「医師・医療機関経営者が税理士選びで注意したい事」についてお伝えします。
一覧としては以下の通り。
- ホームページに騙されてはいけない
- 組合の紹介だから優秀とは限らない
- 「医業専門」税理士は、医療業界にも詳しいとは限らない
- 規模に応じた税理士選びを
- 地域性にも注意
では、それぞれについて詳しく見ていきましょう。
ホームページに騙されてはいけない
まずは、「ホームページに騙されてはいけない」という事。
近年は、何を調べるにも「まずはインターネット検索」という事が当たり前になっていますね。医師などが税理士を検索するとなると、「税理士 医業専門」などと検索するかもしれません。
一般的に、GoogleやYahoo!などで上位表示されたサイトであれば、「人気があるのかな?」とか「信頼性の高いページなのかな?」などと考えてしまいがちですが、必ずしも上位表示されているページが信頼性が高いとは言い切れません(もちろん、信頼性が高い事もあります)。
というのも、どこの税理士事務所も自社のページを見つけてもらうために、何かしらの対策を行っていることが多く、業者などに依頼してSEO対策(検索上位に表示させる対策)などを行った結果、上位に表示されていることもあるからです。
また、少し前ですと「税理士 〇〇(地域名)」などと検索する事もありましたが、最近はGoogleの検索アルゴリズムも進化していて、「税理士」と検索するだけで、アナタがお住まいの地域の税理士を優先的に表示するようにもなっています。
ですからまず、「上位表示されている税理士事務所だからといって、良い事務所とは限らない」という事を念頭において下さい。
次に、そういった「医業専門」を売りにしている税理士事務所のホームページを覗くと、「当事務所は実績が違う」とか「医業専門〇〇年」などと、耳障りの良い言葉が並んでいます。
確かにそれらは事実なのかもしれませんが、あくまでホームページというのはパンフレットと変わりませんから、書かれている内容が全て正しいとも限りません。
中には、「ホームページが綺麗だから、信頼できそう」などと考える人もいるようですが、むしろ古臭いホームページでも実力のある税理士は大勢いますし、逆にホームページさえ作っていない税理士もいます。
ですからまずは、ホームページの内容を鵜呑みにせず、気になったとしても実際に面談して確かめてみる事が重要となります。
組合の紹介だから優秀とは限らない
次が「組合の紹介だから優秀だとは限らない」という事。
各都道府県に医師会がありますが、通常それとセットのような形で、どこの都道府県にも「協同組合」と名の付く団体があるかと思います。
基本的に、医業経営のバックアップを行い、購買事業や各種福利厚生サービスなどを提供していますが、それと同時に「税理士紹介」というサービスも提供しているかと思います(厳密にはサービスとまではいかないでしょうが)。
組合によっては、「提携会計事務所」としてホームページにリンクを貼っている事もありますが、大抵は医師が組合に連絡して「税理士を紹介してほしい」とお願いすれば、幾つかの候補を提示してくれるかと思います。
確かに組合が紹介するだけあって、全く実績の無い税理士を紹介される事はありませんが、その全ての税理士が優秀だとは限りません。
以前、当サイト管理人はとある医師から「組合からこの税理士を紹介されたけど、どう思う?」と尋ねられたことがありますが、その税理士は業界内でもかなり評判の悪い税理士でしたから、即座に「断ったほうが良い」とお伝えしたことがあります。
組合側としても、何も悪気があってこういった税理士を紹介する訳ではないでしょうが、組合の紹介だから優秀とは限りませんのでご注意ください。
「医業専門」税理士は、医療業界にも詳しいとは限らない
そして次が、「医業専門税理士は、医療業界にも詳しいとは限らない」という事。
依頼する医師側からすれば、税理士が「我々は医業専門ですから安心してください」と言えば、「あぁ、医療業界にも詳しいのだろうな」なんて考えるかもしれませんね。
しかし、誤解の無いようにお伝えしておきますが、大抵の税理士は医療業界に疎い場合が多いのです。
こういった話を聞くと、「じゃあ、何故『医業専門』などと宣伝してるの?」なんて考えてしまいますよね。ここが医師、税理士双方に誤解が生じやすい点なのですが、確かにどちらの言い分も理解できます。
税理士側からすると「医療系の税務は特殊だから、普通の税理士には難しい。だから専門性が必要だ」という事を伝えたいだけ。
それを聞いた医師からすると「専門だから、幅広い知識があるんだな」と考えてしまうという事です。
要は、
- 税理士側
医療税務に詳しい ⇒ 医業専門
- 医師側
医業専門 ⇒ 医療全般に詳しいんだろう
という食い違いが生じているという事です。
もちろん、医療全般に詳しい税理士もいるにはいますが、大方「医業専門」と名乗る税理士は、「医療税務に詳しい」事をアピールしているだけですので、そこはよく確認しましょう。
実は、この医療税務に詳しい事を強調する税理士の中には、「保険診療における指導・監査」などについて、サッパリ理解していない事もありますから要注意です。
税理士の全てではありませんが、中には「出ていくお金(税金)を抑える事が、税理士の実力の証し」のように考えている税理士もいます。ですから傾向として、どうしても目線が税務署向きになってしまいます。
しかし医師側からすれば、入ってくるお金(診療報酬など)が減ってしまえば、いくら税金が安くなろうが意味がありません。同じ行政機関であっても、税務署と厚生労働省は全く性質が異なりますから、この辺を理解していない税理士には依頼すべきではないでしょう。
専門税理士について詳しく知りたい方は、こちらの記事も参考にしてみて下さい。
現在、インターネットで「専門 税理士」などと検索すると、実に多くの「〇〇専門税理士」のホームページがヒットします。 税理士について詳しくない人からすると、「専門だったら、かなり能力も高いはず」と、考えるかもしれません。 …
規模に応じた税理士選びを
次が「規模に応じた税理士選びを」という事。
これはどういった事かと言うと、医療機関と一口に言っても、個人事業の診療所から大規模病院まで様々な事業規模が存在します。ですからその事業規模によっては、税理士に求める業務内容も変わってくるのは明らかです。
例えば、大規模病院などの節税には、決まってMS法人(メディカル・サービス法人)の活用を税理士が提案するかと思います。要は、「資産管理会社」みたいなものですね。
確かにMS法人を設立すれば、節税効果も高いため、多くの医療機関がこの方法を採用しているかと思います。
しかしこの方法、実は税理士にとっても都合が良いのです。
まず、節税額がかなり大きくなる為、医師側からすると「こんなに節税出来て、優秀な税理士だ」なんて思うかもしれませんが、そもそもの納税額が大きいため節税額も大きくなるのは当たり前の事であり、パッと見「凄い」と思われがちになります。これだけでも印象が良くなり、その後の顧問契約も円滑になります。
また、法人がひとつ増える訳ですから、その分「顧問料」「決算料」も増える訳です。税理士からしたら営業しなくてもクライアントが自然に増えるという訳です。
こうした事もあり、病院の節税だったら「とにかくMS法人設立」と提案する税理士がいるという訳です(もちろん、MS法人を設立したほうが純粋に有利な場合もあります)。
しかし、これが個人事業の医師だったらどうでしょう?
負担や労力の割に、大した節税額でもない事が多いですから、必ずしもこうした方法が全ての医師に歓迎される訳ではありません。
ここで、更に注意しておきたい点は、大病院をクライアントに多く持つ税理士の特徴として「とにかく大きなことをやりたがる」という傾向があるという事です。
これが悪い事だとは言いませんが、そうした反面、個人事業の医師が求めている「小規模企業共済」などの節税について疎く、医師が質問すると「・・・えっ、ええ。そんなのありましたかねぇ~」なんて返答する税理士がいるから驚きです(実話です)。
小規模企業共済について詳しくは、こちらの記事も参考にしてみて下さい。
個人事業主や中小企業の経営者が「節税」について考えたとき、書籍などで一度は目にしたことがあるはずの「小規模企業共済」ですが、意外とこれ、中身を理解していないどころか言葉すら知らない税理士がいるってご存じでしたでしょうか? …
ですから仮に組合から「この税理士さん、かなりの数のドクターと顧問契約されてますから優秀だと思いますよ」なんて言われても、実際に会ってみて、どのような規模のドクターと顧問契約しているのかについて尋ねてみる事も必要です。
地域性にも注意
そして最後が「地域性にも注意」したいという事。
地域によっては医師数が足らず、近年では「医師偏在」などとして問題視されています。
どうしても大都市圏に医師が偏りがちになるという事ですが、これは何も医師だけに限らず、税理士にも同じようなことが言えるのです。
基本的に依頼者である医師が税理士を探す場合、その事業所近辺の税理士を探すことになるでしょうから、大都市圏であればいくらでも税理士を探すことは出来ますが、地方によっては医業に強い税理士を見つける事は至難の業です。
単純に「医師数」で見た場合、近年の調査では10万人あたりで考えると「1位:東京都、2位:京都府、3位:福岡県」となりますが、これだけ見ると確かに都市部に医師が偏在しており、税理士探しも難しくはないと考えるかもしれません。
しかしこれは、あくまで「医師数」であり、病院に勤務する勤務医も含まれています。
もちろん勤務医においても確定申告などの需要はあるかもしれませんが、事業として税理士に依頼すると考えてみれば、少し違う見方をしなければいけませんよね。
そこで、人口10万人あたりの「病院数」で考えた場合、「1位:高知県、2位:鹿児島県、3位:熊本県(2018年調査)」となり、人口10万人あたりの「診療所数」で見ると「1位:和歌山県、2位:島根県、3位:長崎県(2017年調査)」となります。
あくまで「事業者」として考えた場合、病院経営者、診療所経営者ともに、地方において比率が高い傾向がある事が分かりますが、このような地域はそもそも医師だけでなく税理士も少ないため、医業に強い税理士を見つけるのはかなり難しいという訳です。
ですからこうした場合、クリニック近くの税理士事務所にこだわらず、近隣都道府県の税理士を探すことも検討すべきだと言えるでしょう。
どうやって探せばいいか?
税理士選びの際の注意点は以上ですが、では実際にどうやって探せば良い税理士に出会えるかということについても見ていきましょう。
一般的な事業者の税理士選びについては下記の記事をご覧頂ければと思いますが、ここでは医師に向いている税理士選びの方法についてお伝えします。
「事業を始めたけど、税金や会計がよくわからない」「相続が発生したけど、申告する必要はあるの?」となれば、多くの人は「税理士の先生に依頼したい、相談したい」と考える事でしょう。 しかし大抵の場合、「でも、そもそも税理士って …
医師仲間に相談する
まずは「医師仲間に相談する」方法。
これがドクターにとっては一番の方法だと言えるでしょう。
ドクターの方々は頻繁に学会などに参加されるでしょうから、医師同士の交流も活発だと思います。そこで、「この先生、成功されているな」という人から「おススメの税理士」を紹介してもらうのが手っ取り早い方法でしょう。
ただ、人によっては自分の手の内を明かすことを嫌がる人もいるでしょうから、人選は慎重に行う必要があります。
組合に相談する
次が「組合に相談する」方法。
前述した注意点の中で「組合の紹介だから優秀とは限らない」とお伝えしましたが、中には優秀な税理士もいるため、組合からの紹介は一概に否定しきれない部分があります。
特に、開業したてのドクターであれば、様々な書類作成に不慣れな事もあるでしょうから、組合との関係性は重要となります。
紹介された税理士が問題であれば変更すれば良いだけですから、「とりあえず」という形で利用するのも良いでしょう。
税理士紹介サービスを利用
そして最後が「税理士紹介サービスを利用する」方法。
この税理士紹介サービスとは、各税理士紹介会社が運営するサイトに登録する事で、数人の税理士を無料で紹介してくれるサービスです。
こうした紹介会社は数多くありますが、医師の方であればビスカスという会社が運営する「税理士紹介センター」を利用するのをお勧めします。この会社は実績も国内でトップクラスであり、コーディネーターが仲介してくれるので、アナタに合った税理士を探しやすいという利点があります。
これ以外にも数多くの税理士紹介会社がありますので、詳しく知りたい方は以下の記事もご覧になってみて下さい。
税理士を探す方法は幾つもありますが、最近メジャーとなっているのは、この「税理士検索サイト」で探す方法かもしれません。 その他の方法について知りたい方は、こちらの記事もご覧になってみて下さい。 …
まとめ
昔から医師に限らず、税理士というのは「一度依頼したら長年お付き合いする」というのが一般的だったように思います。
しかし近年は、インターネットの発展などもあり、「比較検討し、気に入らなかったら乗り換える」ことが当たり前になってきています。
あまりにも頻繁に税理士を交代させるのも問題ですが、役に立たない税理士にいつまでも依頼し続けるのも苦痛かと思います。
事業規模が拡大すれば、それだけの知識や人員が必要となりますから、その時々に応じて依頼する税理士についても柔軟に考える必要があると言えるでしょう。