
新型コロナウイルスの影響で、最近注目されている「テレワーク」ですが、いざ導入するとなれば様々な備品などを新たに購入しなくてはならず、経営者としては頭の痛いところかもしれません。
しかし今回、政府がテレワークを導入する中小事業者(個人事業も含む)に対し、設備投資税制を創設することになりました。
この設備投資税制を利用する事で、テレワーク関連の一定の施設を取得した場合などにおいて、「即時償却」や「取得価格の10%の税額控除」などを利用できますから、導入に躊躇していた企業にとっては、とても嬉しい内容ですね。
そこでこの記事では、テレワーク導入における中小企業経営強化税制の内容についてお伝えしようと思います。
目次
中小企業経営強化税制とは
まず、「中小企業経営強化税制」の内容についてから。
もともと日本において「中小企業等経営強化法」という法律があり、その中には様々な支援措置が明記されています。
大きく分けると、「税制支援措置」「金融支援」「法的支援」の3つからなり、今回の中小企業経営強化税制とは、このうちの「税制支援措置」を対象としています。
しかし、この税制支援を受けられる事業者には制限があり、その要件は以下の通りとなっています。
- 青色申告書を提出する中小事業者等であること
- 国の指定する期間内に申請し、認定を受ける事
- 計画承認後、一定の設備を新規取得等して、指定事業に用いる事
簡単に言えば、「青色申告事業者である中小事業者が、国に設備投資計画などを申請し、それが承認されたのちに実際に設備投資などをすれば、一定額の税額控除などをしますよ」という内容です。
またここで、上記でいう「中小事業者」の定義は以下の通り。
- 資本金又は出資金の額が1億円以下の法人
- 資本金又は出資金を有しない法人のうち、常時使用する従業員数が1,000人以下の法人
- 常時使用する従業員数が1,000人以下の個人
- 協同組合等
ただし、中小事業者であっても、以下の法人は除きます
【該当とならない中小事業者】
- 同一の大規模法人から、1/2以上の出資を受ける法人
- 2以上の大規模法人から、2/3以上の出資を受ける法人
- 前3事業年度の所得金額の平均額等が15億円を超える法人
上記を見るとわかるように、この法律における「中小事業者」とは、大企業の子会社などではない中小企業や個人事業主ということになります。
では、この「税制支援措置」を受けるとどのようなメリットがあるのかについてはこちら。
- 即時償却又は、取得価格の10%の税額控除のいずれかを選択適用する事が可能
- ただし税額控除の場合、資本金3000万円超1億円以下の法人は7%となる
- 特別償却は、限度額まで償却費を計上しなかった場合には、その償却不足額を次年度に繰越可能
- 税額控除についても、次年度に繰越可能
即時償却と税額控除のいずれかを選択する事が可能なりますから、設備投資が出来てなおかつ節税も可能となる、とても便利な制度だと言えますね。
中小企業経営強化税制の種類
それでは次に、「中小企業経営強化税制の種類」についても見ていきましょう。
これまでは、「生産性向上設備(A類型)」と「収益力強化設備(B類型)」の2種類のみでしたが、今回のテレワーク関連に対応した「デジタル化設備(C類型)」が加わることで、合計3種類となりました。
これらの要件や対象設備については、以下の表をご覧になってみて下さい。
生産性向上設備 | 収益力強化設備 | デジタル化設備 | |
---|---|---|---|
要件 | 生産性が、旧モデル比年平均 1%以上向上する設備 | 投資収益率が、年平均5% 以上の投資計画に係る設備 | 遠隔操作、可視化、自動制御化 のいずれかに該当する設備 |
確認機関 | 工業会等 | 経済産業局 | 経済産業局 |
対象設備 |
|
|
|
出典:中小企業庁
テレワーク(デジタル化設備)導入の要件や手続きについて
それでは、今回新たに創設された「デジタル化設備」の導入における要件や手続きの方法などについても見ていきましょう。
デジタル化設備として認められる資産と最低価格
まずは、中小企業経営強化税制の「デジタル化設備」として認められるための資産とその最低価格についてから。
設備の種類としては、前述した「機械装置」「工具」「器具備品」「建物附属設備」「ソフトウエア」の5種類が認められることになりますが、それぞれ、1台又は1基あたりの「最低取得金額」というものが定められている事に注意が必要となります。
その内容がこちら。
最低価格 | 備考 | |
---|---|---|
機械装置 | 160万円以上 | ※1、※5 |
工具 | 30万円以上 | - |
器具備品 | 30万円以上 | ※2、※6 |
建物附属設備 | 60万円以上 | ※3、5、6 |
ソフトウエア | 70万円以上 | ※4、※6 |
出典:中小企業庁
※1 発電の用に供する設備にあっては、主として電気の販売を行うために取得または製作をするもの(経営力向上計画の実施期間のうちで発電した電気の販売を行う期間中の発電量のうち、販売を行う事が見込まれる電気の量が占める割合が1/2を超える発電設備等)を除く。
※2 医療機器にあっては、医療保険業を行う事業者が取得または製作するものを除く。
※3 医療保険業を行う事業者が、取得または建設するものを除くものとし、発電の用に供する設備にあっては主として電気の販売を行うために取得または建設するものを除く。
※4 複写して販売するための原本、開発研究用のもの、サーバー用OSのうち一定のものなどは除く。
※5 発電設備等の取得等をして税制措置を適用する場合には、経営力向上計画の認定申請時に「発電設備等の概要等に関する報告書」及びその記載内容を証する書類の添付が必要となります。
※6 働き方改革に資する減価償却資産であって、生産等設備を構成するものについては、本税制措置の対象となる場合があります。詳しくは、国税庁HPの「質疑応答事例」を確認してください。
上記の内容を満たす設備のうち、「遠隔操作」「可視化」「自動制御化」のいずれかを可能とする設備として、経済産業大臣(経済産業局)の確認を受けた設備が対象となります。
「遠隔操作」「可視化」「自動制御化」の概要
一口に「遠隔操作」「可視化」「自動制御化」などと言っても、幅広い解釈が出来るかと思います。
そこで以下において、この中小企業経営強化税制の対象として認められるためのそれぞれの「具体的要件」について列挙します。
- デジタル技術を用いて、遠隔操作をすること
- 以下のいずれかを目的とすること
- 事業を非対面で行う事が出来るようにする事
- 事業に従事する者が、通常行っている業務を通常出勤している場所以外で行う事が出来るようにする事
- データの集約・分析を、デジタル技術を用いて行う事
- 上記1のデータが、現在行っている事業者の事業プロセスに関係するものであること
- 上記1により、事業プロセスに関する最新の状況を把握し、経営資源等の最適化(※)を行う事が出来るようにする事
※「経営資源等の最適化」とは、「設備、技術、個人の有する知識及び技能等を含む、事業活動に活用される資源等の最適な配分等」を言います。
- デジタル技術を用いて、状況に応じて自動的に指令を行うことが出来るようにする事
- 上記の指令が、現在行っている事業プロセスに関する経営資源等を最適化するためのものであること
中小企業経営強化税制「デジタル化設備」として認定されるための手続き
それでは次に、中小企業経営強化税制の「デジタル化設備」として認定されるための手続きについて見ていきましょう。
大まかな流れとしては、以下の図の通り。
上記は、申請から税務申告までの流れを示しています。順番としては大きな矢印の順に進めていくことになります。
- 申請書に必要事項を記入し、必要書類を添付の上、認定経営革新等支援機関から事前確認を受ける。
- 申請を受けた認定経営革新等支援機関は、申請書と裏付けとなる資料に齟齬が無いか等を確認し、事前確認書を発行する。
- 申請者は、必要に応じて申請書の修正や添付書類の追加などを行った上で、事前確認書を添付の上、本社所在地を管轄する経済産業局に連絡の上郵送する。
- 申請書を受け取った経済産業省は、申請書が到達してから1ヶ月以内に、内容が適切であることを確認してから「確認書」を発行する。
- 申請者は、上記4で確認を受けた設備について、経営力向上計画を記載し担当省庁に提出する。
- 申請を受けた担当省庁は、その内容が認められる場合に、申請者に対し計画認定書を交付する。
- 認定を受けた後、該当する設備を取得する。
- 税務上の優遇措置を受けるため、必要書類を添付の上、税務申告をする。
※上記の図は中小企業庁のHPを参考にして作成しています。右上の「担当省庁」というのはそれぞれの企業の業種によって異なるのですが、現状、中小企業庁のHP内において「業種とその申請先」の振り分けが、あまりハッキリとした内容を明示していない点に注意が必要となります。今後、HP上にてこれが整理されたものを公表すると思いますが、よく分からない場合は、直接所轄の経済産業局に問い合わせるようにして下さい。
- 登記簿謄本の写し(個人の場合、税務申告書等の事業実施を確認できる書類)
- 対象となる新規設備投資につき、既存設備の現況と設備投資後の状況を確認できる資料。例えば、導入しようとする設備が、建物附属設備、機械・装置、器具・備品の場合においては、当該設備の導入前後で事業プロセスがどのように変化するかが分かる資料。ソフトウェアの場合は、当該ソフトウェアがシステム全体にどう組み込まれる予定であり、システム導入前と導入後の変化を確認できる図表等。
- 投資計画の分かる資料(本申請書の根拠となる資料)。代表者又はそれに代わるものの押印がなされた社内で決済された、当該申請書に係る投資計画又はそれに代わるもの(稟議書、取締役会議事録等)、導入する設備の見積書。
- 認定経営革新等支援機関による事前確認書
申請書の手引きや様式について詳しくは、中小企業庁HPの「経済産業局による確認書について」のページをご覧になって下さい。
またこの制度は、一定の指定期間内に申請する必要があり、現時点(2020年5月)においては、2017年4月1日から2021年3月31日までとされています(今後、変更の可能性もあり)。
中小企業経営強化税制のうち、「デジタル化設備(C類型)」を検討する際の注意点
最後に「デジタル化設備(C類型)」を導入する際の注意点について。
現在、この制度は新しく創設されたばかりなので、現時点においては内容があまり煮詰まっていない感があります。
例えば、これまでのA類型やB類型などは、製造業の企業などの支援を主眼としており、この中小企業経営強化税制に申請できる業種もかなり具体的に明示していました(指定事業)。
しかしこのC類型は幅広い業種が対象となると考えられるので、中小企業庁としても例えば「ウチの業種は対象となるのか?」などという質問に対し、ハッキリとした返答が出来ない状態のようです。
指定事業ごとに計画申請する担当省庁が変わってきますから、「自分の会社の業種はどうなのかな?」と疑問に思う人もいる事でしょう。
今後少しずつ内容を充実させていくと考えられるので、随時中小企業庁のHPにて確認するようにして下さい。
認定経営革新等支援機関とは?
上記申請などにおいて何度も登場する「認定経営革新等支援機関」ですが、これは中小企業の支援拡大を目的とし、経営において一定レベルの知識を持つ専門家などを支援機関として認定する、国が創設した認定制度です。
認定経営革新等支援機関として認定される専門家は、概ね以下の通り。
- 税理士
- 弁護士
- 公認会計士
- 中小企業診断士
- 社会保険労務士
- 行政書士
- 金融機関(銀行、信金等)
- 商工会
- 民間コンサルタント会社等
現時点(2020年5月)において、認定経営革新等支援機関の総数は約35,500機関となっていますが、そのうちほとんどが税理士又は税理士法人がメインとなっています。
ですから、顧問依頼している税理士がこの支援機関となっている可能性も高いといえますから、同制度の導入を検討している方は、一度担当の税理士に問い合わせるようにしてみて下さい。
また、これら認定経営革新等支援機関を独自に探したい方は、中小企業庁の「認定経営革新等支援機関検索システム」からも検索できます。
ただし、上記検索システムはブラウザ上で検索できるのは良いのですが、あまり詳しい情報までは記載されていません。実績など、詳細な情報が知りたい場合には、Excel形式にはなりますが中小企業庁HPの「経営革新等支援機関認定一覧について」のページで探した方が分かり易いでしょう。
認定経営革新等支援機関について詳しく知りたい方は、こちらの記事も参考にしてみて下さい。
「認定経営革新等支援機関」と聞けば、多くの人が何のことだか分からないかもしれませんが、「この機関を利用すれば、補助金が受けられる」とか「優遇税制が受けられる」と聞けば、何となく分かる人もいるかもしれませんね。 しかし実態 …