
数年前から耳にするようになった「テレワーク」ですが、新型コロナウイルス感染拡大を契機に、一気に導入する企業が増えています。
これを「一時的なブームだ」などと言う人もいますが、多くの企業が「今後も継続して利用していきたい」と新聞社などへのアンケートで回答しています。この傾向は大企業ほど強く、実際に「日立」や「NTT」などは今後もテレワークを継続していくと明言しています。
多くの企業が関心を持つテレワークですが、実際に導入するとなると様々な準備が必要となり、また費用も安くない事から導入を諦めている企業も多いようです。
そこでこの記事では、「テレワークを導入したいけど、何から始めたら良いのか分からない」という方のために、テレワーク導入に必要な手順や方法などについてお伝えしようと思います。
目次
今後、テレワークを導入したいと考えている企業は7割近くある
現状、新聞社や雑誌社など、様々なメディアが企業に対して「今後、テレワークを導入したいか?」というアンケートを行っています。
その媒体によって調査結果は異なりますが、概ねどのアンケート調査でも「導入したい」と答える企業が大多数となっています。
例えば、「クラウドサービスサスケ」「SUBLINE」というサービスを手掛けるインターパークという企業が行ったアンケート調査では、「今後テレワークを実施したい」と答えた企業が全体の69.6%となり、ほとんどの企業がテレワークの導入に積極的であることが分かっています(出典:株式会社BCN)。
また、市場調査コンサルティングを行うMM総研という会社が、現在クラウドサービスを利用している企業に対し、「新型コロナウイルス後、IT投資は増やすか?」と質問したところ、回答企業の41%が「増やす」と回答しています(出典:株式会社MM総研)。
このことからも、今後もテレワークの導入は増えていくことが分かり、企業における仕事のあり方がガラッと変わっていくと考えられます。
ポイント
- ほとんどの企業が、「今後テレワークを導入したい」と考えている
- 今後、IT投資を増やす予定の企業は、全体の4割
大企業と中小企業では意識の違いも
とは言え、冒頭でもお伝えした通り、このテレワークを継続しようと考えているのは大企業が中心であり、中小企業とは意識の違いが鮮明に表れているようです。
先ほども登場したMM総研は、大企業と中小企業に対し「新型コロナウイルスが、自社に対してどのような影響を与えていますか?」とアンケートを取ったところ、前向き(ポジティブ)に捉えていると答えた企業は、大企業と中小企業では2倍以上の格差が生じていると指摘しています。
例えば、「今後の働き方改革」においては、大企業の60%近くが前向きに考えている事に対し、これが中小企業になると30%程度に落ち込みます。
また、「自社のIT予算」においては、大企業の30%以上が前向きに考えている事に対し、中小企業となると15%程度まで低下します。
やはり、テレワークを導入したいと考えている企業は多いものの、予算上の関係や専門性の高さなどから、中小企業は「導入したくても、現実的に難しい」というのが本音なのでしょう。
ポイント
- 中小企業に比べ、大企業の多くが「今後の展望に前向き」
- 予算や専門性(人材など)において、中小企業は悩んでいる
テレワーク導入を実施できていない理由
では実際のところ、そうした「テレワークを導入したくても実施できない企業」は、どういった理由で導入に至っていないのかについても見ていきましょう。
前出したインターパークという企業は、現状テレワーク導入を実施していない企業に対し「何故、実施できていないのか?」についても質問しています。
以下がその回答。
- 顧客との商談 - 25.8%
- 代表電話の受電業務 - 19.2%
- ノートPC・社用携帯・顧客管理システムなどテレワークに必要なシステムが整っていない - 18.5%
- 自宅環境(Wi-Fi、集中できないなど) - 11.2%
- 郵便物受取や発送業務 - 7.0%
- 会社規定の不備 - 7.0%
- 社内の打ち合わせが出来なくなる - 6.1%
- 稟議申請などの紙書類対応 - 5.2%
出典:株式会社BCN
上記を見ると、現実的な問題として「そもそも自社の事業内容にマッチングしていない」と考えている企業が多い事が分かります。「顧客との商談」や「代表電話の受電業務」などは、その代表例かもしれませんね。
確かに、不動産業や飲食業など、通常業務において「接客」がメインとなる業種においては、テレワークの導入は難しいかもしれません。
ただ、工夫次第ではこうした業種でもテレワークを導入する事で、「なんだ、意外と便利だな」と感じている企業もあるようです。
上記は、具体的な内容について言及しているので分かり易いのですが、実は整理してみると意外とその本質というのは以下のような内容になるかと思います。
- 自社の業種にマッチングしていないと感じている - 顧客との商談、受電業務など
- 予算的に余裕が無い - PCやシステム構築、自宅環境など
- 社内にITの専門家がいない - PCやシステム構築
- 社内ルールが整っていない - 受電業務、発送業務、会社規定作成など
- 電子化が進んでいない - 紙書類対応、顧客管理など
- コミュニケーションがとれない - 社内の打ち合わせ
- セキュリティーが不安
多くの人が「何となく」テレワークに抵抗を覚えていると思いますが、本質的には上記の内容が理由でテレワーク導入に躊躇しているのではないでしょうか。
もちろん前述したように、そもそも上記1のように「自社の業種にマッチングしていないと感じている」場合であれば無理に導入する必要もありませんが、それ以外が理由であれば、実は様々なツールを利用する事で、案外あっさりと解決できたりします。
テレワーク導入を阻む問題の解決方法
そこで次に、それぞれの「導入できない理由」に対する解決方法についても見ていきましょう。
詳細については、今後それぞれについての記事も追加していこうと思いますが、まずは簡単な方法から。
自社の業種にマッチングしていないと感じている
まずは、「自社の業種にマッチングしていないと感じている」人への解決方法から。
例えば、洋服などを販売するショップでは、実店舗で接客して販売するのがこれまでの常識でしたが、現在はネット技術が進化しているため、敢えて店舗で売る必要もなくなりました。
それでも未だに「ネットで洋服なんて売れる訳が無い」と考えている人もいるようです。しかし工夫次第で、売上げを伸ばしている企業も存在しています。
ひとつの事例として、あるショップ店員が、毎日そのショップの洋服を利用したコーディネートを考え、自身がそれを着て写真撮影し、インスタグラムや店舗のHP上にアップします。すると、それを見て気に入った顧客が、そのコーディネート一式の洋服を店舗のECサイトから購入し、かなりの売上を上げている事例もあります。
こういうと、「ECサイトを作るのは難しいから」という人もいるようですが、最近では安くて簡単にECサイトを作成できるツールもあるので、そんなに悩む必要もありません。
ECサイトは意外と簡単に作れますから、詳しく知りたい方は、こちらの記事も参考にしてみて下さい。
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また、テレワークが導入できない業種の代表として「不動産業」が挙げられますが、こちらも工夫次第で対応が可能です。
確かに、「契約書の押印」「重要事項の説明」など法律上の問題はありますが、現在政府は急ピッチで法改正を進めていますから、今後、こうしたテレワークを利用した不動産業者も増えてくると考えられます。
むしろ、今から対策を考えておかなければ、テレワークが常識となった時代においては淘汰されていく可能性が高いと言えます。
ですから、「どう考えても無理だ」と思うのではなく、「どうすれば自社も利用できるのか?」と、まず考えてみてはどうでしょう。
また、代表電話の受電業務で悩んでいるのであれば、電話転送や電話代行サービスを利用するのも一つの手です。また同様にクラウドPBXを利用すれば、社員が自宅にいたとしても内線電話として利用する事も可能ですから、この辺のサービスを上手く利用する事で、こうした悩みを簡単に解消する事が出来ます。
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予算的に余裕が無い
次が、「予算的に余裕が無い」事への対策方法について。
従業員数にもよりますが、確かにテレワーク導入においてそれなりの費用がかかってくるのは事実です。その点、大企業は資金力がありますから、この辺に対する不安はないでしょう。
しかし、資金力に余裕のない中小企業からすれば、数十万円から数百万円もかけてテレワークを導入するのはどうしても抵抗があるでしょう。
実は、この点がテレワーク導入に踏み切れない一番の理由だと思います。
とは言え、最近はこうしたテレワーク導入に対する助成金事業なども増えていますから、それら国や自治体の支援を利用する事で、予算的な不安も解消されるでしょう。
テレワーク関連の助成金・補助金事業について詳しく知りたい方は、こちらの記事も参考にしてみて下さい。
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社内にITの専門家がいない
そして次が、「社内にITの専門家がいない」という問題。
意外とこのことにも苦慮している経営者が多いかもしれませんね。特に最近は、こうしたIT系のエンジニアは引く手あまたですから、仮に人材を募集したとしても応募すらないなんて事も結構あるようです。
この問題の解決方法としては、まず「行政が無料で専門家を派遣する制度」を利用してみる事をお勧めします。
こうした制度を設けているのが総務省で、「テレワークマネージャー派遣事業」という総務省が運営する事業に応募すれば、国が認定するテレワークの専門家を無料で派遣してもらえます。
また、国だけでなく各自治体もこうした導入支援事業を積極的に行っており、例えば東京都であれば「ワークスタイル変革コンサルティング」という支援を行っており、こちらも無料で最大5回まで専門家によるテレワーク導入の支援を受ける事が出来ます。
東京都以外にもこうした導入支援事業を行っている自治体もありますから、詳しくは、こちらの記事も参考にしてみて下さい。
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導入に関してはこうした支援事業を活用すれば良いですが、運用段階においても専門家の助言が欲しい場面もあるかと思います。この場合、民間でテレワーク導入を一括で請け負っている企業もありますから、いっその事、こうした企業に丸投げしてしまうのもひとつでしょう。
この場合、報酬額が気になるところですが、最近では安価にサービスを提供する企業もありますから、一度検討してみるのも良いと思います。
社内ルールが整っていない
次が、「社内ルールが整っていない」という問題について。
社内ルールと一口にいっても、テレワーク導入においては単に就業規則を変更するだけでは対応しきれない場面も出てくるかと思います。
例えば、以下の内容などについても検討する必要が出てくるでしょう。
- 新たな就業規則の策定 - 通勤手当、各種手当の設定など
- セキュリティールールの策定 - データ管理のルール、書類持ち出しのルールなど
- 労務管理 - 労働時間の管理、業務中のコミュニケーション方法、公正な評価など
- 業務処理 - 誰が何を処理し、また何を負担するかなど
まず、「新たな就業規則の策定」とありますが、これは通勤手当や各種手当の変更が含まれますから、相談相手としては社会保険労務士だけでなく税理士とも話し合う必要があると言えます。
「セキュリティールールの策定」については、経営陣と従業員の打ち合わせが必要となりますが、前述した国が無料で派遣してくれる専門家などに事前に相談しておくのもひとつでしょう。
また、「労務管理」においては社労士の意見が参考になりますが、複雑な法解釈が必要となる場合は、労務関連に強い弁護士に相談する必要性も出てきます。
最後の「業務処理」については、企業ごとに内容が異なりますからその企業内で話し合うのが一番ですが、これにより発生する税務上などの問題があるようならば、税理士などと相談する必要があります。
これらについて詳しくは、下の記事を参考にしてみて下さい。
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またこの他、総務省がテレワーク導入を検討している企業の為に作成した「テレワーク情報サイト」の各種ガイドブックを参考にしたり、厚生労働省が作成した「テレワーク総合ポータルサイト」なども参考になります。
電子化が進んでいない
次が、「電子化が進んでいない」という問題。
この問題の代表例が、「いまだに紙文化、ハンコ文化」が常態化しているという事でしょう。
これは前述した「不動産業」や、税理士などの「士業」などが典型的な例だと思います。こうした法律によって縛られている業種というのは、ある面、仕方がない部分もありますが、今後こうした手続き関係も電子が進んでいきますので、2~3年以内には「紙文化だから仕方がない」という理由も成り立たなくなると言えるでしょう。
むしろ、テレワークを導入するしない以前の問題として、電子化に対応せざる時代が間違いなく来ると言っても過言ではありません。
こうした電子化に対応するサービスは年々増えていますから、今のうちから何かしらの対応をしておくことが重要です。
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コミュニケーションがとれない
次が、「コミュニケーションが取れない」という問題。
これについては、最近の報道などから「Web会議システム」「チャットツール」などについてご存知の方も増えている事でしょう。
初めは多くの人が抵抗感があったようですが、利用してみると意外と便利である事に気付き、今では「もう、こうしたツール無しでは仕事が出来ない」などと言う人もいるくらいですから、あまり頑なになる必要も無いと思います。
代表的なコミュニケーションツールはこちら。
- Web会議システム
- チャットツール
- グループウェア
- インターネット通話アプリ
例えば、Web会議システムを導入すれば、従業員の在籍管理ツールとしても利用できるため、現在多くの企業が導入しています。また、メールよりもチャットツールの方がビジネスにおいては使い勝手が良いため、こちらも多くの企業が利用するようになっています。
これらコミュニケーションツールに関して、もっと詳しく知りたい方はこちらの記事も参考にしてみて下さい。
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セキュリティが不安
そして最後が、「セキュリティが不安」という問題。
これについてはどれだけ対策を施しても、インターネットという環境を利用する限りは、必ずついて回る問題だと言えます。対策方法はひとつではありませんが、近年多くの企業はクラウドシステムを導入する事でこの対策を行っているようです。
セキュリティに関して追求し始めるとキリがありませんので、こちらも政府などが無料で派遣してくれる専門家などに質問するなどして対策するしかないでしょう。
また、「個人情報保護法」「会社法」などの法律によって、対策を求められることもありますから、そういった場合は、専門の弁護士などに相談するようにしましょう。
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まとめ
これ以外にも解決すべき問題はあると思いますが、まずは上記について考えるだけでも頭の中が整理されると思います。
テレワーク導入だけでなく何についてもそうですが、多くの問題を一緒に考えてしまうと頭の中が混乱し、それだけで思考停止に陥ってしまいます。
ですから、上記のように問題をひとつひとつ抽出し、それを順に解決する事で意外と簡単に物事は進んでいきます。
自分一人で悩むのではなく、様々な専門家を利用しながら取り組んでみては如何でしょうか。