
その時代ごとに、国が税務調査に力を入れる項目は変遷していますが、ここ数年は「富裕層」「海外」「ネット」「無申告」というキーワードが重点項目となっているようです。
バブルの時代は不動産などが重点項目となっていましたが、インターネットが当たり前となり、海外への渡航も簡単な時代となった現在では、上記の項目が注目されるのにも納得がいきますね。
そこでこの記事では、これらの4項目に対し、国税が現在どのような取り組みをしているのかなどについてお伝えしていきます。
目次
なぜ「富裕層」「海外」「ネット」「無申告」なのか?
それではまず最初に、なぜ国税庁は「富裕層」「海外」「ネット」「無申告」を重点項目としているのかという事についてから考えてみましょう。
その理由は様々ですが、一言で言ってしまえば「国税庁自身が重要案件として公言している」というだけのお話です。
これは何も、税理士などの一部の人間だけが知っている秘密という訳ではなく、国税庁がホームページ上において「主な取り組みとして、富裕層や海外投資を行っている人、またインターネット取引をしている人や無申告である人に対する調査を重点的に行っていますよ」と公言しているのです。
ですから、「知っている人は知っている」といった内容なのです。
では何故、国税庁がこれらの項目を重点的に調査するのかというと、これは意見の分かれるところかもしれませんが、税理士の間では「追徴税額が見込みやすい」という理由があるからだとの見方が一般的のようです。
税務署とすれば、年間に調査できる件数は限られていますから、出来るだけ効率的に調査を行い、しかも追徴税額を取りやすい先に対して調査をした方が良いと考えるのは当たり前だと言えます。
また、税務署の職員からしてみても、一人で年間に何十件といった税務調査を行わなくてはならないのに、その結果「追徴税額がありませんでした」では、自身の成績にも影響しますから、やはり取りやすいところから取るといった考え方になってしまいます。
という事は、国税庁自身が「富裕層、海外、ネット、無申告を重点的に調査していますよ」と言うのは、逆に考えると「この項目は、追徴税額が増えやすい項目だから」なんて風にも捉えられますよね。
もちろんこれ以外にも理由はあるでしょうが、一番の理由はここにあると言えるでしょう。
それでは次に、それぞれの項目について、もう少し詳しく見ていきましょう。
富裕層に対する税務調査
まずは、「富裕層に対する税務調査」についてから見ていきましょう。
富裕層の定義と調査規模
富裕層の定義も曖昧ですが、一般的に1億円以上の金融資産を所有している人を「富裕層」、5億円以上の金融資産を所有している人を「超富裕層」と世間では呼んでいるようです。しかしこれはあくまでも「金融資産」ですから、不動産などは含めません。
では、国税庁がターゲットとしている富裕層の基準が明確にされているかというと、そんな事は全くなく、ただ「富裕層」としか記載していないため、いくら以上の金融資産を所有していたら調査対象になるかというのは分からないのが現実です。
敢えて言うなら「有価証券・不動産等の大口所有者」「経常的な所得が特に高額な個人」などと国税庁は表現しているため、上場企業オーナーであったり、代々続く地主、高額所得者などが対象になるのだと予想されます。
ちなみに、2020年はコロナの影響もあって調査件数が激減しましたが、それでも富裕層に対しては全国で4,463件の実地調査を行っているため、所得税における全調査件数の10%程度の規模となっています。
各項目の中でも追徴税額が最も高く、例えば2019年度(令和元年度)分においては、1件当たりの追徴税額が581万円と、所得税調査における全体平均の2.6倍となっていますから、税務署からすれば「良いお客さん」といったところかもしれません。
2019年に「芦屋の資産家、30億円の申告漏れ!」などと報道されたのは記憶に新しいかもしれませんが(調査対象者は50人以上)、最近では各国税局において「富裕層プロジェクトチーム」なども設置され始めていますから、今後は更に、富裕層を対象にした税務調査が厳しくなる事でしょう。
富裕層を狙い撃ちにする国税庁のメリット
それでは次に、国税庁が富裕層を狙い撃ちにする事で得られるメリットについても考えてみましょう。
一般的に考えられる理由は以下の通り。
- 追徴税額が増えやすい
- 国民からの支持を受けやすい
- 単純ミスが多く、指摘項目が簡単に見つかる
まずは上記1の「追徴税額が増えやすい」という事についてですが、これは単純に考えて、所得が多いという事はそれだけ税額も増えやすいという事ですから、誰でも簡単に分かる話ですよね。
特に日本の税制は「累進課税制度」となっていますから、もともと税率の高い富裕層から追徴が取れれば、税額も増えやすいという訳です。ですから、税額を増やすためには一番簡単な方法だという事です。
次に2の「国民からの支持を受けやすい」という事についてですが、これは日本の国民性と言ってはなんですが、どうしても「お金持ちから沢山税金を取れ!」という意識が強いこともあり、例えば新聞などで「資産家に対し、〇〇億円の追徴課税」などと報じられれば、国民側からしても「国税も頑張ってるな」などと評価されることにも繋がります。
最近では様々な事件から国税に対する風当たりも強くなっていますが、こうした報道があれば、言い方は悪いですが「国税への批判をかわせる」という事にも役立ちます。
資産家からしたらたまったものじゃありませんが、この傾向は今後も強まっていく事でしょう。
そして最後の「単純ミスが多く、指摘事項が簡単に見つかる」という事についてですが、資産家というのは様々な分野に投資をしている事が多いため、悪意はなくとも「うっかり忘れていた」という事も多いのです。
このため、例えば仮想通貨の計算を間違っていたとか、海外資産の計上時期を間違っていたなんていうのはよくある話です。
ですから、「富裕層から多額の追徴課税!」などといった報道がなされても、必ずしも税務署職員の調査能力が高まっているという訳ではなく、単純なミスを見つけただけという事の方がむしろ多いと言えるでしょう。
富裕層の方が取れる対策としては、顧問税理士に対して自分の資産の動きを包み隠さず提示し、こうした単純ミスを減らすことがまずは先決かもしれません。
海外資産に対する税務調査
次が「海外資産に対する税務調査」について。
海外資産に厳しくなったのはここ10年程度
この海外資産の税務調査においては、多くの税理士の意見を集約すると、ここ10年くらいで急速に税務署が注目するようになったとの事です。
例えばこれは実際にあった話ですが、外国籍の方が日本で亡くなり、10年近く前に相続税の税務調査があったそうです。知り合いの税理士によると、それ以前の税務調査では、たとえ外国籍の方が亡くなって税務調査が開始されたとしても、あまり海外資産については触れなかったようです。
しかしこの時の調査では、やたらと調査官が海外資産にこだわっていたようで、この税理士は「何でそんなにこだわるんですか?」と尋ねると、その調査官は「・・・いや、最近、海外資産を重点項目にするって通達がありましてね・・・」と渋々答えたようです。
実際にこの時は海外資産は無かったようですが、この時の税務調査においては、その時間のほとんどを海外資産の発見に費やしていたそうですから、「職員の方も大変だな」と知人税理士は話していました。
時期的に考えると2010年頃の話となりますが、この後の2014年には「国外財産調書制度」が導入されましたし、2016年には「パナマ文書問題」によって国外財産が世界的に注目されることとなりましたから、今後も国税庁としては、この海外財産の捕捉に力を入れていく事は間違いないでしょう。
実際、2020年からはこれまで認められていた「海外不動産で生じた赤字を、国内の所得と合算して税額を減らす節税手法」などは使えなくなりましたから、今後もこのような法改正は起こりうると考えておいた方が良いでしょう。
何故、今になって「海外」なのか?
それでは次に、なぜ国税庁は今頃になって海外に注目するようになったのかについても考えてみたいと思います。
前述したように、国税庁が海外資産について力を入れるようになったのはここ10年くらいのお話ですが、それ以前にも日本人の一部は海外資産を所有していたはずですよね。そこで考えられるのは「なぜ、今頃なのか?」ということ。
これには様々な理由があると思いますが、主たるものとしては以下のような事が考えられると思います。
- 富裕層の税務調査と「セット」という感覚
- 税負担の不公平感の解消
- CRS情報が使いやすくなってきたから
まず1つめに考えられるのが、「海外資産と富裕層はセット」であるという事。
超富裕層ともなれば、プライベートバンカーなどがついていることもあり、海外で積極的に資産を運用する事が増えてきます。これは何も脱税を目的としている訳ではなく、海外の方が利回りの良い商品が多い事にも理由があります。
しかし、平均的な所得の人であれば、なかなか海外へ投資するというのは難しいですから、自然と「海外投資をしているのは富裕層」という見方となってしまうのです。ですから、富裕層向けの税務調査を増やしている国税からすれば、海外資産へ目を光らせるのも当然と言えますよね。
そして2つめが「税負担の不公平感の解消」という目的。
海外で資産運用をすると、税率を安く抑えられる場合があり、国内でしか投資をする事ができない国民からすると、どうしても不公平感を抱いてしまいます。こうした不満を解消するためにも、海外資産への課税は国民へのアピールのような意味合いがあるのでしょう。
そして最後が「CRS情報が使いやすくなってきたから」という事について。
CRSとはCommon Reporting Standardの頭文字をとったもので、日本語に訳すと「共通報告基準」という内容となります。具体的な内容としては、各国の税務当局と金融口座情報を交換する制度となっており、例えば日本人であるAさんの口座情報をB国にあるかを問い合わせ、その口座内容から適切に税務申告をしているかどうかを確認できるという仕組みとなっています。
これは世界で100以上の国と地域が加盟しており、日本においては2018年から運用開始となったのですが、導入当初はその効果は未知数と言われていました。しかしここ数年でかなりの数の情報が交換されるようになり、国税庁もその効果を実感しているようです。
CRS導入前であれば、国税が直接相手国と交渉しなければいけませんでしたから、言語の問題はもちろんの事、膨大な時間を要するため海外資産の捕捉にはかなり労力が必要とされましたが、今後は以前よりも簡単に海外資産を捕捉されることになるでしょう。
インターネット取引に対する税務調査
そして次が、「インターネット取引に対する税務調査」について。
インターネット取引の定義
インターネット取引と一口に言っても、かなり幅広い取引があるためこれといった定義もありませんが、一般的には以下の業種が有名どころかもしれません。
- せどり
- アフィリエイト
- ユーチューバー
- クラウドソーシング
この他、オンラインサロンの運営や情報商材の販売など、細かい業種を挙げればキリが無いと思いますが、一般的にメジャーとされているのは上記の4業種だといえます。
では、国税庁が定義するインターネット取引とはどれを指しているかというと、これも明確な基準はないのですが、最近の新聞報道などを見ると「せどり」を中心に税務調査を行っているという印象が強いようです。
昔は「国税はネットに弱い」などと言われていたこともありましたが、最近ではそのような事はなく、むしろ「情報技術専門官」というインターネット取引専門の調査官を増やす傾向にあります。
ですから、今後もこのインターネット取引に対する税務調査は増えていくものと考えられます。
なぜ「せどり」を中心に調査するのか?
現状において「せどり」をメインに調査しているであろう事は前述した通りですが、では何故せどりなのか?という事についても考えてみましょう。
せどりとは簡単に言えば「安く商品を仕入れて、高く売る」という行為をネット上で行う事ですが、大量の商品を仕入れるため、仕訳内容が複雑となり計算ミスなどが発生しやすいという事が考えられます。
アフィリエイトやユーチューバーなどは、売上において計算ミスなどはほぼ発生する事はありませんが、せどりは商品の棚卸なども発生するため、指摘事項が増える可能性が高まります。
また最近では、海外のサイトで商品を仕入れ、それを国内で販売する人も増えていますから、「消費税の計算ミス」「為替の計算ミス」などなど、国税からすれば調査のしがいがあるといったところでしょう。
これは前述した「海外取引」とも関連性がありますから、せどりを行っている人は自分で確定申告するのではなく、やはりプロである税理士とよく相談したほうが良いと言えます。
最近では「メルカリ」や「Yahoo!オークション」が一般的となり、こうしたオークションサイトなどを利用して「せどり」を行っている人が多くなってきています。 手軽でしかも「何でも売れる」ことから、会社員の副業としても人気が …
ただし、2019年ごろから急激にユーチューバーが増えているという事もあり、今後はユーチューバーへの税務調査も本格化していく事と思われます。
ここ数年で社会的認知度の高まっているYouTuber(ユーチューバー)ですが、最近では副業代わりに会社員の方なども参入してきているようですね。 ユーチューバーを専業としている人であれば、それはすでに「事業」として成り立っ …
無申告に対する税務調査
そして最後が「無申告に対する税務調査」について。
これについては、あえて細かい説明をするまでもなく、収入があるのにも関わらず申告をしていない人に対する税務調査となります。無申告に対する税務調査は当然のことながら厳しく、年間の調査件数としても2019年度で7,328件と、かなりの規模となっています。
申告漏れの所得金額としては、調査件数がコロナの影響で減った2019年度調査でも1,583億円と高額となっていますから、現在でも多くの無申告者がいるという事が分かります。
つい先日も、チケット転売で6,300万円もの脱税をしたとして大阪地検に告発された業者がいるようですから、国税としては無申告にはいつも目を光らせています。
今の時代、誰でもインターネットやSNSなどを利用する時代ですから、完全にバレないなんて事は絶対にありえません。ですから、申告しなくてはいけない所得があるようでしたら、必ず確定申告をするか、税理士などに相談するようにしましょう。
各国税局の申告件数と税務調査の特徴
それでは最後に、各国税局の申告件数と税務調査の特徴についても見ていきましょう。
まずは、各国税局が管轄する都道府県の人口に対し、どれくらいの割合で確定申告をしている人がいるのかというものがこちら。
総人口 | 申告者数 | 申告者割合 | |
---|---|---|---|
札幌国税局 | 532万人 | 81万人 | 15.2% |
仙台国税局 | 883万人 | 149万人 | 16.9% |
関東信越国税局 | 1,846万人 | 314万人 | 17.0% |
東京国税局 | 2,995万人 | 585万人 | 19.5% |
金沢国税局 | 298万人 | 51万人 | 17.1% |
名古屋国税局 | 1,500万人 | 264万人 | 17.6% |
大阪国税局 | 1,928万人 | 346万人 | 17.9% |
広島国税局 | 737万人 | 128万人 | 17.4% |
高松国税局 | 379万人 | 60万人 | 15.8% |
福岡国税局 | 728万人 | 117万人 | 16.1% |
熊本国税局 | 563万人 | 85万人 | 15.1% |
沖縄国税事務所 | 144万人 | 20万人 | 13.9% |
※総人口については平成29年のデータを基に算出しています。
上記を見ると、やはり都心部で確定申告をする人が多いことが分かり、東京国税局管轄内においては、約5人に1人が確定申告をしているという事がわかります。ただし、総人口には未成年者も含まれていますから、成人で見た場合には更に割合が多くなると言えます。
こうしてみると、「だったら人口が多い都市に行った方が、税務調査を受ける確率も低くなるんじゃないの?」なんて考える人もいるのかもしれませんが、各国税局ともにある程度の「調査数の目標値」というものが設定されているため、そう簡単な話ではありません。
また国税局ごとに調査の特徴というものがあり、「大都市だから〇〇」「地方都市だから△△」などとも一概には言えません。
ちなみに、2019年度調査における各国税局の特徴としては以下の通りとなっています。
- 申告者数に対する富裕層調査の割合は、「東京」「関東信越」「広島」「名古屋」の順に多い。
- 申告者数に対する海外資産調査の割合は、「東京」が断トツで、次に「大阪」「関東信越」「名古屋」「福岡」が続く。
- 申告者数に対するネット関連調査の割合は、「関東信越」「金沢」「福岡」の順となっている。
- 無申告調査は総人口に対して、「名古屋」が断トツとなっており、「関東信越」「東京」と続く。
さて、税理士業界の中でも「関東信越は税務調査が多い」などと言われていますが、確かに上記結果からも関東信越国税局は全般的に調査数が多いという事が分かります。
また、意外なところで「海外」「ネット」において福岡国税局が上位となっているのも特徴的ですね。最近では、九州がアジアからの玄関口になっていますから、海外取引は重点的に調査しているのかもしれません。
いずれにしても、ちゃんとした申告さえしていれば、仮に税務調査があったとしても何ら問題はありませんから、出来る事なら税金のプロである税理士に依頼して、しっかりとした申告書を作成するようにしておきましょう。
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