節税にも使える「小規模企業共済」、意外と知らない税理士もいるんです

個人事業主や中小企業の経営者が「節税」について考えたとき、一度は検討したことがあるはずの「小規模企業共済」ですが、意外とこれ、中身を理解していないどころか言葉すら知らない税理士がいるってご存じでしたでしょうか?

こう言うと、「小規模企業共済を知らない税理士?そんなのいる訳ないだろ」と税理士業界からお叱りを受けそうですが、実際に結構いるのですから驚きです。

当サイト管理人は、これまで数多くの税理士の方々と一緒に仕事をしてきましたが、その中にも数人いましたし、クライアントの方からも「うちの税理士、小規模企業共済について全く知らないんだよね」なんて言われたこともあります。

この小規模企業共済とは、地味ではありますが何気に節税効果を発揮しますので、中小企業の税務に携わる税理士であれば、最低限の事は理解しておいてほしいですよね。

そこでこの記事では、小規模企業共済の仕組みや、なぜこの制度を知らない税理士がいるのかなどについてお伝えしようと思います。

目次

小規模企業共済は、国が認めた節税手法?

まず小規模企業共済の仕組みについてから見ていこうと思いますが、この制度は「ある意味」国が認めた節税手法ですから、安心して利用できるというメリットがあります。

「国が認めた」なんていうと語弊がありますが、実際、この制度を所管する機関というのは「独立行政法人 中小企業基盤整備機構」というところとなっており、この中小企業基盤整備機構のホームページ上において「この小規模企業共済は、経営者の退職金として、節税しながら老後の生活資金などを積み立てていただく、「おトク」な制度です」と書かれています。

独立行政法人とは政府系の機関ですし、その機関が表立って「節税」という表現をしているのですから、ある意味国が認めた節税手法と言っても過言ではないですよね。

また、この小規模企業共済は節税面に優れているだけでなく、「貯蓄性」「融資性」の面でもかなり便利な機能があり、中小企業経営者や個人事業主の方であれば一度は検討しても損はない制度だと言えます。

そこで次に、加入資格や制度の概要などについても見ていきましょう。

加入資格

まずは「加入資格」から。

小規模企業共済は誰でも加入できる訳ではなく、以下の条件に該当する人のみが加入することが出来ます。

小規模企業共済の加入資格
  1. 建設業、製造業、運輸業、サービス業(宿泊業、娯楽業に限る)、不動産業、農業などを営む場合は、常時使用する従業員の数が20人以下の個人事業主または会社等の役員。
  2. 商業(卸売業・小売業)、サービス業(宿泊業、娯楽業を除く)を営む場合は、常時使用する従業員の数が5人以下の個人事業主または会社等の役員。
  3. 事業に従事する組合員の数が20人以下の企業組合の役員、常時使用する従業員の数が20人以下の協業組合の役員。
  4. 常時使用する従業員の数が20人以下であって、農業の経営を主としている農事組合法人の役員。
  5. 常時使用する従業員の数が5人以下の弁護士法人、税理士法人等の士業法人の社員。
  6. 上記「1」と「2」に該当する個人事業主が営む事業の経営に携わる共同経営者(個人事業主1人につき2人まで)。
    • 注1:2つ以上の事業を行っている事業主または共同経営者の方は、主たる事業の業種で加入していただきます。
    • 注2:「常時使用する従業員」には、家族従業員、共同経営者(2人まで)を含みません。
    • 注3:「会社等の役員」とは、株式会社・有限会社の取締役または監査役の方、合名会社・合資会社・合同会社の業務執行社員の方を指します(ただし外国法人の役員は除く)。

上記を見ると、日本国内の小規模事業者の経営者であれば、ほぼ加入することが可能であることが分かります。

しかし、例外として以下に該当する場合には、加入不可となりますのでご注意ください。

加入不可となる例外
  1. 配偶者等の事業専従者(共同経営者の要件を満たしていない場合)。
  2. 協同組合、医療法人、学校法人、宗教法人、社会福祉法人、社団法人、財団法人、NPO法人(特定非営利活動法人)等の直接営利を目的としない法人の役員等。
  3. アパート経営等の事業を兼業している給与取得者(法人または個人事業主と常時雇用関係にある方)。(※)
  4. 学業を本業とする全日制高校生等。
  5. 会社等の役員とみなされる方(相談役、顧問その他実質的な経営者)であっても、商業登記簿謄本に役員登記されていない場合。
  6. 生命保険外務員等。
  7. 独立行政法人勤労者退職金共済機構が運営する「中小企業退職金共済制度」「建設業退職金共済制度」「清酒製造業退職金共済制度」「林業退職金共済制度」の被共済者である場合。

(※)ただし、次のような場合は小規模企業者として加入できます。

    • 開業医が本業の事業所得のほかに、市町村から委託を受けて行った定期健診の報酬による給与所得がある場合。
    • 農業者が本業の農業所得のほかに、農閑期の一時的なアルバイト収入による給与所得がある場合。
    • 弁護士が本業の事業所得のほかに、大学の非常勤講師の収入による給与所得がある場合。

ここで注目していただきたいのが、上記3の部分についてです。これを要約すれば「サラリーマン大家さんは加入できませんよ」という事になります。

ですから、会社員として働いており、副業として大家業を営んでいる場合には加入できませんのでご注意ください。

掛金、納付方法

次が、「掛金の金額や納付方法」について。

掛金は月額で「最低1,000円」からとなっており、「最高7万円」まで500円単位で自由に設定できるようになっています。

納付方法は「口座振替」と「現金納付」のいずれかとなっており、「年払い」や「前納」にも対応しているため、例えば「今期は利益が出すぎたなぁ~」という場合には、来期分を今期に納付することで納税額を抑えることも可能となります。

また逆に、「ちょっと厳しいから掛金を減額したいなぁ」という場合でも、最近では柔軟に対応してくれますから(昔は厳しかった)、加入を継続するハードルも低いと言えます。

ただし、減額する場合には前納している分については対象となりませんのでご注意ください。

共済金の満期はあるのか?

そして次が、「共済金の満期はあるのか?」という事について。

基本的に小規模企業共済に「満期」という概念はなく、事業を廃業した場合や加入者本人が死亡した場合、または65歳以上で180ヶ月以上の払い込みがある場合などに解約となります(これ以外にもあり)。

詳しくは、中小企業基盤整備機構のホームページ内にある「共済金(解約手当金)について」のページをご覧になって頂ければと思いますが、上記以外の理由がなく自主的に「任意解約」をすることも可能となっています。

ただしこの場合、払込期間が20年未満となると元本割れとなりますから、十分注意するようにしてください。

基本的に機構が認める解約内容であれば元本割れすることもありませんので、例えば「個人事業から法人成りをする」「法人を解散する」等の理由があれば、たとえ払込期間が20年未満であったとしても、それまで積み立ててきた分はちゃんと戻ってきますから安心してください。

安全性は大丈夫?

そして最後が、共済自体の「運用の安全性」について。

基本的に共済というのは、加入者から預かった掛金を運用することで、加入者への将来の支払いを賄うことになります。これは年金も一緒ですね。

現在この小規模企業共済は、外部の専門家に資産運用を委託している部分もありますが、基本的には機構自体が国内債券中心(7割程度)で運用しています。国内債券とは、「国債」「地方債」が中心となっていますから、極端な話、「日本全体が破綻しない限り安全である」言えるでしょう。

ただし、こうした国内債券は「ローリスク・ローリターン」だと言えますので、NISAやiDeCoなどに比べると、運用利回りは低いと言えます。

小規模企業共済がお得な3つのポイント

それでは次に、前述した小規模企業共済のメリットとして挙げられる「節税」「貯蓄性」「融資性」の3点について更に詳しく見ていきましょう。

小規模企業共済の「節税機能」

まずは「節税機能」から。

この部分が小規模企業共済のメリットとして一番強調されていると思いますが、要は、この小規模企業共済の掛金は所得税において「全額損金扱い」になるために、所得税が安く済みますよという事になります。

ここで注意が必要なのが、「法人の損金にはならない」という事ですので、この辺を混同しないようにしてください。

ちなみに、中小企業基盤整備機構は、ホームページ内において「掛金の全額所得控除による節税額一覧表」というものまで掲載しています。

これで行くと、「所得金額1,000万円」「掛金月額7万円」とした場合、年間で367,000円も節税できるのですから、かなりの効果がありますよね。

小規模企業共済の「貯蓄機能」

次が「貯蓄機能」について。

現在の小規模企業共済の運用利回りは1%となっており、この運用益には課税されないこととなっています。現時点(2021年)において、ほとんどの銀行の普通預金の金利が「0.001%」程度であることを考えれば、かなりのリターンだと言えます。

少し前に、政府の「老後2,000万円問題」が取沙汰されましたが、仮に毎月7万円を貯金に回したとして、銀行の普通預金であれば約286ヶ月も要することになります。年数にすると約24年ですから、気の遠くなる数字ですよね。

これが小規模企業共済であれば、最短246ヶ月で2,000万円を受け取ることが可能となります(年数で言うと20年ほど)。同じ2,000万円を貯めるにしても、約4年も違うのですからこれだけでも加入する価値はあると言えるでしょう。

しかも、先ほどの節税額と合わせれば更にお金を貯めることができ、仮に「所得金額1,000万円」「掛金月額7万円」とした場合、「年間節税額367,000円」×20年=734万円となりますから、合計で約2,700万円以上を貯めることも可能となります。

また、普通に貯蓄する場合と同じく286ヶ月間加入し続ければ、更にお得となり、比較すると以下のようになります。

主な支出加入なし加入(20年)加入(24年)
貯蓄額2,002万円2,007万円2,394万円
必要月数286ヶ月246ヶ月286ヶ月
必要年数23年10か月20年6か月23年10ヶ月
節税額0円約734万円約880万円
合計額2,002万円約2,741万円約3,274万円

※あくまで概算ですので、参考程度にして下さい。

上記を見ると、設定金額に多少は大げさなところはありますが、普通に貯蓄した場合と小規模企業共済に加入した場合とでは、将来的に手にすることが出来る金額で1,000万円以上もの違いが生じることとなり、何も考えずに金融機関にお金を預けるよりもかなりお得であることが分かるかと思います。

もちろん、共済金の受取方法の選択次第によっては、上記を満額手に入れることが出来ず、多少の税金を支払わなくてはいけない可能性もありますから、そこは税理士などとよく相談して選択しましょう。

小規模企業共済の「融資機能」

そして最後が「融資機能」について。

この小規模企業共済に加入していると、自分がすでに払い込んでいる掛金が上限とはなりますが、ある一定の金額までは低利での融資を受けることが出来ます

その金利もかなり低く設定しており、最低0.9%から最高でも1.5%と、一般的な金融機関とは比較にならない利率となっています。ですから、急な借り入れが必要な場合にも安心ですね。

現在、小規模企業共済が貸付制度として設けているのは以下の通り。

小規模企業共済の貸付制度
  1. 一般貸付制度    - 特別な理由も必要とせず融資を受けれられる制度
  2. 緊急経営安定貸付け - 経済環境の急激な変化が生じた場合、低利で借り入れられる制度
  3. 傷病災害時貸付け  - 加入者本人が事故や災害にあった場合、低利で借り入れられる制度
  4. 福祉対応貸付け   - 加入者本人や同居親族のためのバリアフリーなどに必要となる借入など
  5. 創業移転時・新規事業展開等貸付け
  6. 事業承継貸付け
  7. 廃業準備貸付け

融資限度額はそれぞれの制度によって異なりますが、概ね掛金の7割~9割程度を借り入れる事ができ、一般貸付制度以外はすべて「0.9%」の低金利となっています。

冷静に考えれば、「自分の掛金を担保にしているだけ」とも思えますが、急な資金需要があった場合、銀行よりもスムーズに融資を実行してくれますから、「節税も出来るし、借り入れも簡単」と考えれば、かなりお得な制度であると言えるでしょう。

ちなみに、基本的には「期限一括償還」となっており(例外もあり)、ここは注意が必要となります。

小規模企業共済について詳しくない税理士の特徴

これだけ便利な小規模企業共済ですが、冒頭でもお伝えした通り、これについて全く知らないという税理士が結構いるのですから驚きますよね。

もちろん、そういった税理士というのは全体で見ればごく僅かですので、通常はお会いすることは無いと思いますが、これらの税理士を避ける方法についても少し触れておこうと思います。

こうした税理士というのは、ある種の傾向というか特徴があり、それが以下のようなものとなっています。

小規模企業共済に詳しくない税理士
  1. 顧問先が比較的大手ばかりの会計事務所
  2. 大規模な節税などを好む税理士
  3. 医業専門をうたっている税理士

まず上記1の「顧問先が比較的大手ばかりの会計事務所」とありますが、この場合はそもそも、顧問先に対してこの小規模企業共済を提案することが出来ない場合が多いですから、ある意味仕方がない部分はあるのかもしれません。

日常的に小規模企業共済の加入対象となる経営者と接していなければ、制度について深く考えることもありませんからね。

 

 

では、「顧問先が中小企業メインで、中規模以下の会計事務所であれば大丈夫か?」というとそうでもなく、稀にこうした会計事務所の中にも「大規模な節税を好む税理士」が存在しており、こうした税理士に当たると「小規模企業共済?んー、聞いたことはありますけど、それって必要ですか?」なんて言われる可能性もあります(実際にこう言われたクライアントも存在します)。

この手の税理士は、少し会話をするだけで何となく「あぁ、あまりこうした節税に興味がないんだな」と分かりますから、自分と合わないと思えば依頼しなければ良いだけの話ですね。

そして一番厄介なのが上記3の「医業専門をうたっている税理士」で、これはお医者さんにしてみると少し面倒かもしれません。

 

 

前述した加入条件の中で、「・・・医療法人は加入できない」とありましたが、例えば個人の診療所で従業員の数が5人以下であれば、医師でも小規模企業共済に加入することが出来ます。

しかし、往々にしてこうした医業専門の会計事務所というのは、医療法人をターゲットにしていることが多く、小規模企業共済について全く無知という場合があるため注意が必要となります。

これを読んで、医業専門の会計事務所の人から「そんなバカなことは無い」なんて怒られそうですが、実際、当サイト管理人は、個人診療所を営んでいる医師数人から「うちの税理士、医業専門なんて言ってるけど、小規模企業共済について全く知らないんだよ」と言われ、他の税理士を紹介したことがあります。

一人の医師だけから相談されたならまだ分かりますが、これが数名となれば「ちょっとどうなの?」と疑問に思いますよね。もちろん、ちゃんとした会計事務所もあるのですが、特に医師の方は事前にその会計事務所の実力をよく判断した上で、顧問契約を結ぶようにしましょう。

税理士の探し方については、下の記事をご覧になるか、または当サイトの「良い税理士の選び方」のカテゴリーも参考にしてみて下さい。

 

小規模企業共済の加入窓口

それでは最後に、小規模企業共済に加入する際の窓口についても説明しておきます。

基本的に、小規模企業共済に加入する際は、中小企業基盤整備機構に直接申請するわけではなく、中小企業基盤整備機構と契約している「委託団体」「代理店」などに申し込む必要があります(借り入れを行う場合も同様)。

委託団体
  • 商工会
  • 商工会議所
  • 中小企業団体中央会
  • 事業協同組合
  • 青色申告会
  • 損害保険ジャパン株式会社
  • アクサ生命保険株式会社
代理店
  • 都市銀行
  • 信託銀行
  • 地方銀行
  • 第二地方銀行
  • 信用金庫
  • 信用組合
  • 商工組合中央金庫
  • 農業協同組合(33都道府県)

将来的な借り入れの事なども考慮すると、自社がメインバンクとしている銀行などに申請するのが一番簡単かもしれませんね。ただし、支店によっては小規模企業共済の業務を取り扱っていない場合もありますから、事前にちゃんと確認するようにしてください。