
現在会社員である人が勤め先を退職して独立・起業する場合、「事業を拡大して成功したい」とか「好きなように仕事を進められる」などとワクワクしているかもしれませんが、実際に独立してみると、これまでに想像しなかったようなリスクに直面し、とても驚くかもしれません。
特に、何の準備もせずに独立した人などは、「こんなはずじゃなかった」などと後悔する事もあるようです。
もちろん、準備ばかりに気を取られていては、いつまで経っても独立へと踏み出すことは出来ませんが、そうは言ってもある程度の準備は重要となります。
そこでこの記事では、会社員の方が独立後「こんなはずじゃなかった」とならない為に、最低限、事前に準備しておきたい内容についてお伝えしようと思います。
目次
独立後に発生するリスクとは?
会社員時代は意識する事が少ないですが、独立してみて初めて「あぁ、これまでかなり会社から守られていたんだなぁ~」と気づく事が数多くあります。
例えば、会社員時代の職務内容が営業職だったすれば、当時は営業の仕事だけに集中さえすれば良かったので、保険や税金の支払い、銀行借り入れなどの業務で頭を悩ませることも少なかったかもしれません。
また、営業ひとつ取ってみても、これまでは勤め先の会社という看板(後ろ盾)がありましたが、独立後はそういったものが全く無くなりますから、如何に会社という存在が大きかったかを思い知る人も多いでしょう。
こうした話を聞くと、「あぁ、自分には独立は向いていないかもしれないな」と考えるかもしれませんが、事前にどういったリスクがあるのかを理解し、そのリスクに対し適切な準備をしておけば、それほど怖がる必要もないので安心してください。
一般的に、独立後に発生しやすいリスクは以下の通り。
- 社会的信用の低下リスク
- 収入不安リスク
- 傷病リスク
- 法的リスク
上記それぞれのリスクに対し、すでに漠然とは認識しているかもしれませんが、具体的にどのような対策をしておけば良いかについてはあまり深く考えた事がないかもしれません。
そこで以下において、それぞれのリスクの対策について説明していきます。
社会的信用低下のリスク対策
まずは、「社会的信用低下のリスク対策」について。
これは、独立後に一番痛感するリスクかと思います。この社会的信用低下のリスクの内容は様々ありますが、特に頭を悩ませるのが「居住関連」「融資・金融関連」かもしれません。
これらは事前に対策をしておかないと、独立後に身動きが取れなくなる可能性が高まりますから、必ず対処しておきたいポイントです。
それでは、それぞれの対策について見ていきましょう。
居住リスク対策:独立前に引っ越しを済ませておく
まずは居住リスク対策として、「独立前に引っ越しを済ませておく」という事。
これは、現在賃貸住宅にお住いの方限定のお話ですが、意外とこれを見過ごしている人が多いようです。
例えば、会社員時代に独身寮や社宅に住んでいるとしたら、退職後には必ず退去しなければいけませんが、独立後に入居を申し込むとすると、ほとんどの場合入居を拒否される事になるでしょう。
大家さんからすれば、独立したての人間に部屋を貸し出して、ちゃんと家賃を納めてくれるのかと不安になりますよね。
仮に、数年分の家賃を支払えるだけの現金を持っていたとしても、ほとんどの場合、入居審査で否認される事になるでしょう。
もちろん、中には受け入れてくれる大家さんもいるにはいますが、高額な敷金を要求されたり、自分が住みたい地域に住めなかったりと、様々な面で妥協せざるを得ません。
その点、会社員時代に引っ越しを済ませておけば、入居審査で引っ掛かる事はほとんどありませんから、必ず独立前に引っ越しを済ませておきましょう。
現在借りている住居に満足している場合は問題ありませんが、事業内容によっては「都心に住みたい」という場合もあるでしょうし、「広い部屋が必要だ」という事も考えられます。
ですから、そういった事も事前に想定しながら、住居に関しては独立前によく考えておきましょう。
- 独立後は、希望する部屋を借りづらい
- 独身寮、社宅に住んでいる人は要注意
- 自分の事業内容を考え、それに適した部屋を借りる
居住リスク対策:住宅ローンは独立前に申請しておく
次も居住リスク対策で、「住宅ローンは独立前に申請しておく」という事。
これも前述した賃貸の場合と同じく、独立後であれば住宅ローンの審査が通りませんので、自宅を建てたいという人は必ず会社員時代に申請しておく必要があります。
これは個人事業主として独立した場合でも、法人を設立した場合でも同様です。
一般的に住宅ローン審査を受けるとなれば、個人事業主の場合は「直近2~3年分の確定申告書」を求められ、法人の代表者の場合にも「直近2~3年分の決算申告書」を求められる事になります。
つまり、最低でも2~3年の営業実績がなければ、酷い場合には審査さえしてくれない事もありますから、独立前に申請しなければ当面の間は自宅を建てる事が出来ません。
ですから、「持ち家が欲しい」と考えている人は、必ず会社員時代に住宅ローンの申請を済ませておきましょう。
- 独立後数年間は、自宅を所有するのは難しい
- 仮に住宅ローンの審査に通っても、金利がかなり高くなる
融資リスク対策:クレジットカードは独立前に作っておく
住宅ローンの話が出ましたので、次にこれと同様、融資リスク対策についても触れておきましょう。
まずは、「クレジットカードは独立前に作っておく」という事。
会社員時代に難なくクレジットカードの審査に通っていたとしても、独立した途端、ほとんどのクレジットカード会社で審査が通らなくなる可能性があります。これは住宅ローンと同じく、独立直後の社会的信用が著しく低下する事に原因があります。
やはりこの場合も、会社員時代に自分の希望するクレジットカードを申請しておくことをお勧めします。
当面の間は個人用のクレジットカードを利用すれば問題ありませんが、事業規模が大きくなるにつれ、「ビジネス用クレジットカード」の必要性も高まってきます。
やはり、税務申告の際に個人の支払いと事業上の支払いが混ざっている事で、正しい財務内容を確認する事が難しくなりますから、いずれは事業専用のクレジットカードも作っておきたいところです。
しかし独立直後の事業者にとって、事業用のクレジットカードは、個人用のクレジットカードよりも更に作成が困難となります。
そんな事業用クレジットカードですが、独立直後でも比較的審査の通りやすいカードもありますから、ここで幾つかご紹介しておきます。
独立直後でも作りやすい事業用クレジットカード
- マネーフォワードVISAビジネスカード
- 会計ソフト「マネーフォワード
」が三井住友VISAカードと提携したカード。「クラシック」「ゴールド」から選択可能。
- freee事業用クレジットカード
- 会計ソフト「freee(フリー)
」が発行するカードで、「MasterCard」「VISA」「セゾン」から選択可能。
- PayPay銀行VISAデビットカード
- クレジットカードではなく、デビットカードにはなるが、審査は不要。
PayPay銀行 ビジネスアカウントの開設が必要。
どれも条件によっては年会費が無料になる事もありますから、この辺は上手に活用したいですね。
- 独立直後は、クレジットカードの審査に通りにくい
- ビジネス用は更に難しい
- 出来るだけ独立前にクレジットカードを作成しておくこと
- 独立直後でも作成できるビジネス用カードもある
融資リスク対策:その他
そして融資リスク対策の「その他」という事ですが、上記で説明したように、一般的に独立直後の社会的信用は著しく低下しますから、やはり銀行からの借り入れなどは当てにせず、ある程度の貯蓄を会社員時代に築いておくことが重要となります。
しかし、事業内容によってはどうしても借り入れをしなくてはいけない状況もあるでしょう。
その場合は、政府系金融機関である「日本政策金融公庫」に融資依頼をするのが一番です。
この日本政策金融公庫は、「国民生活金融公庫」「農林漁業金融公庫」「中小企業金融公庫」の3つの金融機関が統合されたもので、年配の人はよく「国金(こっきん)」などと呼ぶこともありますが、この国金とは「国民生活金融公庫」時代の略称であり、現在の日本政策金融公庫とほぼ同じと考えて良いでしょう(ただし、現在の略称は「にっぽんこうこ」)。
この日本政策金融公庫は金利も安く無担保融資なども充実していますし、更には創業者支援用の施策も多くありますから、創業時に資金調達を検討しているなら是非利用したい金融機関です。
セミナーなども頻繁に開催しており、支店も全国各地にありますから、独立前、一度はサイトを確認しておいたり、セミナーに参加しておいた方が良いかもしれません。
日本政策金融公庫 公式ホームページ:https://www.jfc.go.jp/
- 基本的に、独立直後の事業者に対する融資は、何処の金融機関も消極的
- 唯一積極的なのが「日本政策金融公庫」
収入不安リスク
続いて、「収入不安リスク」についても考えてみましょう。
会社員時代は、毎月同額の給与やボーナスなどが振り込まれていましたから、収入予測はある程度簡単に出来たかと思います。しかし独立するとなれば、安定した収入が約束されるわけではありませんから、この収入不安というのはいつも付いて回る事でしょう。
もちろん、会社員時代の数倍もの収入を得る事も可能ですが、逆に数ヶ月間も収入がゼロという事もあり得ます。
そこで以下において、この収入不安リスクに対する具体的な対策についてお伝えします。
独立前、ある程度の貯蓄をしておく
まずは、「独立前、ある程度の貯蓄をしておく」という事。
これは月並みな内容かもしれませんが、意外とこれをするしないでは精神的負担がかなり違ってきます。
「そんな事、言われなくても分かってるよ」と考える人もいるかもしれませんが、では実際、どの程度の貯蓄があれば良いのか考えた事があるでしょうか?
100万円?200万円?・・・もちろん、あればあるだけ安心できますが、いつまでも貯蓄ばかりしていては、いつになったら独立できるか分かりませんよね。
これに関しては、「個人による」としか言いようがありませんが、せめて「最低1年分の生活費」くらいは確保しておきたいところです。
生活費とは、普通に生活する上で必ず出ていく費用ですから、「家賃」や「光熱費」、「食費」「通信費」「交通費」などをすべて合計した金額という事です。仮に月あたり20万円の支出で生活できるとすれば、「20万円×12ヶ月」という事で、最低「240万円」の貯蓄は確保しておきたいところ。
ただし、これは独立するとよくわかりますが、1年間というのは結構「あっという間に」過ぎ去るものです。
ですから欲を言えば、2年間分の生活費が確保できれば、精神的な面でかなり楽になる事でしょう。
- 最低限、1年分の生活費は事前に貯めておきたい
- 欲を言えば、2年分の生活費が賄えると更に安心
出来るだけ、「副業」「個人事業」からスタートさせる
次が、「出来るだけ副業、個人事業からスタートさせる」という事。
世間的には、「法人の方が社会的信用も高いし、独立直後は法人設立がおススメ」などという意見もありますが、当サイトとしては、あまり最初から法人設立する事はおススメしません。
確かに、法人の方が少しは社会的信用度は上がりますが、あくまで「少しは」という程度であり、個人事業で独立したとしても、それほど大きな違いがあるとも言えません。
もちろん、許認可などの関係上、法人でないと営業を開始できない事もありますが、そういったケースはあくまで例外ですから、あまり心配する必要はありません。むしろ、法人を設立する事により様々な費用がかかってきますから、ランニングコストを抑える上で、最初は個人事業の方がメリットが多いと言えます。
出来れば最良の方法として提案したいのが、会社員時代に副業として事業を開始し、ある程度の収入を得る事を出来たらそのまま独立する方法が、収入不安リスクを抑える上で一番だと言えるでしょう。
衝動的に、勢いだけで独立を決める人もいますが、出来ればこのように計画的に独立したほうが様々なリスクを抑える事が出来るのです。
この場合、税務上の様々な特典を利用するため、副業などの開始時には「開業届」「青色申告承認申請書」などの提出をしておきましょう。この辺について詳しくは、こちらの記事も参考にしてみて下さい。
個人事業主として起業する場合、名刺の作成や事務所の場所をどうするかなどなど、色々と考えることが多いと思いますが、何よりも一番最初に着手しておかなければいけないのが「税務署や行政への開業届などの提出」です。 要は、国などに …
とは言っても、最初から法人を設立したいと考えている人もいるでしょうから、そういった方は、当サイトの「起業・独立」のカテゴリーも参考にしてみて下さい。こちらには「法人の設立の仕方」や「ハンコはどういったものを選べば良いのか」などといった記事がありますから、かなり参考になるかと思います。
- 独立直後の法人設立はおススメしない
- 収入リスク低減のカギは、「計画性」
- 「開業届」「青色申告承認申請書」などの提出もお忘れなく
傷病リスク
続いてが「傷病リスク」についてです。
基本的に会社員時代には原則として「労災保険」に加入する事となり、勤務中や通勤中に起きたケガや病気に関して、様々な補償がなされます。
その内容も、仕事を病気やケガで休んでいる間の「休業補償」、障害を負った場合の「障害補償」、死亡した場合遺族に支払われる「死亡補償」とかなり充実しています。
しかし経営者となると、基本的にこの労災保険に加入する事が出来ず(一部例外あり)、仮に事故などで入院するとそのまま収入減に直結し、補償を受けられないどころか入院費用などの出費ばかり発生してしまうという事態に陥ってしまいます。
ですから独立前に、この傷病リスクについても十分対策を練っておく必要があります。
事前にファイナンシャルプランナー(FP)などに相談しておく
まず一番の対策としては、独立前にファイナンシャルプランナー(FP)などに相談しておくことをお勧めします。
保険にも色々な種類があり、「生命保険」や「損保保険」などはご存知かもしれませんが、これ以外にも病気やケガで働けない状態になった時、収入を補償してもらえる「所得補償保険」などもあります。
現在加入されている保険は、恐らく会社員向けの保険である可能性が高いため、起業した後には全く役に立たなかったなんて事もあり得ます。
ですから、独立前にプロであるFPなどに相談し、自分に合った保険を提案してもらった方が良いでしょう。
FP紹介サイト
保険見直しラボ - FPが訪問してくれ、全国も対応している。対応するFPの評判がかなり良い。
保険マンモス - 訪問型のみ。全般的にFPの評判は良く、ネットで事前診断も受けられる。
それぞれ特徴が異なりますから、自分に合ったサイトに申し込んで保険内容を見直しましょう。相談料は無料である事が基本です。
治療費については国民健康保険で対応できますが、ベッド代などは「生命保険」、入院中の収入保障については「所得補償保険」とに分かれますから、出来るだけ安く、しかも万一の場合に手厚い補償のある保険を選択するようにしておきましょう。この辺について詳しくは、こちらの記事も参考にしてみて下さい。
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- 会社員時代と独立後では、必要となる補償内容が異なる
- 基本的にどこのサイトでFPを紹介してもらっても、相談料は無料
- 所得補償保険は出来るだけ加入しておきたい
法的リスク
そして最後が「法的リスク」について。
独立後、業務内容にもよりますが、仕事中の法的リスク(トラブル)というのは意外と多いという事に驚くかもしれません。
一例としては以下の通り。
- 業務中、人とぶつかりケガをさせてしまった。
- 飲食物を提供した結果、食中毒を起こしてしまった。
- 依頼先に出向いた時、誤って備品を壊してしまった。
- 悪意はなかったが、うっかり依頼先の秘密を漏らしてしまった。
どれも普段は意識しませんが、仕事をする上では日常的に起こりうる事故だと言えますよね。簡単に和解できれば良いのですが、相手によっては裁判沙汰になる事もあります。
もちろん、これに関しては独立後に検討すれば良いですし、様々なサービスで対応する事は可能ですが、事前に一度は考えておくべきでしょう。
こちらについて詳しくは、下記の記事もご覧になってみて下さい。
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まとめ
考えすぎで結局動けなくなってしまうのもいけませんが、何も考えずに行動すると、痛い目に合う事って多いですよね。そうならないためにも最低限、上記に書かれている事について独立前に準備しておくことをお勧めします。
どれも難しくはありませんから、今から行動してみては如何でしょうか。
特に「住居関連」については、独立後ではどうしようもなくなってしまいますから、早めに行動しておきましょう。