士業がテレワークを行う場合、「事務所要件」に十分注意

ここ最近、急速に認知度の高まっているテレワークですが、この波は士業業界にも押し寄せてきているようです。

当サイト管理人は、様々な士業の方々とお付き合いがありますが、多くの事務所が今回の非常事態宣言などを機にテレワークを導入し始めています。

今回テレワークを導入した士業の方の中には、その利便性に満足し、今後も継続して利用していくと言っている人もいますが、ここでひとつ気を付けたいのが士業の「事務所要件」における対応について。

一般的な企業と異なり、士業は法律によって様々な制限がありますが、その一つに「働く場所の制限」というものが課されています。

そこでこの記事では、士業がテレワークを行う際、法律上の事務所要件においてどのような点に注意しなければいけないかなどについて考えてみます。

テレワークにおける勤務形態

まず、士業の事務所要件についてお伝えする前に、テレワークにおける勤務形態の種類について見ていきましょう。

一般的にテレワークとは、「tele(離れたところ)」と「work(働く)」をかけ合わせた造語であり、要は本社などの拠点以外で働く事を意味します。

その働く場所によって呼び名が変わるのですが、テレワークとは大きく分けて、以下の3種類の場所で働く事を想定しています。

テレワークの勤務場所
  1. 在宅ワーク    - 社員の自宅
  2. モバイルワーク  - 新幹線などの公共交通機関やカフェなど
  3. 施設型テレワーク - サテライトオフィス、レンタルオフィス、コワーキングスペース など

図に表すと以下のようになります。

 

 

ちなみに、当サイトでは「施設型テレワーク」と表現していますが、一般的には「サテライトオフィス等テレワーク」などと表現されることもあります。

テレワークとは、概ね上記3種類の場所のいずれかで働く事を指しますが、士業においては「事務所要件」が絡んでくるため、テレワークを行う場所の選定について少し注意が必要となります。

テレワークの種類や勤務場所について詳しく知りたい方は、こちらの記事も参考にしてみて下さい。

 

各士業における「事務所要件」とは?

それでは以下において、それぞれの士業の事務所要件を法律文から読み解いていきましょう。

まずは「弁護士法」から。

弁護士法第二十条(法律事務所)

1 弁護士の事務所は、法律事務所とする。

2 法律事務所は、その弁護士の所属弁護士会の地域内に設けなければならない。

3 弁護士は、いかなる名義をもつてしても、二箇所以上の法律事務所を設けることができない。但し、他の弁護士の法律事務所において執務することを妨げない。

次に「司法書士法施行規則」

司法書士法施行規則第十九条(事務所)

司法書士は、二以上の事務所を設ける事が出来ない

そして次が「税理士法」

税理士法第四十条(事務所の設置)

1 税理士(税理士法人の社員(財務省令で定める者を含む。第四項において同じ)を除く。次項及び第三項において同じ)及び税理士法人は、税理士業務を行うための事務所を設けなければならない。

2 税理士が設けなければならない事務所は、税理士事務所とする。

3 税理士は、税理士事務所を二以上設けてはならない

4 税理士法人の社員は、税理士業務を行うための事務所を設けてはならない。

士業はこれ以外にもたくさんありますが、概ね上記のように「事務所を2ヶ所以上設置してはいけませんよ」と規定されています。

もちろん、弁護士法人や税理士法人などの場合、支店を設置する事も認められていますが、その場合はあくまでも「その支店に有資格者である社員を常駐させなくてはならない」「事務所の登記をしなくてはならない」などの要件がありますので、基本的にはどこでも業務が行えるわけではないという事です。

となると、弁護士や税理士などの士業の方は、テレワークを導入するとなると、それぞれの法律に違反する可能性があるという事になります。

税理士業界はグレーゾーン解消に動き始める

しかし実際の業務においては、税理士が自宅で税務相談に応じたり、弁護士が客先で法律相談に応じたりすることはよくある話です。

この部分がこれまでグレーゾーンとされてきており、各士業ともこのグレーゾーンを解消するように各所属団体に対して働きかけてきていますが、その腰は重く、遅々として法改正などが進んでいない状態でした。

日本税理士連合会の動き

しかしここにきて一番最初に動き始めたのが、税理士の所属団体である「日本税理士連合会」

2019年に日本税理士連合会は、「次期税理士法改正に関する答申」において、全国の税理士に対し税理士制度への意見を募集しています。その中で、この税理士事務所のテレワーク導入におけるグレーゾーン払しょくについて触れています。

具体的内容については、税理士の方向けとなっていますから一般には公開されていませんが、概ね内容としては以下の通りとなっています。

日税連の見解
  • 税理士が自宅で業務を行う、いわゆる在宅ワークは、現行法上問題ないと考える。
  • 職員が在宅ワークやモバイルワークを行う場合、「守秘義務」や「職員に対する監督義務」が適正に履行されている限り、現行法上問題ないと考える。
  • ただし、サテライトオフィスやレンタルオフィスを利用する施設利用テレワークについては、「二箇所事務所」該当する可能性がある。

つまり、上記を整理すると、

  • 「在宅勤務」「モバイルワーク」は法律上問題無し。
  • ただし、「守秘義務」「職員に対する監督義務」を適正に履行しているという前提。
  • 施設利用型テレワークに関しては、法律違反になる可能性がある。
  • また、モバイルワークであったとしても、それが長期間となる場合は、施設利用型としてみなされる可能性もあり。

という事になるのでしょう。

 

あくまで「条件付き」ではありますが、「守秘義務」や「監督義務」などは、いわば当たり前の事ですから、税理士の方はこれである程度安心してテレワークを推進する事が出来ますね。

ただし、実際に法改正が行われたわけではなく、あくまで「見解」程度ですから、実務上においては必ず所属する税理士会に確認する必要があるでしょう。

クラウド会計ソフト会社「freee(フリー)」の動き

また、国に対して法律のグレーゾーン解消を要望するための制度が以前からあり、今回、クラウド会計ソフトを提供するfreee(フリー)という企業が、経済産業省が所管する「グレーゾーン解消制度」を利用して、税理士法におけるテレワーク導入の法解釈について回答を求めています。

まずはフリーの照会内容がこちら。

フリーの照会内容

税理士事務所の職員が、照会者(freee)が新たに提供するリモートワーク対応版を実装したクラウドサービスを利用して、リモート勤務場所で税理士事務所の業務を行った場合、そのリモート勤務場所が、税理士法第40条第3項の「税理士事務所」に当てはまらない事を確認したい。

【サービス提供の前提条件】

freeeは契約する税理士事務所に対し、以下の対応をとる事にする。

  • リモート勤務場所が税理士事務所と誤認されるような、看板を掲げる行為・名刺への住所記載は行わない。
  • リモート勤務場所で、職員を採用していたり、顧客との打ち合わせのための設備やスペースを設けていない。
  • 税理士事務所による所属税理士やその他の事務所職員に対する監督義務について、勤務時間・場所、業務内容の管理、守秘義務の遵守等について、税理士事務所の業務規程で定めた上で、リモート勤務場所においても、税理士業務に係る法令上の義務は、税理士事務所で勤務する場合と同様に適用される旨の注意喚起を行う。

出典:経済産業省「グレーゾーン解消制度」

簡単に言うと、freee株式会社という企業が、「今後、税理士事務所向けの新サービスを提供しようと考えてるんですが、これ、リモートワークが簡単にできるサービスなんですよね。でも、それが税理士法に抵触すると問題ですから、ここのグレーゾーンをハッキリさせて欲しいんです。もちろん、最低限の条件は税理士事務所に対して周知しますから」という内容となっています。

その照会に対して、同法を所管する国税庁(財務省)から、以下のような回答があったようです。

国税庁の回答

(1)税理士法第40条について

税理士法第40条1項は、「税理士(・・・)及び税理士法人は、税理士業務を行うための事務所を設けなければならない」と規定している。

この「事務所設置義務」は、

  1. 税理士業務の業務執行の中心となるべき一定の場所を定めておくことが、顧客に対して責任を明確にする上で必要であること
  2. 税務当局の税理士に対する指導、監督が容易に行えるようにしておく必要があること

などの趣旨により設けられたものであると解される。税理士法40条に規定する事務所に関し、税理士法基本通達40-1において、「法第40条に規定する「事務所」とは、継続的に税理士業務を執行する場所をいい、継続的に税理士業務を執行する場所であるかどうかは、外部に対する表示の有無、設備の状況、使用人の有無等の客観的事実によって判定するものとする」と規定している。

また、税理士法第40条第3項では、「税理士は、税理士事務所を二以上設けてはならない」と規定している。この趣旨は、個人の監督能力を超えて、事務の範囲を拡大する事を規制する事にあると解され、例えば、税理士事務所を設置の上、自宅でも看板を掲げて税理士業務を行っている場合や、東京と大阪で同様の設備等を有し、それぞれの場所で税理士業務を行うような場合は、この「二か所事務所禁止」に違反している事となる。

(2)リモート勤務場所での税理士事務所の業務を行った場合の当てはめ

税理士事務所の職員が、照会者(freee)が新たに提供するリモートワーク対応版を実装したクラウドサービスを利用して、リモート勤務場所で税理士事務所の業務を行った場合にあっても、本件リモートワークサービスにおけるシステム上の機能及び勤務時間・場所、業務内容の管理、守秘義務の遵守等に係る税理士事務所の業務規程を利用する限りにあっては、

  • リモート勤務場所が税理士事務所と誤認されるような、看板を掲げる行為・名刺への住所記載等は行わず
  • リモート勤務場所で、職員を採用していたり、顧客との打ち合わせのための設備やスペースを設けていない

ことから、当該リモート勤務場所は、税理士法基本通達40-1の「継続的に税理士業務を執行する場所」に該当しないと考えられ、税理士法第40条第3項における「税理士事務所」に該当しないと考える。

出典:経済産業省「グレーゾーン解消制度」

かなり長い文章ですから読みにくい部分もありますが、要は国税庁としても「ある一定の要件さえ守っていれば、二箇所事務所には該当しませんよ」と回答しています。

その要件がこちら。

  • リモート勤務場所に「看板など」を掲げない。
  • また、名刺などにリモート勤務場所の住所を記載しない。
  • リモート勤務場所で職員を採用しない。
  • リモート勤務場所には、顧客との打ち合わせのための設備やスペースを設けない。
  • 職員に対し、勤務時間・場所、業務内容などにおける管理監督をしっかりと行う。
  • 職員に対し、守秘義務の遵守を徹底させる。

概ね当たり前ともいえる内容ばかりですが、「リモート勤務場所には、顧客との打ち合わせのための設備やスペースを設けない」というのは、少し厳しいかもしれませんね。

その他の士業団体の目立った動きはない

このように、税理士業界においてはテレワーク導入に向けた動きがありますが、他の士業団体において現在のところ目立った動きは無いようです。

しかし、世の中全体の流れとしては就業場所の分散化を推進しようとしていますから、今後、税理士業界のように他の士業においてもこのグレーゾーン解消の動きは出てくるでしょう。

また、士業というのは、どうしても行政などに対する書類申請において「押印」が必要となる業種ですから、「テレワークを導入しても、結局は顧問先に押印の為に訪問しなくてはならない」という意見もあるでしょうが、政府は現在、このハンコ文化を無くすための法改正を急いでいますから、今後、士業におけるテレワーク導入の環境が更に整備される可能性があると言えます。

現在、「ウチは関係ない」と考えている人も、いずれは無視できない時代が到来するでしょうから、今のうちから対策を考えておいた方が良いでしょう。