【副業の確定申告】よくある勘違い

現在、多くの人が関心を寄せる「副業」。「収入が増えた」「スキルが上がった」など、良い話ばかりのように思えますが、同時に負担に思う事も多くあります。

その代表的なものの一つとして「確定申告」が挙げられるでしょう。

これまで、会社員としてのみ働いていれば、勤め先の企業が税金の計算をすべて行ってくれていたので、税金や確定申告に対する意識が低い人も多い事でしょう。たまに考えるとすれば、毎年12月にある「年末調整」の時期だけだなんて人もいるかもしれませんね。

会社員からするとなじみの薄い「確定申告」ですが、実際にやってみればそんなに難しいわけではありません。ちょっとしたポイントさえおさえていれば、「あっ、こんなに簡単なの?」と思う事でしょう。

ただ簡単とは言え、会社員の方々とお話ししていると、「副業の確定申告」について、かなり多くの人が勘違いされているなと感じる事があります。

そこでこの記事では、副業の確定申告において、多くの人が起こしやすい「勘違い」についてお伝えしようと思います。

目次

「所得」と「収入」の違い

まず話を進める上で、一番重要となるのが「所得」「収入」というキーワード。

この違い、恐らく多くの人が勘違いしているのではと思います、

会社員として働いていると、企業にもよるでしょうが毎月「給与明細」を手渡されると思います。そこでこの給与明細書を例にして、所得と収入の大まかな違いについてご説明します。

出典:マネーフォワード

上の画像を見ると、①支給額から②控除額を差し引いた③「差引支給合計」が、402,574円となっています。

この差引支給合計額が、あなたの口座へと振り込まれる事になり、これがいわゆる「手取り給与額」とも呼ばれます。

ここで、さまざまな本などで「所得とは、収入-経費ですよ」なんて言葉を目にした事があるかもしれませんね。という事は、その考え方でいくと給与支給額①が「収入」となり、控除額②が「経費」とも見れますから、手取り給与額が「所得」と考えてしまうかもしれません。

確かに、給与支給額が収入と考えるのは正解です。しかし、控除額がそのまま経費という訳にはいきません。

上記の控除の一覧を見てみると、様々な保険料と共に「所得税」「住民税」も含まれていますね。実は、この税金は経費とはなりません。ですから、厳密に言えば上記①から④を差し引いた額が所得額となり、上記で言えば「489,292-52,508=436,784」が所得額となります。

厳密に言えばもっと細かくなりますが、簡単に「収入」から「経費」を差し引き、税金を引く前の金額が「所得額」になるという程度で覚えておいてください。

副業の「所得」が20万円以下なら、申告しなくても良い?

次に勘違いしやすいのが「副業の所得が20万円以下なら申告しなくても良い」という事。

確かにこれは正解と言えば正解なのですが、様々な要件が必要となるため全ての人に当てはまる訳ではなく、一律に「副業の所得が20万円以下であれば申告は必要ない」とはなりません。

それではその要件について、それぞれ細かく見ていきましょう。

基本的に、「年末調整」をしている事が条件

まず初めの条件として、「本業において年末調整をしている」という事について。

仮に、本業で会社員として勤めており、副業で「せどり」や「アフィリエイト」を行っていたとして、副業の収入が年間35万円だったとします。

せどりなどであれば、商品の原価や配送料も発生しますから、それらの経費が15万円であれば「35万円-15万円=20万円」で所得は20万円以下となり、確かにこの場合は確定申告は不要に思えます。

ただ、この人の本業において、その会社が「年末調整」をしていなかった場合ですと、この人は確定申告が必要となります。

ここで言えるのは、この「副業の所得が20万円以下であれば申告不要」というのは、きちんと年末調整をしている会社員を対象にしているということであり、本業がフリーランスなどであれば対象になりませんよという事です。

確定申告が必要となる人とは?

また、確定申告をしなければならない人の例として、その内容についても列挙しておきます。

確定申告が必要となる人
  1. 給与の年間収入金額が、2,000万円を超える人
  2. 1カ所から給与の支払いを受けている人で、給与所得及び退職所得以外の所得の合計額が、20万円を超える人
  3. 2ヶ所以上から給与の支払いを受けている人で、メインの給与以外の収入金額と、その他各種所得金額(給与所得、退職所得を除く)の合計額が、20万円を超える人(注1)
  4. 同族会社の役員などで、その会社から貸付金の利子や資産の賃貸料を受け取っている人
  5. 災害減免法により源泉徴収の猶予などを受けている人
  6. 源泉徴収義務のない人から、給与等の支払いを受けている人
  7. 退職所得について、正規の方法で税額を計算した場合に、その税額が源泉徴収された金額よりも多くなる人

(注1)この場合、給与所得から様々な控除を差し引いて150万円以下となり、その他の各種所得の合計額が20万円以下であれば、確定申告の必要なし

これを見ると、会社員の方の副業であれば、上記1~3のいずれかのパターンで対象となってくるかと思います。

要は、上記のいずれかに当てはまらないようであれば確定申告をする必要がなく、その判断基準として、ここに書かれている「20万円」という数字が注目されているという事ですね。

またこれ以外にも、医療費控除や住宅ローン控除、寄付金控除などの各種控除を受ける場合も確定申告を行う必要があります。

公的年金を受給している人の場合は、その年金等の額が400万円を超える場合には確定申告が必要となりますが、400万円以下の場合は必要となりません。ただし、400万円以下であっても、公的年金以外の所得が20万円を超える場合には、確定申告が必要となりますのでご注意ください。

ちなみに、よく「〇〇万円を超える」とか、「〇〇万円以下」という記述がありますが、ここで混乱する人もいるようです。

例えば「20万円を超える」とあれば、200,001円からは対象となり、200,000円ちょうどであれば対象となりません。細かい話ですが、覚えておくと便利ですよ。

住民税の申告は別問題

しかし、上記を読んで「私の本業以外の所得は20万円以下しかないから、確定申告とかは関係ないよね」と、簡単に安心は出来ません。

確かに、税務署に対する「確定申告」は不要となりますが、住民税の申告は別物となります。

基本的に住民税の申告は、所得が1つの会社の給与所得のみで、その会社が「年末調整」をしていれば申告の必要はありません。また、確定申告をしている人の場合でも、税務署に申告書を提出すれば、その内容が各市区町村に送られるため、別途申告する必要もありません。

 

しかしここで問題となるのが、「副業をしているが、その副業の所得が20万円以下であり、確定申告をしていない人」の場合です。

 

ここで、先ほど列挙した「確定申告が必要となる人」の中で、2の「1カ所から給与の支払いを受けている人で、給与所得及び退職所得以外の所得の合計額が、20万円を超える人」について、もう一度考えてみましょう。

確かにこれでいくと、「本業で会社員をしていて年末調整をしており、更にその他の所得が20万円以下」であれば、「確定申告は」必要ないという事になります。。

しかしこの場合において「住民税の申告」は、ほぼ必要となります。

片や、副業がアルバイトなどの給与所得のみであり、その金額が20万円以下で、かつそのアルバイト先が市区町村役場に「給与支払報告書」などを提出しているのであれば、住民税の申告も不要となり得ますが、副業が「せどり」などのいわゆる「雑所得」や「事業所得」となれば、別途住民税の申告が必要となるのです。

この辺をフローチャートなどで説明するとかなり複雑となり、かえって分かりにくくなるため、多くの税理士のブログなどでは「住民税の申告は別途必要」と書いていることが多いかと思います。

確かに、副業をしている人で確定申告はしなくてもいい場合でも、ほとんどの場合住民税の申告は必要となりますから、あながち間違いとも言い切れません。

ただまれに例外もあり、各市町村によって内容も異なりますから、詳しくはお住まいの役所に問い合わせてみて下さい。

「開業届」を提出すれば、「事業所得」で申告できる?

次に多い勘違いが「開業届を提出すれば、副業を事業所得として申告できる」ということ。

所得税には様々な種類の所得があり、副業の確定申告をする場合は、大抵「事業所得」か「雑所得」、もしくは「不動産所得」のいずれかで申告する事になると思います。

そこで、事業所得で申告すると、雑所得より多くのメリットがあるため、多くのサイトなどで「事業所得はお得です。是非挑戦してみましょう」などと書かれています。

これは確かに間違いではないのですが、会社員が副業の確定申告をする場合、「ほぼ」事業所得としては申告できません

ここで、「ほぼ」とお伝えしているにはそれなりに理由があります。

多くのサイトなどを見ていますと、「大半は事業所得で申告できません」などと表現している場合もあるようです。しかし「大半」となると、それなりに認められる可能性もあるのかな?と勘違いしてしまいますよね。

実務において、会社員の副業における確定申告は、事業所得として認められるにはかなりハードルが高いといえます。ですから、「ほぼ認められない」という認識で丁度いいといえるでしょう。

確かに、開業届を出せば事業所得として申告することは出来ます。しかし、数年後に税務調査があり、そこで否認されれば大抵「雑所得」で申告し直さなくてはいけません。

事業所得で申告するメリットとしては、青色申告か白色申告かでも異なりますが、これが雑所得での修正申告となると、追加での納税が発生する場合があります。ですから、よほど税務署に対して説明できる資料を揃えているか、または様々な要件をクリアしていない限りは、雑所得で申告しておいた方が良いでしょう。

この辺について詳しくは、こちらの記事も参考にしてみて下さい。

 

 

ちなみに、最高裁の判例として、事業所得か否かを判別する際の要件について以下のようなものがあります。

事業所得の要件
  1. 自身の計算と危険において営まれているもの
  2. 営利性と有償性を有しているもの
  3. 反復継続して遂行されているもの
  4. 社会通念上、事業として認められているもの

ここで、例えばあなたがアフィリエイトを副業で行っているとしましょう。

上記を読んで、「一応、営利性もあるし、毎日サイトを更新しているから「反復継続」ってのもいけそうだな。それにアフィリエイトは事業として認められているから、事業所得で申告しても問題ないだろう」などと判断しても、税務調査の際、「上記1のリスクを取っているとまでは言えませんよね」と言われればそれでお終いです。

実際、副業としてアフィリエイトをしている会社員の方で、年間数百万円の所得があるのにもかかわらず、事業所得として認められなかったケースもあるようです。

ですから、よほどの場合を除いて、会社員の副業における確定申告は「雑所得」で申告することになりますし、事業所得として税務署に認めてもらうためには、税理士などのプロに相談することをお勧めします。

青色申告と白色申告の違いについては、こちらの記事を参考にしてみて下さい。

 

不用品の販売は、申告しなくても良い?

そして最後の勘違いが「不用品の販売は、申告しなくても良いんだよね?」という事。

確かに、所得税法第九条および、政令において、課税されない所得として次のように例示しています。

自己又は、その配偶者その他親族の生活用動産の譲渡による所得は課税されない。ただし、次のものは除く。

貴金属、書画、骨とう、宝石などで、1個又は1組の価額が30万円を超えるもの、及び生活に通常必要でない動産の譲渡による所得。

例えば、メルカリなどで生活用動産を売買し、利益が出たとしても申告の必要はありません。しかし、「30万円を超える貴金属はダメ」なのですから、メルカリで50万円の腕時計を販売したならば、申告は必要となります。

また、生活用動産の販売は認められているので、マイカーの販売も課税されないとみても良いでしょう。しかし、これが「生活に通常必要でない動産」、例えば、フェラーリなどの高級車などを販売したとなると、申告しなければならない可能性が生じます。

基本的にこのような考え方で「申告の有無」を判断できますが、一つだけ注意点があります。

それが先ほどお伝えした「事業所得の要件」における「反復継続して遂行されるもの」に抵触するかどうかです。

仮に、メルカリやヤフオク!で生活用動産を販売していたとしても、「反復継続」して販売しているとみなされれば、確定申告が必要になる場合があるのでご注意ください。

まとめ

この記事においては、会社員の方がよく勘違いされている内容のうち、一番多いものについて説明しました。これ以外にもあるかもしれませんが、それらについては別途記事で説明していきたいと思っています。

もっと細かい内容について知りたい方は、プロである税理士の方々に質問する事をお勧めしますが、ここで一つだけ注意点があります。と言うのも税理士によっては、法人の決算ばかり担当していて、こういった会社員の副業について詳しくない方もおられます。

ですから少なくとも、会社員の方が副業について質問するのであれば、個人事業などに詳しい税理士を探した方が良いでしょう。

 

税理士の探し方については、こちらの記事を参考にしてみて下さい。

また、副業の確定申告についてもっと詳しく知りたい方は、こちらの記事も併せてどうぞ。