
ここ数年で社会的認知度の高まっているYouTuber(ユーチューバー)ですが、最近では副業代わりに会社員の方なども参入してきているようですね。
ユーチューバーを専業としている人であれば、それはすでに「事業」として成り立っているはずですから、法人化したり税理士に申告を依頼しているなど、それなりの税務対策をしているかと思いますが、会社員などの方が副業でユーチューブに取り組むとなると、あまり税金などについてまでは頭が回らないかもしれません。
始めたばかりで収入が全くないという人であれば問題ありませんが、ある程度の収入があるようであれば、必ず確定申告をしなくてはならなくなります。
そこでこの記事では、副業でユーチューブに取り組んでいる人が、確定申告において注意すべき点や、よくある勘違いなどについてお伝えしようと思います。
会社員の副業ユーチューバーだけでなく、これまで他の事業をやっていた人で、最近新たにYouTubeを始めたという人にも読んで頂きたい内容となっています。
目次
確定申告をしなくてはいけない人
まずは基本情報として、確定申告をしなくてはいけない人とはどんな人なのかについて見ていきましょう。
- 給与の年間収入金額が、2,000万円を超える人
- 1カ所から給与の支払いを受けている人で、給与所得及び退職所得以外の所得の合計額が、20万円を超える人
- 2ヶ所以上から給与の支払いを受けている人で、メインの給与以外の収入金額と、その他各種所得金額(給与所得、退職所得を除く)の合計額が、20万円を超える人(注1)
- 同族会社の役員などで、その会社から貸付金の利子や資産の賃貸料を受け取っている人
- 災害減免法により源泉徴収の猶予などを受けている人
- 源泉徴収義務のない人から、給与等の支払いを受けている人
- 退職所得について、正規の方法で税額を計算した場合に、その税額が源泉徴収された金額よりも多くなる人
(注1)この場合、給与所得から様々な控除を差し引いて150万円以下となり、その他の各種所得の合計額が20万円以下であれば、確定申告の必要なし
この他、細かい規定もありますが、例えば会社員の人の場合であれば概ね上記の内容で判断します。
仮に、本業が会社員でユーチューブを副業で始めたというのであれば、上記2の「給与以外の所得の合計額が20万円を超える人」が確定申告の対象になるという訳ですね。
よく巷で言われている「副業の所得が20万円を超えたら、確定申告をしなくてはいけませんよ」というのはここから来ています。
ちなみに、現在フリーランス、いわゆる個人事業主として活動しているのであれば、そもそもすでに確定申告をしているはずですからこの部分について考える必要はありません。
YouTubeで収益が発生する基準
では次に、ユーチューブで収益が発生する基準についても見ていきましょう。
ほとんどの方がご存じかと思いますが念のためお伝えすると、ユーチューブから収益が発生するためには、以下の条件を満たしている必要があります。
- 直近12か月間の動画「総再生回数」が4,000時間以上であること
- チャンネル登録者数が1,000人以上であること
この他、細かい規定もあるようですが、ほとんどのユーチューバーは上記2つの基準をクリアするため、日々動画づくりに励んでいるかと思います。
意外と「総再生回数」は簡単にクリアできるようですが、多くの人がチャンネル登録者数で苦労しているようですね。
ユーチューバーが確定申告で注意すべきこと
それでは上記の内容をもとに、ユーチューバーが確定申告において注意すべきことについて見ていきましょう。
「所得」と「収入」を勘違いしてはいけない
まずは、「所得」と「収入」を勘違いしてはいけないという事についてから。
前述した「確定申告をしなくてはいけない人」の中で、「給与以外に20万円を超える所得がある場合には、確定申告をしなくてはならない」とお伝えしましたが、この所得とは、ユーチューブから入金されたお金が20万円を超えた場合という訳ではありません。
このYouTubeからの入金というのは、あくまで「収入」という事であり、所得とはこの収入から経費を引いた金額の事を言います。
ですから仮に、ユーチューブからの収入が30万円あったとしても、動画作成などで外注費として15万円を支払っているのであれば「30万円-15万円=15万円」となりますから、所得額は20万円を超えず、確定申告は不要になるという訳ですね(ただし、以下でも説明しますが、住民税の申告は別)。
ここは意外と多くの人が勘違いする部分ですから、詳しくはこちらの記事もご覧になってみて下さい。
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住民税の申告は必要になることもある
そして次が、「確定申告はしなくても良いが、住民税の申告は必要になることもある」ということについて。
ここで簡単に確定申告の仕組みを説明しておくと、確定申告というのはあくまで国税である所得税などの計算を「国」に対して提出するものであって、都道府県や市区町村などの「地方自治体」に提出するものではありません。
ここで、「いや、これまで自治体に対して申告した事なんてないよ」なんて事を言う人もいるかもしれませんが、確定申告をしているのであれば、そのデータが税務署からそのまま地方自治体へと送られますから、わざわざ地方自治体に対する住民税の申告は必要なかっただけのお話なんですね。
しかし、例えば前述したように「所得が20万円を超えていない人」であれば確定申告は行いませんから、地方自治体へは別途申告しない限り、データが届かないという事になる訳ですね。
「えっ?地方自治体も所得が20万円を越えなければ申告不要じゃないの?」と考える人もいるかもしれませんが、住民税の申告においては話が違ってくるのです。
もちろん、自治体によっては別途申告が必要でない場合もありますが、ユーチューバーとしていくらかの所得があるのであれば、住民税の申告は「ほぼ」必要になると覚えておきましょう。
この辺について詳しくは、お住いの自治体や税理士などに相談するようにして下さい。
会社員の副業としてのYouTubeは、「雑所得」になる可能性が高い
次が、会社員の副業としてのYouTubeは、「雑所得」になる可能性が高いという事について。
ご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、所得税の分類は大きく分けて10種類あり、その内容は以下のようになっています。
- 事業所得
- 不動産所得
- 山林所得
- 利子所得
- 配当所得
- 給与所得
- 退職所得
- 譲渡所得
- 一時所得
- 雑所得
このうち、ユーチューバーが確定申告をするとなれば、上記の「事業所得」か「雑所得」での申告となるのですが、これが会社員の副業となれば、雑所得として申告しなくてはならない可能性が高くなってきます。
事業所得で申告できるなら、青色申告として申告を行う事ができ、この場合、様々な税務上の特典を利用する事が出来るのですが、雑所得での申告となれば、そもそも青色申告で申告できませんから、あまり税務上のメリットは感じる事が出来ないでしょう。
この辺について詳しくは、こちらの記事も参考にしてみて下さい。
個人事業主として起業や独立をした場合や、副業を開始して一定の収入がある場合などは、必ず確定申告をしなくてはなりませんが、これまで会社員として働いてきた方であれば、そのほとんどが年末調整だけで済んでいた可能性が高いため、「 …
上記の記事内でも書かれていますが、会社員の副業の場合、その多くが事業所得として認められず大抵の場合が「雑所得」での申告となってしまいます。
もちろん、会社員の副業であっても事業所得として認められる場合もあるようですが、どこまで行ってもその判断は税務署がする事ですから、「こうすれば事業所得として認められる」などといった方法は無いというのが現実です。
「そうは言っても、事業所得としてどうしても申告したい」という方は、税理士などの専門家に相談するようにしてください。
すでに個人事業主である副業ユーチューバーは「所得の種類」に注意
そして次が、「すでに個人事業主である副業ユーチューバーは、所得の種類に注意しなくてはならない」という事について。
YouTube以外の事業が本業として生計を立てられる規模であれば、確定申告においては既に事業所得として申告しているでしょうから、副業として始めたYouTubeも事業所得として申告できるだろうと考えてしまいそうですが、会社員の場合と同様、仮に本業が個人事業主であったとしても、副業であるYouTubeの収入は雑所得になる可能性があるため十分注意してください。
こう言うと「えっ?もともと個人事業としてやっていて、収益の柱が一つ増えただけなんだから、どっちも事業所得になるんじゃないの?」と考える人もいるかと思います。
しかしこれは、そのYouTubeの配信している内容によっても判断されてしまうのです。
例えば、あなたの本業が焼き鳥屋などの飲食店だとします。しかし、あなたの配信するYouTubeの内容が「筋トレ」の動画であれば、本業である飲食業と全く関連性がありませんよね。
そうなると税務署は、YouTubeはあくまで副業であるから、副業部分は雑所得として申告してくださいと指導する可能性があります。
しかしこれが、「筋トレを効果的にするために、鶏肉をとる」とか、「飽きないための鶏肉の調理方法」などであれば、本業である焼き鳥屋との関連性も出てきます。
もちろん、どこまで行っても税務署との交渉次第という部分は残りますが、本業と全く関係ないYouTubeであれば、事業所得として認められない可能性があるという事は覚えておきましょう。
ただし、YouTube事態に事業性が認められれば、事業所得として申告できる可能性もあります。
この辺についても、事前に税理士と相談しておく方が良いでしょう。
「申告しなくてもバレない」は大間違い
そして次が、「申告しなくてもバレないだろうと考えるのは大間違いである」という事。
インターネットなどを検索すると、「少額だったら申告しなくてもバレない」などと無責任な事を書き込んでいる人をたまに見かけますが、こんな適当なことを真に受けてはいけません。
むしろ「ユーチューバーの無申告は、簡単に見つけられる」と思っておいた方が丁度いいくらいです。
最近の税務署は、雑誌やテレビ、インターネットなどその納税者に関連する情報を、事前に十分リサーチしてから税務調査に臨みます。とある税務調査においては、本人が忘れていたYahoo!のIDまで調べ上げていたなんて事もあったようですから、如何に事前調査が徹底しているかが分かりますよね。
それでも事前に調べる事が出来る内容は限られていることから、実際に納税者本人と会って話を聞いたりすることになる訳ですが、YouTubeというのは他の業種に比べ、調査官からすればかなり楽な調査対象だと言えるでしょう。
例えば、人によっては自宅内を撮影することもあり、どんな家具や調度品が置かれているかは事前に確認できますし、再生回数も簡単に計算できるため、おおよその収入も簡単に推測する事が出来ます。
ですから、繰り返しになりますが「ユーチューバーの無申告は、むしろ見つかりやすい」という事になるのです。
特に2019年から2020年にかけてユーチューバーの数が急激に増加していますから、税務署としてもユーチューバーは注視し始めているかと思われます。
更に言うと、国税局は無申告の発見に力を入れていますから、安易に「バレないだろう」などと考えず、所得があれば必ず確定申告をするようにしましょう。
その時代ごとに、国が税務調査に力を入れる項目は変遷していますが、ここ数年は「富裕層」「海外」「ネット」「無申告」というキーワードが重点項目となっているようです。 バブルの時代は不動産などが重点項目となっていましたが、イン …
「税務署はネットに弱い」は大間違い
次が、「税務署はネットに弱い」という考えは大間違いであるという事。
以前、とあるユーチューバーが「税務署はネットに弱い」などと動画内で言っていたようですが、このユーチューバー、何を根拠にそんな事を言っているのか理解に苦しみます。
更に言うと、このような事を税理士が発言していたとすれば、その税理士はネット関連の税務調査に同席したことがない事を自ら露呈しているようなものですから、そうした税理士が顧問であるならば、すぐにでも税理士の変更をお勧めします。
ここ数年、国税局はネット関連の申告が増えていることを受け、「情報技術専門官」というネットビジネス専門の調査官を増やす傾向にあります。
この情報技術専門官とは、パソコンやインターネットに精通した調査官であり、税務調査の対象がネットビジネスの業態である場合、一般の調査官に同行して調査を行う人たちの事を言います。
たとえパソコンのデータを削除したとしても、それを復元する技術も有していますから、誤魔化そうとしても無理だと言えます。
現状においては、それほど人数も多くありませんから、ネットビジネスの税務調査に必ずこの情報技術専門官が同行するわけではありませんが、今後は人数も増えていくことでしょうから、従来からある「税務署はネットに弱い」という考え方は、現在においては全く当てはまらないという事を覚えておきましょう。
高額商品の購入は、必ずしも経費とはならない
次が、「高額商品の購入は、必ずしも経費とはならない」という事について。
よく、「100万円分の〇〇買ってみた」とか「高級品の〇〇を手に入れた」などと言った企画動画を目にしますが、あれについて「全部経費に落とせるんでしょ?」などと勘違いしている人もいるようです。
中には経費として認められるものもありますが、内容によっては経費として認められない場合もあるので注意が必要です。
例えば、その高額商品のプレゼント企画として視聴者向けに購入し、それを実際にプレゼントしたのであればそれは「広告宣伝費」として認められる場合もあります。
しかし、動画の公開後、それを私物として使用するだけであれば、それは経費として認められませんから何でもかんでも経費にできると考えるのは間違いです。
開業届などの提出書類は早めに出しておくこと
そして次が、「開業届などの提出書類は早めに出しておくこと」という事について。
前述したように、会社員などの副業であればそもそも事業所得として申告できない可能性もありますから、開業届や青色申告承認申請書などを提出せずにYouTubeを開始している人もいるかもしれません。
しかしYouTubeというのは、いつ、どのようなタイミングで再生回数が増えるかは誰にも予測できませんから、チャンネル開設当初は「いずれは会社を辞めて、YouTubeだけで生活してみたいな」と考えていたとしても、その予想に反して、開設初年度から大きな収入を手にすることだってあり得ます。
実際、登録後数ヶ月でチャンネル登録者数が1万人を超える人もいますからね。
その場合、慌てて開業届や青色申告承認申請書を提出したとしても、最悪の場合は手遅れとなり、翌年から事業所得で青色申告をしなくてはならないという事も発生します。
ですから、仮に初めは副業としてYouTubeを始めるにしても、いずれは独立を考えているというのであれば、事前にこれら書類を税務署に提出しておいた方が良いでしょう。
この辺についても人それぞれ考え方が異なると思いますので、事前に税理士などの専門家に相談する事をお勧めしますし、こちらの記事も参考にしていただければと思います。
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ユーチューバーの税務調査は、まだまだ未知数である
そして最後が、「ユーチューバーの税務調査は、まだまだ未知数である」という事について。
一般的に税務調査というのは、確定申告をしてから数年経過してから行われるものです。ですから、最近メジャーとなったYouTube事業というのは、現時点においてはそれほど税務調査の件数がないというのが現状です。
ですから、ほとんどの税理士はユーチューバーの税務調査を経験したことがなく、税務署からどういった事を指摘されるのかというのが把握できていません。
つまり、現時点において「ユーチューバーの申告はこうしたほうが良い」とか、「こうしたものは経費として認められる」などという事が分かっていないという事になります。また仮に、税務調査において指摘がなされた項目においても、それをユーチューバー側が不服に思えば裁判に持ち込むことができ、その裁判所の判断次第で今後の動きも変わってきます。
結局は不確定要素が多いという事になり、「こうすれば完璧という方法は無い」という事ですから、安易にいい加減な情報に振り回されることなく、この記事に書いてあるような最低限の事を理解した上で確定申告をするようにして下さい、
まとめ
細かいことを言えば上記以外にも注意すべきことはあるのですが、それは特殊な事例であったり人それぞれの置かれた環境にもよりますから、この記事では最低限注意すべきことについてお伝えしました。
一言でまとめるなら「確定申告を安易に考えてはいけない」という事になるかと思います。
更に詳しいことを知りたいという方は、当サイト内の他の記事も参考にしていただければと思いますが、税理士などの専門家にも一度相談してみるのも良いかと思います。
税理士を探したいという人は、こちらの記事も参考にしてみて下さい。
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