不動産所得の「事業的規模」って、一体どんな基準なの?

ここ数年で、サラリーマンの方が本業のかたわらに不動産投資をするという、いわゆる「サラリーマン大家さん」が急激に増えています

某銀行の不正融資問題の影響で一時期より下火になったとはいえ、それでもかなりの人数の方が、本業以外の収入を得るために大家業に参入してきています。

こうした人々の悩みは様々で、例えば「良い物件はないか?」とか、「銀行の融資はおりるのか?」などと多岐にわたると思いますが、全ての人が必ず考えなくてはいけないこととして、「納税はどうしたら良いのか」という事が挙げられると思います。

当サイトでは会計や税理士に関する情報を中心にお伝えしており、不動産関連の記事も増やしていこうと考えていますので、よろしければ他の記事もご覧になってみて下さい。

 

 

さて、その中でも今回は、不動産投資をしている人であれば一度は耳にして事があるはずの「事業的規模」についてお伝えしていこうと思います。

確定申告をする際にこの事業的規模について知らないと、後で後悔するなんて事にもなりかねませんから、不動産投資初心者の方であれば特に知っておくべきだと言えます。

目次

確定申告の「所得の種類」は大きく分けて10種類

まずは、確定申告における所得の種類についてから。

所得税の確定申告における所得の種類は、大きく分けて以下の10種類となっています。

所得の種類
  1. 利子所得
  2. 配当所得
  3. 不動産所得
  4. 事業所得
  5. 給与所得
  6. 退職所得
  7. 山林所得
  8. 譲渡所得
  9. 一時所得
  10. 雑所得

会社員としての所得は上記5の「給与所得」となりますが、ここで「えっ、自分は今まで確定申告なんてしたことないよ」と思う人もいるかもしれませんね。基本的にサラリーマンの方であれば、年間の収入が2,000万円を超えるなどしない限り、確定申告をする必要はありません。

またこの他にも、副業や住宅ローン控除などの各種控除などをしていない限り、年末に行われる「年末調整」をすれば確定申告をしなくて良い事となっていますから、会社員の方はあまり確定申告に触れる機会が少ないと言えますね。

この辺について詳しくは、こちらの記事も参考にしてみて下さい。

 

 

しかし不動産投資をするとなると、上記3の「不動産所得」において確定申告をしなくてはいけないという事になるのです。

ここで、不動産所得などで確定申告をする場合は、事前に「開業届」などを税務署に提出しなければなりませんので、「あっ、まだ提出していない」という人は、こちらの記事も参考にしてみて下さい。

 

不動産所得における「収入」とは?

次に、不動産所得における「収入」についてですが、基本的に「土地や建物を貸付けた際の家賃など」がメインとなるというのは誰でもがご存じかと思います。しかし税法上では、以下のようなものが不動産所得の収入であるとして列挙されています。

不動産所得の収入
  1. 土地や建物など、不動産の貸付けからの収入 - 家賃、地代など
  2. 地上権など、不動産の上に存する権利の設定および貸付けからの収入 - 借地権など
  3. 船舶や航空機の貸付け

意外と思うかもしれませんが、最近富裕層の間で流行っている「航空機リース」などは、この不動産所得に分類されることになります。

ここで、不動産所得に関係はありそうですが、税務上、不動産所得として認められない収入となるのがこちら。

不動産所得とならない例
  1. 下宿など、食事を提供する場合 - この場合、事業所得又は雑所得
  2. 不動産の売買 - この場合、譲渡所得又は事業所得
  3. 従業員に対する社宅賃料 - 事業所得
  4. その他

ですから一般的な不動産収入として考えた場合、「不動産を貸付けた時に受け取る賃料」と考えておけば間違いないという事になります。

青色申告、白色申告の違いは?

次に、確定申告における青色申告と白色申告の違いについて見ていきたいと思います。

よく不動産投資や節税指南の書籍などで、「確定申告をするなら青色申告が絶対におすすめ」的な文言が書かれていると思いますが、確かに青色申告をすることによる税務上のメリットというのはかなりあります

詳しくは、こちらの記事も参考にしてみて下さい。

 

 

前述したように、所得税の確定申告の種類は大きく分けて10種類あるとお伝えしましたが、この青色申告を利用できるのが、このうち「事業所得」「不動産所得」「山林所得」の3種類のみとなっています。

ですから、そうした書籍などが伝えたいのは「せっかく青色申告が出来る所得の対象となっているのですから、挑戦してみてはどうでしょうか?」という事なのでしょう。

一般的に、青色申告を行うことで利用できる税制面の特典などは以下の通り。

青色申告の主な特典
  1. 青色申告特別控除 - 65万円控除、55万円控除又は10万円控除を選択可能
  2. 専従者給与    - 白色申告だと上限あり、青色は原則として全額必要経費算入可
  3. 現金主義     - 白色申告は不可
  4. 純損失の繰越控除 - 翌年以降3年間繰越可能
  5. 純損失の繰戻還付 - 要は、税金が戻ってくるかどうかという事
  6. 引当金      - 貸倒引当金、退職給与引当金など、一定額を経費算入できる
  7. 棚卸資産の評価  - 低価法を適用できる
  8. 少額減価償却資産 - 白色申告にはこの特例が認められない

特に注目されるのが、上記1の「青色申告特別控除」や、2の「専従者給与」、8の「少額減価償却資産の特例」となるのですが、ここで注意したいのが不動産所得の場合、「事業的規模」を満たしていないとこうした青色申告の特典の「一部」が適用されないという事なのです。

ここでようやく本題の「事業的規模」の説明となります。

不動産投資における事業的規模の判定「5棟10室」

それではまず、事業的規模とは一体どのような基準で決められているのかということについてから。

この点については、書籍やあちこちのウェブサイトなどで記載されているため多くの方がご存じかと思いますが、基本的には、貸付けている不動産の数が「1戸建てであれば5棟以上」「マンションやアパートなどであれば10室以上」という、いわゆる「5棟10室」を基準として考えられることになります。

要は、このいずれかの条件を満たしていれば、不動産所得における「事業的規模」として認められることになるのです。

これは建物の貸付けに対する基準ですが、それ以外の不動産所得については「社会通念上、事業的規模となるか」という基準で判断されることになります。

ちなみに、駐車場の貸付けについては国税庁がハッキリと断言しているわけではありませんが、一般的に「駐車場スペース5台分」を1室として換算できるとされていますので、例えばアパート9室、駐車場スペース5台分を貸付けていれば、合計としてこの「5棟10室」に該当するという訳ですね(ただし、詳しくは専門家とよく相談するようにして下さい)。

 

判定基準

  1. 一戸建ての場合       - 5棟以上
  2. アパート、マンションの場合 - 10室以上
  3. 駐車場の場合        - スペース5台分を1室として計算
  4. その他           - 社会通念上の基準で判断

事業的規模でないと何が問題なの?

それでは次に、事業的規模でないと何が問題となってくるのかについて。

前述したように、不動産所得において青色申告をすれば、様々な税務上の特典を利用することが可能となります。しかし、たとえ青色申告をしていたとしても、この事業的規模として認められなければ、その特典の一部が利用できないこととなってしまうのです。これは下記の表を見れば分かると思いますが、白色申告においても同様です。

その違いを比較したものがこちらとなっています。

青色申告等の特典事業的規模の場合事業的規模以外の場合
青色申告の専従者給与適用あり適用なし
白色申告の事業専従者控除適用あり適用なし
青色申告特別控除最高65万円控除最高10万円控除
利子税必要経費算入必要経費不算入
固定資産の取壊しなどによる資産損失全額必要経費算入資産損失控除前の不動産所得の金額を限度として必要経費算入
賃貸料等の回収不能による貸倒損失回収不能となった年分の必要経費に算入回収不能な収入を計上した年分の、その所得がなかったものとして所得金額の計算をやり直し

出典:国税庁

上の表からも分かるように、要は、せっかく青色申告をしたとしても、事業的規模として認められなければ、その特典をフルに活用することが出来ないという事になるのです。

ここで注意しておきたい点として、上記に「利子税」とありますが、これはいわゆる不動産を購入するために借り入れたローンの利息の事ではなく、例えば税金をすぐに支払うことが出来ず、延納した場合に生じるものなどを利子税といいます。

また、この不動産所得における事業的規模の判定において、青色申告の可否と混同している人がおり、要は「事業的規模でないと、不動産所得で青色申告が出来ないんじゃないの?」と勘違いしている人が結構いるようですが、事業的規模でなくとも青色申告は出来ますから安心してください。

ただし、あくまで事業的規模として認められなければ、上記のように「青色申告のメリットをフルに活用できない」という事になるということですから、ここを混同しないようにしておきましょう。

不動産所得の確定申告に会計ソフトは必要か?

次に、「不動産所得の確定申告に会計ソフトは必要なのか?」ということについてですが、これはどこまで行ってもケースバイケースといったところでしょう。

基本的に事業所得と比べ不動産所得においては、計上できる経費も限られており、確定申告自体はそれほど難しくないといえます。

それこそ、事業的規模に満たず、小規模の不動産投資をしている程度であれば、エクセルでデータを作成して確定申告書を作るか、もしくは無料で利用できるクラウド会計ソフトなどを利用するのも良いのかもしれません。

例えば「弥生会計」で有名な弥生という会社がリリースしている「やよいの白色申告オンライン」などは、完全に無料で利用できますから、こちらを利用するのも良いでしょう。

こちらについて詳しくは、以下の記事も参考にしてみて下さい。

 

 

ただし、事業的規模でなおかつ青色申告の場合であれば、やはり会計ソフトは必要となってくるでしょう。

特に、不動産投資においては金融機関の融資が重要となり、その場合、不動産自体の担保価値だけでなく確定申告書の中身も精査されますから、出来る事ならしっかりと会計ソフトを利用したほうが事業運営上はベターだと言えます。

また、不動産所得においては必ず「減価償却の計算」がセットとなりますから、こちらの計算も会計ソフトがあった方が便利だと言えます。

個人事業においてお勧めのクラウド会計ソフトについては、こちらの記事も参考にしてみて下さい。

 

 

インストール型はこちら。

 

不動産所得の確定申告は税理士に依頼すべきか?

そして最後に、不動産所得の確定申告は税理士に依頼すべきかどうかという事について。

これも人によって判断の分かれるところだと思いますが、将来的に事業規模を拡大しようと考えているのであれば、出来るだけ早いうちから税理士と顧問契約を結んでおくことをお勧めします。

例えば現在、所有している不動産が住居専用であれば問題ありませんが、今後オフィスビルなども購入するのであれば「消費税」の問題も出てきますし、将来的に融資枠を広げたいと考えるならば、やはり「法人成り」も視野に入れなくてはいけません。

そうなると、やはり素人では難しい局面が増えてきますので、そうなる前に専門家である税理士に依頼しておいたほうが良いでしょう。

また、不動産における税制は頻繁に改正されますし、知らずに損をしている場合もありますから、よほど自身がある方でない限り「税理士なしでの申告」というのはあまりお勧めできない選択だと言えます。

税理士の探し方については、こちらの記事も参考にしてみて下さい。

 

まとめ

基本的に、不動産投資における申告というのはそれほど難しい内容ではないのですが、税金に詳しくない方ですと、色んな情報を混同している事が多いようですから注意が必要です。

また、税理士に任せっきりにしていると、税金の支払いにおいて損をしてしまうなんて事もありますから、出来れば自分自身でも勉強したほうが良いでしょう。特に、減価償却などの知識は最低限持っていた方が良いですから、よろしければこちらの記事も参考にしてみて下さい。