個人事業の開業手続きは簡単にできる・・・が、知らずに損することも

個人事業主として起業する場合、名刺の作成や事務所の場所をどうするかなどなど、色々と考えることが多いと思いますが、何よりも一番最初に着手しておかなければいけないのが「税務署や行政への開業届などの提出」です。

要は、国などに対して「今日から私、個人事業を始めました!」と宣言するようなもので、これを必ずやっておかないと、後日、様々な面で後悔する可能性が出てきます。

最近では、会社員の方で副業に興味を持ち始めている人も多いようですが、仮にその副業がアルバイトなどの「給与所得」だけであれば問題ありませんが、例えば「大家さんをする」とか、「ネットでモノを売る」などといった事業を行うのであれば、ちゃんと開業手続きを行わなくてはいけません。

そこで、こうした手続きをするとなれば、「まずは自分でやってみよう」という事で、インターネットなどで「個人事業 開業届」とか、「開業手続き 書類」などと検索するのでしょうが、調べてみると案外簡単であるため「なんだ、素人でも出来そうだな」と考え、自ら書類を作成する人も多いかと思います。

実際、個人事業の開業手続きの書類作成や申請はそれほど難しくはなく、ある程度の知識さえあれば誰でも簡単にできる内容となっています。

しかし逆に言えば「ある程度の知識がなければ、後で後悔する可能性も出てくる」という事にもなり、やはり最低限の知識がなければ、開業時に提出しておかなければならない書類を出し忘れてしまったり、そのことが原因で、受けられるはずの税制上の優遇措置などが受けられなかったりとなってしまうので、出来ればここは慎重に進めたいところです。

そこでこの記事では、個人事業主として開業手続きを行う場合、どういった書類を提出する必要があり、またどのような行政に書類を提出する必要があるのかなどについてお伝えしようと思います。

目次

個人事業の開業手続きを行う場合の選択肢(方法)

それではまず、個人事業の開業手続きを行う場合、どのような選択肢(方法)があるのかについてから見ていきましょう。

それらを大きく分けると以下の3通りとなります。

開業手続きを行う場合の選択肢
  1. 税理士に依頼する
  2. クラウド会計ソフトなどで行う
  3. 自分で作成・申請する

それでは、上記の特徴や費用面などについてもそれぞれ詳しく見ていきましょう。

税理士に依頼する

まずは「税理士に依頼する」という方法から。

深く考えるまでもなく、この方法が一番楽で安心できる方法だと言えます。税理士は税金や会計のプロフェッショナルであり、こうした書類申請にも慣れていますから、提出の不備が起こる可能性はほとんどありません。

また、依頼者であるあなたの事業形態、規模、業種などについてしっかりとヒアリングしてくれますので、「この書類は提出しておいたほうが良いな」「この書類は必要ないな」と税理士側が判断してくれますから、あなたは難しいことについて考える必要が全くありません

しかしその分、費用面では一番高額となってしまい、仮に「開業届の申請だけを依頼」するとなれば、数万円の報酬は必要となりますので、金銭的に余裕のある人にしかお勧め出来ない方法となります。

もちろん、将来的にその税理士と顧問契約を結ぶのであれば、こうした開業手続きは無料で行ってくれることが多いですから、例えば「開業当初から事業規模が大きくなることが分かっている」場合や、「開業後すぐに従業員を雇い入れようと思っている」場合などは、最初から税理士に依頼しておいたほうが良いでしょう。

また、会計事務所によっても対応は異なりますが、これらの申請を税理士に依頼すれば、大抵の場合はその申請先に税理士が書類を提出までしてくれることが多いですので、あなたがわざわざ税務署まで赴く必要がありませんから、そういった面でも助かりますね。

税理士を探す方法について知りたい方は、こちらの記事も参考にしてみて下さい。

 

 

ポイント

  • 一番安心できる方法であり、後で後悔する可能性が低い。
  • 自分にはどういった書類が必要なのか、税理士側で考えてくれる。
  • 書類の提出も、税理士が全て行ってくれることが多い。
  • ただし、費用は一番高額となる。

クラウド会計ソフトなどを利用する

次が「クラウド会計ソフトなどを利用する方法」について。

現在世の中には数多くのクラウド会計ソフトが販売されていますが、その中でもfreee(フリー)というクラウド会計ソフト会社が提供する製品の一部である「開業freee」は、個人事業主として開業を考えている人にはかなり便利なソフトとなっています。

現時点(2020年9月時点)において、法人設立をカバーするソフトは幾つかありますが、個人事業の開業届に対応しているソフトはこの開業freeeだけとなっています。

追記:2020年12月より、株式会社マネーフォワードにおいても「マネーフォワード開業届」をリリースしました。

この開業freee、もしくはマネーフォワード開業届に登録し、基本的な質問に答えるだけで開業手続きに必要な書類が完成し、あとはそれをプリントアウトしてハンコを押して提出するだけですから、かなり便利なソフトとなっています。

しかも利用料はどちらも完全無料ですから、「とりあえず、安く簡単に手続きを完了したい」と考えている人にはお勧めのサービスです。

ただし、開業freeeやマネーフォワード開業届で作成可能な書類は、一般的な個人事業で必要となる申請書類の最低限はカバーしているのですが、特殊な事例には対応しきれていませんので、その場合は税理士に頼むなどしなくてはいけません。

開業freee、マネーフォワード開業届で作成できる書類
  1. 個人事業の開業・移転・廃業等届出書 - これがいわゆる「開業届」
  2. 所得税の青色申告承認申請書
  3. 青色専従者給与に関する届出書
  4. 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書
  5. 給与支払事務所等の開設・移転・廃業等届出書
  6. 上記全ての控え

とは言え、ほとんどの場合はそこまで特殊な事例というのもありませんから、通常はこの開業freeeやマネーフォワード開業届で事足ります。

 

ポイント

  • 質問に答えるだけで、開業に必要な最低限の書類が完成する。
  • 登録費用は無料。
  • ただし、特殊な申請が必要となる場合は、対応できない。
  • 書類の提出は自分で行う必要がある。

自分で作成・申請する

そして最後が「自分で作成・申請する」方法について。

この方法が一番気軽な反面、その分冒頭でお伝えしたような「将来的に後悔する」可能性が高くなってしまうと言えますから、最低限の知識がなければあまりお勧めできる方法だとは言えません

例えば、「税務署に対して、開業届さえ出しておけば良いんでしょ?」と思い込んでしまい、「青色申告承認申請書」を出していなかったばかりに、様々な税制面の優遇を受けられないことを後で知ってしまったというのはよくある話です。

青色申告を行うことで利用できる税制面の特典などは以下の通り。

青色申告の主な特典
  1. 青色申告特別控除 - 65万円控除、55万円控除又は10万円控除を選択可能
  2. 専従者給与    - 白色申告だと上限あり、青色は原則、全額必要経費算入可
  3. 現金主義     - 白色申告は不可
  4. 純損失の繰越控除 - 翌年以降3年間繰越可能
  5. 純損失の繰戻還付 - 要は、税金が戻ってくるかどうかという事
  6. 引当金      - 貸倒引当金、退職給与引当金など、一定額を経費算入できる
  7. 棚卸資産の評価  - 低価法を適用できる
  8. 少額減価償却資産 - 白色申告にはこの特例が認められない

特に一番注目されるのが上記1の「青色申告特別控除」となっており、所得額から最高で65万円もしくは55万円を控除できるのですから、これだけでも税額がかなり変わってきますよね。

この青色申告承認申請書ですが、事業開始から2か月以内に提出しなくてはいけませんから、確定申告をする際に「あっ、申請するの忘れてたから、同時に出しておこう」となっても、その翌年からの適用となるので、開業初年度は白色での確定申告となってしまいますから十分注意してください。

詳しくは、こちらの記事を参考にしてみて下さい。

 

 

また何気に、上記8の「少額減価償却資産」などは節税にも繋がりますから、出来れば青色申告を選択しておいた方が良いと言えます。少額減価償却資産について詳しくは、こちらの記事を参考にしてみて下さい。

 

 

更に言うと、開業届は税務署だけに提出すればいいという訳ではなく、その事業所のある「都道府県」「市区町村」へも提出しなくてはいけません。

これは各自治体によって取り扱いが異なるため、例えば「県に提出する必要はあるが、市には提出する必要がない」などといった自治体もあり、これはそれぞれ自分で確認しなくてはいけません(ただし、実務上でいえば、あまり地方自治体に開業届を提出している人は少ないかもしれません)。

ここまで読んで、「自分には少し難しいな」と思えば開業freeeかマネーフォワード開業届を利用したほうが良いでしょうし、「自分に合った内容をすべてお任せしたいな」と思えば税理士に依頼したほうが良いと言えるでしょう。

とは言え、そこまで難しくはありませんから、例えば副業を開始する程度であれば、自分で調べて申請しても良いのかもしれません。

開業の手続き時に知っておきたいこと

それでは次に、税理士に依頼する以外の方法で開業手続きをする場合に知っておきたいこと、覚えておきたいことについても見ていきましょう。

書類は基本「必要事項を埋めるだけ」

まずは、これらの書類は基本的に「必要事項を埋めるだけ」ですから、そこまで不安がる必要はありません。

仮に税務署に書類を提出しに行ったとして、その内容に不備があれば「こことここ、記入してくださいね」と教えてもらえます(担当者にもよりますが)。

ですから、過度に心配する必要はありません。

ただし、例えば開業届などは各種申請等で後々必要となる場合(例えば銀行口座の開設など)が多いですから、必ず提出用と控え用の書類を作成し、控えには「受理印」をもらっておくことを忘れないでおきましょう。

開業届と青色申告承認申請書を混同しない

次が、「開業届と青色申告承認申請書を混同しない」ということについて。

これらの手続きにおいて、一番誤解が生じやすいのがこの点かもしれません。例えば「開業届を提出すれば、青色申告できるんでしょ?」なんて言う人もいますが、前述した通り、開業届と同時に青色申告承認申請書を提出しなければ青色申告は出来ません。

また中には、「開業届さえ提出すれば事業所得で申告できるんでしょ?」などと言う人もおり、確かにそれは間違いではないのですが、あくまでも後から税務署に否認されれば、それは事業所得ではなく雑所得となってしまう事まで考えていない人が多いようです(ここについては、次項で詳しく説明します)。

ここで一度整理しておきますが、まず、事業所得でも雑所得でも「白色申告」は可能となります。ただし、事業所得の場合は損益通算などが出来るなど様々なメリットがあるため、多くの人が事業所得を選択したいと考えます。

次に、青色申告として申告するためには、「事業所得」「不動産所得」「山林所得」のいずれかで申告しなくてはいけません。ですからイメージとしては、開業届を提出し「これらいずれかの所得として事業を開始しますよ」と税務署に対して申請した上で、そこで更に青色申告承認申請書を提出することで、青色申告として申告が出来るという事なのです。

ですから、この部分については混同しないように気を付けて下さい。

開業届や青色申告承認申請書は、あくまで「その時点での承認」

そして次が、開業届や青色申告承認申請書というのは、あくまで提出時点で承認されただけという事に注意が必要です。

これはどういった事かというと、税務署側としてはこの申請書が提出されれば、それを受け付けたという事で受理印を押してはくれるのですが、例えば後の税務調査などで、その事業内容が事業所得などとして認められないとなれば、後々否認されることとなります。

分かりやすいのが、会社員が副業として確定申告をする場合などは、事業所得として認められないケースもあります(雑所得として認定されれば、青色申告として申告できません)。

図で表現すると、以下のようになります。

 

 

これはあくまでケースバイケースとなりますが、開業時に受理されたからと言って、必ずしも事業所得や青色申告として認められたわけでなく、厳密に言うと「その時点では承認してますが、その後はわかりませんよ」といった何とも曖昧な制度となっているのです。

実際、会社員が副業として年間300万円もの所得を稼いでいるのにも関わらず、事業所得として認められなかったケースや、逆に認められるケースもありますから、ここは専門家である税理士に相談するのが一番だと言えます。

この辺について詳しくは、こちらの記事を参考にしてみて下さい。

 

提出には期限がある

そして最後が「各書類の提出には期限がある」ということについて。

開業時に提出すべき書類は様々ありますが、それぞれ提出期限がありますから、この期限は必ず覚えておくようにしましょう。

例えば、開業時に提出すべき書類として以下のようのものがあり、その提出期限はそれぞれバラバラとなっています。

1.開業届出書
提出は必須。提出期限は事業開始の日から1か月以内
2.所得税の青色申告承認申請書
提出は任意。提出期限は事業開始の日から2か月以内。ただし、開業日が1月1日~1月15日の場合は、3月15日が提出期限。
3.青色事業専従者給与に関する届出書
家族従業員への給与を経費にするのであれば必須。提出期限は事業開始の日から2か月以内
4.源泉所得税の納期の特例の承認に関する届出書
提出は任意。提出期限の定めはないが、原則として提出した翌月に支払う給与等から適用される。
5.給与支払事務所等の開設届出書
従業員を雇用した場合は必須。提出期限は給与支払い事務所を設けた日から1か月以内

どれも大抵が「1か月以内」となっていますから、必要となる書類を同時に1か月以内に提出しておけば安心だという事が分かります。また、一度にすべて済ませてしまったほうが楽だと言えるでしょう。

法人の場合であれば登記簿に設立日が記載されますので、厳格に対応しなくてはいけませんが、個人事業の場合はこの辺についてある程度は柔軟に対応してもらえる事でしょう。

まとめ

この記事においては税金関係の書類を中心にお伝えしましたが、仮に従業員を雇い入れるとなれば、雇用保険労働保険などの書類も作成しなくてはいけませんから注意が必要です。

この辺については、こちらの記事も参考にしてみて下さい。

 

 

ちなみに、以下の記事は法人を設立する際に提出が必要となる書類について説明しています(保険関係においては、参考になるかと思います)。

 

 

参考までに、個人事業主でも利用できる「法人会員サービス」についてはこちら。