
法人を設立しようと考えたとき、まず最初に悩むのが「合同会社と株式会社、どっちの形態にした方が良いのかな?」という事かもしれませんね。
法人の形態には、この他にも「合資会社」や「合名会社」といった様々なものがありますが、一般的な業種の方であれば「株式会社」か「合同会社」のいずれかを選択する事になるでしょう。
税務上においては、株式会社も合同会社も違いはないのですが、設立の手続きや運営においてはそれぞれ違いがあり、そのため「結局、どっちが良いの?」と悩んでしまうのだと思います。
そこでこの記事では、法人を設立する場合、株式会社と合同会社ではどのような違いがあり、また人によってどちらを選択したほうがお得なのかについてお伝えしようと思います。
現在、法人を設立しようと考えている人に参考にして頂ければと思います。
目次
合同会社と株式会社の違い
それでは最初に、どちらがどのように良いのかを分かり易くするために、各項目ごとに合同会社と株式会社を比較していこうと思います。
もちろん、どちらにも一長一短あるので人によっては考え方も異なるでしょうが、ある程度の指標にはなるでしょう。
法人設立時の費用面
まずは「法人設立時の費用面」についてから。
こちらは合同会社の方が圧倒的に費用を抑える事が出来るため、「法人を安く設立したいなら、合同会社を設立しましょう」といった言葉は、一度くらいは耳にしたことがあるかと思います。
では、なぜ合同会社の方が設立費用が安くなるのかというと、それが「定款認証」と「登録免許税」に理由があるからです。
以下の表は、法人設立に必要となる費用を比較したものとなっていますが、圧倒的に合同会社の方が安いことが分かりますよね。ちなみに下記は、「電子定款」をしない「紙定款による申請」の場合となっています。
紙定款の場合 | 株式会社 | 合同会社 |
---|---|---|
定款認証 | 約52,000円 | 不要 |
定款印紙代 | 40,000円 | 40,000円 |
登録免許税 | 150,000円(最低) | 60,000円(最低) |
司法書士報酬 | 80,000円(平均) | 80,000円(平均) |
合計 | 322,000円 | 180,000円 |
※司法書士報酬額はあくまでも平均ですから、これより前後する可能性があります。
通常、司法書士に依頼するとなれば「電子定款」を利用すると思いますから、実際には以下の費用が一般的かと思います。
電子定款の場合 | 株式会社 | 合同会社 |
---|---|---|
定款認証 | 約52,000円 | 不要 |
定款印紙代 | 0円 | 0円 |
登録免許税 | 150,000円(最低) | 60,000円(最低) |
司法書士報酬 | 80,000円(平均) | 80,000円(平均) |
合計 | 282,000円 | 140,000円 |
※電子定款とする事で、定款印紙代が不要となります。
電子定款を利用する事で、株式会社と合同会社共に費用が抑えられることが分かると思いますが、いずれにしても、合同会社を設立するほうが格段に安く済むという事になります。
ちなみに、司法書士に法人設立などの商業登記を依頼した場合、報酬はいくらくらいなのか?という事について詳しく知りたい方は、こちらの記事も参考にしてみて下さい。
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ポイント
- 費用面で考えるなら、断然「合同会社」の方がお得。
- 電子定款を利用すれば、更に費用を抑える事が出来る。
社会的信用
次が、合同会社と株式会社の「社会的信用」の違いについて。
ここ数年の日本国内における新設法人の設立件数は、その年によっても異なりますが、概ね10万社前後で推移しています。そしてこの内、合同会社の占める割合が20%程度となっていますから、そこそこ認知度も向上していることが分かります。
しかし、設立件数が増えたとはいえ、社会的信用においては現状でも株式会社の方が優位であるという事は変わっていないようです。
銀行などにおいては昔よりはマシになってきましたが、現在においても株式会社のほうが好まれる傾向がありますし、取引先などの与信面においても合同会社だとどうしても見劣りしてしまいます。
合同会社の特徴の一つとして「株式上場が出来ない」というものもありますから、今後もこの「社会的信用で見劣りする」という見方はあまり変わらないのかもしれません。
ポイント
- 社会的信用でみると、合同会社は株式会社よりも劣る。
- 金融機関からの融資や、取引先の与信面で考えるなら「株式会社」を選択すべし。
- 合同会社は株式上場が出来ない。
運用面による違い①:決算の公告義務
そして次が、運用面による違いという事で、まずは「決算公告義務」について見ていきたいと思います。
法人は、最低でも毎年1回の決算を行いますが、この決算内容について「官報」などで公告、つまり「世間に広く知らせる」ことが求められます。
実務上で言えば、中小企業などはこの公告を行っていない場合がほとんどですが、法律上は行わなくてはいけないことになっています。官報などに公告するとなると、その公告費用が掛かってくるのはもちろんの事、世間一般に自社の決算内容が知れ渡ってしまいますから、あまり嬉しい話ではありませんよね。
しかしこの公告義務が課されるのは「株式会社のみ」となっており、合同会社にはこの公告義務がありません。
そう考えると、この点においては合同会社の方がメリットがあると言えますよね。
ここ数年で、アップルやアマゾンなどが日本支社を続々と合同会社に変更しており、世間的にはこの動きを「税制面で得だから」なんて見方をする人もいるようですが、この公告義務がないという事も、これら大企業にとってはメリットに映るのかもしれません。
マスコミなどはこの公告内容をもとにして、アマゾンなどの日本における利益を試算し「日本での税額支払いが少ないじゃないか」などといった記事を書きたいところでしょうが、日本国内で公告義務がないのですから、こうした批判をかわせるという利点もあるのでしょう。
いずれにしても、決算の公告義務という面においては、合同会社の方が有利といえますね。
ポイント
- 株式会社は決算公告が義務だが、合同会社は必要なし。
- 決算公告をすると、外部に財務状況が知れ渡ってしまう。
- 外資大手も、続々と日本支社を合同会社に変更している。
運用面による違い②:経営と所有の分離
続いて、運用面による違いにおける「経営と所有の分離」についても見ていきましょう。
基本的に株式会社であれば、「株主」がその会社の所有者となり、「取締役」などの経営者にその会社の経営を任せるという方式が一般的です。これが、経営と所有の分離という一般的な考え方ですね。
しかし、中小企業の場合であれば「株主=社長」という形態がほとんどで、実態としては経営と所有の分離というのは明確でない場合が多いでしょう。
また、法人の所有割合というのは「株式の保有割合」によって決まりますから、株式を多く持っている人に重要な決定権があるという事になります。
これに対して合同会社の場合は、「株主=経営者」となりますから、経営と所有の分離が無いという事になり、ある意味小規模な会社などの実態に即した形だと言えるかもしれません。
ただし、合同会社の場合の意思決定においては、株式会社のように「株式の保有割合(合同会社では出資割合)」で決まるわけではなく、出資者全員に同等の発言権が持たされます。
つまり、極論を言えば1円しか出資していない人と、100万円を出資している人はどちらも経営者となり、しかも出資金額が違っていても同等の発言権を持つという事になります。
ですから仮に、あまり想像したくはありませんが、夫が合同会社を設立する事にして、その奥さんもいくらか出資するとします。
夫婦仲が良いのであれば問題ありませんが、もし仮に離婚問題が発生すれば、経営面においても問題が生じてしまいます。株式会社であれば、出資割合で夫の方が多ければそれほど問題にもなりませんが、合同会社の場合は出資者全員に同等の発言権が与えられるため、最悪の場合は会社の運営に影響を及ぼすことになります。
実際、当サイト管理人は、合同会社の運営で身内間で争いとなっているのを目にしたことがあります。
そもそもこうした事は頻繁に起こるわけではありませんが、合同会社は設立が楽な反面、このような事も起こりうるという事を事前に知っておく必要があります。
ちなみに、株式会社の経営者は「取締役」や「代表取締役」と表現しますが、合同会社の場合は経営者を「社員」や「代表社員」と表現します。
ポイント
- 合同会社は「出資者=経営者」。
- 合同会社の場合、出資者全員に同等の発言権がある。
- その結果、身内同士などの争いの元となることも。
運用面による違い③:役員の任期の有無
そして運用面による違いの3つめは、「役員の任期の有無」という事。
上場企業などであれば、役員(取締役、監査役)の任期を1年にしていることが多く、全ての役員が再任する場合には、毎年株主総会で株主に対し「再任させても良いですか?」と尋ね、投票によってその可否が決まります。
ただし、株式会社の役員の任期は最長10年まで延長する事が出来るので、上場していない中小企業などは、役員任期をギリギリまで延ばしていることが多いかと思います。
ここで厄介なのが、その役員の任期が切れて再任する際、法務局に対して「登記手続き」をしなくてはいけないという事。
会社規模によっても異なりますが、一般的にこの役員の再任の登記(専門的には重任登記)をする場合、司法書士に依頼するのであれば、登録免許税合わせて30,000円~50,000円は必要となります。
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これに対し合同会社の場合は、役員(社員、代表社員)の任期がそもそもありませんから、こうした費用も発生しないという訳です。
やはりここでも、費用面では合同会社の方がお得だという事が分かりますね。
ポイント
- 株式会社の役員の任期は最長10年となっているが、合同会社に任期の定めはない。
- 合同会社は役員の重任登記が必要ないため、費用的にもメリットがある。
合同会社と株式会社の違いをまとめると
それでは最後に、上記の内容をまとめると以下のようになります。
株式会社 | 合同会社 | |
---|---|---|
法人設立の費用 | × 高い | 〇 安い |
社会的信用 | 〇 高い | △ やや低い |
決算公告義務 | あり | なし |
経営と所有の分離 | あり | なし |
株式上場 | できる | できない |
役員の任期 | あり(最長10年) | なし |
代表者の名称 | 代表取締役 | 代表社員 |
ちなみに、一番最後の項目に「代表者の名称」というものがありますが、前述したように株式会社の役員は取締役となり、合同会社の役員は社員と呼ばれることになりますから、それぞれ株式会社であれば「代表取締役」合同会社であれば「代表社員」という名称となります。
ですから、合同会社を設立した場合、肩書の部分に代表取締役とは記載できませんのでご注意ください。
合同会社と株式会社の選択方法
それでは上記の内容をもとに、新しく法人を設立する際、合同会社と株式会社のどちらを選択するか迷った場合、その選択の仕方のコツについてもお伝えしておきましょう。
念のためお伝えしておきますが、何もこの記事に書いてある通りにする必要はなく、あくまでも参考程度にして頂ければと思います。
「とにかく安く済ませたい」なら合同会社
まずは、「とにかく安く済ませたい」という人なら合同会社を選択したほうが良いという事。
前述したように、法人の設立費用は圧倒的に合同会社の方が安く済ませる事が出来ますし、また、運用面においても株式会社よりは費用がそれほどかかりません。例えば、「決算の公告」においても、公告費用というのはそれなりにかかりますし、役員の再任(重任)登記も最低限の費用がかかってしまいます。
株式会社であればこれらの費用が必ず発生しますが、合同会社では必要ありませんので、法人運営にお金をかけたくないのなら合同会社一択でしょう。
ちなみに、仮に最初は合同会社として設立しても、将来的に株式会社へと組織変更する事は可能ですから、「いずれは上場したい」と考えている人でも、その時に組織変更の登記をすればいいだけの話ですのでご安心ください。
「与信面を懸念する」なら株式会社
次が、「与信面について懸念している」という人であれば、少し費用はかかるとはいえ株式会社を選択したほうが良いでしょう。
特に、銀行借り入れなどを想定している不動産賃貸会社などを設立するなら、株式会社の方が対外的な印象も良くなります。もちろん、自己資金だけで賄うというなら合同会社でも問題ありませんが、一般的に不動産投資を行うとなれば銀行融資は必要となるでしょう。
また、取引先が大企業の場合、合同会社だと難色を示す場合もありますから、この場合も株式会社にした方が無難です。
どうしても合同会社は社会的評価が低くなりがちですので、与信面重視であれば株式会社を選択すべきだと言えます。
相続などが絡むなら「税理士に相談」
そして最後が、相続などが絡むなら「税理士に相談」するという事。
最近では相続対策として、法人を新たに設立して節税するなどと言った手法がとられることがありますが、この場合、株式会社にするか合同会社にするかの選択次第では、後々のトラブルの原因となる可能性があります。
例えば、単純に「安いから」という理由だけで合同会社を設立してしまうと、前述したように「所有と経営の分離」がなされていないために、かえって争いの元となる場合もあります。
ですからここは簡単に考えずに、専門家である税理士と事前によく相談したうえで進めるようにしましょう。
相続対策に取り組んでいるという事は、既に顧問税理士がいるのかもしれませんが、セカンドオピニオンといった意味でも、一度他の税理士に相談してみるのも有効です。
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法人を「更に」安く設立したいなら?
ここまで読んで、「合同会社と株式会社の違いは分かった。でも、いずれにしても少しでも安く設立したい」と考える人もいる事でしょう。
その場合、定番の方法として考えられるのが「自分でネット検索などをして書類を作り、設立登記まで行う」という方法かもしれませんが、自分で全て行うとなれば、かなりの時間を浪費してしまう事になります。
また、自分が理想としていた登記日に間に合わず、設立日がずれてしまったなんて事にもなってしまう可能性も出てくるでしょう(設立日は、法務局に申請した日となります)。
ですから、一番確実な方法はやはり司法書士に依頼する事だと言えますが、やはりそれなりの報酬を支払わなくてはならないため、ここは皆さん悩みどころかもしれません。
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こうしたツールを提供しているのは、クラウド会計ソフトを運営する「マネーフォワード」と「freee(フリー)
」となっており、どちらも利用料は無料となっていますから、司法書士への報酬がまるまる節約できるという訳です(もちろん、登録免許税などはかかります)。
どちらも質問に答えるだけで法人設立に必要となる書類が出来上がりますから、「少しでもお金はかけたくない。でも、自分一人でチャレンジするのは不安だ」という人にはかなりお勧めです。
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