弁護士の転職先に「会計事務所」を選択するというのもひとつの方法

弁護士が転職を考える際、一昔前であればその候補先となるのは法律事務所であるのが一般的でした。

しかし近年では弁護士の転職先も多様化し、一般企業で働く「インハウスローヤー」や、外資系コンサル会社などに転職する弁護士なども増えています。その理由は様々でしょうが、特に若い弁護士の方の中には「弁護士だからといって、法律事務所で働く必要はない」と考える人もいるようです。

また、昔に比べて弁護士の合格者数が増加しているため、既存の法律事務所では新たに弁護士を雇い入れる余裕がないという事情もあるのでしょう。

そこで弁護士の転職・就職先として、当サイトでは「会計事務所」というのもひとつの選択肢なのではないかと考えます。

「会計事務所?いくら弁護士が税理士に登録できるとは言っても、ちょっとそれは無いんじゃないの?」などと思う人もいるかもしれませんね。

しかし、弁護士が会計事務所において経験を積むメリットは意外とありますので、この記事においては、弁護士が会計事務所で働く事をお勧めする理由や、その狙いなどについてお伝えしようと思います。

目次

税理士として登録できる人は?

弁護士の方であればご存知だと思いますが、まずここで、税理士として登録できる資格要件について見ていきましょう。

税理士となるための資格要件
  1. 税理士試験に合格したもの
  2. 税理士法の規定(法第7条、8条)により、試験を免除されたもの
  3. 弁護士(弁護士となる資格を有する者を含む)
  4. 公認会計士(公認会計士となる資格を有する者を含む)

上記いずれかの要件を満たすことで税理士に登録する事ができるのですが、登録の際、弁護士においては優遇措置が設けられています(公認会計士も同様)。

というのも、上記1、2のいずれかの要件で税理士に登録する場合、「租税または会計に関する事務の2年以上の実務経験」を求められるのですが、弁護士と公認会計士にはそれがありません。

また更に言うと、ここ数年において税理士会から公認会計士に対する風当たりはかなり強く、公認会計士だからといって昔のように簡単には税理士に登録できないようになっています(研修など様々な要件が増えている)。

その点弁護士は、そういった制限がまだそれほどなく、税理士会としてもあまり弁護士に対して警戒もしていませんから、登録のしやすさという面においても弁護士は優位性があると言えるでしょう。

弁護士が会計事務所に転職するメリット

登録においてはかなりハードルが低い事が分かりましたが、それでも弁護士からすれば「そうは言っても、会計事務所って・・・」と考える人もいるでしょう。

そこで以下において、弁護士が会計事務所に転職するメリットについても見ていきましょう。

専門性が高まる

まずは「専門性が高まる」という事。

そもそも、ほとんどの弁護士は会計や税務を苦手とする傾向にありますから、誰もが苦手とする分野に飛び込むだけでも優位性が生まれます。

ただ当サイトがお伝えしたいのは、そういった「誰もが少し考えれば分かるような事」ではなく、弁護士が会計事務所で働く事で得られる専門性について、もう少し深く考えて頂きたいという事。

例えば「税務訴訟」などもそのひとつかもしれません。

転職先の会計事務所の規模などにもよりますが、こうした税務訴訟に悩んでいる事務所も少なからずあります。そこで経験を積むことで、独立の際には「税務訴訟に強い弁護士」として売り出すことも可能となるでしょう。

基本的に税務訴訟は案件が少なく、また相当の知識と経験が必要とされますから、それだけでもかなりの差別化に繋がると言えます。

また近年では相続税改正の影響もあり、相続税の申告が増えていると同時に親族間の紛争も頻発していますから、「相続税の申告も出来る弁護士」となれば、かなり優位性があるといえますよね。

この他にも「印紙税」などは、多くの税理士が頭を抱えている分野ですから、こうしたところでも力を発揮できると言えるでしょう。

 

大規模法律事務所には出来ない業務が豊富

次が、「大規模法律事務所には出来ない業務が豊富」という事。

上記の「専門性が高まる」事にも繋がりますが、弁護士が会計事務所に転職する事で、大手法律事務所では経験できない案件に数多く触れる事が可能となります。

例えば、大手法律事務所の収入源といえば現在は「M&A」が高い比率を占めていますが、そのほとんどが大手企業を相手にしているため、報酬は高いのですが、そのぶん一人ですべての業務を経験できる訳ではありません。

その点、会計事務所のクライアントは中小企業がメインとなりますから、仮にM&Aを行うにしても最初から最後まで全てを一人で受け持つことも可能となります。

近年では、意外と中小企業のM&A需要があるにも関わらず、それを扱える会計事務所が少ないため、需要の割に契約件数が増えていないという実態があります。

M&Aを依頼したい経営者としては、「会計事務所には頼れない」「街弁にも経験者が少ない」「かと言って、大手事務所は高すぎて依頼できない」という事で、結局M&Aを専門に取り扱っている企業に、高い手数料を支払って依頼する事となります。

会計事務所にとってはかなりの機会損失となりますが、そこに弁護士が加わる事で、新たなビジネスチャンスが生まれる事になります。

これ以外にも、大手法律事務所が取りこぼしているような案件が数多くありますから、この点も大きなメリットだと言えるでしょう。

独立後の事務所運営が安定する

そして次が「独立後の事務所運営が安定する」という事。

弁護士業界においても「顧問料」は発生しますが、会計事務所に比べれば件数が少なく、しかもある程度の事務所規模にならないと顧問料は発生しにくいと言えます。

その点会計事務所は、ほとんどのクライアントと顧問契約を結びますから、経営的に安定するというメリットがあります。

また、弁護士としての特性を活かし、会計事務所の顧問料とは別に「法律顧問」という報酬を得る事も可能だと言えるでしょう(もちろん、クライアントによりますが)。

特に弁護士業界は「流行りすたり」が激しく、例えば過払い金請求が流行れば業界全体で競争し、それが終わったと見れば「交通事故案件」「離婚案件」などと、業界全体で同じような業務を取り合うため、いつまで経っても競争が続き、心が休まる時間も少ないのではないでしょうか。

もちろん税理士業務がストレスフリーとは言いませんし、ある程度の悩みは発生するでしょう。しかし、「法廷での争い」「業界内での争い」が頻繁にある弁護士とでは比較にならないといえます。

最近ではストレスを理由に弁護士を辞める人も増えているようですから、そういった面においても会計事務所への転職は理にかなっていると言えるでしょう。

健康保険料もお得になる可能性がある

そして次が、「健康保険料もお得になる可能性がある」という事。

通常、弁護士として法律事務所に勤務するのであれば、個人事務所の場合は「国民健康保険」、弁護士法人の場合は「社会保険(協会けんぽ)」に加入する事になりますが、「弁護士国保」というものに加入する事で、保険料を安く抑えられるというのは多くの方がご存知かと思います。

しかし、弁護士国保に加入するには関東近辺の弁護士のみという制限があり、地方の弁護士にはそういった恩恵がありません。

そこで税理士に登録すれば、今度は「税理士国保」に加入する事ができ、こちらも弁護士国保同様、健康保険料を安く抑える事が可能となります。

もちろん、税理士国保も地域の制限はありますが、対象となる地域は弁護士国保よりも広がりますから、場合によっては健康保険料もお得になる可能性があります。

こちらについて詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてみて下さい。

 

会計事務所側も弁護士を求めている

このように弁護士にとってメリットの多い会計事務所への転職ですが、会計事務所側としてもメリットが多いため、一部税理士などは弁護士を自社に招き入れたいと考えています

特に若手税理士などはその傾向が強く、給与面でもそれなりの対応を考えている場合もあります。

ただし、弁護士であれば誰でも良いという訳ではなく、最低限の経験を求めらる事となるのは必然です。弁護士が会計事務所に転職する場合、少なくとも以下の条件は求められると言えます。

会計事務所が求める条件
  • 法律事務所で、最低3年以上の実務経験があること
  • (出来ればM&Aなどの)専門的な法務知識、経験
  • (出来れば)日商簿記2級

やはり、司法試験に合格しているだけでは難しく、最低限3年以上の法律事務所での経験が求められます。しかしこれは弁護士側にとっても、いきなり会計事務所に就職するよりは、ある程度の経験を積んでからの方が将来的なキャリア形成の上でも有効だと言えます。

また、「日商簿記2級」とありますが、そこまで難しい試験ではなく、独学でも数ヶ月で十分合格できる試験ですから、こちらは受験しておいて損は無いと言えます。

日商簿記2級を独学で受験するのであれば、こちらの記事を参考にしてみて下さい。

 

 

いずれにしても、将来的に税理士としても活躍するのであれば、会計事務所への転職後にはもちろん様々な経験を積む事にはなりますが、事前にある程度の知識は身に付けておいた方が都合が良いと言えるでしょう。

狙い目の会計事務所は?

とは言え、弁護士が転職先として選ぶ会計事務所はどこでも良いという訳ではなく、ある程度的を絞った就職活動をする必要があります。

会計事務所には様々な種類の規模があり、あまり小さすぎても「弁護士を雇う余裕はない」と言われるでしょうし、あまり大きすぎても「事前に想定している経験を積めない」という可能性があります。

会計事務所の規模については、こちらの記事も参考にしてみて下さい。

 

 

上記の記事でもお伝えしていますが、会計事務所の規模は勤務している職員数で区別される事が多く、それには様々な分け方がありますが、当サイトとしては以下のように振り分けています。

会計事務所の規模
  • 一人税理士事務所 - スタッフを雇わず、税理士1人で運営
  • 零細事務所    - 所長を含め、事務所全体で5名未満
  • 小規模事務所   - 5名~15名程度
  • 中規模事務所   - 15名~40名程度
  • 中堅事務所    - 40名~100名程度
  • 大規模事務所   - 100名超

それぞれ個人の考え方にもよるでしょうが、当サイトとしては弁護士の転職先として、職員数15名~40名程度の「中規模会計事務所」か、若しくは職員数40名~100名程度の「中堅会計事務所」を選択することをお勧めします。

その理由としては以下の通り。

中規模・中堅事務所を勧める理由

  • 他の規模の事務所に比べ、多様な案件が多い。
  • 経営的にも安定している事が多く、弁護士を雇い入れる余裕がある。
  • 専門分野に特化している事務所が多く、経験を積む上では最適。
  • 大規模事務所となると、案件が大きくなりすぎるため、一人で全てを経験する事が出来ない。

それぞれの事務所の特徴については、以下の記事を参考にしてみて下さい。

 

 

もちろん、所長の年齢や考え方によって事務所のカラーは変わりますが、会計事務所に転職を考えているなら、中規模会計事務所・中堅会計事務所は狙い目だと言えます。

会計事務所に転職する際、利用したい「転職サイト」

しかし、弁護士が会計事務所に転職するというのはかなり異例ですから、通常の紹介などでは転職先を見つけにくいため、やはり転職サイトを利用したほうが良いと言えます。

また、世の中には数多くの転職サイトがありますが、こうした異例の転職の場合には専門のアドバイザーが転職の手助けをしてくれる「エージェント制」の転職サービスを利用したほうがスムーズな転職活動が可能となるでしょう。

そこで上記の「中規模会計事務所」「中堅会計事務所」を探すのであれば、以下のサイトがおススメといえます。

doda


転職サイトはdoda

会計事務所への転職を考えているのであれば、まずはこの「dodaエージェントサービス」で求人企業を検索する事をお勧めします。数ある転職サイトの中でもトップクラスの掲載数を誇り、尚且つ経理の求人が多い事でも有名。

特に「中規模会計事務所」の求人が多いため、「そんなに大きな事務所じゃなくても良い」と考えているならば、dodaはかなりの選択肢があります。

 

ジャスネットキャリア


【ジャスネットキャリア】は、「経理の転職に特化したサイト」として有名で、求人数も他のサイトに比べて豊富な内容となっています。また、求人欄も見やすく、「どういった企業が、どういった人材を求めているか」ということが一目でわかるので、とても便利です。

求人企業としても「小規模会計事務所」から「Big4」までと幅広く、様々な選択肢から選びたいという人には使い易いサイトだと言えます。

 

MS-Japan


この「MS-Japan」は管理部門特化型求人サイトとして有名で、会計事務所に限らず、大手企業の経営管理者などの求人も数多く掲載しています。その分、提示している給与も高額な案件が多いですから、高収入を目指す人には向いているサイトかもしれません。

上記2社に比べると求人数は少し見劣りする部分はありますが、転職セミナーなどを積極的に開催していますから、そうしたセミナーに参加するだけでも価値はあると言えます。

 

まとめ

この記事を読んでも、「弁護士が会計事務所に転職するなんて、やっぱり現実的じゃないよね」と考える人もいるかもしれません。

実際、弁護士資格を有している人で税理士に登録している人は非常に少数派で、全体の1%にも満たないのが現実です。

以下は、日本税理士連合会が税理士向けに発行している「税理士界」の調査を基にしたデータですが、これを見てもいかに弁護士からの登録が少ないかがよく分かると思います。

資格内容登録人数割合
税理士試験合格者34,914人45.15%
試験免除者27,953人36.15%
公認会計士9,631人12.45%
弁護士637人0.82%

 出典:日本税理士連合会発行「税理士界」2018年3月31日現在データ

 しかし、「少ないから現実的ではない」と考えるのは簡単ですが、逆に「少ないからこそチャンスがある」という見方も出来るのではないでしょうか。