
以前の記事多くの人が陥りやすい「集客依存症」では、集客に注力すればするほど、顧客が離れていってしまうとお伝えしました。
その一番の対策として「目の前の顧客を大切にする」事が重要であるとお伝えしましたが、意外と当事者ほど「いや、ウチの事務所はかなり顧客第一主義だけど」などと思っていることも多いようです。
自分ではそう思っていても、意外と周りはそう思っていないこともありますよね。
そこでこの記事では、具体的にどういったサービスが税理士事務所に求められているかについてお伝えしようと思います。
この記事を読んで「なんだ、その程度の事か」と思う人もいるかもしれませんが、意外と「その程度の事」が出来ていない会計事務所って多いんです。
ちょっとした事かもしれませんが、ここに書いてあることを実行するだけで、多くの方がこれまで以上にアナタの事務所のファンになってくれることは、間違いないでしょう。
目次
固定資産関係
当サイト管理人が多くの決算書を拝見させて頂いて驚くのが、意外と多くの税理士が、この「固定資産」という科目を雑に取り扱っているという事。
特に、節税を考える上で重要な部分であるのに、苦手意識があるのか知りませんが、あまりチェックが行き届いていない事があります。
それでは、それぞれについて見ていきましょう。
固定資産税の払い過ぎ
近年、毎年のように固定資産税の過払いについての報道が流れています。
納税者からすると、「課税当局が間違えるなんて・・・」と考えるでしょうが、市区町村役場の担当者は数年単位で部署移動があるため、こうしたミスが起こりやすくなっています。
固定資産税の過払いというのは滅多に起こる事ではありませんが、アナタが税理士であれば、一度、顧問先の固定資産評価額をチェックしてみては如何でしょうか?
お金を受け取る受け取らないは別として、これも一つのサービスだと言えます。
また、最近は「過払い還付請求」を売りにした税理士も増えてきています。
アナタの顧客がこうした税理士に依頼して、仮に還付を受けたとすれば、間違いなくその税理士へと乗り換えてしまう事でしょう。
ちなみに、こういった還付金請求で営業をかけている税理士の報酬は、還付額の50%程度に設定している事が多いため、顧客としても得なのか損なのかわかりませんよね。
税理士の方の多くが「地方税」を苦手にする傾向がありますが、「無駄な税金を顧客に払わせない」と思えば、努力する価値はあるでしょう。
チェックするポイントは様々ですが、一般的には「特例該当の有無」と、「評価方法の間違い」がメインとなります。
また、これ以外にも「償却資産税との二重課税」もありますから、これを確認できるのは顧問税理士ならではといったところ。
基本的に、どこの税理士事務所も4月になってもある程度は忙しいと思いますが、この時期は各市区町村共に、「土地・家屋価格等縦覧帳簿」を縦覧する事が出来ます。
忙しいと言い訳せず、顧客から「ウチは大丈夫?」と尋ねられても、「当事務所は、毎年定期的に確認しています」と胸を張って言えれば、更に強固な信頼関係を築けるでしょう。
固定資産税の過払い問題について詳しくは、こちらの記事も参考にしてみて下さい。
近年、全国的に問題となっている「固定資産税の過払い問題」ですが、多くの方が「ウチは大丈夫なのかな?」と心配されているかもしれません。 しかし、税金について全くの素人の方が、これを独自に調査するとなればかなりハードルが高い …
固定資産の除却
以前、当サイト管理人はクライアント先に訪問した際、決算書を見てこう尋ねたことがあります。
「社長、この固定資産の〇〇という機械ですが、これはどこにあるんですか?」
するとその社長さんは、
「えっ?そんなの、もうとっくに前に廃棄してるよ」
と答えたのです。
実はこれ、意外とあちこちである話なんです。
税理士の言い分としては、「顧客が報告してくれない」なんて言いたいのかもしれませんが、普段の訪問時からコミュニケーションを密にしておけば、こんな事は起こり得ません。
酷い場合、無いはずの固定資産に対し、償却資産税がかけられていることまでありました。これはちょっと信じられませんよね。
当たり前の事ですが、決算書と実態は同じでなくてはなりません。こうした事の無いように、出来るだけ顧問先への訪問時には資産の確認を行いましょう。
それがひいては、「この税理士は、ウチの会社の事を理解してくれている」という信頼に繋がります。
建物と建物付属設備の分離
近年、不動産投資が活況となっていますが、多くの場合、「マンション1棟」とか「オフィスビル1棟」という、いわゆる1棟買いが増えています。
そういった1棟買いをする会社の決算書を見ると、固定資産の欄に「建物」の記載があるのに、「建物付属設備」の記載がない事があります。
要は、「建物一式」で計上しているという事ですね。
税理士の方なら当たり前のようにご存知かと思いますが、一式として計上した場合、減価償却費で大きな損をすることがあります。
建物付属設備は、建物に比べて償却期間が短いため、これらを分離すれば減価償却費を増やすことが出来るのは会計事務所では誰でもが理解しているはずです。こうした単純なことなのにもかかわらず、何も考えずに一式で計上しているのを見かける事があります。
もちろん、
「購入時、他の税理士事務所で処理したのち、自分の事務所に移って来た時には、すでにそうなっていた」
「今から対応しても、目立ってしまうし、費用がかかってしまう」
という言い分もあるでしょう。
こういった場合は仕方がないかもしれませんが、少なくとも新築で購入した場合は、ちゃんと対応すべきです。
「そんな事常識でしょ?」と思うかもしれませんが、意外とこうした事が抜けている会計事務所って多いんです。ちなみに、この部分について詳しく書かれた記事もありますので、よろしければこちらもご覧になってみて下さい。
よく節税を指南する書籍などで、「請求書や領収書などをしっかりと確認すれば、節税に繋がりますよ」なんて事が書かれていることをご存じでしょうか。 確かにこれは間違いではないのですが、そもそも請求書や領収書の内容を確認するとい …
その他、決算等について
上記は、固定資産のチェックによるサービスでしたが、これ以外にも顧客満足度を高める方法はいくつかあります。
税理士の方からすると、「えっ?そんなの必要?」なんて思うかもしれませんが、だからこそ意外と盲点の場合があります。
決算書の「税抜き処理」
昔は、今ほど会計ソフトも発達しておらず、また、手書きで決算書を作成する税理士もいたことから、意外と消費税の「税込み決算書」を作成する税理士が多かったように思います。
しかし、ソフトの機能が向上している現在、顧客の事を考えれば、「税抜き処理」をするのが一番いいと言えますよね。
ちょっと考えただけでも、「一括償却資産の判定」「接待交際費の判定」など、税抜き処理の方が、お得な場合が多いでしょう。
また、顧客自身が、自社の決算内容を正確に読み取ることが出来るほか、「消費税は預かり金」という意識も税抜き処理の方が強くなります。
「税込み決算書から税抜き決算書に変更すると、銀行から売り上げが減ったと思われる」なんて事を言う税理士もいるようですが、ちゃんと説明すれば、担当者も理解してくれます。
面倒臭がらず、一度顧客と話し合ってみましょう。
決算期変更
一般的に、日本の企業は3月決算が多いと言われています。これは、税理士の方であれば、重々理解していることでしょう。
業種にもよるでしょうが、これに続く多さとしては6月決算や9月決算といったところでしょうか。
多くの税理士事務所では、出来るだけ年間の仕事を分散するために、顧客に対して「決算期変更」をお願いしているかと思います。
しかし顧客側からすると、これって税理士事務所の「自己都合」のようにも捉えられかねませんよね。
ただ単純に「決算期変更して下さい」と言っただけでは、顧客は何のメリットも感じませんし、ただ「面倒くさい」としか思いません。しかし実際に、顧客にとってメリットのある決算期変更があれば、お互いにとってハッピーという結果になります。
そこで、顧客にとってメリットのある決算期変更について考えてみましょう。
例えば、アナタの顧客が建設業を営んでいるとします。
業態にもよりますが、仮に公共工事をメインとしている会社であれば、3月決算にすると、決算書上において「売掛金」や「未成工事支出金」の額が、過大となる傾向があります。
これは、公共工事のほとんどが3月までの工期であるという事、また内容によっては、4月まで工事完了が伸びてしまう場合があるからです。
業績の実態としては何ら問題はありませんが、決算書を一見すると、貸借対照表のボリュームが大きい割に、損益計算書が貧弱に見えます。
これは銀行の印象も悪くなりますし、何よりも、公共工事を受注している会社は、経審(けいしん)を受けているため、このような多額の「売掛金」「未成工事支出金」は、点数が下がる傾向があるのです。
経審とは、建設会社等が公共工事の入札に参加する際、その会社の経営状況を行政に報告するための審査。
点数により数値化されており、基本的に、公共工事に参加する限りは毎年審査を受ける事になっている。
特に、決算内容は、この点数に大きなウェイトを占める。
という事は、仮に3月で公共工事が完成するとなれば、5月や6月には入金があるというわけですね。そこで例えばこの会社の決算期を6月決算にすると、売掛金や未成工事支出金は大幅に減り、現預金が増えるという事です。
これは、経審の点数上良いばかりか、「納税資金」にも余裕が生まれます。
申告時の納税を融資で乗り切っている会社も多いでしょうが、決算期を変更するだけで、こうした資金繰り対策になることだってあります。
アナタの顧客の繁忙期、入金時期などを考えて決算期変更を提案すれば、顧客も喜んで受け入れてくれる事でしょう。
もちろん、直近で2回連続決算をする可能性があり、顧客としては「決算料、何とかしてよ」という要望もあるかもしれません。そこは、アナタがどこまで許容できるかにもよるでしょうが、後の利便性を考えて、少しは譲歩しても良いのかもしれません。
決算期変更についてはこれ以外にも様々なメリットがあり、顧客側にも喜んでもらえると思いますので、詳しくはこちらの記事も参考にしてみて下さい。
日本国内における個人の確定申告は、毎年12月末で締めて、翌年3月の中旬くらいまでに申告するルールとなっていますが、これが法人の場合なら基本的に決算日はいつに設定しても良い事とされています。 しかし、日本企業の傾向としては …
まとめ
基本的にこの記事の内容は、ほとんどお金をかけずに出来る事をメインにお伝えしました。それほど手間もかかりませんし、たったこれだけの事で、お客様が喜んでくださるなら実行する価値はあるでしょう。
逆に言えば、たったこれだけの事を、多くの税理士事務所が行っていないという事でもあります。
集客にはお金がかかりますが、顧客流出を止めるにはお金をかけなくとも出来る事は沢山あります。「目の前の顧客を大切」すれば、アナタのサービスに感動したお客様が、ドンドン知人を紹介してくれる事にも繋がります。
一番の営業方法とは、案外目の前にあるものではないでしょうか。