
一般的な士業の事務所名というのは、弁護士であれば「〇〇法律事務所」であったり、司法書士であれば「〇△司法書士事務所」となりますが、税理士の事務所となると「〇〇税理士事務所」の場合もあれば、「△〇会計事務所」の場合もあります。
会計業界に詳しくない人からすると、「これって、何か違いがあるのかな?」と考えてしまいそうですよね。
そこでこの記事では、それぞれどのような違いがあるのかなどについてお伝えします。
目次
結論:会計事務所も税理士事務所も「ほぼ同じ」
さっそく結論から言ってしまうと、実は「会計事務所も税理士事務所も内容はほぼ同じ」という事。
どちらも基本は、税理士である「所長」が運営している「個人事業所」であることに変わりはありません。
個人事業ですから「屋号(やごう)」を付ける事ができ、それを「会計事務所」にしているか、「税理士事務所」にしているかだけの違いという訳です。
もちろん業務内容にも変わりはなく、どちらも税理士業務を行っていますから、「どちらが良い・悪い」というものは全くありません。
ただし、公認会計士は税理士にも登録する事で税理士業務を行えることが出来ますので、あえて「税理士との差別化をはかる」ため、「〇〇会計事務所」と名乗る事もあるようです。
とは言え、現実的にこうした公認会計士は「〇〇公認会計士・税理士事務所」と名乗る事の方が多いような気もします。
法律上はちゃんと規定がある
しかし厳密に言うと、法律上はちゃんとした規定があります。
税理士法という法律において、
税理士法第40条
1 省略
2 税理士が設けなければならない事務所は、税理士事務所と称する。
~ 以下省略 ~
といった条文があります。
ですから、正式名称としては「〇〇税理士事務所」や「税理士〇〇事務所」などとしなくてはならないという事です。ちなみに、〇〇の中には税理士の氏名が入りますので、例えば「日本太郎税理士事務所」などといった感じになるという事ですね。
ただし、フルネームを入れるとどうしても「読みにくい」事や「覚えられにくい」という事が考えられますので、こういった場合、あくまで「屋号」として「〇〇会計事務所」としているだけの話です。
つまり、正式名称がちゃんとあり、こうした「〇〇会計事務所」というのは「通称」という事になるわけですね。
税理士法人も同様に規定がある
では、最近増えている税理士法人ですが、こちらも同様に法律で名称における規定があります。
税理士法第48条の3
税理士法人は、その名称中に税理士法人という文字を使用しなければならない。
このような理由から税理士法人を設立した場合は、「〇〇税理士法人」や、「税理士法人△△」などという名称となる訳ですね。
ちなみに法人の場合は、法務局に登記をしなければいけませんので、登記された名称イコール正式名称となります。
ただ、分かりにくいケースも
ここまでは理解しやすかったかもしれませんが、これ以外のケースもあり、それが少しこの「会計業界」の仕組みを分かりにくくしているのかもしれません。
それが、「会計法人」の存在。
これまでに「株式会社〇〇会計事務所」とか、「〇△会計株式会社」などという社名を目にした事がないでしょうか?
これ、法人ですから「税理士法人なのかな?」なんて勘違いしそうですが、前述したように税理士法人は、ちゃんと「税理士法人という文字を使用しなければならない」と規定されているので、これは税理士法人とはなりません。
それではこうした「会計法人」ですが、一体、どういった会社なのかと不思議に思いますよね。
こうした会計法人が設立される意図は様々ありますが、その多くが税理士の「節税目的」であったり、「社会保険対策」のために設立される事が多いようです。
税理士の節税目的の「会計法人」
例えば、一般的に税理士と依頼者の顧問契約は、仮に税理士が会計法人を所有していたとしても、依頼者側からすれば税理士(または税理士法人)と直接契約しているように考えます。
依頼者からすれば、月々の経理処理や決算の申告をちゃんとしてくれれば、結果的に税理士と契約しているのですから、法律上問題はありませんよね。
そこで税理士は会計法人を設立する事により、下図のような形態を作る事があります。
このように、「決算申告は税理士事務所」「記帳代行は会計法人」と分ける事により、売上げを分散し、節税に繋げる事が出来るからです。
ここで、「どちらも税理士の仕事なんだから、業務を分ける事について法律的に問題無いの?」と考える人もいるかもしれませんが、記帳代行に関しては、税理士の資格を持たなくても行えますから、法律的にも問題はありません。
この辺については、こちらの記事も参考にしてみて下さい。
一般的に税理士と聞けば、税金のプロフェッショナルというイメージが強いかと思います。 しかし、「では、具体的にどんな仕事内容なの?」と聞かれ、ちゃんと答えられる人は少ないかもしれません。 税理士というのは職業としての認知度 …
税理士の社会保険対策における「会計法人」
またこの方法は、税理士事務所全体の「社会保険対策」としても利用できます。
通常、法人であれば強制的に社会保険に加入しなくてはいけませんが、税理士事務所は個人事業が多いため、従業員のための福利厚生が行き届かない事が多いのです。
そこで会計法人を設立する事により、そちらで従業員に給与を支払えば、社会保険に加入させることが出来ます。
また、税理士事務所と会計法人の2ヶ所で給与を支払う事で、様々な対策も可能となります。
このような対策をしたとしても、結局は下図のようにグループ内にいることは変わりませんから、従業員としてもあまり不安は感じないでしょう。
ただ今後は、税理士事務所などは個人事務所であっても厚生年金に加入しなければいけなくなる可能性が出てきていますから、こうした形態を見直す必要もあるかもしれません。
これまで、従業員が5人未満の小規模な個人事業所では、厚生年金の適用対象外となっていました。 つまり、これまでこういった個人事務所で働く人々は、国民年金に加入するしか方法が無かった訳ですが、厚生労働省は今回、2019年11 …
また、ここまでするなら税理士法人を設立したほうが手っ取り早いようにも思いますが、税理士法人は2名以上の税理士が必要になるため、少しハードルが高くなります。
仮に税理士が2名以上いるとしても、所長税理士からすればこれまで従業員だった人間が自分と同じ経営者となり、これまで自分が築き上げてきたものが奪われるように感じる人もいるようですから、なかなか法人化せず、このように会計法人を設立して対応していることもあるようです。
こうした税理士は、スタッフ数が5名から15名程度の「小規模事務所」に多く、建前としては「従業員に負担を掛けたくないから」なんて事を言いますが、本音は「そこまでする必要はない」と考えているようにも見えます。
日本国内における税理士事務所のほとんどは規模がそれほど大きくなく、その約9割程度がスタッフ数15名以下の小規模事務所とされています。 税理士がスタッフを雇わずに一人で運営している「一人税理士事務所」や、所長を含めた人数が …
しかし税理士法人にしない限り、この上の規模であるスタッフ数15名~40名程度の「中規模事務所」となるには、様々な点から見ても難しいと言えるでしょう。
※ちなみに、このように税理士が「税理士事務所」と「会計法人」を使い分ける事については、税理士法に抵触するかどうかグレーな部分がありましたが、これまで業界的にはあまり深くは考えていなかったように思います。
しかしここ数年、しっかりと業務内容を分けない限り、税理士法違反と見なされる傾向が高まっていますので、契約内容などちゃんと確認するようにしましょう。
一番注意が必要な「記帳代行会社」
ここでもう一つ注意点として、会計業界には「記帳代行会社」なるものが存在します。
前述したように、記帳代行に関しては税理士の資格を必要としませんから、この業務自体を行う事は税理士法違反とはなりません。実際、税理士以外の士業として、社会保険労務士や行政書士などがこの記帳代行を請け負っている事が多いです。
記帳代行の定義を説明するのは難しいのですが、簡単に言えば「伝票、仕訳帳、現金出納帳などの資料を基に、総勘定元帳を作成すること」と言ったところでしょうか。
ここから後の業務、つまり「決算書や申告書を作成する業務」は税理士の独占業務となり、税理士以外の者が有償・無償を問わず取り扱ってはいけない事になっています。
ですから、請負形態としては下図のようになります。
この形態であれば、税理士法には抵触しないという事ですね。
しかし、中には「決算申告まで請け負います」などと宣伝している業者もいますから注意が必要です。
こうした業者は自社で決算書や申告書まで作成し、提携する税理士に押印してもらい、いくらかの「ハンコ代」をその税理士に支払って税務署へと申告書を提出してもらいます。
これは「名義貸し」となり、税理士法上完全にアウトですから、こうした業者には依頼しないようにして下さい。
確かにこうした業者は、税理士に直接依頼するより報酬を安く済ませられる場合もありますが、最終的にはアナタも被害を受ける事になりますので注意しましょう。
税理士選びで重要視する点はいくつもありますが、まずは何を置いても「倫理観」が大切なのではないでしょうか? いくら節税目的とは言え、「そこまでやっていいの?」なんて、素人でもわかるような事をする税理士に、あなたは依頼したい …
まとめ
最近では、税理士法違反を厳しく取り締まる傾向がありますから、税理士の設立する会計法人であっても「株式会社〇〇会計」などといった名称を使用しない傾向が増えています。
まぁ、確かに紛らわしいですから、出来るだけ「誤解を生じさせないように」という意図もあるかもしれません。
細かく定義すれば、この記事で説明した以外の会計関連の事業者も存在しますが、概ね上記を理解しておけば十分だと言えるでしょう。