
よく節税を指南する書籍などで、「請求書や領収書などをしっかりと確認すれば、節税に繋がりますよ」なんて事が書かれていることをご存じでしょうか。
確かにこれは間違いではないのですが、そもそも請求書や領収書の内容を確認するというのは、会計的に言えば当り前の事ですよね。
しかし、この当り前の事を当り前にできていない人がかなり多く、納税において随分と損をしている人がいるというのも事実です。
ですからこれは、「節税できる」というよりも、そもそもしっかりと請求書の内容を確認できていないために、「余計な税金を支払っている人が多い」という表現のほうが正しいと言えます。
そこでこの記事では、なぜ請求書をしっかりと確認しないがために余計な税金を支払ってしまう事になるのかということや、そもそも会計事務所などは、こういった事を日常的に指導してくれているのかなどといった事について解説していこうと思います。
目次
請求書・領収書を確認する事で節税に繋がる理由
それではまず最初に、なぜ請求書や領収書をしっかりと確認する事で節税に繋がるなどと言われているのかについてから。
結論から言うとその理由は、「内訳を細かく分けることで、固定資産として計上しなくていい費用を見つけることができ、その分をその年の損金として計上できるから」という事。要は、「固定資産として計上しなくていいものまで計上している人が多いですから、皆さん、損してますよ」という事になります。
仮にある設備を購入したとして、その金額全てを固定資産に計上してしまえば、それを数年に分けて費用計上することになりますよね。いわゆる「減価償却」です。
しかし、その一部でも購入した年に費用計上できるのであれば、税額的にかなり変わってくるという事です。ですから厳密に言うと、節税が出来るというよりも購入初年度の費用を増やすことが出来るというだけのお話です。
またこれ以外にも、固定資産の計上方法を変えるだけで、年間の減価償却費を増やすことが可能となる方法もあります。
これだけではイメージしづらいという人もいるでしょうから、それぞれについてもう少し細かく見ていきましょう。
少額減価償却資産の特例
まずは「少額減価償却資産の特例」を利用する方法についてから。
例えば、事務所用の家具を同じ店舗から購入したとして、「家具一式50万円」といった請求書であれば、これは固定資産として計上しなくてはならず、数年かけて減価償却する、つまりその年で一括に計上できないことになります。
しかしこれが、下記のような内訳であればどうでしょうか?
- 事務机 7万円
- 受付カウンター 18万円
- ソファー 25万円
上記のような内訳であれば、すべて30万円未満となりますから、「少額減価償却資産」としてその年に一括で費用計上することが可能となります。
もちろん、少額減価償却資産として認められるためには、「青色申告法人であること」「資本金が1億円以下であること」など様々な要件を満たす必要がありますが、一般的に中小企業と呼ばれる法人であればほとんどが認められる制度となっていますから、詳しくは顧問税理士などに確認するようにして下さい(厳密に言うと、上記の事務机は10万円以下ですから「少額資産の一括償却」の対象となりますが、ここでは細かい部分は省略します)。
仮にこの制度を利用せず、例えば上記の「家具一式50万円」をソファーとして固定資産に計上するのであれば、ソファーの耐用年数は5年から7年となっており、5年の定額法で処理するとなると初年度は10万円しか費用計上できません。
しかし、請求書の内訳をしっかりと確認し、「これは少額減価償却資産で計上できる」と分かれば、購入年度に50万円を全て計上できるため、税額においてかなりの差が生じてくるという訳ですね。
ですから、これはテクニックでもなんでもなく、要は「当り前の事である」というのがお分かりいただけるかと思います。
減価償却資産に含めなくていい費用がある
次が、税法上「減価償却資産に含めなくていい費用がある」ということについて。
これはどういった事かと言うと、例えばあなたが工場を経営しているとして、今回新しく機械を購入することになったとします。
そこで業者からの請求書は「〇〇機械一式 200万円」となっていたとしましょう。これだけ見ると、固定資産として200万円を計上しなくてはいけないと考えるでしょうが、例えば内訳を以下のようにするとどうでしょう。
- 機械本体価格 150万円
- 機械設置費(運搬含む) 30万円
- メンテナンス用品 20万円
上記を見ると、機械本体価格と機械設置費に関しては固定資産に計上しなくてはいけませんが、最後のメンテナンス用品については、今後機械を使用していくうえで必要となる「消耗品」を事前に購入しただけですから、これは固定資産ではなく、消耗品費としてその購入年に費用計上できることになります。
全体の金額としては小さく見えますが、こうした費用も積み重なると膨大な金額となりますから、この辺もしっかりと確認しておきましょう。
また、国税庁は「減価償却資産の取得原価額に含めないことができる付随費用」として以下のようなものを列挙しています。
- 次のような租税公課等 - 「不動産取得税又は自動車取得税」「新増設に係る事業所税」「登録免許税その他登記又は登録のために要する費用」
- 建物の建設等のために行った調査、測量、設計、基礎工事等でその建設計画を変更したことにより不要となったものに係る費用
- いったん結んだ減価償却資産の取得に関する契約を解除して、他の減価償却資産を取得することにした場合に支出する違約金
- 減価償却資産を取得するための借入金の利子(使用を開始するまでの期間に係る部分)(注1)
- 割賦販売契約などによって購入した減価償却資産の取得価格のうち、契約において購入代価と割賦期間分の利息や売り手側の代金回収のための費用等が明らかに区分されている場合のその利息や費用
(注1)使用を開始した後の期間に係る借入金の利子は、期間の経過に応じて損金の額に算入します。
出典:国税庁「減価償却資産の取得価格に含めないことができる付随費用」
上記についても「自社は大丈夫かな?」と一度確認するようにして下さい。
建物を購入する場合は要注意
そして最後が「建物を購入する場合は要注意」という事について。
一般的に、建物の減価償却期間は長くなるというのは多くの方がご存じだと思います。例えば、住居用の鉄筋コンクリートマンションであれば「耐用年数47年」となりますし、これが木造であっても22年ですから、かなり長い時間をかけて償却していかなくてはなりません。
しかし、一律に建物といっても「エレベーター」などの付属物もあれば、外構におけるコンクリート舗装などもありますよね。実はこうしたものを別々に固定資産として計上することで、年間の償却額をかなり増加させることが可能となります。
例えば総額で1億円のマンションがあったとしましょう(土地代は除く)。これをすべて「建物」として計上するのも良いですが、実際にマンションというのは例えば以下のような構造となっているというのがほとんどではないでしょうか。
- マンション本体価格:7,500万円(償却年数47年)
- エレベーター価格 :1,200万円(償却年数17年)
- 給排水設備 :800万円(償却年数15年)
- 蓄電池 :500万円(償却年数6年)
※あくまで価格に関しては、分かりやすくするため極端な数字にしています。
仮に「建物一式 1億円」として「定額法・47年償却」とすれば、年間220万円の償却額となりますが、上記のように計上の仕方を変更するだけで、これが年間約370万円程度まで増加します。その差約150万円ですから、これだけでも税額はかなり変わってきますよね(あくまで概算です)。
ですから、請求書の内訳をしっかりと確認する事で簡単に節税できるというのは、要は「資産、費用の計上の仕方」にポイントがあるという事なのです。
税理士に任せっきりは、かなり危ない
という事で、請求書や領収書の内容をしっかりと確認すべき理由についてはご理解頂けたかと思いますが、ここで「うちの会社は税理士に任せているから安心だな」と思ったあなた、それ、かなり危ない考え方です。
当サイト管理人はコンサルタントとして、これまで数多くのクライアントの決算書に触れる機会がありましたが、そのうちの全てではありませんが、上記の「資産、費用の計上」を適当に処理している会計事務所が驚くほど多いという事を目の当たりにしてきました。
これを読んで、一部の税理士の方などは「会計事務所でそんなレベルの低いところはないだろう」なんて考えるかもしれませんが、税理士の人は他の事務所の決算書に触れる機会が少ないですから、確かに信じられないかもしれませんね。
しかし、仮に所長税理士が「ウチの事務所はしっかりとやっている」と思っていても、自分の事務所の職員が、確実な処理をしているのかと聞かれれば少し不安になるかもしれません。
というのも、小規模の事務所であれば、全ての顧問先の決算内容を所長自ら確認する事が多いのですが、それなりの規模になってくると、所長がすべての顧問先の決算を確認する事は物理的に難しくなってきますから、事務所によってはスタッフ任せになっている場合もあるからなのです。
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そのスタッフのレベルが高ければ問題ありませんが、得てして全てがそうではありませんから、会計事務所に任せっきりにする事で、知らず知らずのうちに支払わなくていい税金を支払っている場合もあるのです。
ですから、そもそもそういった会計事務所に依頼しないことも大切ですが、顧客側としても最低限のチェックはするべきだと言えるでしょう。
一番は、見積書を受け取った段階で税理士に相談する
結局、最終的には自己責任となる訳ですが、こうした事を未然に防止する方法として「見積書」を受け取った段階で税理士に相談しておくことをお勧めしたいと思います。
請求書や領収書などは、「すでにサービスの提供を受けた後」に送られてくるものですから、実は後から「内訳を変更してほしい」と相手に伝えても断られてしまう可能性もあります。それぞれの企業の社内規定などもありますから、事後の交渉というのはあまり受け付けたくないというのが本音でしょう。
しかし、見積もりの段階であればある程度の融通も利くでしょうから、見積書を受け取った段階で税理士に相談すれば事前に様々な対策を検討でき、取引先企業に対して「請求段階で内訳書をこのように分けてほしい」とお願いすることも可能となります。
もちろん、あからさまな脱法行為は論外ですが、一括で請求させるのではなく例えば「納入の場所ごと」に請求させるとか、「費用を細分化して、内容を分かりやすく請求させる」というのは問題ありませんから、見積書を受け取ったら面倒がらず、顧問税理士としっかりと打ち合わせするようにしましょう。
仮に、顧問税理士から的確な回答がないようであれば、その時はいっその事、税理士の変更を検討したほうが良いでしょう。
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クラウド会計ソフトで、さらなるチェック
とは言え、人間のチェックだけではどうしても確認漏れなども発生しやすくなりますから、出来るだけほかのツールなどを用いた「ダブルチェック」もしておきたいところです。
そこで便利なのが、最近多くの人が利用し始めている「クラウド会計ソフト」となってきます。
最近のクラウド会計ソフトは、AI(人工知能)を用いてかなり精度の高い仕訳けをしてくれますから、例えば請求書の中身をAIが判断し、費用計上できるものとそうでないものなどを自動的に分ける事も可能となります。
もちろん、現時点におけるAI技術はまだまだ人間に及ばない点も多いですが、こうしたクラウド会計ソフトと人間とのダブルチェックを行うことで、「払わなくてもいい税金を払っていた」なんて事は、起こりにくくなると言えるでしょう。
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