
最近では、どこの士業事務所でもホームページやブログなどを開設していると思いますが、これまでに少なくとも1度くらいは「無料の問合せ」があったという事務所がほとんどではないでしょうか。
仕事の受注につながらないばかりか、無駄に時間だけ取られてしまうため、この無料の問い合わせにはほとほと嫌気がさしている人も多い事でしょう。
どんな人でも「困っている人の役に立ちたい」とは考えているでしょうが、仕事はお金をもらって成立するものですから、無料であればそれは仕事とは言えず「ただのボランティア」という事になります。
とは言え、あまり邪険にしても事務所自体の印象も悪くなるため、こうした無料の問い合わせにどう対応したものかと悩んでいる人も多い事でしょう。
そこでこの記事では、士業事務所のホームページなどにおける無料問合せの対策方法などについてお伝えしていこうと思います。
目次
無料問合せをするのは一般人だけじゃない
まず、意外に思うかもしれませんが、こうした無料の問い合わせをするのは一般人だけではありません。実は、同業者が一般人を装って問い合わせをしてくることもあるのです。
むしろ場合によっては、同業者の方が多いなんて事もあります。
では、なぜ同業者が無料の問い合わせを行うのかというと、以下のような理由が考えられます。
- その事務所のテクニックを手に入れるため
- 単純に、苦手分野について教えてほしいから
- ライバル事務所からの「さぐり」
これ以外にもあると思いますが、概ね目的としてはこんなところでしょう。
こちら側からしたら、これまで長年かけて蓄積してきたテクニックなどをタダで同業者に渡すことになりますから、こうした問い合わせは完全に無視したいところですよね。
ハッキリ言って、「本でも買って勉強しろ」と指導したいくらいでしょう。
しかし、こうした同業者からの問い合わせというのは、ある種の傾向があり、案外簡単に見破ることが出来ます。彼ら(彼女ら)の特徴というのは、出来るだけ詳しい情報を得たいという気持ちが強いため、どうしても「専門的な言葉」を使う傾向があり、一般人ではあまり考えつかないような言い回しをする事が多いようです。
具体的に言うと、これは当サイト管理人が大阪府内の行政書士事務所で見せてもらった問い合わせメールの内容ですが、「大阪府の建設業許可の申請は、〇〇(専門用語)を提示する事で代用できますよね?」とか、「〇〇(専門用語)がない場合の代用書類は何ですか?」なんて事がメールに書かれていました。
この行政書士からすれば、「そもそも、〇〇なんて言葉、一般の人は分からないはずなんですけどね」との事。
また、とある地域の税理士事務所には「〇〇税務署で税務調査を受けるのですが、担当の〇〇さんてどの項目に注目するんでしょうか?」などと質問のメールがあったそうです。
これはもう完全に、素人の発言ではありませんよね。
このように、やけに専門用語を多用したり、業界内でしか知られていないような内容の質問であれば、同業者と考えてまず間違いないかもしれません。
多くの士業事務所がやってしまう失敗例
とは言え、連絡が来るという事は、仕事に繋がる可能性もゼロではないですから、怪しいと思いながらも対応している事務所も多いかと思います。
例えばこんな感じで。
あっ、もしもし。あの~すみませんが、相続について教えてほしいんですが。顧客
はい、ありがとうございます。具体的にはどのような内容になりますか?あなた
えーっと、最近父が亡くなりまして、〇×△といった状況なんですが、こういった場合どうしたら良いんでしょうか?顧客
ああ、それでしたら〇〇という方法を利用すれば、××という特典が使えますよ。 詳しい内容につきましては、弊社の税理士からご説明させていただきますよ。あなた
あ~、もう分かったから良いわ。どうもありがとう、ガチャッ。顧客
・・・えっ?あなた
如何でしょうか?これではいつまで経っても仕事にはつながりませんし、ハッキリ言ってボランティア以外の何物でもありませんよね。
笑い話のように聞こえるかもしれませんが、意外と上記のようなやり取りばかりしていて、全く仕事に繋がらないという士業の方は結構いらっしゃいます。
こうした事は電話だけでなくメールの問い合わせにおいても発生します。例えば、ホームページのお問い合わせフォームから質問が届き、それに対して丁寧な回答をすると、それ以来連絡が途絶えてしまったなんて経験をした人も多いのではないでしょうか。
このような事を続けていては、いつまで経っても仕事に繋がりませんから、何かしらの工夫が必要になりますよね。
無料問合せへの対策方法
それでは、こうした無料問合せに対応する時間を限りなく減らすための工夫という事で、幾つかの対策方法をお伝えしたいと思います。
報酬額は、HP上でしっかりと明示する
まずは、「報酬額は、HP上でしっかりと明示する」という事について。
実は、一般の方からすると、士業事務所に一番聞きたいのが「私の場合、報酬額はいくらになるのか?」という事なのです。
基本的に、どこの事務所も「〇〇手続き申請:50,000円~」などと報酬を記載していますが、これを見た顧客は、この「~」というのがどうも不安に感じてしまうのです。
50,000円でお願いできるなら依頼しても良いかな?顧客
とは考えますが、
これが70,000円だったら、絶対に無理!顧客
という人も中にはいるという事です。ですから、出来るだけ明確な報酬額をホームページ上で明示しておくことで、顧客は報酬額の問い合わせをしなくて済みますし、士業側もそうしたメールなどに対応しなくて済むという訳です、
ある意味、この報酬額の問い合わせというのも「無料の問合せ」の一部となりますから、これが無くなるだけでも業務効率は上がりますよね。
もちろん士業側からすれば、「業務の難易度によって報酬額が変わってくる」とか、「競合他社に報酬額を知られたくない」といった考えもあるのでしょうが、逆の立場に立ってものを考えた場合、あなたなら、「金額がいくらになるか分からないようなサービス」に申し込むかどうかという事を一度考えて頂ければ、自ずと答えは見えてきますよね。
ちなみに少し話は脱線しますが、よく「ホームページ上に顔写真を載せた方が良いのかな?」と悩んでいる人がいますが、そういった方はこちらの記事も参考にしてみて下さい。
ここ数年で士業の営業方法も多様化しており、一昔前では珍しかったホームページやブログなどを作成する士業事務所というのは、今ではもう当たり前となりつつあります。 むしろ最近では、顧客側から「えっ?ホームページくらい作ってない …
「出来る仕事」と「出来ない仕事」もしっかりと明示する
そして次が、HP上において「出来る仕事」と「出来ない仕事」をしっかりと明示するという事について。
例えば弁護士であれば、本人としては離婚案件や交通事故案件だけを取り扱いたいと考えていても、一般の人からすると「弁護士だから、法律全般に詳しいだろう」と考えてしまい、「M&Aで相談したいのですが」とメールで問い合わせをしてくる可能性もあります。
もちろんこれは極端な例ですが、この場合、これまで一度もM&Aなどを取り扱ったことがない弁護士からすれば、どう答えていいのかも分からないでしょうし、仮に対応するにしても苦手分野は調べる事が多いため、かなりの時間を費やしてしまう事になります。
更に、相当な時間を割いたのにもかかわらず、その後顧客から連絡が無いようであれば、時間の無駄でしかありませんよね。
ですから、「何でもやります」というのも良いですが、経営の効率を考えるのであれば「この業務は引き受けますが、これ以外の業務は承っておりません」とホームページ上で記載するのも一つではないでしょうか。
そうする事で、顧客側からすれば「ああ、ここの事務所は私が依頼するべきところではないな」と事前に理解してくれますから、お互いにとって無駄なやり取りが省けるという訳です。
もっとも、いくらHP上に記載しても、それを全く見ないという人もいますから完全にこういったミスマッチは減らせませんが、それでも多少の効果はあります。
ただし、人によっては「これまで経験した事のない業務もやってみたい」という人もいるでしょうから、ここは判断の分かれるところでしょう。
あえて「無料のサービス」を用意する
そして次が、「あえて、無料のサービスを用意する」という方法について。
当サイトは、何も「無料の仕事が全て悪だ」とお伝えしているわけではなく、実際に無料の仕事から有料の仕事へ繋がるという事も重々理解しています。
ですから、「無料で有益な情報を提供する」といった事や、「無料で簡単な相談に乗ってあげる」などといった事も決して無駄だとは考えてはいません。ただし、「それだけで終わらしてしまうからもったいない」とお伝えしているのです。
要は、冒頭でお伝えしたような「情報だけを与えるだけで終わってしまい、有料の仕事へと繋がらない事が問題」だという事です。
例えばGoogleで考えてみると、検索システムは無料で利用できますし、最近流行りのYouTubeなどはサーバー利用代も全て無料ですよね。では、グーグルはどうやって儲けているかといえば、そこに無料で集まった顧客向けに広告を流すことで、スポンサー企業から広告費を受け取ることで利益を出しています。
ですから、無料がいけないわけではなく、それを収益化するための「制度設計」が重要であり、ほとんどの人がその制度設計が出来ていないという事なのです。
では、士業事務所が提供できる無料のサービス(ツール)には一体どんなものがあるのかという事ですが、一例として以下のようなものが考えられます。
- パンフレット
- 小冊子
- ブログ
- メールマガジン
- YouTube
例えばブログなどは一番簡単かもしれません。誰でも無料で読めますし、定期的に更新する事でブログを書いている人の人となりも伝わり、親近感を持たれやすいというメリットがあります。
もちろん、サーバーのレンタル費用などは定期的な出費となりますし、ブログを書いている時間は報酬が発生しませんから無駄だと考える人もいるかもしれませんが、例えばホームページからの問い合わせで「〇〇について教えてほしい」という要望があれば、「弊社ブログの△△という記事を参考にしてみて下さい」と伝える事も出来ますよね。
こうすれば、いちいちその問い合わせに対応しなくて済みますし、顧客側からしても「邪険に扱われた」という気持ちも起こりにくいと言えます(まぁ、中にはいろんな人がいますが)。
以下の記事は税理士向けに書いた記事となっていますが、士業全般に共通している内容となっていますから、宜しければ参考にしてみて下さい。
近年のインターネットの普及により、多くの人は情報収集をほとんどネット検索に頼るようになりました。 各企業とも、如何にこのインターネットを上手く利用できるかについて、それぞれ工夫を凝らしています。 一般的に、IT関連に疎い …
また、事前に小冊子などを作成しておけば、問い合わせに対して「宜しければ、小冊子をお送りさせていただきますので、送り先とお名前を頂戴できますでしょうか?」と、見込み客データの収集も簡単にできてしまいます。
更に言うと、使い方次第では以下のように冷やかし対策への利用も可能となります。
はい。お電話ありがとうございます。〇△税理士法人でございます。あなた
あっ、もしもし。すみませんが相続について教えてほしいんですけど。顧客
有難うございます。相続についてのご相談という事ですが、何かお困りの事でもございますでしょうか?あなた
えっ、いや・・・。困っているというほどでもないんですが・・・。顧客
大まかな内容をお知りになりたいのであれば、無料で小冊子などをお送りさせて頂いておりますが、宜しければお名前とご住所をお聞かせいただいても宜しいでしょうか?あなた
そっ、そんなんじゃなくて、簡単な話を聞きたいだけなんですけど。顧客
こうしておけば、単なる冷やかしの場合は早々に退散するでしょうし、ある程度本気である顧客の場合であれば「じゃあ、お願いします」となるでしょう。
このように、無料のサービス(ツール)というのは様々な使い方が出来ますから、とても便利な方法だと言えますよね。
基本的に、多くの方が「マーケティング」と「セールス」の違いについて理解していないため、こうした制度設計が上手くできていないように思います。マーケティングとセールスの違いについて詳しくは、こちらの記事も参考にしてみて下さい。
昔から日本においては、「難関国家資格に合格すれば、それだけで高収入を得られるだろう」などといった考え方が定着していますが、近年ではそうした難関国家資格の代表とされる士業でさえも、資格があるだけでは生活するのもままならなく …
自分の「軸」を明確にしておく
そして最後が、「自分の軸を明確にしておく」という事について。
少し精神論的な話に聞こえるかもしれませんが、この「自分の中の軸」を持っているか持っていないかで、こうした無料の問い合わせに対する考え方も変わってきます。
例えば、「メールでの簡単な相談は無料で対応するけど、直接面談となれば必ずお金を頂く」という考え方であれば、どのようなシチュエーションであっても瞬時に対応の仕方が判断できるようになります。
また、「匿名や、礼儀を知らない人に対しては、徹底して対応しない」と決めておけば、日々のストレスからも解放されますよね。
この辺に関しては、それぞれ考え方や営業方針が異なると思いますから、一律に「こうしたほうが良い」という解はありませんが、ある程度の軸があれば、それだけで無駄な時間を減らすことが出来ると言えるでしょう。