
ここ数年、副業を始める会社員の人が急激に増えているようですが、未だに副業を禁止している企業もあるため、「会社にバレないか心配だ」と考えている人も多いかもしれません。
特に今年(2020年)はコロナの影響もあり、残業が出来ないなどの理由から収入が激減している人からすれば死活問題なのかもしれません。
そういった人が、仮にインターネットで「副業 バレない」などといった検索ワードを入力してみても、その結果表示されるページのほとんどが「副業をバレないようにする工夫はありますが、完ぺきではありませんのでご注意ください」などといった内容となっているため、なかなか副業に踏み出せないという人もいる事でしょう。
そこで最近では一部の税理士などが、「勤め先の会社に副業がバレないようにするためには、法人を設立すれば安心ですよ」などと提案する事もあるようです。
しかしこれ、本当に安心できる方法なのでしょうか?
そこでこの記事では、税理士が「副業がバレないために法人を設立しましょう」と提案するのはどういった理由があるからなのかという事と、それが本当に効果があるのかなどについて考えてみたいと思います。
念のためお伝えしておきますが、当サイトは会社側から禁止されている副業を推奨しているわけではないという事を予めご了承願います。
目次
副業がバレる理由
まずは、会社員の副業が会社にバレる理由についてから考えてみましょう。
一般的に考えられる理由としては以下の通り。
- 社内における内部告発
- 企業秘密の漏洩における発覚
- SNSなどの投稿よる発覚
- 住民税の通知による発覚
上記の中でも特に4の「住民税の通知による発覚」について取り上げているサイトが非常に多く、例えば税理士が書いているブログなどでは「住民税の通知でバレる事が多いですから、確定申告をする際は、普通徴収を選択しましょう」などと提案していることがほとんどです。
しかし実際には、これで完全に「会社バレ」を防げるわけではなく、たとえ住民税を普通徴収にしたとしても運悪く発覚してしまう場合もあります。
こちらについて詳しくは、以下の記事も参考にしてみて下さい。
現在、「副業解禁」という言葉があちこちで見られ、副業に興味を持ち始めている人も多いと思います。 従業員に対して副業を認める企業も徐々に増えているようですが、実情から言うと、まだまだ少数であるというのが現実ではないでしょう …
上記の記事を読んで頂ければ分かると思いますが、現実的に会社にバレるきっかけというのは様々な要因が考えられるため、単に「住民税を普通徴収にすれば安心」という訳にはいかないのが現実です。
なぜ「法人を設立しましょう」なのか?
では、何故「法人を設立しましょう。そうすれば会社にバレませんよ」などと提案する税理士が増えているのかについても考えてみましょう。
普通に考えれば、「個人事業だろうと法人だろうと、住民税の問題はついて回るはずだ」と思いますよね。
法人の場合であっても、そこから役員報酬を支払えばその所得に対して個人の住民税はかかりますし、更に言うと法人で役員報酬を支払えば「社会保険」が強制適用となりますから、そうなると住民税だけの問題ではなくなり、完全に勤め先に副業をしていることが知られることになります。
「だったら何故?」となりますが、ここで税理士が提案するのが「法人を設立して、そこで役員報酬を受け取らなければ良い」という事であり、つまりは「報酬を受け取らないことで、住民税などの諸問題は発生しえない」という事を強調したいようですね。
税理士が強調する「バレないための法人設立」のメリット
結論を言うと、当サイトとしてはこの「会社にバレないための法人設立」というのはお勧めしないのですが、このスキームを提案する税理士からすると、それなりのメリットがあると強調しているようです。
そこでまずは、それら税理士が強調するメリットについて見ていきましょう。
給与を支払わない限りは会社にバレない
まずは前述したとおり「給与を支払わない限りは、会社にバレない」という事についてから。
確かに、法人から代表者である副業サラリーマンに給与を支払わなければ、そこには所得が発生しませんから、住民税や社会保険料なども発生してきません。
ですから、そもそも一番会社にバレやすい要素である「住民税の通知」の問題が解消されるという事ですよね。
基本的に法人は社会保険の強制適用の対象となりますが、その法人から給与が発生しない限りは社会保険料も支払う必要もありませんから、この点でも問題を回避できるという事なのでしょう。
事業所得と雑所得の問題で悩まなくて済む
次が、「事業所得と雑所得の問題で悩まなくて済む」という事について。
会社員が副業をする際、個人事業であれば確定申告をする時にいつも問題となるのがこの「事業所得、雑所得の問題」となります。
事業所得を選択すれば青色申告で確定申告をする事ができ、税務上の様々な特典を利用する事が出来るのですが、雑所得での申告となればそもそも青色申告が出来ないため、出来れば多くの人が事業所得での確定申告を望むかと思います。
この辺について詳しくは、こちらの記事もご覧になってみて下さい。
個人事業主として起業や独立をした場合や、副業を開始して一定の収入がある場合などは、必ず確定申告をしなくてはなりませんが、これまで会社員として働いてきた方であれば、そのほとんどが年末調整だけで済んでいた可能性が高いため、「 …
しかし会社員の副業の場合、その内容にもよりますが大抵は「雑所得」とみなされることが多く、仮に毎年の確定申告で「事業所得で青色申告」をしていたとしても、税務調査があった場合に「雑所得」と指摘され、遡って多額の税金を支払うハメになってしまう事もあります。
もちろん、会社員の副業であったとしても、事業所得として認められることもあるようですが、そこは税務署の判断にもよりますから「こうすれば、必ず事業所得として認められる」という確実な方法はありません。
しかし、法人を設立すれば、そもそも法人というのは「事業目的」で設立しているのですから、事業所得と雑所得で悩む必要も無いという訳ですね。
確かにこの点においては、議論の余地はないかもしれません。
給与は貰えないが、経費は使える
そして最後が、法人から「給与は貰えないが、経費が使える」という事について。
「給与が貰えないんだったら副業をする意味ってあるの?」と普通は思いますが、これら税理士の言い分としては「その分、経費は使えますよ」という事。
例えば、事業用に購入したパソコンや車などは、減価償却をして毎年経費化する事ができますし、家賃や光熱費なども一定の割合であれば費用計上することも可能な場合があります。個人事業でもこれは同様なのですが、確定申告をしてしまうと収入から経費を差し引いた額に対して所得税や住民税がかかってしまうため、結局は会社にバレる可能性が出てきます。
しかし、法人であれば残った所得に対しては法人税などが課されるだけですから、個人の所得に変化は起こらないという事になります。
また、前述したように法人を設立すれば、それだけで事業性があるという事になりますから、個人よりも経費として認められる範囲が広がる場合もあります。
こうした事からも、「法人を設立しましょう」と提案する税理士からすれば、良いことだらけだと考えるのかもしれませんね。
当サイトが考える「副業での法人設立デメリット」
このように、一見すると会社員が副業をする場合、法人を設立することは会社にバレにくい事だけでなく、多くの面において理にかなっているようにも思えますが、当サイトとしてはあまり積極的にはお勧めしません。
もちろん、この方法を採用することで得をする人もいる事でしょうから一律には否定はしませんが、それなりのデメリットもあるため実行する際には十分注意して頂ければと思います。
そこで次に、当サイトが考えるデメリットについてもお伝えしようと思います。
それなりの費用(税理士報酬など)が発生する
まずは、「それなりの費用が発生する」という事について。
法人を設立するとなると、やはりそれなりの費用が発生する事となり、ざっと考えただけでも「設立登記などの費用」や「税理士に対する報酬」などは間違いなく発生する事になります。
法人の設立費用は、株式会社か合同会社かによっても費用は違ってきますが、それでもそれなりの費用は掛かります。
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また、税理士に対する報酬は何気に大きいかもしれません。
一般的に、個人事業であっても青色申告の55万円控除などを選択すれば、複式簿記での記帳をしなくてはならず、会計初心者には少しハードルが高いと言えます。しかし、たとえ青色申告であったとしても、10万円控除を選択すれば、複式簿記での記帳は必要となりませんから、そこまで難しい処理は必要とならず、家計簿を作る程度の能力があれば十分だと言えます。
しかし、法人となれば必ず複式簿記を選択しなくてはならず、更に言うと様々な書類(別表など)を税務署に提出しなくてはいけませんから、どうしても税理士に依頼しなくてはならなくなると言えます。
すると、仮に役員報酬を支払わなくて、しかも記帳のボリュームが少なかったとしても、最低限の「顧問料」や「決算料」は発生する事になります。
この顧問料や決算料というのは、その法人の売上げ規模などによって左右されますし、それぞれの会計事務所によっても値段が変わってきますが、それでも年間で最低10万円~20万円はかかってくると言えます(規模によっては更に高額になる可能性あり)。
もちろんこの辺は交渉次第と言ったところですが、いくら会社にバレにくいとしても、その分費用が高額になるというのは少し疑問が残るところです。
税務調査が発生する可能性が高まる
次が、「税務調査が発生する可能性が高まる」という事について。
基本的に、税務調査というのは個人事業より法人の方が頻繁に発生しやすいと言われています。
もちろん、一般的に税務調査が入る確率は、「法人で3%程度」「個人で1%程度」などと言われていますから、そこまで心配する必要はないのかもしれませんが、実際に法人の方が確率が高いことを考えれば、個人事業に比べて「可能性は高まる」と考えておいた方が良いですよね。
仮におかしな事をしていないにしても、税務調査が来るとなれば誰でも少し身構えてしまいますし、何より平日の昼間にそれに対応しようと思ったら、本業である会社を休まなくてはいけません。
そう考えただけでも、かなり気が重くなりますよね。
個人事業の場合であれば「一度も税務調査が来たことがない」なんて人もいるようですが、法人の場合で一度も税務調査が無いというのはほとんど稀かもしれません。
会社にバレないために法人を設立するのも良いですが、そのために税務調査が増えるというのも考えものかと思います。
必要以上に税金を払う事になる可能性もある
そして最後が「必要以上に税金を払う事になる可能性もある」という事について。
副業で個人として確定申告する場合でも、法人として申告する場合でも、基本的には収入(売上)から経費を引き、残った所得に対して税金がかかるため、一見すると「どちらにしても残るお金は同じ」と考える人も多いのかもしれません。
正確に言えば税額の計算は個人と法人では異なる部分が多いですから、ハッキリとしたことは言えませんが、内容によっては税率も法人の方が低くなる可能性もあります。
しかし、ここでよく考えていただきたいのが、例えば個人の場合であれば、税額を引いた後に残ったお金は自分のお金となりますから、何にどう使おうが個人の自由となりますが、法人の場合においては、それはあくまでも「法人のお金」となりますから、仮にあなたが代表者や株主であったとしても、法人のお金を好き勝手に使う事は許されません。
むしろ、その使い方次第によっては、法人の代表者に対する「報酬」と見なされることもあり、結局役員報酬を支払わざるを得ない事態に陥る可能性もあります。
そうなると、せっかく会社にバレないために法人を設立したのに、何のために法人を作ったのか分からないという事にもなってしまいますよね。
またここで、「だったら、利益がプラスマイナスゼロか、赤字になれば問題ないよね」などと考える人もいるかもしれませんが、法人の場合、例え赤字であったとしても法人住民税の「均等割」を支払わなくてはならず、この金額は地域によっても異なりますが、大体7万円程度は毎年支払わなくてはなりません。
この辺について詳しくは、こちらの記事も参考にしてみて下さい。
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しかし、個人事業で赤字の場合はこの均等割は発生しませんから、極論を言えば「無駄に支払う税金が増える可能性がある」という事になります。
こうした事も説明を受け、それに納得した上で法人を設立するのなら良いのですが、何も考えずに「とりあえず税理士が言ってるんだから大丈夫だろう」と考えるのは少し危険だと言わざるを得ません。
まとめ
如何でしたでしょうか?
確かに会社にバレないために法人を設立するというのは、それなりのメリットがあるようにも思えますが、実際にはデメリットも多くあり、全ての人にお勧めできる方法だとは言えません。
また、法人を設立したとしても完全に会社にバレなくなる訳ではなく、世の中には「これだけしておけば大丈夫というものは無い」という事は理解しておきましょう。
いずれにしても、このようなスキームを提示して、さも優秀な税理士であるかのように装う人もいるようですが、実際には事前に検討すべきことは山ほどあり、その内容についてもしっかりと提示してくれない税理士であれば、あまり信用すべきではありません。
それでも法人を設立するメリットを感じるのであれば、こちらの記事も参考にしてみて下さい。
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また逆に、この記事を読んで不安に思われた方は、一度別の税理士に相談する事をお勧めします。
税理士を探す方法については、こちらの記事も参考にしてみて下さい。
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