
これまで会社員として勤めていた人が、個人事業主やフリーランスとして独立する際、一番面食らうのがこの「保険関係」かもしれません。
会社員時代は、勤務先の会社が全ての手続きを行ってくれていたでしょうから、これまで全く意識したことがない人の方が多いのではないでしょうか?
しかし、「保険」と一口に言っても、公的機関に支払う「健康保険」や「年金」、民間の「損害保険」や「生命保険」など様々あり、専門家でないとよく理解できない部分も多いかと思います。
そこでこの記事では、個人事業主やフリーランスの方が「最低限」知っておきたい保険についてお伝えします。
目次
代表的な保険の種類は?
それではまず、個人事業主やフリーランスに関係する保険のなかでも、代表的なものをご紹介したいと思います。
世の中には様々な保険がありますが、主なものとしては以下の通り。
- 健康保険
- 年金(正確には保険ではない)
- 損害保険
- 生命保険
- 労災保険
- 雇用保険
上記は、重要度の高い順番に並べています。
ですから、「とにかく保険について考えましょう」となると、あれもこれもと焦ってしまい大変ですが、上から順に対策を考えていけば楽だと言えます。
ここで、「年金」は厳密にいうと保険とはなりませんが、いずれにしても独立時には健康保険と共に優先的に手続きをする事になりますから、この記事内においても一緒にご説明しようと思います。
それでは、それぞれについて見ていきましょう。
健康保険
まずは「健康保険」から。
会社員として働いていた時は、月々の給与から天引きされていることがほとんどですから、健康保険についてあまり気にする事もなかったかもしれませんね。たまに考えるとしても、給与明細の控除の欄に「健康保険料」という項目があり、「あれ、こんなに引かれている」といった程度でしょうか。
しかし個人事業主として独立すると、まず負担となるのがこの「健康保険」かと思います。
通常、会社員の場合は勤め先にもよりますが、会社が協会けんぽなどに加入し、保険料は「会社が半分」「従業員が半分」を負担して支払います。いわゆる「社会保険」と呼ばれるものですね。
ですから、会社員時代はあまり負担には感じませんが、これが独立するとなれば、大抵の場合は「国民健康保険(国保)」に加入するしかなく、一気に負担増となってしまいます(多少の例外あり)。
更に言うと、国民健康保険と先ほどの社会保険とでは様々な違いがあり、例えば、社会保険にはある「扶養」という考えが、国保にはありません。
これはどういった事かと言うと、仮にアナタが会社員で奥さんが専業主婦だとすれば、奥さんはアナタの扶養となり、奥さんの分の保険料は無料となりますが、国保の場合は奥さんの分の保険料も支払わなくてはならなくなるという事です。
独立当初は少しでも出費を抑えたいと考えますが、この健康保険の支払いはかなりの負担だといえます。この扶養について更に詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてみて下さい。
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また、費用面だけでなく、補償面についても考えておかなくてはなりません。社会保険には傷病手当等がありますが、国民健康保険にはそれがありませんので補償面においても大きな差があります。ですから、この辺についても最低限知っておきたいところです。
ただ、この健康保険について詳しく説明すると長くなりますから、詳細については上記の記事などを確認して頂ければと思いますが、個人事業主やフリーランスにとってまず考えるべき保険としては、この健康保険についてだと覚えておきましょう。
年金
次が「年金」について。
前述したように、年金は保険とはなりませんが、個人事業主やフリーランスが各種保険と一緒に頭を悩ます項目ですから、この記事において一緒に説明します。
基本的に、年金も健康保険と同じく、会社員の場合は「厚生年金」に加入することとなりますが、個人事業主はこれに加入できず、選択肢としては「国民年金」のみとなります。
一律に「厚生年金と国民年金どちらが良いか?」という問いに対する答えはありませんが、基本的な考え方として、厚生年金は収入によって掛け金が増減しますが、国民年金は掛け金が一定額となっているという違いがあります(各都道府県によって金額が異なる)。ただしその分、受取額にも差が生じる事にはなります。
また、配偶者がいる場合、厚生年金は配偶者の収入が一定額以下であれば扶養とすることが出来るため、配偶者の掛け金は無料となりますが、国民年金はこの扶養という概念がなく、一人に対してそれぞれ支払い義務が生じることになります。
ですから、会社員時代の給与額が高く、支払っていた厚生年金額が高い場合は、独立後に国民年金に支払ったほうが安い場合もありますし、逆に高くなるという事もありえます。
ただし、将来的に受け取る年金額で考えると、絶対的に厚生年金のほうが高くなるため、「どちらが良い・悪い」という判断は、簡単にはできないという事です。
将来的な受取額を増やしたい場合には、「国民年金基金」といったいわゆる上乗せ保険に加入するか、もしくは「小規模企業共済」などに加入するという対策も考えられます。特に小規模事業者であれば、一度は小規模企業共済への加入も検討してみるのも良いかもしれませんね。
小規模企業共済について詳しくは、こちらの記事も参考にしてみて下さい。
個人事業主や中小企業の経営者が「節税」について考えたとき、書籍などで一度は目にしたことがあるはずの「小規模企業共済」ですが、意外とこれ、中身を理解していないどころか言葉すら知らない税理士がいるってご存じでしたでしょうか? …
損害保険
そして次が「損害保険」について。
ここで「えっ?損害保険が重要度で上位から3番目?そんなに重要かな?」と、考える方もいるかもしれませんね。しかし損害保険というのは、個人事業主やフリーランスとして活動していくためには、かなり重要な保険だといえます。
その理由として挙げられるのが、「個人事業主やフリーランスは立場が弱くなりがちである」という事。
業態にもよりますが、個人事業主やフリーランスは企業などから仕事の発注を受け、そこから報酬を得る形態が多くなります。
基本的に立場は対等なはずですが、どうしても「下請け」の意味合いが強くなってしまい、「報酬の未払い」「一方的な減額」「支払いの遅延」といったトラブルに巻き込まれることが多くなります。
ある調査では、フリーランスの約7割がこうしたトラブルに巻き込まれたことがあると答え、そのうち約4割が「弁護士費用などの負担」を理由に泣き寝入りしているようです。
現在、こうしたトラブルに対応している損害保険は少なく、費用負担も高くなりがちですが、未然にこうした被害を防ぐために損害保険の加入は検討しておいたほうが良いでしょう。
それでは、こうしたフリーランス向けの損害保険についていくつかご紹介します。
無料で最低限の保障が嬉しい「フリーナンス」
出典:フリーナンス
まずは、無料で最低限の補償をしてくれる「フリーナンス」というサービス。
こちらは東証1部に上場している「GMOインターネット」のグループ会社が運営するサービスです。無料とは言え、様々な補償内容が完備されており、個人事業主やフリーランサーにとっては有難いサービス内容となっています。
対象となる補償内容と、その支払限度額は以下の通りとなります。
- 業務遂行中の補償
- 例)自転車で配達中に通行人とぶつかり、ケガをさせてしまった等の補償。【1事故あたりの補償限度額】5,000万円
- 仕事の結果(PL責任)の補償
- 例)飲食物を提供した結果、食中毒が発生した場合などの補償。【1事故あたりの補償限度額】5,000万円
- 受託物の補償
- 例)依頼先や仕事場等の借用施設の壁や設備を誤って壊してしまった場合などの補償【1事故あたりの補償限度額】500万円
- 業務過誤の補償
- 例)情報漏洩、納品物の瑕疵、著作権侵害、偶然な事故による納期延期に対する補償【1事故あたりの補償限度額】500万円
以上の補償が全て無料で受けられるのですから、フリーランスとしては有難いところです。
また、こちらのサービスの特徴として、「請求書をフリーナンスが買い取ってくれ、即日入金してくれる」という利点が挙げられます。
いわゆる「ファクタリングサービス」と言われるもので、3%~10%の手数料は掛かりますが、運転資金がショートしそうなときはかなり役立つサービスです。
専用口座を開設するだけでスタートできますから、個人事業主やフリーランスの方は是非利用したいところです。
有料だが、弁護士補償もある「フリーランス協会」
出典:フリーランス協会
そして次が「フリーランス協会」です。
この協会、正式名称を「プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会」といい、個人事業主やフリーランスの活動を支援する目的で設立されています。
活動内容は多岐へと渡り、例えば「会員向けの福利厚生サービスを提供」していたり、「レンタルオフィスの割引利用」など、フリーランスにとっては嬉しい内容ばかりとなっています。
そのサービスの内のひとつとして、この「損害保険」を提供しており、これまでの損保業界にはなかった各種補償が付帯されています。
その内容としては、
- 賠償責任保険(自動付帯)
- 所得補償制度(任意加入)
- 報酬トラブル弁護士費用保険「フリーガル」(任意加入)
となっています。
「賠償責任保険」の内容は、前述した「フリーナンス」の内容とほぼ同じであり、補償額で言うと少しフリーランス協会の方が高くなっています。こちらは「自動付帯」となっていますから、このフリーランス協会に入会するだけで、自動的に付与されます。
「所得補償制度」に関しては、任意加入ですから別途保険料が必要となり、現在の所得額によって掛け金が変わってきますが、万一ケガや病気で働けなくなった場合、アナタの喪失所得を保険金として受け取る事が出来ます。
「自分が働けなくなったらどうしよう?」と、不安に思っている人には便利な内容ですね(※所得補償制度は、フリーナンスにも設定があります)。
そして最後の「フリーガル」ですが、こちらは年額5,000円を支払うだけで、50万円分の弁護士費用を補償してくれます。
個人事業主やフリーランスは、どうしても報酬トラブルに巻き込まれがちになりますが、弁護士費用の負担を考えると泣き寝入りする事が多くなってしまいます。しかし、この「フリーガル」に加入すれば、安心して取引先と交渉する事が出来るようになりますね。
仮に「50万円じゃ不安だ」という方の場合は、年額10,000円を支払えば120万円まで補償してくれますから、柔軟性の高い保険だと言えます。
どの保険もフリーランス協会に入会していることが加入条件となりますが、フリーランス協会の年会費は10,000円となっていますから、「転ばぬ先の杖」と考えれば安いものかもしれません。
生命保険
そして次が「生命保険」。
こちらは、当サイトがあれこれ言わなくとも、それぞれご自身で検討されているかと思います。
個人事業主がケガや病気で入院した際は、ほとんどの場合、国民健康保険で治療費を賄う事ができますが、ベッド代や食事代などには適用されません。
入院が長期に及んでしまえば、馬鹿にならない金額となりますから、計画的に加入を検討しましょう。
前述した損害保険もこの生命保険も、要は「リスク対策」という事になり、この辺は人それぞれ捉え方も違ってくるかと思います。しかし事業を行う上では何が起こるかは誰も分かりませんから、多少なりとも検討すべき項目だと言えます。
この辺について詳しくは、以下の記事もご覧になってみて下さい。
現在会社員である人が勤め先を退職して独立・起業する場合、「事業を拡大して成功したい」とか「好きなように仕事を進められる」などとワクワクしているかもしれませんが、実際に独立してみると、これまでに想像しなかったようなリスクに …
労災保険
次が「労災保険」について。
労災保険とは、通勤中や勤務中において事故が起きた場合、これらが原因によるケガや病気を補償する制度で、仕事を休んでいる間の「休業補償」や、障害を負った時の「障害補償」、そして死亡した場合の「遺族補償」が含まれています。
しかし、基本的に個人事業主は、この労災保険に加入する事ができません。
というのも、この労災保険の考え方は、あくまでも「労働者」を対象とするものですから、経営者である個人事業主には適用されないのです。もちろん、アナタが従業員を雇い入れたなら事業所として加入する義務は発生しますが、あくまでも従業員のための保険であるという事を理解しておきましょう。
ただし、先ほど「基本的に個人事業主は加入する事が出来ない」とお伝えしましたが、特例として「特別加入制度」というものが設けられています。
例えば、建設業における「一人親方」などはこれに該当しますし、全国各地にある「保険事務組合」を利用すれば個人事業主でも加入する事は出来ます。
しかし大抵の場合、個人事業主の治療費などは国保でカバーできることが多いため、あまり深く考える必要もないかもしれません。
また、国民健康保険には休業補償がありませんが、こちらは損害保険で対応すれば事が足りるかと思います。
雇用保険
そして最後が「雇用保険」です。
これは一人で活動している限り、個人事業主やフリーランスには全く関係の無い保険ですが、将来的に従業員を雇い入れた時に加入しなくてはならない公的保険です。
こちらの加入条件は幾つかありますが、その一つに「1週間あたり20時間以上従業員が働いている事」というものがありますから、従業員を雇い入れれば大抵の場合は加入が必要となるでしょう。
こちらに関しては、「そんな制度もあるんだなぁ」程度でも良いので覚えておきましょう。
実際に従業員を雇い入れる段階となった時、顧問税理士や社会保険労務士に相談すれば問題ありません。
まとめ
如何でしたでしょうか。
独立直後に一番気を付けなくてはいけないものは、「健康保険」と「年金」となり、多くの方が少しでもこれらの費用を安く抑えたいと考える事でしょう。
こちらに関しては、計画性をもって独立すればいくらでも費用を抑える事が出来ますから、あまり不安がる必要はありません。
しかし、経営が軌道に乗ってくると、「損害保険」については是非検討してもらいたいところです。「報酬未払い」や「所得補償」など、会社員時代には想像もしていなかったことがフリーランスには起こり得ます。
「生命保険」「労災保険」「雇用保険」に関しては、人それぞれ該当する場合としない場合がありますから、状況を見ながら検討していけば良いでしょう。