法人設立に必要な印鑑は、どんな種類や素材を選ぶべきか

法人を設立する際に準備すべき事はたくさんありますが、その中でも何より先に用意しておきたいのが「法人の印鑑」です。

ここ最近、新型ウイルスの影響で世界的に押印廃止の流れが加速しており、日本においても同様の動きがありますが、それでも当面は日本国内で法人を設立する限り、法人の印鑑は必要となります。

 

追記:2021年2月15日より、「一定の要件を満たす」ことで、法人設立時にこれまで義務とされていた印鑑届出の提出が「任意」となりました。ただし、完全に法人印が不要となった訳ではありません。詳細については後述。

 

しかし「法人の印鑑」と一口に言ってもその種類は幾つかあり、初めて法人を設立する人からすれば「どんな印鑑が必要で、素材や大きさはどうやって決めたら良いのか分からない」と悩んでしまうかもしれませんね。

そこでこの記事では、これまでコンサルタントとしてクライアント先に出向き、数多くの法人印を見てきた当サイト管理人がおススメする「法人印の選び方」などについてお伝えしようと思います。

法人の設立方法や費用について知りたい方は、こちらの記事を参考にしてみて下さい。

 

目次

法人印はなぜ必要なのか?

まずは「法人印はなぜ必要なのか?」という事について考えていきたいと思いますが、これは簡単な話「設立登記に必ず必要となる」からです(2021年2月15日から必須ではなくなりましたが、今後も必要となる場面があると言えます。詳細については後述)。

法人設立において、様々な書類を法務局に提出しなくてはなりませんが、その中に「印鑑(改印)届書」というものがあります。これは法人の実印を法務局に登録するための書類であり、個人が実印を市町村役場に登録するようなものですね。

この書類を提出する事で、そこに押印された印鑑が実印(代表者印)として認められることになり、その後、法人が重要な契約などを結ぶ際には、この実印を利用する事で「その契約は真正なものである」と証明する事が出来る訳です。

また、法務局に申請する「商業登記」や「不動産登記」などでは、この実印が必要となってきます(2020年3月30日から、不動産登記において印鑑証明書の提出が省略できるようになりました)。

この他に、「銀行印」や「角印」なども法人印とはなりますが、これらは必ず作成する必要はなく、必要に応じて作れば良いといったところでしょう。ですから、法人設立においては最低限「実印」だけでも用意しておかなくてはなりません

法人印の種類と特徴

次に、法人印の種類と特徴についても見ていきたいと思います。

実印(代表者印)

まずは「実印」についてから。正式には代表者印と呼ばれますが、一般的には会社の実印といった方が分かり易いかもしれませんね。

前述したように、法人を設立する上では、この実印だけは最低限作っておかなくてはなりません。この印鑑が無ければ設立登記をする事が出来ませんから、「必ず作らなくてはいけない印鑑」と覚えておきましょう。

この実印を作る際のルールとして、形や印影には規定はないのですが、大きさについてだけは「1辺が1cm以上、3cm以内」という決まりがあります。

一般的に多く作られるサイズが、丸型(丸印)で直径が16.5mmのものか、18mmのもののいずれかになりますが、ほとんどの会社が18mmの大きさを選択しています。

基本的に実印は、真ん中(中文)に「代表者之印」とか「代表者印」などと刻まれ、その外周(回文)に法人名が刻まれますから、会社名の文字数が多い場合には、稀に21mmという大きさを選択する事もあるようです。

【中文(ちゅうぶん)と回文(かいぶん)の説明】

※はんこプレミアムのサイトから引用

ただし、よほどの事が無ければ、18mmの大きさでも十分でしょう。

全体的な形状としては、持つところに少しカーブが入った「天丸(てんまる)」といったタイプを実印に採用する事がほとんどです。これは、天丸の場合にはキャップが付くことから「破損しにくい」という理由や、「個人印と区別しやすい」などと言った理由から採用されるようです。

銀行印

次が「銀行印」について。

これはその名の通り、銀行口座を開設するための印鑑となっています。稀に、銀行取引用の印鑑に実印を使用する会社も見受けられますが、銀行印は実印に比べて使用する頻度が多いですから、紛失などのリスクも考えれば、別に作成しておいた方が良いでしょう。

銀行印の場合には、真ん中(中文)に「銀行之印」と刻まれることが多く、その外周(回文)に法人名が刻まれることがほとんどですが、この点においてルールは全くありません。ただし、実印と見分けるために、少し変化は加えた方が良いでしょう。

【銀行印の印影】

※はんこプレミアムのサイトから引用

通常、印影は丸印とする事がほとんどで、その大きさは実印と同じく16.5mmと18mmのいずれかを選ぶことになると思いますが、実印と銀行印とを簡単に見分けられるようにするため、実印を18mm、銀行印を16.5mmとする会社が多いように思います。

また前述したように、実印の場合には全体の形状にカーブがある天丸というタイプを採用する事がほとんどですが、銀行印の場合には一般的な個人印のように「寸胴(ずんどう)」のタイプを採用するパターンが多いですね。

これも、実印と銀行印を簡単に見分けるための工夫のひとつです。

なぜ多くの会社が、ここまで印鑑を見分けるための工夫をするかというと、これは単純な話、いざ使おうと思ったときに似たような形状であると、かなりの確率で迷ってしまうからです。「そんなバカな」と思うかもしれませんが、実際に経験すると「あれ、どっちだったかなぁ~?」とほとんどの方が悩む事になる思います。

出来れば、銀行印は実印と簡単に見分けられるようにしておきましょう。

社印(角印)

そして次が「社印(角印)」について。

これまでサラリーマンとして働いていた人であれば、法人の実印や銀行印にお目にかかる事は少なかったと思いますが、この社印(角印)なら見たことがあるという人も多いでしょう。

この角印は、請求書や領収書に押印する事が多く、世間の認識としては「普段使いの会社印」といったところです。

ただし、会社印ではあるのですが、特に法的な裏付けがある訳ではなく、契約などには使用する事が出来ません。

ですから、必ず角印を作成する必要はないのですが、取引先から請求書などに押印を求められることもありますから、事業形態によっては作っておいた方が良いという会社もあります。

サイズや形状、文言などに規定は全くありませんが、概ねサイズは24mm程度のものを選ぶことが多く、形は角形、文言は社名のみという事がほとんどです。

ゴム印

そして最後が「ゴム印」について。

このゴム印は、最近では作成する企業も減ってきていますが、昔は封筒に押したり請求書に押したりすることを目的として、作成する企業が多かったように思います。

大抵は、「会社住所」「会社名」「代表者名」「電話番号・FAX番号」を記載しており、それぞれが分割できるように作っていることが多いです。

しかし最近は、プリンターで封筒に社名などを印刷する事が多くなっていますから、このゴム印は、一部の業種などを除けばあまり必要にはならないでしょう。

法人印の素材は、どんなものを選ぶべきか?

それでは次に、法人印を作る場合、どのような素材を選ぶべきかについて見ていきたいと思います。

昔から「印鑑といえば象牙」というイメージがありましたが、象牙は現在、条約によって取引が禁止されていますから、それ以外の堅い材質を選ぶこととなります。最近では「セラミック」「水晶」などといった材質も増えてきていますが、実際にこうした素材を採用している会社は少数派だと言えるでしょう。

その理由は様々ですが、やはり人前であまりにも変わった印鑑を出すというのは、体裁上よろしくないと考える人が多いからだと思われます。「自分はそんな事気にしない」というのであればどんな素材を採用しても良いとは思いますが、以下において、一般的に多くの企業が使用している印鑑の素材をご紹介しておきます。

価格重視なら「柘(あかね)」「薩摩本柘(さつまほんつげ)」

まず、とりあえず「価格重視」という人であれば、木製印鑑で一番安いとされる「柘(あかね)」「薩摩本柘(さつまほんつげ)」を購入したほうが良いでしょう。

特に柘は一番安く、業者によっては実印・銀行印・角印の3本セットで7,000円~12,000円程度で販売しています。薩摩本柘の場合は、それにプラス1,000円~2,000円程度を考えておけばいいでしょう。

どちらの素材も木材としては硬度が高いですから、「安くて、しかも丈夫」というのが売りとなっています。

しかし、あくまでも「木材としては」という程度ですから、どうしても年数がたつと欠けたりする可能性が出てきます。実際、当サイト管理人は、この柘の印鑑が欠けているという会社を何度も見ていますから、「頻繁に印鑑を利用する」「扱いが雑」という人にはあまりお勧めしません。

特に、実印が欠けた場合には、それを作り直して法務局に申請しなおす必要もありますから、破損が不安だという人は、少し高額でも強度の高い印鑑をお勧めします

一番無難な「黒水牛」

当サイトとしては、少し価格は上がりますが、使いやすさや硬度など様々な要素から考えれば「黒水牛」を印鑑の素材にするのが一番無難だと考えます。

実際、この黒水牛の印鑑を使用している法人で、印鑑が欠けているというのを一度も見たことがありません(もちろん、中にはあるのかもしれませんが)。

黒水牛とは「ウシ科」の動物の角(つの)を加工したものとなっており、もともとその角は昔から装飾品として使われてきました。角という事だけあり、木質よりもより強度の高い素材となっています。

金額的には多少高くはなりますが、それでも3本セットで10,000円から15,000円程度で購入できますから、柘と比べても驚くほど高いという訳でもありません。

印鑑は何年も使用するものですから、この程度の価格差であれば、最初から黒水牛を選んだ方がトータル的に見てお得だと思います。

法人の印鑑を購入する際の注意点

それでは上記でお伝えしてきた内容を踏まえて、法人の印鑑を購入する際の注意点について整理してみましょう。

印鑑購入時の注意点
  • 実印の直径は、18mmがベスト。
  • 実印の形状は、キャップ付きの天丸を選ぼう。
  • 銀行印は、実印と見分けやすくするために、直径16.5mmの寸胴が多い(天丸も可)。
  • 社印は無くても問題ないが、作成するなら24mmの角印が多い。
  • ゴム印を作成する企業は、最近では少数派。
  • 素材は出来たら「黒水牛」を選ぶのが無難(ゴム印はプラスチック)。

最低限、上記の内容であれば法人の印鑑で後悔する事は少ないでしょう。

また、「更にこだわりたい」という人であれば、以下の事についても意識してみて下さい。

更にこだわるなら
  1. 許可などの申請が多い会社は、「認印」も作っておこう(ただし、実印と見分けやすいように)。
  2. 印鑑の書体は、「印相体(いんそうたい)」「篆書体(てんしょたい)」を選択する。
  3. 出来ることなら、「印鑑ケース」も購入する。

まず上記1の「認印」についてですが、例えば許可を必要とする業種の場合などは、会社印を押印する頻度が多いため、それを全て実印で押印するのは怖いと考える人もいる事でしょう。

そうした場合は、別途認印を作ることで、紛失や偽造などを防止する事が出来ます。ただし、実印と書体や大きさなどを変えるなどの工夫は必要となります。

次に、「印鑑の書体」についてですが、これは出来れば「印相体(いんそうたい)」「篆書体(てんしょたい)」選んだ方が良いでしょう。いずれも偽造防止効果が高いため、特にこだわりがないのであれば、このいずれかの書体をお勧めします。

そして最後の「印鑑ケース」ですが、たまに「法人の印鑑を巾着袋に入れっぱなしにして無くしてしまった」などと言う経営者の方もおられます。

もちろん、考え方は人それぞれですから無理強いはしませんが、法人印を失くしてしまっては大変ですから、印鑑ケースは用意しておいた方が安心でしょう。

法人印の購入先

それでは次に、法人印の購入先についてもご紹介しておきます。

どれも金額的には3本セットで7,000円~15,000円程度で購入できますから、自分の気に入ったところを選択してみて下さい。ただし稀に「出来るだけ安く購入したい」と考えて、楽天やAmazonなどで異常に安い印鑑を購入する人もいるようですが、あまりにも安すぎる印鑑は、長期的に使用する事を考えればお勧めできません。

「法人設立ツール」を利用すれば、印鑑も購入できる

まずは、法人設立ツールを利用して、そこで一緒に印鑑も購入するという方法。

法人設立ツールとは、クラウド会計ソフト会社が提供しているツールで、そのツールを利用すれば、無料で法人設立の書類が完成してしまうという優れものです。

このツールを提供している会社は、「マネーフォワード」と「freee(フリー)」となっており、どちらを利用しても安く法人印が購入できるようになっています。

ただし、あまり選択肢が多くありませんから、「印鑑にはこだわりたい」という人には少し向かないかもしれません。

「特にこだわりも無いし、簡単にできるほうが良い」と考えている人ならお勧めの選択肢だと言えるでしょう。

法人設立ツールについて詳しくは、こちらの記事をご覧になってみて下さい。

 

印鑑専門の「ネットショップ」で購入する

そして次が、印鑑専門の「ネットショップ」で購入する方法。

こちらの場合、様々な素材や形から選ぶことができ、しかも金額的には前述した「法人設立ツール」で作るよりも安くなるので、個人的にはお勧めです。

また、「急いで印鑑を作りたい」という場合も、「翌日配送」に対応していることがほとんどですから、使い勝手もかなり良いと言えます。

以下で紹介するサイトは、どちらも印鑑の印影を事前に確認できるサービスを提供していますから、「事前に確認しておかないと不安だな」という人も安心して利用できます。

印鑑専門のネットショップ

それぞれ特徴が異なりますから、自分に合ったサイトで購入されてみては如何でしょうか。

法人印における法改正が続いている

それでは最後に、ここ最近政府が推進している「脱・ハンコ文化」についても触れておきましょう。

新型コロナウイルスの影響により、日本のハンコ文化がテレワーク推進の妨げになっているという事は、多くのメディアなどで報道されていますから、ほとんどの方が認識されていると思います。

そこで政府としては、押印を少しでも減らすための取り組みを行っており、代表的なものとして以下のような法案を成立させています。

脱ハンコへの法改正

不動産登記規則改正(2020年3月30日)
これまで不動産登記においては「印鑑証明書」が必要とされていたが、改正により「会社法人番号」を登記申請の際に提出する事で、これを省略することが可能となった。この他、印鑑証明書を利用する場合は、有効期限が3ヶ月までのもので良い事となった(以前は1ヶ月)。
商業登記規則改正(2021年2月15日)その1
商業登記において、それが「オンライン申請」であれば「印鑑(改印)届書」の提出が「任意」となった。ただし、書面申請であれば従来通り必要となる。
同上 その2
印鑑届書の提出、および商業登記電子証明書の請求がオンラインで行えるようになった。ただし、電子署名サービスの利用が必要となる。
同上 その3
登記申請や印鑑証明書の請求で、使用できる電子証明書の種類が増えた。

これら法改正よって、不動産登記、商業登記ともにほとんど印鑑が必要なくなったかのように思いますが、現実的には「完全に不要となった」とまでは言い切れません

例えば、法人が不動産の売買を行う場合、大抵は登記に司法書士が介在する事になりますが、司法書士は法律によって必ず「当事者の本人確認をしなくてはならない」とされています。

そこで当事者に対して身分証明書の提示などを求める事になりますが、一番重要となってくるのが「押印された印鑑と、印鑑証明書とでの印影確認」だと言えるでしょう。

司法書士とその顧客が何度も接しているのであれば、そこまで厳しく確認しないかもしれませんが、今回が初対面だとすれば「まず間違いなく印鑑証明書は必ず要求してくる」と思います。

世の中には言葉巧みに他人を欺こうとする人が残念ながら存在し、これは最近の報道などからも分かるように「大手ハウスメーカーが地面師に騙された」などと言う事件は記憶に新しいかと思います。

ですから、いくら法改正によって印鑑証明書が不要になったとはいえ、司法書士としてはこうした不正防止のために今後も印鑑証明書の提出を求めざるを得ないと思います。

また、商業登記において印鑑届書の提出が「任意」となったとありますが、この場合、「電子署名法」に準拠した「電子認証局」を利用する必要が出てきます。

この電子認証局は様々な法人などがサービスを提供していますが、どれも一定の利用料が必要となるため、法人を設立したばかりの人であれば少し躊躇するかもしれませんね。

この点からも、今後もこれまで通り法人印を使い続けるという人も多いかと思います。

そもそもこれらの改正は、法人印を作らなくてよくなったという訳ではありませんからご注意ください。

電子署名法電子認証局などについて詳しくは、こちらの記事も参考にしてみて下さい。