
昔から「ハンコ文化」の根強い日本ですが、様々なシーンにおいて印鑑を使用する必要があり、中には「ハンコを押さない日が無い」なんて人もいるかもしれません。
世界的に見ても、これだけ印鑑を必要とする国は日本以外にはほぼありません。
数年前から「脱ハンコ」について国会などでも審議されてきましたが、遅々として進まず、結局うやむやのまま今日まで至っている状態です。
しかし今回の新型コロナウイルスの感染拡大や、非常事態宣言の影響などにより、「押印のためだけに出社しなくてはならない」などといった不満が噴出したことから、ようやくこのハンコ文化を見直す動きが出てきています。
特に銀行においては、これまで融資の契約や口座開設など、多くの取引において印鑑を必要としてきましたが、ここにきて印鑑不要の「電子契約サービス」を打ち出す金融機関が増えてきています。
銀行側からすれば、こうした電子契約サービスの活用によって顧客とのやり取りが「非対面」となる事から、感染予防にも役立てる事が出来ますし、また、何度も客先へ足を運ばなくても済むことから経費節減にも繋がります。
この流れは銀行業界全体に押し寄せていますので、今後銀行との取引は「電子契約」が主流になると言えるでしょう。
そこでこの記事では、現時点(2021年3月)における銀行の電子契約サービス導入状況と、そのサービス内容などについてお伝えしようと思います。
ちなみに、電子契約について詳しく知りたい方は、こちらの記事も参考にしてみて下さい。
近年、テレワークの拡大と共に「電子契約」が注目されるようになってきましたが、この電子契約について調べると、必ずと言って良いほど「電子署名法」というキーワードが出現してくると思います。 この電子署名法ですが、言葉の感じから …
目次
銀行取引における電子契約の大まかな仕組み
それではまず、電子契約サービスを利用する事により、融資などの銀行取引がどのように変化するのかについて見ていきましょう。
以下の図は、これまでの銀行融資の流れと、電子契約サービスを導入した場合の流れを比較したものとなっています。
上記を見ると分かりますが、これまでは契約時において「面談」と「押印」が必要となりましたが、電子契約サービスを利用する事でこれが不要となり、銀行担当者と直接会う機会が減るというメリットが生じます。
押印が不要となるだけでなく、わざわざ出向かなくてもよくなるのですから、ソーシャルディスタンスの面から考えても便利だと言えますよね。
ただし注意しなくてはいけないのが、上記②の「面談」においては最低限銀行担当者と顔を合わせなくてはいけませんので、電子契約サービスを導入したからと言って、完全に「非対面」となる訳ではありません。
この辺については、各銀行ごとに取組みが異なると思いますが、今後はWeb会議システムなどを利用したサービスも登場するかもしれません。
銀行取引の電子契約によるメリット
それでは、銀行借入れ等が電子契約となる事によるメリットについて考えてみます。
- 紙の契約書ではないため、印紙代がかからない
- 書類の郵送も不要となるため、切手代、郵送料等も不要となる
- 契約書の記載などは自宅などで処理できるため、銀行に出向く必要がなくなる
- 基本的に、インターネット上でいつでも処理できるため、銀行の営業時間を気にする必要もない
- 契約書原本の保管が不要となり、紛失や盗難などの恐れがなくなる
- 契約書の検索、閲覧が容易となる
まず、紙を必要としない契約となるため「印紙代」が不要となりますし、契約書の郵送における郵送料も不要となるため、これだけでもかなりのコスト削減に繋がります。また、原本の保管が不要となりますので、紛失・盗難の恐れも無くなり保管スペースにかかる費用も削減する事が出来ます。
契約書や領収書に貼り付ける「印紙」ですが、この取り扱い方法や金額については、印紙税法という法律で一定のルールが決められています。 しかし、内容が複雑な事や頻繁にある法改正の為、しばしば「この場合、どう処理したらいいのかな …
なにより、全てインターネット上で完了するため、押印と面談が省略できますから、新型コロナウイルス感染対策としても効果を発揮できると言えるでしょう。
銀行の営業時間を気にする必要もありませんから、多忙な人にとっても有難いサービスだと言えますね。
銀行取引の電子契約によるデメリット
このように、電子契約は便利なサービスではありますが、メリットばかりという訳ではなくデメリットも少なからず存在します。
- 不正アクセス、改ざんの可能性
- 契約書の有効性について、裁判で争いになる可能性
- サービス提供会社(銀行等)の倒産など
- 全ての銀行取引が、電子契約で完了する訳ではない事
まず、「不正アクセス・改ざんの可能性」ですが、これはインターネットを利用するサービスである限り、絶対に起こらないとは言い切れません。この部分については、各銀行とも「サービス利用規定」の免責条項などで触れているため、事前によく確認する必要があります。
もちろん、多くの銀行が高度な技術を用いてセキュリティーを強化していますので、改ざんなどの可能性はかなり低いと言えますが、こればかりはそれぞれの判断に委ねられると言ったところでしょう。
また、こうした銀行が提供する電子契約サービスにおいては、データ保管などを銀行自身で管理する事が多いため、その銀行が倒産してしまった場合、その後の契約書の取扱いがどうなってしまうかも心配なところです(銀行が提携しているサービス提供会社が倒産した場合も同様)。
現在、この電子契約サービスは始まったばかりですので、契約書の有効性自体を争う裁判も起きていませんから、そういった点でも今後どうなるのか分からないという不安も残ります(ただし政府としても、法改正などを検討しているようです)。
現状、法人が利用できるサービスはまだまだ少ない
このように、デメリットもそれなりにある電子契約サービスですが、それを上回るメリットがあるため、時代の流れとしては今後ほとんどの銀行がこのサービスを提供していく事と考えられます。
この流れは数年前から始まっていますが、当初は個人向けの「住宅ローン」向けのサービスが主流で、現在においても法人向けのサービスは数えるくらいしかありません。
現在、住宅ローン向けの電子契約サービスを提供している銀行はかなりありますが、現時点(2021年3月)において法人向け電子契約サービスを提供している銀行は以下の通り。
これ以外にあるかもしれませんが、現在確認できる銀行は上記くらいしかありません。
特に、三井住友銀行とみずほ銀行はこの電子契約サービス事業に力を入れており、三井住友銀行などは全国の銀行に対し、「今後自社のシステムを提供していく」と発表しています。
ですから、今後数年の間に、法人向けのサービスを取り扱う銀行が急激に増加するものと考えられます。
なお、銀行によっては電子契約サービスを無料で提供している場合と有料で提供している場合があるのでご注意ください。
対象となる取引と、対象外の取引
ではこの銀行による電子契約サービスですが、どのような取引が対象となり、逆にどのような取引が対象とならないのかについても見ていきましょう。
基本的に、個人向けのサービスは住宅ローンでの契約のみが対象となりますので、ここでは法人向け(個人事業主含む)のサービスについてご紹介します。
- 金銭消費貸借
- 特殊口座貸越
- 保証
- 銀行取引約定書等
基本的に、銀行借り入れなどはすべて対象となり、それに紐づく連帯保証なども電子契約サービスで対応する事が可能となります。
続いて、電子契約の対象外となる取引について。
- 抵当権設定
- その他、法律において「紙による契約でなければならない」と定められているもの
各銀行とも電子契約の対象となるサービスを拡大していますが、上記のように「抵当権の設定」などは対応できていないようです。
基本的に抵当権の設定は銀行が行うサービスではなく、司法書士に依頼するものですから、これについては仕方がないとは言えます。とはいえ、借り入れには抵当権の設定がセットであることが多いですから、完全に「非対面」となる訳ではない事が分かります。
日本国内には様々な士業が存在し、それぞれ役割が異なります。 一般の方であれば弁護士や税理士などに対しては、「訴訟を代理する人だな」とか「税金の専門家だな」などとすぐにイメージできるかもしれませんが、司法書士となると「何を …
その他、法律において「紙による契約でなければならない」と定められている契約においても電子契約の対象外となりますが、こちらについては現在政府も法改正などの対応を急いでいますので、今後対象となる契約類型が増える可能性は考えられます。
まとめ
現在、銀行側からすればこの電子契約サービスを広めていきたいと考えており、今後数年間のうちに、ほとんどの銀行がこの電子契約に対応すると見られています。
とは言え、現状においてはあくまで「紙か電子かで選択できる」という段階ですから、必ずしも電子契約を利用しなくてはいけないという訳ではありません。
しかし、今後はどうなるか分かりませんので、経営者の方や経理担当者、会計事務所の方などは今のうちから取引銀行などに問い合わせおいた方が良いでしょう。