
「法人設立」と聞くと何だか小難しいイメージがありますが、実は設立すること自体は意外と簡単で、プロに任せれば数日で作れますし、全くの素人であったとしても多少の時間はかかるでしょうが十分設立は可能です。
むしろ問題となってくるのが法人設立「後」であり、ここまで全て自力でやるとなれば相当の時間と覚悟が必要となります。
税務署への申請だけでなく、都道府県や労働基準監督署など、ありとあらゆる行政に申請書を提出しなくてはならず、また更には、銀行などの金融機関へも口座開設のための書類を出さなくてはいけませんから、とにかくやるべきことが山のようにあります。
法人設立後に提出しなければいけない書類については、こちらの記事も参考にしてみて下さい。
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ただそうは言っても、「でも、出来るだけ費用を抑えたいから、全て自分でやる」という人もいるでしょうから、考え方は人それぞれでしょう。
しかし、自分一人で全て行うとなればそれだけ時間も浪費しますから、その間は本業に手を付けられないため、ある意味、経営面でみればマイナスとも取れますよね。
経営をうまく行うためには「自分の苦手なことは他人に任せる」という考え方も重要ですから、「自分は本業で稼ぎ、苦手なことは専門家にお願いする」といった割り切りも必要です。例えば「法人の設立登記までは自分でやる。でも、その後の手続きは税理士などのプロに任せよう」といった手段も考えられると思います。
そこでこの記事では、法人を設立する方法の選択肢やその費用、またそれぞれの注意点などについてお伝えしようと思います。現在法人設立を検討している人は、それぞれ自分に合った方法を見つけて頂ければと思います。
目次
法人の種類
まずは「法人の種類」についてから。
細かく言えば、社団法人や財団法人なども法人とはなりますが、代表的な法人としては以下の4つが挙げられます。
- 株式会社
- 合同会社
- 合名会社
- 合資会社
ここで上記3の「合名会社」と4の「合資会社」に関しては、株式会社や合同会社などと異なり、経営者に「無限責任」が課されますので、一般的にこちらを選択する事はまずありません(合資会社は、一部有限責任もあり)。
ですから通常、法人を設立するとなれば、有限責任となる「株式会社」か「合同会社」を選択する事になるでしょう。
※有限責任とは、出資の範囲内だけで責任を問われるという事になります。これに対して無限責任はその言葉の通り「無限」つまり、限度なく責任を問われるという事ですから、極論、代表者の個人資産なども奪われてしまう可能性があるという事です。
株式会社と合同会社の違いについて詳しく知りたい方は、こちらの記事も参考にしてみて下さい。
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法人設立の流れ
それでは、株式会社と合同会社のいずれかを設立するという前提で、法人を設立するまでの流れを簡単に説明していきます。
まず、法人設立の登記を法務局に申請するという点では、株式会社も合同会社も変わりありませんが、この二つの一番の違いとして「定款認証(ていかんにんしょう)の有無」というものがあります。
そもそも定款というのは、その会社の名称や目的などを記載したいわば「会社の基本的な内容やルール」が記載されたものであり、これは株式会社も合同会社どちらも「作成」しなくてはいけません。
しかし、それを公証役場に持ち込み(電子申請も可)、定款認証を受けなくてはならないのが株式会社の方だけとなっています。
ですから合同会社の設立は、この1ステップが省略されるという理由から、ネット上や書籍などでは「合同会社の方が設立が簡単」「費用が安く済む」と言われているのです。
その後の流れは両社とも同じで、「出資金(資本金)の払い込み」⇒「法務局へ申請」といった順に進んでいきます。以下の図がその流れを簡単に説明したものとなっています。
法人を設立する方法の選択肢と、それぞれのメリット・デメリット
それでは次に、法人を設立する方法の選択肢について見ていきましょう。
それぞれメリット・デメリットがありますから、それについても併せて解説していきます。
自分で設立する
まずは「自分で設立する」という方法から。
- 費用的に安く済ませる事が可能。
- 最近ではインターネット上に申請書類の「ひな形」や、作成方法などが多数掲載されているため、少し頑張れば素人でも作成が可能。
- 完全素人であれば、書類作成に膨大な時間がかかる。
- 登記内容に不備が発生する可能性が高く、その場合、登記を受け付けてもらえない。
- 税務における知識がないと、法人設立後に税金面で損をする可能性がある。
現在はインターネット上で「法人設立に必要な書類のひな形」であったり、「法人設立の解説動画」などもありますから、こうした書類作成を苦に思わない人であれば、意外と簡単に法人設立は完了してしまいます。
しかしその反面、「作成に時間がかかる」「法務局に登記を受け付けてもらえない」などといった可能性もあり、やはり素人が作成するのは少し不安が残ります。
仮に登記を受け付けてもらえなかった場合、想定していた日付に設立が出来ませんから、例えば「令和3年3月3日」といったゾロ目狙いの設立も不可能になるという事です(ちなみに、設立日は土日や休日などには設定できませんからご注意ください)。
また、法人の資本金額なども注意が必要となり、例えば資本金が1,000万円以上であれば、設立初年度から消費税の課税事業者となるなど、ある程度の税務知識がなければ後々痛い思いをする可能性もあります。
資本金の額の設定などについて詳しく知りたい方は、こちらの記事も参考にしてみて下さい。
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専門家(司法書士)に依頼する
次が、「専門家(司法書士)に依頼する」という方法について。
- 急いで設立したい場合でも対応でき、最短1~2日でも設立可能。
- 公証役場や法務局などへ自分で行く必要がない(司法書士が全て代行)。
- 難しいことは全てお任せできる。
- 費用面で一番高額となってしまう。
- 税務知識の乏しい司法書士であれば、法人設立後に税務上の問題が生じる事もある。
法人設立の専門家と言えば司法書士ですが、稀に「行政書士にも法人設立を依頼できるんじゃないの?」と考える人もいるようですが、行政書士では法人設立登記を扱う事が出来ません。
ここでややこしいのが、法人設立における「定款認証」の代行については行政書士でも行えるため、よく行政書士事務所のHPなどで「法人設立は行政書士にお任せください」などと宣伝していることがあるのですが、法務局への申請は行政書士では出来ませんのでご注意ください。
さて、専門家である司法書士に依頼するメリットは、何と言っても「スピードが速い」「ミスがほとんどない」という点が一番かと思いますが、その分費用が高額となってしまいます。
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ですから、「少しでも費用を抑えたい」という人には向きませんが、「確実に、安心して法人を設立したい」という人にはお勧めの方法ですね。
ただし注意点として、司法書士の中にも税務に詳しい人もいるにはいるのですが、それはかなり少数となりますから、税務知識の乏しい司法書士に依頼した場合、法人の設立の仕方によっては、設立後に税務上の問題が生じる可能性もありますから注意が必要となります。
司法書士を探したいという人は、こちらの記事も参考にしてみて下さい。
日本国内には様々な士業が存在し、それぞれ役割が異なります。 一般の方であれば弁護士や税理士などに対しては、「訴訟を代理する人だな」とか「税金の専門家だな」などとすぐにイメージできるかもしれませんが、司法書士となると「何を …
税理士に丸投げ
そして次が「税理士に丸投げ」という方法について。
ここで、「えっ、さっき法務局への申請は司法書士にしかできないって言ってたよね?」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんね。
確かにその通りで、税理士であっても法務局への登記申請代行は違法となります。しかし、一部の税理士事務所などにおいては司法書士事務所をグループ化していたり、または外部司法書士などと提携するなどして、顧客から受注した案件を司法書士に外注しているという場合もあるのです。
この場合、税理士が主導して法人の設計を行いますから、税務上における問題が生じにくいというメリットがあります。
また、中には「法人設立費用は、当事務所が全て持ちます」などと宣伝している税理士事務所もあり、その場合の顧客側負担はゼロとなりますから、これはかなりお得ですよね。
しかしその分、ある一定期間はその税理士事務所と顧問契約を結ばなくてはいけませんから、これに関しては人それぞれ判断の異なるところでしょう。
いずれにしても、法人設立後にはほとんどの会社が税理士事務所と顧問契約を結ぶことになるでしょうから、その事務所の質さえ高ければお得な選択肢だと言えますね。
- 税理士が税務上問題のないように法人を設計してくれる。
- 法人名など最低限の事さえ決めてしまえば、あとは全てお任せも可能。
- 場合によっては、設立登記に必要となる費用が無料になることも。
- 大抵の場合、法人設立後は一定期間その税理士事務所と顧問契約を結ばなくてはならなくなる。
クラウド会計ソフト会社の「法人設立ツール」を利用
そして最後が、クラウド会計ソフト会社が提供する「法人設立ツール」を利用する方法について。
現在、世の中には数多くのクラウド会計ソフトがありますが、その中でもマネーフォワードとfreee(フリー)という企業は、法人設立が簡単に行えるツールを無料で提供しています。
もちろん、登録免許税などはかかってきますが、ツールを利用する費用は無料ですから、「自分だけで調べながら設立するのは不安。でも、少しでも費用を安く抑えたい」という人にはかなりお勧めの選択肢です。
現状、弥生会計を提供する弥生もこうしたツールを提供していますが、機能性で言えばマネーフォワードかfreee(フリー)利用したほうが便利だと言えます(弥生は合同会社設立に対応していない)。
法人設立をするとなれば、ほとんどの場合は会計ソフトを利用しなくてはいけませんから、そのままそのソフトを利用すれば互換性もありますし、また、「ついでに税理士も紹介してほしい」といった場合には、各社とも「税理士紹介サービス」を提供していますから、そこで税理士を探すことも簡単にできます。
詳しくは、こちらの記事も参考にしてみて下さい。
現在、法人の設立を検討している人であれば「司法書士に依頼すれば簡単なのは分かってるけど、結構お金が掛かるしなぁ~・・・」とか、「自分で調べて書類を作れば安く済むだろうけど、時間もかかるし不安だなぁ」なんて事を考えているか …
法人設立に必要となる費用については後述しますが、司法書士に依頼するよりはかなり費用を抑える事が可能となります。
- 自分でイチから調べるよりはかなり簡単。
- 司法書士に依頼するよりも費用を安く抑える事が出来る。
- 最悪の場合、司法書士を安価に紹介してくれることもある(freeeのみ)。
- 法人印の作成も依頼できる。
- 法務局への申請は、自分で行わなくてはならない。
それぞれの方法による法人設立費用の比較
それでは次に、それぞれの方法による法人設立費用の比較について見ていきましょう。
上記でご紹介した方法において、株式会社設立の場合と合同会社設立の場合に分けて整理していきますが、「税理士に依頼した場合」については、状況や契約内容によって変わってきますから、ここでは省略したいと思います。
まずは「株式会社設立の場合」から。
自分で設立 | 司法書士に依頼 | 法人設立ツール | |
---|---|---|---|
定款印紙代(※1) | 40,000円 | 0円 | 5,000円 |
定款認証代(※2) | 52,000円 | 52,000円 | 52,000円 |
登録免許税 | 150,000円 | 150,000円 | 150,000円 |
手数料・報酬 | 0円 | 77,000円(※3) | 0円 |
合計 | 242,000円 | 279,000円 | 207,000円 |
(※1)電子定款の場合は無料となります。通常、司法書士に依頼すれば電子申請を選択します。
(※2)定款認証代は、公証人に支払う手数料50,000円プラス、2,000円程度の費用がかかります。
(※3)上記金額は、当サイトが集計した平均報酬額に消費税を含めた金額となっています。もちろん、ここから前後する可能性があります。
そして次が「合同会社設立の場合」。
自分で設立 | 司法書士に依頼 | 法人設立ツール | |
---|---|---|---|
定款印紙代 | 40,000円 | 0円 | 5,000円 |
定款認証代(※1) | 0円 | 0円 | 0円 |
登録免許税 | 60,000円 | 60,000円 | 60,000円 |
手数料・報酬 | 0円 | 77,000円 | 0円 |
合計 | 100,000円 | 137,000円 | 65,000円 |
(※1)合同会社の設立に定款認証は不要となります。
このように、クラウド会計ソフト会社が提供する「法人設立ツール」を利用すれば、かなり安く、しかも簡単に法人を設立する事が出来ますから、現在法人設立を検討している人であれば、一度は検討してみてみるのも良いかと思います。
法人設立ツールについて詳しく知りたい方は、こちらの記事も参考にしてみて下さい。
現在、法人の設立を検討している人であれば「司法書士に依頼すれば簡単なのは分かってるけど、結構お金が掛かるしなぁ~・・・」とか、「自分で調べて書類を作れば安く済むだろうけど、時間もかかるし不安だなぁ」なんて事を考えているか …
その他、知っておきたいこと
最後に、法人設立においてその他にも知っておきたいことをご紹介しておきます。
まず、「法人印」についてですが、これは登記申請時に必要となるため「登記申請前」に用意しておく必要があります。これについて詳しくは、こちらの記事も参考にしてみて下さい。
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