
簿記検定と聞けば、日商簿記の知名度が圧倒的に高く、全経簿記検定をご存知の方はあまり多くないかもしれません。
会計系の資格の中でもマイナーとされている「全経簿記検定」ですが、税理士試験合格を目指す人にとって、何かと都合の良い試験だとも言えます。
その一番の理由が、「税理士試験の受験資格を得られる」ことにあるでしょう。
税理士試験の特殊性として、受験するには「受験資格」が必要とされる事が挙げられます。
受験資格の内容は多岐に渡りますが、その一つにこの「全経上級合格者」があるのです。
同様に、日商簿記検定1級も税理士試験の受験資格として知られていますが、相対的に全経上級の方が難易度が低いとされ、「とにかく、少しでも早く税理士試験を受験したい」という方にはおススメの簿記検定だと言えます。
また、税理士試験を受験しない方にとっても、就職や転職に役立つ資格だと言えるでしょう。
日商簿記1級より難易度が低いとはいえ、多くの場合、この全経上級に合格するためには資格の専門学校に通学する事が多いようです。
しかし、「独学で何とか合格したい」と考えている人もいる事でしょうから、この記事では全経上級の「試験概要」と、独学合格するための「お勧めのテキスト」についてお伝えします。
目次
全経上級の試験概要
全経簿記とは、「公益社団法人 全国経理教育協会」という団体が主催する簿記検定で、「基礎」「3級」「2級」「1級」「上級」という順で難易度が上がっていく検定です。
日商簿記との比較においては、日商簿記2級が全経1級と同程度、日商簿記1級が全経上級と同程度のレベルとされています。
以下において、試験内容について説明しますが、内容の変更が発生する場合がありますので、必ず全国経理教育協会の公式HPをご確認ください。
試験スケジュール、開催場所
開催日は毎年異なりますが、基本的に全経上級は毎年7月と2月の年2回開催となっています。
どちらも日曜日に開催され、開催場所は協会が指定する専門学校となります。詳しくは協会HPをご覧ください。
合格基準
各級とも1科目の満点を100点とし、7割以上の得点で合格となります。
上級の試験科目は、「商業簿記」「会計学」「工業簿記」「原価計算」の4科目ですから、合計の満点が400点となり、その7割である280点以上の得点で合格となります。
しかし、上級のみの制限として、仮に合計280点以上を取得したとしても、1科目でも40点未満の科目があれば合格とはなりません。
要は、「足切り」があるという事ですね。
つまり、全経上級に合格するためには、全ての科目において「幅広い理解力を求められる」という事です。
出題範囲、試験時間
前述しましたが、全経上級の試験科目は「商業簿記」「会計学」「工業簿記」「原価計算」の計4科目となります。
合格者に求められる内容としては、
商業簿記/会計学
上場企業の経理担当者ないし会計専門職ならびに将来、税理士・公認会計士を目指すものとして、最新の会計諸基準を理解し、これに基づく財務諸表を作成できる。また、会計数値の意味を理解し、経営管理者として会計情報を利用できる。
工業簿記/原価計算
製造・販売過程に係る原価の理論を理解した上で、経理担当者ないし公認会計士を含む会計専門職を目指す者として、原価にかかわる簿記を行い、損益計算書と貸借対照表を作成できる。また、製造・販売過程の責任者ないし上級管理者として、意思決定並びに業績評価のための会計を運用できる。
とあります。
なんだか難しいように思いますが、要は「会計学として、最高のレベルを求めますよ」という事だと言えます。
試験時間は「商業簿記、会計学」で90分、「工業簿記、原価計算」で90分の合計180分となります(途中休憩有り)。
当日持参するもの
日商簿記検定のHPには「当日持参するもの」が明記されていますが、全経上級にはそれがありません。
しかし内容的には変わりませんので、最低限、以下のものを揃えておけば問題無いと言えます。
- 受験票
- 身分証明書
- 筆記用具
- 計算用具
- その他:時計
まず、身分証明書に関しては、原則として「氏名」「顔写真」「生年月日」が確認できるものが必要ですので、学生証や免許証、パスポートなどが必要となります(日商簿記には、このように明確に指定されていますが、全経上級にはありません。ですから、必要ないかもしれませんが、一応持っていきましょう)。
次に、筆記用具ですが、HBまたはBの鉛筆、シャープペン、消しゴムのみとなります。
そして最後の計算用具ですが、一応、そろばんの持ち込みも可とされていますが、現実的にはほとんどが電卓(計算機能のみ)となるでしょう。
ここで、簿記検定を受験するなら、電卓は必須となりますので、早めに揃えておきましょう。
基本的に、カシオ製かシャープ製のどちらかになると思いますが、自分にとって使いやすい物であれば良いと言えます。
ただし、最低限12桁表示の電卓を選びましょう。
念のため、電卓の一例をお伝えしておきます。
どちらも5,000円前後はしますので、一般的な電卓より高額となりますが、今後、税理士試験や公認会計士試験合格を目指すなら、これらの電卓に慣れておいた方が良いでしょう。
というのも、こうした会計の試験というのは「時間との闘い」でもあるので、ある程度の早打ちが要求されます。
上記の機種は、そういった早打ちにも対応しているため、多くの受験者に愛用されているのです。
また、当日持参するものその他として「時計」を記載していますが、これは結構忘れがちですから、必ず覚えておきましょう。
繰り返しになりますが、簿記試験は「時間との闘い」でもあるので、いくら解答内容が正確だからと言っても、時間内に書き込めなければ合格には至りません。
試験時間の配分を考えながら、答案用紙に書き込むことも合格のカギを握ります。
時計を忘れると焦りにも繋がりますから、時計は忘れずに持っていきましょう。
受験者数と合格率
日商簿記検定1級は受験者数において、全経上級を遥かに超えますが、合格率は毎年10%程度と、かなり難しい試験となっています。
その点、全経上級試験は受験者数は少ないものの、合格率は15%~20%と安定しており、日商簿記1級よりも合格しやすいと言われています。
全経上級の受験者数と合格率は以下の通り。
第193回は、2019年2月開催のものとなっています。
上記を見ると、毎回受験者数は2,000人程度で推移しており、合格率も15%を下回る事はありません。
こういった事から、全経上級は会計資格の中でも「狙い目」の資格と言われるのです。
テキスト選びのコツ
日商簿記検定のテキストに関して言えば、かなり多くのものが販売されていますから、逆に迷うくらいですが、全経上級のテキストは種類が少なく、多くの人が「何を利用して勉強したら良いんだろう?」と考えるようです。
基本的に、全経上級試験は毎回同じような問題が出題される事が多く、特定のテキストを使用しなくても、過去問さえしっかり解ければ合格できると言われています(某大手専門学校講師談)。
ですから、あまり心配しなくても良いでしょう。
しかし、完全初学者がいきなり全経上級を目指すのは無謀とも言えますので、まずは日商簿記2級合格程度の実力をつけてからの挑戦をお勧めします。
日商簿記2級を独学で目指すなら、まずは下記の記事を参考にしてください。
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また、全経上級を受験する場合、日商簿記1級の勉強と同時に取り組むことが多いですが、むしろ日商簿記1級の内容を理解できれば、あとは全経上級の過去問を繰り返し解くだけで合格に近づくことが出来ます。
日商簿記1級の受験も考えている人は、こちらの記事も参考にしてみて下さい。
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どうせ日商簿記検定の勉強をすることになるのですから、日商簿記に特化したテキストを販売している出版社ひとつに絞って購入したほうが何かと便利です。
というのも、各出版社とも「テキストのクセ」というのがあり、一度その出版社のテキストに慣れてしまうと、違う出版社の教材に慣れるまで時間がかかるのです。
当サイトではTAC出版をお勧めしていますが、どこの出版社も内容的には優劣はありませんから、自分に合った出版社を決め、最後まで統一させることが重要です。
全経上級合格お勧めテキスト
前述しましたが、全経上級を受験する場合、多くの人が日商簿記1級も同時に勉強する事がほとんどです。
かなりの勉強時間を必要とし、一見、遠回りのように思えますが、実はこれが一番効率的な方法です。
その「日商簿記1級と同時進行」の勉強方法としては、まずは「スッキリわかる日商簿記1級(全8冊)」で、日商簿記1級における基本的な知識を理解します。
これはテキストと問題が一体となっているため、インプットとアウトプットが効率よく行えます。
次に、これと並行して、「究極の会計学理論集 日商簿記1級 全経上級対策」において理論対策を行います。
日商簿記1級および全経上級と、日商簿記2、3級との違いの特徴として「理論問題の有無」があります。
日商簿記1級は、そこまで難しい内容は出題されませんが、全経上級は、むしろ理論問題に力を注ぐ必要があります。
また、日商簿記1級や全経上級の合格を目指す人は、そのまま税理士試験や公認会計士試験を目指すことが多く、ここで勉強したことは、そのまま知識として生かされます。
向き不向きはありますが、長期的な視野で勉強を進めるのであれば、この理論対策は重要となるでしょう。
そして次に、上記の「スッキリわかる日商簿記1級(全8冊)」をある程度理解した後は、「合格するための過去問題集 全経上級」で過去問を繰り返し解きます。
どんな資格でもそうですが、毎年、同じような出題の傾向があり、過去問を繰り返し解くことで、自然とその傾向を掴むことが出来るようになります。
また、実際に時間を計り、本番さながらの状態でどれだけ過去問が解けるかを試すことも、試験対策としては重要です。
ですから、過去問は出来るだけ多く問題を解きましょう。
ここで余裕があれば、更に「合格するための過去問題集 日商簿記1級」の問題を解くのも有効です。
基本的に、日商簿記1級と全経上級の出題範囲は「ほぼ同じ」と言えます。ただし、内容としては日商簿記1級の方が難しいため、全経上級の過去問ではカバーできない部分を補う事も出来ます。
また、ここまで勉強せずとも、日商簿記2級に合格した後、「合格するための過去問題集 全経上級」と、「究極の会計学理論集 日商簿記1級 全経上級対策」の勉強をするだけでも、十分に全経上級の試験対策にはなります。
ただ、しつこいようですが、出来たら日商簿記1級と同時に試験対策を進めたほうが効果的と言えます。
スッキリわかる日商簿記1級(全8冊)
著者 : TAC出版開発グループ
出版社: TAC出版
定価 : 17,600円(8冊合計)税込
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以上全てを、アマゾンもしくは楽天で購入すると、合計24,750円、TAC出版の会員となれば21,395円となります(TAC出版の値引き率は、時期により異なります)。
資格の専門学校において、日商簿記試験対策の講座は数多くありますが、全経上級の講座はあまりないのが実情です。
仮に講座があったとしても、日商簿記1級対策とセットになっている事が多いですので、独学の方がむしろ便利かもしれません。
ちなみに、日商簿記1級合格のために資格の専門学校に通うとなれば、100,000円~200,000円の学費が必要となります。
当記事は、2022年6月時点で最新の情報をもとに作成しています。ですから、掲載している書籍は現時点で最新のものとなっていますが、法改正等があった場合は必ず最新の内容と比較するようお願い致します。
なお、税額については10%の表示となっています(2019年10月更新)。
適宜、最新の情報に更新していきますが、ご理解の程お願いいたします。
勉強方法
上記のテキストを利用して、順に理解を深めていけば、独学で1発合格も夢ではありません。
繰り返しになりますが、勉強の順番を整理すると、
- ①まずは最低限、日商簿記2級合格程度の実力をつける。
- ②「スッキリわかる日商簿記1級(全8冊)」でテキストを読みながら問題を解く。並行して「究極の会計学理論集 日商簿記1級 全経上級対策」で、理論を理解する。
- ③上記で理解を深めた後「合格するための過去問題集 全経上級」で過去問を繰り返し解く。余裕があれば「合格するための過去問題集 日商簿記1級」にも着手
- ④理解度に応じて、上記②、③を繰り返し行う。
上記のテキストがあれば、合格に必要な知識は十分に得る事が出来ます。あとは、「繰り返し問題を解く」事がカギとなりますので、時間の可能な限り問題を解くクセをつけましょう。
まとめ
本記事の内容は、全経上級合格を保証するものではありませんので、ご注意願います。
しかし、上記のテキストのみで合格している人がいる事を考えると、あながち無理とも言えず、チャレンジしてみる価値はあると言えます。
繰り返しになりますが、全経上級合格のポイントは、「理論」と「過去問」という事を覚えておきましょう。
また、この記事をご覧になって、「自分に独学は向いていないな」と感じた方は、以下の記事もご覧になってみて下さい。
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