日商簿記1級の概要と、独学合格するための「お勧めテキスト」

日商簿記検定と聞けば、多くの人が2級もしくは3級を思い浮かべると思います。

日商簿記2級合格程度の知識があれば、就職や転職に役立ちますし、実際に仕事にも活用できます。

しかし、日商簿記検定1級となると、「難しすぎる」というイメージが先行して、なかなか受験に挑戦しようという気持ちにはならないかもしれません。

実際、税理士試験の合格者でも、この日商簿記検定1級に合格出来なかった人が多いようです。

年々試験の難易度も上がっているようですし、そもそも合格の基準が「大学程度の商業簿記、工業簿記及び原価計算並びに会計学を修得」とありますから、合格までの道のりは険しいと言えるでしょう。

しかし、税理士試験合格を目指すなら、「受験資格」を得られる資格ですし、日商簿記1級の試験内容と税理士試験の試験内容は、重複する箇所がかなりあるのでチャレンジする価値はあります。

また、公認会計士試験を受験しようとしているのなら、「腕試し」という意味でも便利な資格だと言えます。

通常、日商簿記3級、2級程度であれば、独学で合格を目指す人が多いと思いますが、日商簿記1級となると、資格の専門学校に通う事が多くなります。

とは言っても、独学での合格が絶対に無理という訳ではなく、工夫さえすれば短期での合格も可能となります(実際に、独学で合格されている人もいます)。

そこでこの記事では、日商簿記1級を独学で合格する事を目指している方のために、「試験の概要」や、「独学にお勧めのテキスト」などについてお伝えします。

日商簿記の「ネット試験」や、2021年度から始まる「新試験方式」などについて知りたい方は、こちらの記事を参考にしてみて下さい。

 

目次

日商簿記検定1級の試験概要

まず、日商簿記は正式名称を「日本商工会議所及び各地商工会議所主催簿記検定試験」と呼び、日本商工会議所が開催する公的な検定試験とされています。

以下において、試験内容についてご説明しますが、内容の変更が発生する場合もありますので、必ず日本商工会議所の公式HPをご確認ください。

試験スケジュール、開催場所

開催日は毎年異なりますが、1級は概ね6月、11月の年2回の開催となります。詳しくは、公式HPをご覧ください。

2級、3級と同日の開催となりますが、年3回開催の2級、3級に対し、1級は2回だけですので、混同しないように注意しましょう。

毎回、日曜日に各地域の商工会議所が指定した場所での受験となりますので、試験会場については、各地域の商工会議所HPにて確認が必要となります。

合格基準

1級から3級まで、各級とも満点を100点としています。

そこで、70点以上の得点があれば合格となります。

しかし、1級のみの特徴として「相対評価」「足切り」というものがあります。

日商簿記1級は「相対評価」

まず「相対評価」とは、簡単に言うと「受験生全体の何%程度が合格するように調整されている」というものです。

日商簿記1級は、毎年合格率が10%程度で推移していますが、これは必ずしも合格者全員が、そもそも7割以上の正解率であるという訳ではないのです。

どういう事かというと、試験内容は開催年度によって難易度が変わります。となれば、合格率が5%程度の年もあれば、20%の年も起こり得るという事ですよね。

しかし、日商簿記1級は「全体の10%程度を合格者」とする相対評価方式を採用しているため、「あっ、落ちたかも・・・」と思っても、難易度によっては合格している事もあるという事です。

 

何故このような事が可能かというと、配点において「傾斜配点」というものを採用しているからです。

 

傾斜配点とは、例えば通常の配点が1点の問題があるとします。

しかし、そのままの配点だと多くの人が70点未満の不合格となり、「10%程度の合格率」を維持できなくなります。

そこで主催者側は、その問題の配点を3点に変更する事で、70点以上の合格者を意図的に増やそうとします。

要は、「主催者側が、得点をコントロールしている」という事ですね。

もちろん、逆に配点を少なくするという事もあるので、日商簿記に合格するためには「運」も大きく作用すると言えるでしょう。

「足切り」とは?

次に「足切り」について。

日商簿記1級は、「商業簿記」「会計学」「工業簿記」「原価計算」の4科目から出題されます。

それぞれの配点は25点ずつとなっており、「25点×4科目」の合計100点満点となります。

この合計が70点以上になれば合格となる訳ですが、1科目ごとの得点が40%に満たなければ不合格となります。

25点の40%は10点ですから、1科目でも9点以下があれば、合計得点が70点以上あったとしてもそれだけで不合格となるのです。

仮に、商業簿記21点、会計学20点、工業簿記20点、原価計算9点であれば合計70点となるので、合格と思いそうですが、原価計算が40%に満たないため不合格となってしまうのです。

ですから、日商簿記1級は、幅広い理解力を求められる試験だと言えるでしょう。

1級の出題範囲、試験時間

前述しましたが、日商簿記1級の試験科目は、「商業簿記」「会計学」「工業簿記」「原価計算」4科目からの出題となります。

内容としては、「大学程度の商業簿記、工業簿記及び原価計算並びに会計学を修得し、企業会計原則、原価計算基準などの会計基準の及び商法、財務諸表等規則その他の企業会計に関する法令を理解している」かについて問われます。

要は、「会計の世界でも、最高のレベルを求められますよ」という事。

試験時間は前半90分、後半90分の計3時間(途中休憩有り)となっています。

当日持参するもの

当日持参するものとしては以下の通りです。

当日持参するもの
  1. 受験票
  2. 身分証明書
  3. 筆記用具
  4. 計算用具
  5. その他:時計

まず、身分証明書に関しては、原則として「氏名」「顔写真」「生年月日」が確認できるものが必要ですので、学生証や免許証、パスポートなどが必要となります。

次に、筆記用具ですが、HBまたはBの鉛筆、シャープペン、消しゴムのみとなります。

そして最後の計算用具ですが、一応、そろばんの持ち込みも可とされていますが、現実的にはほとんどが電卓(計算機能のみ)となるでしょう。

ここで、日商簿記を受験するなら、電卓は必須となりますので、早めに揃えておきましょう。

基本的に、カシオ製シャープ製のどちらかになると思いますが、自分にとって使いやすい物であれば良いと言えます。

ただし、最低限12桁表示の電卓を選びましょう。

念のため、電卓の一例をお伝えしておきます。

 

 

どちらも5,000円前後はしますので、一般的な電卓より高額となりますが、今後、税理士試験や公認会計士試験合格を目指すなら、これらの電卓に慣れておいた方が良いでしょう。

というのも、こうした会計の試験というのは「時間との闘い」でもあるので、ある程度の早打ちが要求されます。

上記の機種は、そういった早打ちにも対応しているため、多くの受験者に愛用されているのです。

また、当日持参するものその他として「時計」を記載していますが、これは結構忘れがちですから、必ず覚えておきましょう。

繰り返しになりますが、簿記試験は「時間との闘い」でもあるので、いくら解答内容が正確だからと言っても、時間内に書き込めなければ合格には至りません。

試験時間の配分を考えながら、答案用紙に書き込むことも合格のカギを握ります。

時計を忘れると焦りにも繋がりますから、時計は忘れずに持っていきましょう。

テキスト選びのコツ

日商簿記の勉強を独学で始める上で、一番頭を悩ませるのが、「どのテキストを使ったら良いかわからない」という事かと思います。

書店に行けば、簿記のテキストはたくさん並べられているので、これを選ぶだけでも時間がかかります。

結論から言うと、「どのテキストを利用しても合格できる」のですが、テキスト選びのポイントを一つだけお伝えするとすれば、「全て、同じ出版社で統一したほうが良い」という事が言えます。

簿記のテキストに特化した出版社と言えば、TAC出版、大原出版、LECだと言えるでしょう。これはどこも資格の専門学校の出版部門ですから、内容的にはそんなに優劣の差はありません。

ただ、「テキストはTAC出版、問題集は大原」などといった方法を取ると、統一性が取れず、かえって頭の整理が出来なくなってしまいます。

ですから、「TACで始めたら、最後までTAC」といった形で、出版社は統一させることが重要です。

それでは次に、1級合格にむけた、おススメのテキストについてご紹介します。

日商簿記1級合格お勧めテキスト

まず前提として、アナタが完全初学者の場合、いきなり日商簿記1級を受験するのは無謀とも言えるのでお勧めできません。

最低限、日商簿記2級合格程度の実力をつけてからでないと、合格はおろか、テキストの内容も理解できないでしょう。

まずは、下記の記事で力をつけてから1級にチャレンジして下さい。

 

 

当サイトでは基本的に、独学での合格を目指すなら「TAC出版」でテキストを統一させることを推奨しています。

もちろん、他の資格の専門学校が出版しているテキストを利用しても構いませんが、日商簿記のテキストは、TAC出版が一番充実していると思います。

上記の記事で、日商簿記2級合格程度の実力を付けた後、まずは「スッキリわかる日商簿記1級(全8冊)」で、日商簿記1級における基本的な知識を理解します。

これはテキストと問題が一体となっているため、インプットとアウトプットが効率よく行えます。

次に、これと並行して、「究極の会計学理論集 日商簿記1級 全経上級対策」において理論対策を行います。

日商簿記1級と、2、3級の違いの特徴として「理論問題の有無」があります。

とは言え、通常のテキストで勉強していれば十分対策できるレベルですので、そんなに神経質になる必要はありません。

しかし、日商簿記1級を受験する人の多くは、「全経上級」も受験する場合が多いでしょう。

全経上級は日商簿記1級に比べ、全体的な難易度は低いと言われていますが、理論の比重が高いため、事前の対策が必要となります。

また、日商簿記1級や全経上級の合格を目指す人は、そのまま税理士試験や公認会計士試験を目指すことが多く、ここで勉強したことは、そのまま知識として生かされます。

「日商簿記1級合格のためには必要ない」などと考えず、長期的な視野で勉強を進めるのであれば、この理論対策は重要となるでしょう。

そして、上記の「スッキリわかる日商簿記1級(全8冊)」をある程度理解した後は、「合格するための過去問題集 日商簿記1級」で過去問を繰り返し解きます。

どんな資格でもそうですが、毎年、同じような出題の傾向があり、過去問を繰り返し解くことで、自然とその傾向を掴むことが出来るようになります。

また、実際に時間を計り、本番さながらの状態でどれだけ過去問が解けるかを試すことも、試験対策としては重要です。

ですから、過去問は出来るだけ多く問題を解きましょう。

ここで余裕があれば、更に「合格するための過去問題集 全経上級」の問題を解くのも有効です。

基本的に、日商簿記1級と全経上級の出題範囲は「ほぼ同じ」と言えます。ただし、内容としては日商簿記1級の方が難しいため、全経上級の過去問では「物足りない」と感じる人もいる事でしょう。

どちらかというと、全経上級の出題内容は、「基礎知識を問われる」内容が多く、理論に重きを置いているため日商簿記1級の受験対策としては、あまり効率的でないかもしれません。

しかし、逆に考えれば「基礎をしっかりと理解できる」事にも繋がりますし、大抵、日商簿記1級受験後に全経上級を受験する事を考えれば、あながち非効率とも言えないでしょう。

そして最後に予想問題集ですが、これを購入して学習するかどうかは、何とも判断できません。

「出来るだけ問題を解いて、不安を取り除きたい」という方には有効かもしれませんが、基礎を理解し、過去問を繰り返しといておけば、そこまで心配する必要もないと思います。

また、予想問題集は、あくまで「予想」にしか過ぎませんので、必ずその内容が出題されるわけではありません。

「それでも勉強したい」と言うのであれば、「あてるTAC直前予想 日商簿記1級」で学習するのも良いでしょう。

スッキリわかる日商簿記1級(全8冊)

著者 : TAC出版開発グループ

出版社: TAC出版

定価 : 17,600円(8冊合計)税込

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工業簿記・原価計算(全て税込)商業簿記・会計学(全て税込)注意事項
  1. 費目別・個別原価計算編 2,200円
  2. 総合原価計算・標準原価計算編 2,200円
  3. 直接・CVP・予算実績再分析編 2,200円
  4. 意志決定・特殊論点編 2,200円
  1. 損益会計編 2,200円
  2. 資産・負債・純資産編 2,200円
  3. その他の個別論点・本支店・C/F編 2,200円
  4. 企業結合・連結会計編 2,200円
この書籍は頻繁に改定が行われますが、その際、一部の書籍においては行われないものもありますからご注意ください。

 

究極の会計学理論集 日商簿記1級 全経上級対策

著者 :TAC株式会社

出版社:TAC出版

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合格するための過去問題集 日商簿記1級

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合格するための過去問題集 全経上級

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あてるTAC直前予想 日商簿記1級

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以上全てを、アマゾンもしくは楽天で購入すると、合計27,170円、TAC出版の会員となれば最安値で23,573円となります(TAC出版の値引き率は時期によります)。

いずれにしても、資格の専門学校に通うとなれば100,000円~200,000円の学費が必要となりますので、やはり独学で合格出来れば言う事ありませんね。

注意事項

当記事は、2022年6月時点で最新の情報をもとに作成しています。ですから、掲載している書籍は現時点で最新のものとなっていますが、法改正等があった場合は必ず最新の内容と比較するようお願い致します。

なお、税額については10%の表示となっています(2019年10月更新)。

適宜、最新の情報に更新していきますが、ご理解の程お願いいたします。

勉強方法

上記のテキストを利用して、順に理解を深めていけば、独学で1発合格も夢ではありません。

繰り返しになりますが、勉強の順番を整理すると、

 

  1. ①「スッキリわかる日商簿記1級(全8冊)」でテキストを読みながら問題を解く。並行して「究極の会計学理論集 日商簿記1級 全経上級対策」で、理論を理解する。
  2. ②上記で理解を深めた後「合格するための過去問題集 日商簿記1級」で過去問を繰り返し解く。余裕があれば「合格するための過去問題集 全経上級」にも着手。
  3. ③理解度に応じて、①と②を繰り返す。
  4. ④心配であれば、「あてるTAC直前予想 日商簿記1級」で直前対策を行う。

 

上記のテキストがあれば、合格に必要な知識は十分に得る事が出来ます。あとは、「繰り返し問題を解く」事がカギとなりますので、時間の可能な限り問題を解くクセをつけましょう。

まとめ

本記事の内容は、日商簿記1級合格を保証するものではありませんので、ご注意願います。

しかし、実際に上記のテキストのみで「独学合格」出来ている人がいる事を考えれば、チャレンジしてみる価値はあるかもしれません。

もちろん、資格の学校に通学する方が合格する可能性は高まりますので、確実に合格を目指すならそちらをお勧めします。

独学以外の勉強方法について知りたい方は、こちらの記事もご覧になってみて下さい。

 

 

また、教育訓練給付金を利用して、少しでも費用を抑えながら資格のスクールを利用したいと考えている方は、こちらの記事も参考にしてみて下さい。