
税理士を探す方法は様々ありますが、いずれの方法を選択したとしても、契約前にまず「面談」を経てからの契約となるはずです。
これまで、幾つかの税理士事務所と契約したことのある人からすれば、この面談時において様々な質問をするのにも慣れていると思いますが、「今回が初めて」とか「あまり税理士慣れしていない」人からすると、この面談時に「いったい何を質問すればいいかわからない」といった事も多いでしょう。
単純に「この人、良い人そうだな」という理由で決めてしまうのも構いませんが、後になって「話が違う」という事にもなりかねません。
そこでこの記事では、こうした事を未然に防ぐために、税理士と契約する前に確認しておきたいこと、注意しておきたいことなどについてお伝えします。
目次
「話が違う」はよくある話
当サイト管理人は、これまで自分のクライアントさんに税理士を紹介した案件も含め、実に多くの税理士の顧問契約を間近で見てきました。
面談時には、たいてい和やかなムードに終始しますが、いざ契約が始まってから「話が違う」と顧客が言い出すのは珍しい話ではありません。これは、ちゃんと面談時に細かな説明をしていない税理士にも問題がありますが、顧客側にも全く問題がないとは言えません。
あくまで「契約」を結ぶわけですから、その内容についてはお互いよく精査しなくてはならないはずですよね。
とは言え、確かに多くの税理士に見受けられる問題点として、「自分の事務所の慣習が、そのまま世の中でも共通の認識」だと、勘違いしているという事が挙げられます(全ての税理士ではありませんが)。
浮世離れしていると言えばそれまでですが、ある意味悪気はない場合の方が多いのです。
ですから顧客側としたら、こういった事も考慮に入れながら、契約前にちゃんと細かい点まできちんと質問しなくてはいけないのです。
契約前に確認しておきたいこと
それでは早速、税理士と顧問契約を結ぶ前に、必ず確認しておきたい事についてご説明していきましょう。
大きく分けて4つあり、一部の内容については、細かい部分まで触れていきます。
担当は誰がするのか?
まずは、「担当は誰がするのか?」という事。
実はこれ、後にもめる事がかなり多い項目です。
例えばアナタの知人が、「ウチの顧問税理士、かなり優秀で助かるよ。良かったら紹介してあげようか?」と提案してくれて、アナタも「じゃあ、お願いするよ」となったとしましょう。
アナタはてっきり、知人の担当税理士が自分の担当になってくれるものだとばかり考えていましたが、ふたを開けると、全く違う人間が担当になってしまったという事はよくある話です。
その違う担当者をアナタが気に入れば問題ありませんが、中々そんなに上手くいかない事の方が多いようです。
また、アナタが「税理士紹介サイト」を通して税理士を紹介されたとします。
面談時に現れた税理士はかなり有能で、アナタは「この人なら」と依頼したとします。しかしいざ契約の段階となり、実は担当するのは右も左もわからない新入社員であれば、アナタは「騙された」と感じる事になるでしょう。
税理士事務所側からすると、「一人で担当できる件数は限られている」という事情もあるでしょうし、また、当初面談した担当者と違う事への言い分として「同じ事務所内の人間ですから、ちゃんと管理してますし、担当者によってそんなに能力は変わりませんよ」なんて説明する税理士もいるかと思います。
しかし、ハッキリと言っておきましょう。
「担当者の能力によって、決算の内容はかなり変わります」
確かに、事務所の規模や性質によっても多少の違いはありますが、所長や幹部の人間が、全ての顧問先の決算内容を把握しているかと言うと疑問が残るところです(ちゃんとしている事務所もありますが)。
ですから、面談時において「誰が弊社の担当をしてくれるのでしょうか?」と、ちゃんと質問した上で判断するようにしましょう。
会計ソフトは何を使用しているのか?
そして次が「会計ソフトは何を使用しているのか?」という事。
申告作業をするとなると、特に法人などの場合には会計ソフトの利用が必須となります。しかし、世の中には数多くの会計ソフトが販売されており、使い勝手もソフトにより大きく異なります。
代表的な会計ソフトについて知りたい方は、こちらの記事もご覧になってみて下さい。
経理の仕事をする上で、簿記の知識を得る事は重要ですから、日商簿記などの資格を取得するのは、とても有効だと言えます。 しかし、実際の業務においては、その簿記知識を活かしながら、「会計ソフト」に入力する作業がメインとなります …
現在アナタの利用している会計ソフトと、新しく依頼しようとしている税理士が利用している会計ソフトが同じであれば問題ありませんが、そうでない事も多々あります。
依頼者側とすれば、「税理士は会計のプロだから、どんなソフトにも対応できるだろう」と考えるかもしれませんが、話はそれほど単純ではなく、税理士事務所にもよりますが、実際には多くても2~3種類の会計ソフトのみを利用しているというのがほとんどです。
会計ソフトというのは、導入するのにそれなりの費用がかかりますし、事務所の職員のソフトに対する習熟度を考えても、税理士側としてはあまり多くのソフトを導入したくないというのが本音です。
ですから、ひどい税理士の場合は、無理やりにでも自社の利用している会計ソフトを顧問先にも導入させようとしますから、顧客にとっては迷惑な話でしかありませんよね。
「会計ソフトにこだわりはない」というのなら問題ありませんが、ここは慎重に考えたほうが良いでしょう。
面談時、「弊社の利用している会計ソフトは〇〇ですが、そちらはこのソフトに対応可能でしょうか?」と尋ねるようにしてください。
また、税理士を探す際「会計ソフトを変更したくない」という人は、こちらの記事も参考にしてみて下さい。
税理士を探す方法は様々ありますが、その内のひとつに「会計ソフト会社を通して」探す方法というものがあります。 その他の方法についても知りたい方は、こちらの記事もご覧になってみて下さい。 さて、会 …
自社の業種の経験はあるか?
そして次が「自社の業種の経験はあるか?」という事。
基本的に簿記や会計というのは、同じルールに従って処理をするものですから、どのような業種でも処理方法にあまり差異があるとは言えません。しかし、業種によっては特殊なルールが存在する事もありますから、それを知らないと大変なことになってしまう事もあります。
例えば、建設業の「進行基準」などというルールなどは良い例かもしれません(これを知らない税理士もいます)。
ですから、「税理士は会計のプロだから大丈夫」などという先入観を持たずに、面談時において「当社の業種は〇〇ですが、そちらでは当社のような業種を取り扱った事はあるでしょうか?」と必ず尋ねるようにしましょう。
そこで相手の税理士が、「やったことはありませんが、御社の業種ならそれほど特殊な処理は必要ありませんよ」と返答するなら、問題ないかもしれません。
ただ、代表的な業種として「医療系、貿易系、建設業、不動産業」は特に注意が必要です。
これらの業種の場合、たとえ税理士が「経験がある」と答えたとしても、詳しく話を聞くようにして下さい。
どこまで請け負ってくれるのか?
そして最後が「どこまで請け負ってくれるのか?」という事。
通常、面談時において「顧問料」や「決算料」の金額における取り決めはすると思いますが、意外と見落としがちな項目は結構あります。
その代表的なものがこちら。
- 訪問回数はどれくらいか?
- 入力は「どちら」が「どの程度」するのか?
- 年末調整、源泉税納付申請の費用
- 給与計算
- 税務調査時の立会い費用など
- 中間決算(予定納税)費用
上記の1,2についてはちゃんと考えて質問する人もいますが、意外と3~6の項目に関して考えておらず、後で問題になる事もあります。
そこで以下において、それぞれの項目について更に細かく見ていきたいと思います。
訪問回数はどれくらいか?
まずは「訪問回数はどれくらいか?」という事。
一般的に決算料のみ支払う、いわゆる「年一」の取り決めとなれば、月々の訪問は無く、決算時のみのやり取りとなります。この場合、顧問契約という形態ではなく「決算処理」の単発取引きのようなイメージといったところですね。
しかし、「顧問契約」となると毎月の顧問料が発生し、定期的に税理士が顧客のもとへと訪問する事になります(逆に、顧客側が税理士事務所に訪問する形態もあります)。
となると、その訪問頻度がどの程度になるのかというのは気になるところかと思います。
一般的に、「毎月訪問」「2ヶ月に1回訪問」「3ヶ月に1回訪問」「4ヶ月に1回訪問」「半年に1回訪問」のいずれかとなりますが、この訪問回数によって顧問料も変わってくることになります。
この訪問回数に関しては人それぞれ捉え方が異なり、例えば「高いお金払っているんだから、毎月来てもらわないと困る」と考える人もいれば、「こっちも忙しいし、毎月来られても困る」という人もいるかと思います。
「毎月訪問する税理士=良い税理士」とはなりませんから、この辺はよく相談したほうが良いでしょう。
また、訪問回数はそんなに多くなくて良いという人でも「電話やスカイプ、Zoomなどでのやり取りは密にして欲しい」と考えているなら、その辺もよく確認しておきましょう。
入力は、「どちら」が「どの程度」するのか?
そして次が「入力は、どちらがどの程度するのか?」という事。
これも結構、後々もめる原因となります。
よく見かけるケースが、税理士を新たに変更した際に顧客側が「前の先生は、この金額でここまでやってくれたけど、なんでこれしかしてくれないの?」という苦情です。
これは完全に、契約前の意思疎通が出来ていない事から発生しています。
ですから、「顧問料や決算料がこんなに安くなった!」と単純に喜ばず、ちゃんと「どこまで処理してくれるのですか?」と尋ねるようにしましょう。
税理士側としても商売ですから、費用対効果を考えて「当事務所では、この金額ですとここまで処理させて頂きます」という考えがあり、それを事前に共有しなければ「話が違う」という事態になりかねません。
むしろ、税理士側からの丁寧な提案が欲しいところですが、顧客側としては「そうであろう、こうあるべきだ」と安易に考えず、ちゃんと口に出して尋ねる事が大切です。
また最近は、記帳代行を敬遠する税理士もいますから、「全てお任せしたい」と考えている人は、その辺もよく確認する必要があります。
年末調整、源泉税納付申請の費用
次が「年末調整、源泉税納付申請の費用」について。
これは、個人事業主にはあまり関係ないかもしれませんが、従業員を数名雇っている法人の経営者には気を付けて頂きたい点です。
特に、法人を設立したての経営者は、この年末調整や源泉税の仕組みについてあまり理解していない事が多く、「えっ?そんなの必要なの?」なんて事を言う経営者もたまに見かけます。
そこで慌てて税理士に依頼するのですが、税理士から「わかりました、それでは従業員の方一人当たり〇千円で引き受けます」と言われ、「そんなの聞いていない」と困惑することがあるようです。
こうした方からすれば「そんなの顧問料に含まれてるんじゃないの?」と考えているようで、税理士と「言った、言わない」でもめているのを目にする事もあります。
「どっちもどっち」と言えなくもありませんが、こうした事を予防するために、顧客側も多少の勉強が必要ですし、税理士側も、例えば「こういった費用が発生しますよ」という一覧表のようなものを提示するべきだと言えるでしょう。
給与計算
そして次が「給与計算」。
こちらに関しては、顧客側も「依頼すれば、別途費用がかかる」という事は理解しているようですが、往々にして「これも税理士事務所にお願いできるんでしょ?」と考えている人もいるようです。
確かに、昔の税理士事務所などでは当たり前のように取り扱っていたところもありましたが、最近では特に小規模の税理士事務所ではお断りする事もあるようです。
こうした税理士事務所の場合、提携している社労士事務所を紹介する事もあるようですが、顧客側からすると「税理士事務所で一本化したほうが、何かと都合が良い」と考える事も多いようです。
また、給与計算と同時に発生する作業が「社会保険関係」の計算ですが、出来ればこちらも税理士事務所で一緒にやってほしいと考えている経営者もいます。
確かに給与関係に関しては、税務調査において指摘されやすい事項でもありますから、税理士事務所で作業を一元化し、ミスの無いようにして欲しいというのも頷けます。
そういった事も含め、事前の面談において「給与計算も依頼できますか?」と質問するようにしておきましょう。
税務調査時の立会い費用など
次が「税務調査時の立会い費用など」について。
税務調査というのは頻繁に行われる訳ではありませんので、意外とこの費用をうやむやにしている税理士事務所が多いようです。
そしていざ調査が発生すると、税理士側は「立会い費用は、一日当たり〇万円必要となります」と顧客に伝えるのですが、顧客側からすると「えっ?これから税額が増えそうなのに、更に立会い費用まで取るの?そんなの顧問料に含まれてるだろ!」と怒り出すこともあるようです。
税理士側の言い分としては、「通常業務から外れているので、その分の費用はかかります」となりますが、顧客側からすると「それも顧問料の一部だろ」と考えるようです。
確かに、古くからある税理士事務所などは、税務調査があっても費用を請求しない事もありますが、そういった場合は、往々にして月々の顧問料が高めに設定されている事が多いようです。
近年は税理士業界も競争が激化しているため、なかなか顧問料を上げられないという状況ですから、そういった事も考慮し、お互い歩み寄る姿勢も必要かと思います。
ただし、後になってもめない為には、面談時にハッキリと質問する事が大事です。
中間決算(予定納税)費用
そして、「どこまで請け負ってくれるのか」という項目の最後が「中間決算(予定納税)費用」についてです。
予定納税について説明すると、かなり長くなりますのでこの記事では割愛しますが、簡単に言えば「前年度の税額が一定額以上であった事業者は、その税額を基にして、翌年に数回に分けて事前に払っておく」という制度となっています。
これは、法人税と所得税では内容が少し異なりますが、考え方としてはどちらも「分割して支払う事で、少しでも納税者の負担を減らしておく」という意図があるようです。
法人の場合は、通常の決算日から半年後にこの予定納税の通知が送られてくることになりますが、前年度に比べ今年の経営が芳しくない場合は、予定納税の支払いもきつくなりますよね。
そこで、中間決算を行う事により、予定納税の額より税額を抑える事が可能となる場合があります(様々な規定有り)。
ただし、ここで注意が必要となるのが「中間決算の申告書作成費用は、税理士に別途支払わなければならない」という事。
せっかく税額を抑える事が出来たとしても、税理士に対して支払う報酬分が増えますので、トータルで考えなければ、かえって費用が高くなる事にもなりかねません。更に言うとこの中間決算費用は、税理士事務所によって価格設定が大きく異なりますから、必ず事前に確認しておきたいところです。
また、中間決算を行わず、税務署から送られてきた予定納税額を支払うだけであれば、大した作業も必要ありませんが、中には予定納税に関する費用を請求する税理士事務所もありますから、その辺もよく確認しておきましょう(ここについては、無料で行ってくれる税理士事務所も結構あります)。
まとめ
如何でしたでしょうか?
この記事に書かれていることを質問すると、税理士の中にはちょっと身構える人もいるかもしれません。しかし、後で「言った、言わない」でもめるよりは、事前に確認しておいた方が、お互いにとってベストだと言えるでしょう。
良好なパートナーシップを築くために、遠慮せずきちんと確認しておきたいものです。
これから税理士を探そうと考えている方は、こちらの記事もご覧になってみて下さい。
「事業を始めたけど、税金や会計がよくわからない」「相続が発生したけど、申告する必要はあるの?」となれば、多くの人は「税理士の先生に依頼したい、相談したい」と考える事でしょう。 しかし大抵の場合、「でも、そもそも税理士って …