
経理の仕事をする上で、簿記の知識を得る事は重要ですから、日商簿記などの資格を取得するのはとても有効だと言えます。
しかし、実際の業務においては簿記の知識があるだけでは足りず、その簿記知識を活かした上で、「会計ソフト」に入力する作業がメインとなります。
ということは、経理の仕事において簿記の知識と会計ソフトの操作能力は、セットで必要だという事です。
仮にあなたが税理士事務所への就職・転職を考えているなら、この会計ソフトの操作スキルは非常に重要になりますし、たとえ事業系会社の経理として入社しても、ある程度のスキルは求められる事になります。
そこでこの記事では、経理に従事する人が最低限知っておきたい会計ソフトの種類と、その内容についてお伝えします。
目次
会計ソフトには「インストール型」と「クラウド型」がある
ご存じの方も多いと思いますが、現在世の中には、驚くほど多くの会計ソフトが販売されています。
一昔前は、全てインストール型となっており、パソコンにソフトをインストールする事で、それぞれの会計ソフトを利用する事が出来ました。
しかし近年は、インターネットのクラウド上で処理できるソフトが増えており、多くのソフトウェア会社は、徐々にこのクラウド型に移行しているといった状態です。
クラウド型の利点としては、それぞれのパソコンにインストールする必要が無く、インターネットさえ繋がっていれば、いつでもどこでもサービスを利用できるという事が挙げられるでしょう。
膨大なデータによるパソコン自体の負担も無く、利用者側も徐々にこのクラウド型に移行している段階です。
しかしその反面、クラウドを利用した際の難点として「動作安定性」や「セキュリティー」が考えられますが、各社ともその点については様々な対策を講じているところです。
これについては、こちらの記事も参考にしてみて下さい。
インストール型会計ソフトから、クラウド型会計ソフトへの移行を検討する際、多くの方が「セキュリティは大丈夫だろうか?」「動作の安定性はどうなの?」と、不安に思うかもしれません。 確かに、クラウド型会計ソフトは、銀行の口座明 …
現状、企業の利用実態は?
前述したように、現在においてはクラウド型の会計ソフト利用者が増えていますが、多くの企業は未だに、長年使い慣れた「インストール型」会計ソフトを利用しているのも事実です。
また、企業によっては、「昔から利用しているインストール型の会計ソフト」と「クラウド型会計ソフト」の両方を併用している事もあります。
この理由としては、全てのデータを移管するのに手間がかかることなどや、長年勤めている経理担当者が、どうしても新しいソフトに適応できないなどという要因があるからのようです。
現状のソフトを使い始めた理由は様々ですが、大きく分けて下記のような理由から、そのソフトを選択しているというのがほとんどです。
- 税理士事務所に勧められたソフトだから
- 起業当時、会計ソフトの種類が少なかったから
- 会計ソフトだけでなく、勤怠管理などのソフトがセットで利用できるから
まず、一番の大きな理由としては「税理士事務所に勧められたから」という事。
税理士事務所からすると、自分の利用している会計ソフトを顧客にも利用してもらえれば、管理も楽ですし、何より昔はソフト会社からのキックバックもありました。
ですから多くの企業の場合、これが現在のソフトを利用するきっかけとなっているようです。
次に、「起業当時、会計ソフトの種類が少なかったから」とありますが、昔はパソコンも今ほど普及していませんでしたので、会計ソフト自体がほとんど販売されていませんでした。
ですから、仕方なく利用していたら逆にそれに慣れてしまい、そのままズルズルと現在に至るという企業もあるようです。
最後に、「会計ソフトだけでなく、勤怠管理などのソフトがセットで利用できるから」とありますが、ほとんどの企業における経理業務は、何も会計入力業務だけにとどまりません。
従業員の給与計算も必要ですし、請求書の作成も必要となります。
多くの会計ソフトはこういった業務を効率化するために、「会計ソフト」「給与ソフト」「請求管理ソフト」などといった、各種ソフトが連動するような機能を組み込んでいます。
ですから、会計ソフトを変更するとなると、そういった周辺ソフトも同時に移管しなくてはならないので、二の足を踏む企業が多いという事でしょう。
これまで、会計事務所や企業がメインで使用してきたソフト
上記において「税理士事務所に勧められたから」という理由で、会計ソフトを導入してきた企業が多いとお伝えしましたが、それではここで、「これまで、税理士事務所がメインで使用してきたソフト」は、どういったものがあるのかについても見ていきましょう。
これがわかると、必然的に日本全体の利用傾向もわかるという事ですね。
TKC
まずはTKCから。
会計業界で働いていれば、このTKCを知らない人はまずいないでしょう。
このソフトは、株式会社TKCという会社が提供する会計ソフトです。ちなみにこの株式会社TKCは東証1部上場の企業となっています。
このTKCの特徴としては、以下の通り。
- 歴史が古く、多くの税理士事務所で利用されている(税理士会員数10,000人程度)
- サイトで販売されておらず、TKCに加盟している税理士からでないと購入できない
- 経営分析の機能が豊富にある
- 管理が厳重となっており、不正会計が起こりにくい
まず、上記1の「多くの税理士事務所で利用されている」とありますが、これは当サイト管理人の感覚としても「実際多いな」と感じます。
ただし、比較的古い税理士事務所が利用している事が多く、若い税理士の方は敬遠する傾向があります。
というのも、上記3の「経営分析の機能が豊富にある」とありますが、クライアントからすると「逆に使いづらい」という意見も多いため、使いやすさを重視すればTKCは除外するという事になるのかもしれません。
ただし、上記4に「不正会計が起こりにくい」とあり、こういった点から銀行などの金融機関が「TKCを利用しているなら安心だ」と考える傾向が強い事から、借入などの面を考えて、敢えてTKCを利用する事もあるようです。
ちなみに、TKCは会員である税理士に「書面添付制度」の利用を推奨していますから、税理士に書面添付をお願いしたい場合には、TKC会員の税理士と顧問契約したほうが良いかもしれません。
書面添付制度について詳しくは、こちらの記事を参考にしてみて下さい。
もともと以前から税理士法において「書面添付制度」は存在していましたが、平成13年の税理士法改正によって、その効果が拡充される事になりました。 書面添付制度を利用する事で、「いきなり税務調査にはならない」「税理士の責任の所 …
TKC公式HP:https://www.tkc.jp/
JDL
お次がJDLです。
このJDLは、株式会社日本デジタル研究所という企業が販売しているソフトで、この企業も以前は東証一部上場企業でした(現在は非上場)。
傾向としては、公認会計士の資格を持つ税理士が利用しているイメージが強いように思います。
- ソフトだけでなく、専用ハード(PC)も販売
- 通帳などの読み取りもでき、機能が豊富である
- 半面、機能があり過ぎて、使いこなすのが大変
- 全般的に高額になる傾向がある
会計ソフト会社としては珍しく、専用ハードも販売している会社です。
しかしその分、費用が高くなる傾向があり、小規模事業者にはハードルが高いと言えるでしょう。
他の会計ソフトに比べ、機能面で優れているので、若手の税理士が利用したがる傾向がありますが、費用面でクライアントが敬遠する傾向があります。
JDL公式HP:https://www.jdl.co.jp/
弥生会計
弥生会計と聞けば、会計ソフトに詳しくない人でも知っているかもしれません。会計ソフトとしては、売上No.1のメジャーなソフトとなっています。
ほとんどの税理士事務所において、他にメインとなる会計ソフトを導入していたとしても、クライアントが弥生会計を利用している事が多いため、サブとして利用する事が多いソフトです。
- 会計ソフト売上No.1
- よって、ほとんどの税理士事務所が導入している
- インストール版とクラウド版から選択できる
- 初心者でも簡単に使える
- サポートが充実(サポートセンターは業界最大規模)
弥生会計の一番の利点は、とにかく「簡単」であるという事。ですから初心者にもなじみが良いため、多くの人が利用する一因となっています。
また、サポートも充実しているため、会計の勉強をするにはもってこいのソフトだと言えるでしょう。
経理の仕事をするのなら、最低限押さえておきたいソフトです。
その他
一応、会計ソフトとして、これまでメインで利用されてきたのは上記がメジャーとなりますが、会計ソフトはこれ以外にもたくさんあります。
全て覚える必要はありませんが、ここで念のためお伝えしておきます。
販売会社 | ソフト名 | 特徴 |
---|---|---|
エプソン | 財務応援シリーズ |
|
ソリマチ | 会計王シリーズ |
|
オービック | 勘定奉行シリーズ |
|
ミロク情報 | MJSシリーズ |
|
PCA | PCAシリーズ |
|
SAP(ドイツ) | SAP Business One |
|
ここで、ERPソフトとありますが、ERPを日本語訳すると「企業資源計画」となり、企業内の活動を一括で管理するソフトとなっています。具体的に言うと、会計だけでなく、人事労務や販売管理などもセットになったものと考えれば分かり易いでしょう。
数あるERPソフトの中でも、世界的に有名なのがこの「SAP(エス・エー・ピー)」であり、海外に拠点を持つ企業などが導入する傾向があります。
求人においても「SAPを使える方」という条件を提示している企業もありますから、利用経験があれば、転職でも有利となるでしょう。
ただし、こういった企業は同時に「英語力」も求めるため、英語に自信が無ければあまり意味が無いかもしれません。
現在、利用者が増えているクラウド会計ソフト
長年にわたって、上記の会計ソフトがメジャーな存在でしたが、現在は新しいソフトがこれらに取って代わろうとしています。
そしてそのほとんどが、「クラウド会計ソフト」であるという事。
そこで次に、現在利用者が急激に増えているクラウド会計ソフトについてお伝えします。
弥生会計
まずは、何といっても「弥生会計
」から。
もともと弥生会計は、個人事業主を中心に人気の高いソフトでしたが、「クラウド版」もリリースする事で、更に利用者が増えているようです。インストール版を利用し続ける人も多いため、シェアで言えば断トツでトップの会計ソフトです。
経理の仕事をするなら、最低限使い方を学んでおくべきでしょう。
【クラウド版の主な機能】
主な機能 | 個人向け | 法人向け |
---|---|---|
無料お試し期間 | 有り(2ヶ月間) | 有り(2ヶ月間) |
会計ソフト | 弥生会計オンライン | |
給与ソフト | ― | 給与明細オンライン |
見積・納品・請求ソフト | MISOCA(ミソカ) | MISOCA(ミソカ) |
その他 | インストール版有り | インストール版有り |
マネーフォワード
次が「マネーフォワード
」。
このソフトはここ数年、どんどんシェアを伸ばしているクラウド型の会計ソフトです。
マネーフォワードの利点としては、ネットバンクやクレジットカード明細をソフト内に取り込む事ができ、仕訳を自動で行ってくれるという点でしょう。
税理士事務所でも人気があり、「顧客に導入を勧めたいソフト」としても上位にランクインしています。
【マネーフォワードの主な機能】
主な機能 | 個人向け | 法人向け |
---|---|---|
無料お試し期間 | 有り(1ヶ月間) | 有り(1ヶ月間) |
会計ソフト | クラウド確定申告 | クラウド会計 |
給与ソフト | クラウド給与(31名未満) | クラウド給与(31名以上) |
請求ソフト | クラウド請求書(個人) | クラウド請求書(法人) |
経費精算 | クラウド経費(31名未満) | クラウド経費(31名以上) |
勤怠ソフト | クラウド勤怠(31名未満) | クラウド勤怠(31名以上) |
マイナンバー管理 | クラウドマイナンバー | クラウドマイナンバー |
会社設立 | ― | マネーフォワード会社設立 |
freee(フリー)
そして最後が「freee(フリー)
」です。
こちらも、マネーフォワードと同じく、クラウド型の会計ソフトとして有名ですね。発売当初は、クラウド会計部門において一番利用者の多いソフトでしたが、現在は少し順位を落としているようです。とは言え、クラウド会計の市場は全体的に拡大しているので、利用者自体は増えています。
freeeにおいて特筆すべきことは、とにかく新しい機能がどんどん追加されるという事でしょう。
ただ、先進的なのは良いのですが、会計機能に絞ってみるとマネーフォワードの方が専門性が高いと感じるかもしれません。この辺りが、税理士の人気を左右している点なのかもしれませんね。
【freee(フリー)の主な機能】
まとめ
如何でしたでしょうか?
今回、会計ソフトの一部を取り上げただけですが、これだけでもいかに多くの会計ソフトが世の中にあるかが分かります。
もちろん、全てを覚える必要はありませんが、あなたが経理の仕事をするのであれば、最低限1種類か2種類程度のソフトを使いこなしたいところです。
それによって待遇も変わってきますから、出来るだけ多くのソフトに触れておきましょう。