会計事務所の売上高と、一人当たり顧問先件数の考え方

近年、クラウド会計ソフトの台頭や、税理士業界の広告の自由化などによる競争激化により、以前に比べて会計事務所の売上が減少し続けていると言われています。

一昔前であれば、高収入とされていた税理士や公認会計士も、現在では安泰と言える職業ではなくなりつつあるようです。

しかし、全ての会計事務所の売上が減少しているかというと現実的にはそうでもなく、要は、業界内で格差が生じ始めているという事でしょう。

事務所規模によっても違いはあるでしょうし、地域差ももちろんあると言えます。

一般的に、会計事務所に勤務している方であれば、「顧問先は一人当たり〇〇件が限界」などといった話をご存知かと思いますが、果たしてそれが本当に正しいのかも疑問が残るところです。

何故なら、各会計事務所によって職員の担当する顧問先の件数はかなり異なり、現在務めている事務所しか知らない人であれば「これ以上は増やせない」と、はなから無理だと決めつけてしまう事もあるからです。

そこで所長に対し、「これ以上顧問先が増えるなら、職員を増やしてください」と頼むのですが、本当に現在の顧問先件数が限界なのかは人それぞれの価値観にもよるでしょう。

当サイト管理人は、これまで数多くの会計事務所と仕事をしてきましたが、傍から見ていると「非効率的だな」と思う事務所もあれば、「一人当たりの顧問先を増やしすぎて、職員がパンクしているな」という事務所も見かけます。

そこでこの記事では、会計事務所の売上げは全国的にどのくらいで、一人当たりで考えるとどの程度の顧問先担当件数が平均的なのかなどについて考えてみようと思います。

もちろん、あくまで「平均値」をお伝えするだけですから、この記事の数値をもとに「ウチはもう少し頑張れるな」とか、「少し減らした方が良いんじゃないか」などといった参考にして頂ければと思います。

事業規模別、会計事務所(税理士事務所)の平均売上高

それでは早速、全国の会計事務所(税理士事務所)の売上高事業規模別にお伝えしていこうと思います。

会計事務所の事業規模とは、概ねその事務所に在籍している「従業者数」によって分ける事が多いのですが、これは会計事務所が「サービス業」である事と、職務内容が「労務対価」である事に起因します。

公認会計士も税理士業務を行えるため、広く考えれば公認会計士事務所も会計事務所となりますが、この記事ではあえて「税理士事務所=会計事務所」としてお伝えしています。

この会計事務所の事業規模は、人によって判断の分かれるところですが、当サイトでは会計事務所の規模を下記の6つに分類しています。

会計事務所の規模
  1. 一人税理士事務所 - スタッフを雇わず、税理士1人で運営
  2. 零細事務所    - 所長含め、事務所全体で5名未満
  3. 小規模事務所   - 5名~15名程度
  4. 中規模事務所   - 15名~40名程度
  5. 中堅事務所    - 40名~100名程度
  6. 大規模事務所   - 100名超

ただし、以下においてお伝えするデータは、政府が5年毎に行っている「経済センサスー活動調査」の調査結果をもとにしていますから、上記の事業規模とは数値が多少異なりますのでご了承ください。

【会計事務所の売上データ】

従業者規模1事業所当たり
売上高
1事業所当たり
従業者数
従業者一人当たり
売上金額
1人~4人1,908万円2.4人796万円
5人~9人5,108万円6.3人807万円
10人~19人1億1,988万円12.8人940万円
20人~29人2億1,016万円23.5人894万円
30人~49人4億2,687万円36.0人1,186万円
50人以上13億8,334万円121.1人1,128万円

出典:経済センサス-活動調査(2016年)

それでは、上記のデータから考えられる会計事務所の売上の特徴について見ていきましょう。

事業が安定し始めるのは「小規模事務所」から

まず、「従業者一人当たり売上金額」を見ますと、従業者規模10人~19人で940万円となっており、このあたりから事業が安定してくることが分かります。

この事業規模の事務所は、「1事業所当たりの従業者数」で12.8人となっていますから、当サイトの分類する「小規模事業者(5人~15人)」に該当する事になります。この規模の事務所の特徴については、以下の記事をご覧になってみて下さい。

 

 

上記の記事においても説明していますが、この規模となると所長以外の有資格者も数名見かけるようになり、社内に総務部門を置く事もありますが、どちらかというと家族経営的な要素が色濃く、所長が事務所全体を把握している事が多いようです。

ただし、これは所長の年齢や気質によっても異なりますが、経営が安定し始めてきた分、所長が他の事に興味を持つようになり、事務所にほとんど顔を出さなくなるなんて事もあるようです。

この規模の事務所であれば法人顧客がメインとなるでしょうが、それほど規模の大きい顧客を抱えている訳でなく「月額顧問料2万円~3万円」「決算料15万円~20万円」が報酬の平均と言ったところでしょう。

ですから、仮に「顧問料2.5万円/月×12ヶ月」+「決算料18万円」とすれば、48万円程度が顧問先1社当たりの年間報酬額と考えられます。

もちろん、年末調整や給与計算などを請け負っている事務所もあるでしょうから何とも言えませんが、仮に1社当たり平均年間報酬額が50万円とすれば「940万円÷50万円=18.8件」となり、従業員一人当たり約20件近くの担当先を持つという事になるでしょう。

ただし、全ての職員が顧問先を訪問する訳ではなく、例えば従業者数が12名の事務所であれば「3名が顧問先に訪問し、残り9名が入力業務」または「6名が顧問先に訪問し、残り6名が入力業務」という場合もあり、実際に顧問先と顔を合わせる職員は少数であることが通常です。

そうなると、表面上の担当件数が40件から60件になることもあり、中にはこれを勘違いして「自分は顧問先が50件もあるから大変だ」などと言う人もいるようですが、実際には全て一人で処理している訳ではなく、顧問先に直接訪問する職員は、入力内容をチェックしているだけという場合がほとんどでしょう(事務所によって異なります)。

中規模事務所になると、一旦、経営効率が落ち始める

次の特徴が、「中規模事務所(15名~40名程度)になると、一旦、経営効率が落ち始める」という事。

先ほどの「経済センサス-活動調査」のデータを見ると、事業規模20人~29人の「1事業所当たり従業者数」は23.5人となり、当サイトの分類する中規模事務所(15名~40名)とほぼ合致します。

この規模の「従業者一人当たり売上金額」は894万円となり、さきほどの事業規模10人~19人の940万円より50万円近く低下する事が分かります。

この原因は様々あるでしょうが、その一番の理由として「管理部門の人数が増える事で、一人当たり売上高が減ってしまう」事が挙げられるでしょう。

どうしてもこの規模となれば、売上げに直接結びつかない「総務」などの管理部門が必要となり、経営効率の面では負担となってしまいます。もちろん、こうした管理部門は絶対必要であり、最近では「IT部門」などを創設する会計事務所も増えています。

この解決策としては、顧問先の報酬単価を上げる事が考えられますが、この規模の会計事務所であれば、顧問先の事業規模が先ほどの小規模事務所とさほど変わらず、顧問先1件当たりの報酬額は年間50万円より上げるのは難しいかもしれません。

中堅・大規模事務所は報酬単価が高くなる

中規模事務所で一旦経営効率が低下しますが、事業規模30名以上の「中堅・大規模事務所」となると、従業員一人当たり売上高が再度上昇します

これは、中規模以下の会計事務所に比べ、中堅・大規模事務所は顧問先の事業規模が大きく、それに伴って報酬単価が高くなることに要因があると言えるでしょう。

この規模ともなれば、上場企業や地域でも大きな企業を相手にすることが増えますので、会計事務所内の管理部門の従業員が増えたとしても、それを補うだけの売上高が見込めます。

ちなみに、この規模の会計事務所となればM&Aなどの特殊な業務も増えますから、一概に「従業者一人当たりの顧問先件数」というのは割り出せない部分があります。

会計事務所における「従業者一人当たり顧問先件数」は?

会計事務所における「従業者一人当たりの顧問先件数」は様々な説がありますが、一般的には「20件~30件」が平均とされています。

これは、前述した小規模事務所の平均「18.8件」という数字からも、おおむね間違っていない事が分かります。

なお、繰り返しになりますが、「自分は60件の担当先がある」などと自慢する会計事務所の担当者が稀にいますが、あくまでもそれは「顧問先に訪問しているだけ」で、顧問先全ての入力や処理を行っている訳ではなく、入力担当者の力を借りてその60件を担当しているだけのお話です。

どんなに能力が高いとしても、全て一人で処理をするとすれば年間30件程度が限界だと言えるでしょう(個人の確定申告は除く)。

これを効率よく処理して、更に担当先件数を増やす方法はあるでしょうが、どうしても会計業界の特殊な事情により物理的な限界はあると思います。

例えば「決算期が集中し過ぎている」などというのも大きな理由かもしれません。日本国内の企業のほとんどが「3月決算」を中心としており、どうしても申告業務が5月に集中してしまいます。

更に5月はゴールデンウィークもあり、顧問先と連絡がつかない期間が多いため、新規の顧問先を増やそうにもここがボトルネックとなっている事務所が多く見られます。

これを解消するため、顧問先へ決算期変更の提案をしてみたり、クラウド会計ソフトの導入を勧めるなど様々な方法が考えられると思いますが、それぞれの方法については、また他の記事において詳しくお伝えしようと思います。

なお、会計事務所の業務効率化の方法の一例としては、以下の事が考えられます。

会計事務所の業務効率化方法
  • 顧問先への「決算期変更」の提案
  • クラウド会計ソフト導入の提案
  • ペーパーレス化(クラウド化)導入の提案
  • 訪問回数を減らし、顧客とのやり取りをWeb会議システム(Zoom)などに変更する など

上記以外にも効率化の方法はたくさんあると思いますが、まずは簡単に出来そうな事から取り掛かってみては如何でしょうか。

「従業者一人当たり売上高」他士業との比較

会計事務所の事業規模別売上高やそれぞれの特徴は以上となりますが、ここで、他士業ともそれぞれの事業規模ごとに比較してみましょう。

以下のデータは、「経済センサス-活動調査(2016)」のデータを基に、税理士事務所と「弁護士事務所」「公認会計士事務所」「社会保険労務士事務所」「行政書士事務所」の「従業者一人当たり売上高」を事業規模別に比較したものとなっています。

従業者規模税理士事務所弁護士事務所公認会計士社労士事務所行政書士
1人~4人796万円963万円930万円488万円342万円
5人~9人807万円1,010万円925万円588万円522万円
10人~19人940万円1,148万円1,002万円658万円597万円
20人~29人894万円1,223万円989万円583万円544万円
30人~49人1,186万円1,280万円
50人以上1,128万円1,585万円

出典:経済センサス-活動調査(2016年)

上記を見ると分かると思いますが、士業別に「従業者一人当たり売上高」を比較すると、「弁護士>公認会計士>税理士>社労士>行政書士」という構図が見えてきます。

これは、試験自体の難易度とも合致してきますね。

ただし、税理士と公認会計士ではそれほど金額の差はなく、最近ではインターネットで「税理士 食えない」などと検索される事もあるようですが、実際には会計業界はまだまだ高収入であることが分かります。

もちろん、従業者規模50人以上となれば、公認会計士は大手監査法人の所属となるため、従業者一人当たりの売上高はポンッと跳ね上がる事になります。

最近では資格の専門学校などが、「士業の資格を取得して、独立開業・高収入を目指しましょう」などと宣伝していますが、上記の表から全ての資格で高収入が期待できるわけではない事が分かるかと思います。

ただし、社労士や行政書士でも「従業者一人当たり売上高」で1,000万円を超える事務所も実際にありますから、要は「事務所による」というのが各士業に共通している事かもしれません。